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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-15 画家

閑話になります。

 

 僕はジャンパオロという名の画家だ。


 元々は貴族に招かれて家族絵や子供の釣書に使う姿絵を描いていたが、とある貴族家に招かれた時、娘の姿絵を描いてほしいと言われ会った令嬢がジャンパオロ好みの体付きをしていたのでつい出来心で令嬢を口説き裸体を描いてしまったのだ。


 それが当主にバレて仕事を失う事になった。


 そして有り金も底をつき自殺を考えたところで、たまたま娼館の経営者がジャンパオロの描いた裸婦像を見て仕事を依頼してきたのだ。


 それからはあちこちの娼館等で女性を描いていたので、その筋では徐々に名が知れるようになっていった。


 そしてドーマー辺境伯様に依頼されて、定期的にパルラという町を訪れるようになった。


 この町は貴族や裕福な商人等を対象とした娯楽の町であちこちにそのようなサービスをする店があり、ジャンパオロの描いた姿絵は娼館や裏メニューのある飲食店を訪れた客達が一時の快楽を味わう相手を選ぶために用いられるのだ。


 女性達もこの姿絵が指名を得るための重要なツールと知っているため、出来るだけ美しくかつ妖艶に見えるように描いてもらおうと女の武器を使ってくる事もあった。


 聞いた話では人気が無い娼婦はいずれ異常性癖者への慰み者にされるらしく、彼女達も必死だった。


 そして偶に気に入った女性がいると、その女性をモデルにした春画も描いていた。


 噂では僕の描いた春画は貴族達に非常に人気があって、描かれたモデルを求めて娼館に走る男連中が多いと聞く。


 だが、最近は筆の走りが悪かった。


 それというのも描きたいという強い衝動を覚える相手が居ないのだ。


 姿絵は仕事と割り切って描いてはいるが、どうしても身が入らなかった。


 そして何時ものようにパルラを訪れた夜、つい野外の宴亭で深酒してしまい翌日の昼過ぎまで眠っていた。


 寝過ごした事で、広場で起きていた騒動に全く気が付かず、気が付いた時には町中は獣人で溢れかえっていた。


 宿の従業員達が逃げ遅れた客を探しに来てくれた時、人間達が七色の孔雀亭に避難していると知らされ慌ててそちらに移ったのだ。


 七色の孔雀亭では獣人達の襲撃に備えてバリケードやら窓の補強等が行われていてちょっとした要塞と化していたが、獣人達の身体能力の高さから言えばそれはほんの気休めにしかならないだろうと感じていた。


 それからというもの七色の孔雀亭の中で軟禁状態となり一緒に居る人達の暗い顔を見ているとこちらも気が滅入るので、1日の大半を部屋に閉じ籠もり無為の日々を過ごしていた。


 やがて避難者の中から、雌エルフを殺さなければ家族が殺されると言い出す者が現れた。


 それからは宿にある材料を使って槍や弓の武器や、槍の穂先や矢の鏃に塗る毒を作ったりしていた。


 馬鹿げている。


 幾ら相手が人じゃないと言っても、エルフを殺す準備を見ているのは心底うんざりした。


 そう言えば公都エリアルで何とか侯爵の館に招かれた時に初めてエルフを見せられたが、その美しい顔の造形や銀色に輝く髪、黄色の瞳は興味を引いたが、雄なのか雌なのかも分からない貧相な体付きはどうしても我慢がならなかった。


 ジャンパオロの好みは、女性特有の美しい曲線なのだ。


 そしてその雌エルフが攻めてきたと叫ぶ声が聞えてきた。


 部屋から出て様子を窺ってみると、宿に居た人達は殺気立っており武器を構えると一斉に出て行った。


 そして外から戦闘が行われている喧噪が聞えてきたが、それも直ぐに収まり人々が項垂れながら戻って来た。


 その中にひときわ目立つ女性達が入ってきたのだ。


 その女性達はパメラという辺境伯のメイドの案内で入って来たが、1人は獣人でもう1人が噂のエルフだった。


 それはジャンパオロの知るエルフとは、全く違った姿をしていた。


 確かにエルフの特徴である長い耳をしているのだが、髪は金色で瞳は赤なのだ。


 そのあまりの違いに本当にエルフなのかと疑念が湧いたが、そんな事は些細な事だった。


 それというのも、露出の多い服から見える体付きがとても女性的なのだ。


 その魅惑的な曲線に思わず目が釘付けになっていた。


 ジャンパオロは常に持っている紙と筆を取り出すと、夢中になってその姿を書き写していた。


 出来上がった似顔絵に満足すると、今度は全身を描き始めた。


 最初の絵は腰を90度に曲げて前屈みになりこちらを上目遣いで見ている姿で、娼館で使われる露出が多いメイド服の胸からは露わになった谷間がしっかりと覗いていた。


 次に描いた絵は可愛らしい尻をこちらに突き出し首を捻ってこちらを誘うような表情をしたもので、露わになった足は太くも無く細くも無くとてもそそるものだった。


 そこまで描いてはっとなった。


 もしこの絵があのエルフの目に触れたりしたら、僕は確実に殺されてしまうと。


 そこで慌ててその特徴的な耳を人間のものに修正し、絵の裏に「アニス、公都エリアルの娼館にて」と書き足した。


 アニスというのは、あの雌エルフがユニスと名乗ったのでそれを少し変更したのだ。


 これならあの雌エルフに見つかったとしても、エリアルの娼館にそっくりな娼婦が居るのだと言い張れるだろう。


 そして安心すると、今度は娼館のメニュー表に使う裸の姿絵を描き始めた。


 娼館で数多くの女性達の裸体を描いてきたジャンパオロにとって、服を纏っていてもその中に隠れている曲線を想像するのはたやすい事だった。


 宿にやって来た時に歩く姿を見ていたので、その揺れ具合で胸の形はある程度把握できるのだ。


 絨毯の上やベッドの上に横になり色々なポーズで男達を誘うその姿は、とても煽情的な物に仕上がっていった。


 そしてますます創作意欲が湧いてくると、今度は春画を描き始めたのだ。


 色々なポーズでの男女の絡みを次々と描いて行った。


 この日から無為に過ごしていた日々が、創作意欲の湧くバラ色の日々に変わったのだ。



 ジャンパオロの描いたユニスの姿絵や春画はその後公都エリアルで出回るようになり、たちまち人気となり高額で取引されるようになっていった。


 そしてその絵に魅せられた貴族や裕福な商人達は何としてもその女性に会いたくなり、絵の裏に記載されている「アニス、公都エリアルの娼館にて」という文字を見つけるや否や、公都の娼館に走りアニスと言う娼婦を探し始めた。


 だが、悲しいかなジャンパオロの創作でしかないその女性が居るはずも無く、期待に胸を膨らませて公都中を走り回った男達はやがてその残酷な事実を知ると力なく地面に這いつくばり、ジャンパオロへの恨み節を口にしながら血涙を流すのだった。


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