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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-18 先達との邂逅2

 

「ほう、そうかい。じゃあ、俺は政治家の聖徳太子だよ」


 俺のその返答を聞いて何か含みがあると感じたようで指を顎に当てて考え込んでいたが、やがて何かに思い至ったのかその顔が笑顔になった。


「ああ、私を疑っているのね。貴女も観察眼が無いわね。あの白骨を調べてみれば、男性の骨だと直ぐに分かったはずよ」


 ちょっと待て、俺は検視官じゃないんだ。


 骨だけで、男女の区別等分かるはずがないだろう。


 俺のそんな内心を読んだかのように、影島あおいと名乗った女性は続きを話していた。


「骨盤と大腿骨の形を見れば、その骨が男性か女性かは簡単に分かるのよ」


 そうなのか?


 だが、俺はその方法を知らないから、他の方法で何か相手を判断する必要があるな。


「仮にお前が影島あおいなら、飛行魔法で空を飛んでいる時に襲われない方法を知っているはずだ」

「ああ、羽の事ね。普通に飛ぶと口に入るサイズだと餌と間違えて襲われるのよね。羽の事に気が付くまでは本当に鬱陶しかったわよ」


 ああ、どうやら本人のようだ。


 俺はソファから立ち上がると、腰を90度に曲げて深々とお辞儀をした。


「ありがとう。貴女のおかげで生き延びる事が出来ました。この御恩は忘れません」

「あら、私の日記が役に立ったのね」

「ああ、とっても助かったよ」

「それは良かったわ」


 そう言ってから顔を上げると、そこには嬉しそうに微笑む影島あおいの顔があった。


「それよりも貴女の名前は?」

「これはすまない。俺はトレジャー・ハンターの海城神威だ。よろしく」


 俺がそう言うと、今まで俺の事を女性だと思っていた影島あおいの驚いた顔があった。


「ぶふっ、まさか女性用の保護外装を選んだの? それ神威君の趣味なの?」


 神威君、だと? 


 いや、待て、目の前の女性は俺よりも若そうに見えるが、影島あおいがこの世界にやって来たのは百年前なのだから、当然年上だな。


 だが、見た目がこれだととても年上として扱えないぞ。


「ちょっと待ってくれ、俺はあの台座に並んでいた筒を無意識に選んだだけなんだ」

「冗談よ。隠し通路を見つけるくらい慎重な人が、そんな無意識に選ぶとは思わなかっただけよ」

「ところで、あおいちゃんの保護外装がそれなのか?」


 そう言って人間の外見をしているあおいちゃんを指さしてみた。


 するとあおいちゃんは首を横に振ったのだ。


「これは擬態という魔法の応用で、別の人に化けているのよ」


 それを聞いて確か飛行魔法を使うとき、具現化している翅を思い出していた。


 あれの応用なのか。


「あおいちゃんの日記にあった擬態の魔法は、魔素で形を具現化するものだと思っていたけど、人間にも自在に化けられるの?」

「う~ん、この魔法はちょっと形を変える程度だから、変装みたいなものかな。自分と同じ背格好の人じゃないと無理ね。それに擬態したい相手の姿を思い浮かべて魔法を掛けるから、知らない人には化けられないわよ」


