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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-12 七色の孔雀亭

 

 七色の孔雀亭は、白亜の建物で柱や壁に様々な彫刻が施されていてとても美しい建造物だった。


 建物の正面には何本もの化粧柱が並び、その中央に彫刻を施した白い扉があった。


 その扉は固く閉じられており、それだけ見ると休業中に見えた。


 そして総二階建ての建物に沢山ある窓は円形に張り出したテラスになっているが、そこにも人影は見えなかった。


 だが、俺の魔力感知にはその扉の裏側や窓の奥に複数の輝点が映っており、俺達の来訪を息を潜めて窺っているのは明白だった。


 ジゼルに怪しい人物を見つけたら服の裾を引っ張って合図するように指示を出してから一歩前に出ると、閉じられた扉に向けて声を掛けた。


「すみませ~ん、話し合いに来ましたぁ。どなたかいらっしゃいませんかぁ」


 だが中からは返事は無く、静まり返っていた。


 少し待ってからまた声を掛けてみようとすると、いきなり2階のテラスに人影が現れると矢が飛んできた。


 どうやらすんなりと話し合いに応じる気はなさそうだ。


 飛んできた矢は常時発動している魔力障壁に弾かれたが、そのタイミングで正面の扉が勢いよく開くと、槍や弓を持った人間達が躍り出てきた。


 そして雄叫びを上げながら、こちらに迫ってきた。


「ジゼル、私から離れては駄目よ」

「うん、分かった」


 俺の周りには藍色の魔法陣が何十と現れると、そこから射出された石礫が正確に武器を握っている掌を打ち抜いて行った。


 それでも仲間の体に隠れた数人が武器を持ったままこちらに接近してきたが、その矛先は新たに発動した空間障壁に阻まれ遥か手前で強制的に止められると、その反動で尻餅をついていた。


 それでも諦めず何度も立ち上がっては槍を構え突撃するが、その度に空間障壁に阻まれて地面に倒れ込んでいた。


「無駄ですよ。まだやりますか?」


 何度やっても歯が立たないのが分かったのか、人間達から殺気が薄れ、代わりに恐怖が沸き上がって来たようだ。


 ようやくこちらの話を聞く姿勢が整たようだ。


「私はユニスと言います。ここには話し合いに来ただけです。話を聞く気になりましたか?」


 人間達はお互いの顔を見合うだけでこちらの提案に誰も答えず、この場に意思決定が出来る責任者が居ないようだった。


 すると宿の中からメイド服を着た女性が駆け出して来ると、俺に向かって声を掛けてきた。


「そこのエルフに尋ねます。私達をどうするおつもりですか?」


 そのメイドは黒髪を胸のあたりまで伸ばし、少し垂れた瞳が愛らしい感じだが、その眼は強い意志を宿し、凛とした佇まいも高度な教育を施された女性に見えた。


 どうやらこの女性なら話が通じそうだ。


「私はユニスと言います。貴方達が辺境伯の脅しを受けているのは存じております。そこでこの問題を解決するための話し合いをしに来たのです」


 俺がそう言うと、人間達はたちまち否定的な言葉を吐いて場が騒がしくなった。


 すると先ほどのメイドが両手を打ち合わせてそれを黙らせると、俺の前まで出て来て後ろに居る男達を見回してから俺に振り向いた。


 その顔は先程までの険しい顔とは違い、とてもやさしそうな顔になっていた。


「失礼いたしました。私はパメラ・アリブランディと申します。先日まではドーマー辺境伯館でメイドをしておりました」


 俺は辺境伯館での戦闘を思い浮かべていた。


 俺が暴れていた時に、傍にいたのかもしれないな。


 だが、その時ジゼルが服の裾を引っ張って合図を送ってきた。


「それは怖い思いをさせてしまいましたね。それで話し合いには応じてくれるのですか?」


 するとパメラはペコリと頭を下げてから返事をしてきた。


「はい、承りました。どうぞ中に入って下さい」


 七色の孔雀亭の化粧柱の彫刻を眺めながら扉の中に入ると、そこは広いロビーになっていて毛先の長い絨毯が敷き詰められていた。


 広い空間にも所々化粧柱が立っており、その周りには観葉植物が彩を添えていた。


 そして大きな窓際には豪華な椅子とテーブルが置かれ、ちょっとした待ち合わせスポットになっていた。


 正面には豪華なカウンターがあり、制服を着た従業員が顔を引き攣らせて立っていた。


 そして避難してきた人達は、壁際に座り込んで俺達を遠巻きにしていた。


「避難してきた人達は、これで全員ですか?」

「ええ、そうです」


 俺はジゼルに合図を送ると、集まった人間達をゆっくりと見回した。


 集まった人達の顔色はあまり良くないが、それは空腹というよりも俺との戦力差を実感したからのようだ。


「まず私に敵わないのは、分かっていただけましたよね?」


 俺のその質問には誰も答えなかったが、その顔色を見れば一目瞭然だった。


「それで私がここに来た理由ですが、貴方達がドーマー辺境伯から家族を人質に取られて、私を殺すように命令されているのは知っています」


 それを聞いた人間達はお互いに顔を見合わせていたが、誰も口を開こうとはしなかった。


 仕方がないので先に進めようかと思ったところで、先ほどのパメラさんが口を開いた。


「はい、ここに居る人達でドーマー辺境伯領に家族が居る方は、皆脅されているようですよ」


 この物言いからするとパメラというメイドは、ドーマー辺境伯領に家族が居ないのだろう。


 俺は一つ大きく頷く、先を進めることにした。


「私は皆さんと家族の命を、何とかしようと思っています。それには皆様の協力が必要です」


 そう提案すると、それまで絶望で俯いていた人達が顔を上げた。


 そして目を見開いて、今言われた言葉を飲み込もうとしていた。


「そんな事が可能なのですか?」

「可能です。ですが、それには皆様が私を信用しなければなりません」

「騙されるな。そいつは突然やって来て、私達の日常を奪った犯罪者だぞ」


 1人の男がそう言って、俺の提案に乗りそうになった場の雰囲気をぶち壊した。


 すると隣に居たジゼルが、俺の裾を掴んでチョンチョンと引っ張って合図を送ってきた。


 この男も間者の可能性があるようだ。


「先日もドーマー辺境伯の5千の軍隊が攻めて来ましたが、追い返しました。貴方達も私に敵わないのは理解したでしょう? それでも戦うというのなら今度は躊躇無く殺しますよ」


 俺がそう注意すると、それまでざわついていた場がしんと静まった。


 言い過ぎたかなと思ったところで、一人の男が恐る恐る尋ねてきた。


「ドーマー辺境伯様の救援隊を襲って、皆殺しにしたと聞いたのですが?」

「救援隊? 来たのはこの地を取り戻しに来た5千の軍隊だけですよ」


 質問してきた男は、俺の返答を聞くと何だか困惑した顔になって押し黙った。


 だがジゼルがまた合図を送ってきたので、この男も間者の可能性があるようだ。


「失礼しました。それでユニス様、どのような協力を求められているのでしょうか?」


 それに答える前に、貴方達3人の正体を暴かなくてはいけないのだよ。


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