3-13 3人の間者
俺はパメラ達3人を指さしていった。
「そこの貴方達3人に個別で相談したいことがあります」
指定された3人の反応はまちまちだった。
パメラという女性は一瞬笑顔が固まったが直ぐに了承してくれたが、救援隊の事を質問した男性は目を見開いたまま黙っていた。
そして他者を扇動しようとした男は明らかに動揺していた。
「な、何故、私なのです? 私は唯の従業員で何の権限もありません。あ、私が他の皆に貴女の事を悪く言ったからこっそり粛清しようとしているのですね」
その姿は無関係な人が見れば哀れな被害者に見えるだろうが、こちらにはジゼルが居るのでその哀れを誘う姿の裏の顔がどうなっているのかお見通しなのだ。
「他の方にも個別で相談するのです。そんなに警戒されると逆に怪しいですよ」
そう言うと男は黙り込んでいた。どうやらこれ以上ゴネるのは拙いと思ったようだ。
個別相談の1人目はビアッジョ・アマディという賭場で会計係をしていたという男だ。
マフィア映画での会計係は組織の裏事情を全て知っている重要人物という設定が普通だが、この世界でもそう言った重要な立場なのだろうか。
部屋に入ってきた男は口ひげを生やした貧相な小男で、その顔には宿屋での籠城生活で疲れが見えた。
俺は開口一番、直球で質問した。
「アマディさん、彼方はドーマー辺境伯の間者ですか?」
俺のその質問にビアッジョ・アマディは眉一つ動かさなかった。
これは相当の手練れか、全くの見当違いかのどちらかだろう。
だがビアッジョ・アマディも直ぐには返答せず、色々選択肢を検討しているような感じだった。
これは長い化かし合いが始まるのかと覚悟したが、ビアッジョの答えは呆気なかった。
「いえ、違います。私の主は別にいます」
ジゼルの顔を見ると頷いたので、どうやら嘘は言っていないようだ。
直球を投げたのはその返答をジゼルの魔眼で見て貰うつもりだったからだが、こんなに呆気なく間者だと認めるとは思わなかった。
それともこの男の主の思惑が俺の行動と一致しているとでも言うのだろうか?
「貴方の主と交渉出来ますか?」
「恐らく興味は持っていると思います」
興味を持っているという事は、俺がパルラというドーマー辺境伯にとって重要な拠点を占拠してその力を削いだ事に好感を持ったのかもしれない。
それならお互い協力出来る立場であると見て間違いないだろう。
アマディさんの主はドーマー辺境伯と敵対しているか、あわよくば追い落とそうとしている政敵といったところか。
「それなら私は引き続きこの町を占拠してドーマー辺境伯を牽制しましょう。その代わりこの町で不足している穀物等の食糧が欲しいと伝えてもらえますか?」
「・・・分かりました」
そう答えたビアッジョはとても意外そうな顔をしていた。
まあ、普通ならお互いの腹の探り合いを何回もしてから交渉と言う事になるだろうから当たり前か。
「何だかとても意外そうな顔ね」
「ええ、本当なら私はここで拷問されるのではないのですか?」
俺はジゼルと顔を見合わせてから、にっこり微笑んでやった。
「そんな事をする必要はありませんよ」
2人目はパメラ・アリブランディという、領主館でメイドをしていたという黒髪の若い女性だ。
「改めてご挨拶いたします。私はパメラ・アリブランディと言います。どうぞよろしくお願いします」
黒髪のメイドは自己紹介をすると、にっこり微笑んでいた。
十中八九こちらの様子を窺っているのだろうが、その素振りは一切見せていなかった。
この態度は流石と言った方がいいのだろう。
「それでパメラさん、貴女はドーマー辺境伯の間者なのですか?」
また直球で質問すると、パメラは人差し指を唇に当てて小首を傾げていた。
「う~ん、違うかなあ」
すかさずジゼルの顔を見るとこくりと頷いているので、嘘は言っていないという事だ。
すると何処の間者なんだ?
ビアッジョの主の他にも、この町を探る貴族が居るという事か。
「貴女の主は私と敵対する関係なのですか?」
「・・・それは貴女次第かと。貴女は人間と敵対する存在ですか?」
パメラの顔から笑顔が消え、真剣なものに変わっていた。
そして探るような瞳からは、こちらの様子を窺っているのが分かった。
どうやらここからが本番と言う事らしい。
「宿に行った時にも言いましたが、こちらから敵対するつもりはありませんよ」
「大分印象が違うようだけど貴女はエルフ、よね?」
「ええ、そうですよ」
「ノール湖の?」
ノール湖? 遺跡の傍に魔素水泉はあるが、あれを湖と言うのは小さすぎるよな?
だが、あまり情報を与えるのも拙いような気がするな。
「いえ、違います」
そう言うとパメラは俺がその続きを言うのを待っていたようだが、俺がその先を言うつもりがないのが分かると微かにがっかりしたような表情が見えた。
「貴女の主は、私と交渉するつもりはあると思っていいの?」
そう言うとそれまで固い表情をしていたパメラはにっこりと微笑んだ。
「ええ、問題ないかと」
「それじゃこちらが欲しい物は小麦等の穀物類です。そちらが欲しい物があれば言ってくださいね」
「分かりました。聞いてみますね」
3人目はあの他の人間を扇動した男だった。
その特徴の無い顔立ちは、他人の記憶に残らないという潜入スパイにはぴったりだなと思った。
そしてキョロキョロと周りを見回して困ったような表情をしているが、ジゼルを見ると首を横に振っているのでそれが演技だというのが分かった。
「演技は不要よ。辺境伯の間者さん」
俺がストレートにそう言うとそれまで哀れな一般人といった風を装っていた男の背丈が伸びたように感じた次の瞬間、男は猛然と俺に襲い掛かってきた。
男の手にはいつの間にか短剣が握られておりそれと体の前に構えると体重を乗せてその刃先を俺の胸に突き立てようとしていた。
魔法による反撃を試みようとしたが、既に懐深く入り込まれていてはそれも難しかった。
能面のような男の唇が横に開き、俺の遅すぎる反撃を笑っているようだった。
だが、ナイフの切先が突き刺さる手前で魔力障壁に阻まれて止まってしまうと、その表情は驚愕に変わっていた。
そしてこの男をどうしようかと一瞬悩んだ隙に横からジゼルの一撃が男の頭部を襲うと弾き飛ばされた男の体が空を舞った。
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