 へえ、そうなのか。


 これは面白そうだから後で試してみよう。


「それで、あおいちゃんの保護外装は何なの?」


 俺の質問に、ようやくあおいちゃんも保護外装を見せてくれることになった。


 そして目の前に現れたのは俺だった。


 いや、正確に言うと女性型のエルフの保護外装だ。


 どうやらあおいちゃんも俺と同じで、右端のマジック・アイテムを手に取ったようだ。


 俺達は黙って見つめ合っていたが、やがて噴き出した。


 そしてようやく笑いが収まったとところで、今まで疑問に思っていたことをあおいちゃんにぶつけてみる事にした。


「あおいちゃん、あの日記を転移してきた部屋じゃなくて隠し部屋に置いていたのはどうしてだ? あれじゃ、殆どの人間が間違えて外に出てしまうぞ」


 そうなのだ。


 俺は諸事情で遺跡の中を調べたからあの保護外装があった部屋に辿り着き、たまたまマジック・アイテムを手にしたから保護外装を身に纏えて生き延びることが出来ていた。


 そしてあの骸骨があった部屋であおいちゃんの日記を見つけたから、この世界の情報や魔法についての知識を得る事が出来たのだ。


 こんな幾つもの幸運が起きないと生き延びられない状況では、他の転移者が生きているとはとても思えなかった。


 それは余りにも理不尽ではないのか?


「神威君はこの保護外装の能力を知って、どう思った?」

「どうって?」


 俺がオウム返しに質問したことにちょっと眉を顰めていたが、直ぐに続きを話してくれた。


「この保護外装は、とても凄い能力があるのは分かっているわね?」


 凄い能力というのは魔法の事だろうか? 


 確かにこの保護外装を纏った俺は、この世界に来てから数回戦闘を経験したが、魔法の能力は限って言えば確かに現地人よりも抜きんでていた。


 そこで俺が同意の意を込めて頷くと、あおいちゃんは数回頷いていた。


「ビルスキルニルの遺跡にあった保護外装は、おそらく4種族の男女のパターンだと思うのよ。それでこのエルフ系は魔法使い用の外装よね。じゃあ、他の3種類は何だと思う?」


 俺はあおいちゃんにそう言われて考えてみる事にした。


 こちらの世界で出会った異世界人はドワーフ、獣人それに人間だ。


 単純に考えると残り3種はその3種類だろう。


 俺がそう言うと、あおいちゃんも同じ事を考えていたらしく大きく頷いた。


「それでその3種族の特徴は何だと思う?」


 そこで俺はまた考えた。


 ドワーフのバラシュは錬成術に優れていたし、物を作るのも得意そうだった。


 すると能力としては錬成術と創造系の能力だろうか?


 次に獣人はどう考えても高い身体能力だろうし、夜目も効きそうだ。


 そして人は何だろう? あんまり思いつかないな。


 そんな事をあおいちゃんに言ってみると、あおいちゃんの理論ではドワーフは打たれ強く力持ちで錬成陣も扱える事、獣人は俊敏で隠密性が高く夜間行動が得意な事、そして人は呪術や未来予知等の占術を得意で、手先も器用な事からマジック・アイテム等を作成する能力が高いだろうとの事だった。


「そしてこの保護外装は思いのほか優秀なの。そうなると私達にとって危険なのは、同じように転移してきた人達だとは思わない?」


 そう言われると接近戦が苦手なエルフ種の保護外装を纏った俺達の前に、突然接近戦が得意な獣人の保護外装を纏った地球人が敵意を持って現れたらと考えると、背筋が冷たくなった。


 オンラインゲームでも、最も嫌な敵は同じプレイヤーなのだ。


 そしてあおいちゃんは、それを恐れているというのが分かった。


「それなら、わざわざ日記なんて置いたのは何故なんだい?」

「あら、私だって同じ境遇の仲間は欲しいのよ。それに突然遺跡の中に放り込まれたら、私と同じ考古学者なら外に出る事よりも、その遺跡の方に興味を持つでしょう。同じ考古学者なら、分かりあえる可能性が高いじゃない。もっとも目の前に居るのは、現代の盗掘野郎だけどね」


 そう言って、あおいちゃんは肩をすぼめて笑っていた。


 はいはい、どうせ俺は金目当てですよ。


 考古学者だってパトロンに金を出してもらって成果物を渡すんだから、同じじゃないかと思うけどね。


 だが、転移してきた者がとんでもない奴だったらと思うと確かに嫌である。


 ここはあおいちゃんの考え方に同意せざるを得ないな。


「分かった。その点はあおいちゃんに賛成しよう」


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