3-14 偽装工作
ジゼルに殴られた男の首がおかしな方向に曲がっている事から、既に絶命しているのは明白だった。
それにしてもジゼルにこんな馬鹿力があるとは思わなかったので驚いた。
激しい物音を聞いた人間達が何事かと扉を開け、男の死体を見て硬直していた。
間者との個別会談が終わったので野次馬達が塞いでいる扉に向かうと、野次馬達は俺達を通すため道を開けてくれた。
そして皆が待っていたロビーに出てくると、パメラとビアッジョが不安そうな顔で話しかけてきた。
「凄い音がしましたが何があったんですか?」
「あの男はどうしたんです?」
そんな人達に向けて俺は皆に聞こえるような声で言った。
「ドーマー辺境伯の間者は始末しました。これで次の計画に移る事が出来ます」
「それは俺達の家族を助けられるという事なのですか?」
「ええ、そうですよ。それには皆さんの協力が必要ですけどね」
「その・・・協力というのは何をすればいいのでしょうか?」
一人の男がそう尋ねると、それが全員の知りたい情報だったようで皆黙ってこちらを見つめてきた。
その瞳には、もしかすると家族が助かるかもしれないという一縷の望みが見て取れた。
追い詰められた人が、少しでも可能性があるならそれに縋りたいと思うのは当然だろうな。
「ドーマー辺境伯領に家族が居る人達は全員前に出て来てください」
人間達はそう言われても、お互い顔を見合わせるだけで誰も立ち上がろうとはしなかった。
まあ、いきなりそう言われても大人しく従う訳ないか。
どうしようかと思っているとパメラが皆の前に立ち、片足をドンと踏み鳴らした。
「皆さん、家族が大事なのではないのですか? このチャンスを逃すと家族はまず助かりませんよ」
パメラが強い口調でそう言うと、それに促されるようにかなりの人数が慌てて立ち上がった。
立ち上がった人達は皆不安そうに周りを見回しており、その数を数えると39人だった。
俺は持って来た袋の口を開けて中の土を取り出すとそれで土人形を作り中に魔宝石を入れた。
そして錬成陣の上に置くと魔素を吸収してみるみるうちに大きくなっていき、立ち上がった人達の1人にそっくりな人形になった。
その人形を見た人達は、驚愕の余り目を見開いていた。
それはパメラも同じだったが、それよりも興味の方が上回ったようだ。
「ユニスさん、その人形何をするのですか? まさかこの人達を殺して入れ替えるとか?」
それを聞いた人達が真っ青になり、数人は絶望のあまり震えていた。
「ちょっと、物騒な事言わないで下さいよ。ただでさえ怯えている人達がますます委縮してしまったじゃないですか」
「あら、これは失礼しました」
パメラはそう言って可愛らしい舌を少し出しておどけて見せると、それまで怯えていた人達が少しだけ落ち着いたようだった。
どうやらこちらを助けてくれたらしい。
「良いですか、これから皆さんの人形を作ります。そしてその人形を使って貴方達が死んだと偽装するのです。そうすれば辺境伯も貴方達の家族を殺すような意味の無い事はしないでしょう」
そう言うと対象となる人達が精巧な作りの人形とそのモデルとなった男を見比べていた。
「これから皆さんの人形を作るので中庭までついて来てください」
出来上がった39体の自分そっくりの人形を見ながら皆が呆けているところで、これからの事を伝えておくことにした。
「皆さんはドーマー辺境伯の間者と共に私を襲いそして返り討ちにされ、パルラの城壁から吊るされるのです。皆さんは死んだことになるのでここから解放されるまでご家族とは連絡は取れません。それは我慢してくださいね」
パルラに働きに来ている従業員達の連絡手段は手紙なので暫くの間は手紙を出せないということだったが、元々町が封鎖されていて手紙も出せないのでそれは問題無いようだった。
だが、パメラが立ち上がって疑問を口にしたのだ。
「いつまで吊るしておくのですか? 当然知っていると思いますが、人が処刑されれば処刑場には死肉を食らう肉食の腐肉鳥が現れて死肉を漁るのです。その鳥がいなければ直ぐに偽物だとバレてしまいますよ」
「それなら本物の死体がありますからそれを南門の外に木柱を立てて吊るしておきましょう。彼らが先にやったことですからやり返されたと思ってくれますよ」
39体の人形に自分を吊るすロープを持たせて南門に向かった。
間者の死体は南門の外に木柱を立ててそこに吊るすと、39体の人形には城壁の上に登ってもらい自らロープを首に巻いて吊り下がらせた。
そして南門の前にはトラバールに待機してもらった。
トラバールは話を聞くと直ぐに乗り気になり、南門前で地面に剣を突き立てて腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿を見た途端、奴は乗りがいい奴なのだと初めて気が付いた。
この役はオーバンも立候補したのだが見栄え的にはトラバールの方が威圧感があったのだ。
やがて辺境伯の偵察隊がやってくると直ぐに異変に気付いたようで、外に突き立てた木柱の死体の傍までやって来た。
それを合図にトラバールが偵察隊に言い放った。
「わっはっはっは、お前達の計略は潰えたぞ。姐さんを襲った賊共は見た通り全員返り討ちにしてやった。残念だったな」
そう言って木柱に吊るされて男を顎でしゃくってから、両手を広げて後ろの城壁に吊るされている死体を指し示した。
辺境伯の偵察隊は、トラバールの動きに合わせて木柱の死体と城壁に吊るされた死体を見回してから何も言わずに帰っていった。
+++++
ダラムにある領主館では、辺境伯領の政務を任されているコルンバーノ・ブリージが仕事に忙殺されていた。
そして山積の書類と格闘しているところで、メイドがワゴンを押して入ってくるとお茶の香りが鼻腔を擽った。
そう言えば、朝からずっと政務をとり続けていて休憩をしていなかったな。
メイドが淹れてくれたお茶を一口飲み大きく伸びをしたところで、一人の当番兵が慌ただしく部屋に入ってきた。
ブリージはその不作法に眉根を寄せたが、直ぐに話を聞くことにした。
それによると、パルラに潜入していた部下が殺されて門外に立てた木柱に吊るされていたそうだ。
そして城門の上に居た獣人が言った言葉によると、襲撃に失敗して全員返り討ちに遭いその死体が城壁から吊るされていたそうだ。
その報告を聞いて引っかかる事があった。
ブリージが出していた指令は従業員達を扇動して雌エルフを襲わせる事だが、部下には直接手を出すなと命じていたのだ。
ブリージの部下達は訓練されていて決して命令違反を犯すことはしないのだ。
送り込んだ部下が本当に死んだのか確かめるため連絡蝶を使ってみると、目の前の蝶が飛び立たないので死んだ事は立証された。
理由はどうあれ、潜り込ませた部下が炙り出され始末されたのは事実のようだ。
「ブリージ様、従業員の家族を始末いたしますか?」
連絡兵がそう言うのを聞いてブリージは首を横に振った。
「待て、そいつらにはまだ使い道がある。そのままにしておけ」
「は、畏まりました」
ブックマーク登録ありがとうございます。




