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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第3章 封鎖された町
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3-1 破壊工作

 

 俺は武装帆船の中で片手剣を持った水兵の恰好をして、船を海中に引きずり込もうとしている巨大イカと戦っている真っ最中だった。


 仲間の船員が次々と巨大な吸盤が付いた足に海中に引きずり込まれる中、何とか戦っていたがそれも剣が折られるまでで、剣を折られてしまうと最早戦う術が無かった。


 巨大イカの足による攻撃をなんとか躱していたが、そんな幸運は何時までも続かず俺の顔よりも大きな吸盤が付いた足で巻き付かれるともう逃れる術が無かった。


 ぎゅうぎゅうと締め付けられた所で意識が覚醒した。


 そこはまだ薄暗い部屋で、俺はベッドの中でジゼルに絡みつかれていた。


 俺の寝ぼけた脳がようやく活動を始めると、先日の襲撃で部屋がめちゃめちゃになりブルコに他の部屋をお願いしたのだが断られ、ジゼルと相部屋になっていたことを思い出した。


 そして何故かジゼルが俺のベッドに潜り込んできて、俺の事を抱き枕にしているのだ。


 何とか締め付けを弱めようと藻掻いていると、腹の底に響く爆発音が聞こえてきた。


「ズズーン」


 その音でジゼルも目を覚ましたようだ。


「うん、何?」

「外で爆発音が聞こえたのよ。ちょっと見て来るから、ジゼルはゆっくりしていてね」

「・・・うん、分かった」


 ジゼルはちょっと不満そうな顔をしていたが、危険な場所に行くのだからここにいて欲しかったのだ。


 娼館を出て上空に舞い上がると、町の南東側で煙が上がっているが直ぐに分かった。


 パルラという町は外周をほぼ円形の城壁に囲まれていて、中央広場を中心にした十字の道路が伸びており、南に伸びている道路の先に南門があった。


 そして十字の道路を繋ぐように環状道路がぐるりと周囲を巡っていて、中央広場を囲う円形道路と城壁の内側の円形道路まで含めると3つの環状道路があった。


 せっかくなので中央広場を囲う環状道路を第一、中間にあるのを第二そして城壁沿いを第三環状道路と呼ぶことにした。


 そして十字型の放射道路と環状道路に仕切られた区画に、現代日本で言う所の郊外型大型店があった。


 建物は、中央広場に近い方がより豪華な造りになっているようだ。


 黒煙が上がっているのは、その第ニ環状道路と第三環状道路の間にある区画だった。


 火災が発生している現場に着くと、既に誰かいるようだったので傍まで行ってみると、そこではベイン達が消火活動を行っていた。


 どうやらベイン達は、この町に関する色々な雑用を熟してくれているようだ。


 火災現場は同じような形をした倉庫が3棟横並びになっていて、1棟は既に焼け落ち、残り2棟の尖った屋根の天井部分にあたる換気用の窓からは黒煙が立ち昇っていた。


 ベイン達は近くの井戸から汲んだ水を撒いているが、火の勢いが強くて苦戦しているようだった。


 異世界だから魔法で簡単に消化が出来るのだろうと思っていたが、どうもそうでもないらしい。


 そう言えば生活魔法で水は出せるが消火できる程の量はとても出せないし、攻撃魔法に水系はあるが消火出来たとしても建物も破壊してしまいそうだ。


 そこでテクニカルショーツのポケットの中に何かないかと探してみると、霊木の実で作った青色の弾があった。


 これはぶつかると大量の水をまき散らすのだ。


 スリングショットで換気用の窓に狙いを定めて青色の弾を打ち込むと、倉庫の中で大量の水が発生し火災を消し止めたようだ。


 それはタワーリング・インフェルノという映画で、上階の貯水タンクを破壊して大量の水をばら撒いて火を消したのと似たような感じだった。



 俺は消防官としての知識が無いので火元調査とかは無理だが、中に何があるのか興味があったので鎮火した倉庫の中に入ってみることにした。


 倉庫の中は区画毎に棚が設置されていてそこに穀物や果物、それに野菜や根菜類が保管されていたが、その殆どは火災による熱と消火による水で台無しになっていた。


 唯一食べられそうなのは根菜類と果物で、こちらは問題なさそうだった。


 もう一つの倉庫は肉の保管庫だった。


 中の塩漬け肉の一部は無事だったが、魔法で冷凍されていた肉は駄目になっていた。


 ここにはベイン達しかおらず、倉庫の管理人らしき人物の姿は何処にも無かった。


「ベイン、ここは誰の倉庫なの?」

「ここはパルラの町に食料等を供給している、アディノルフィ商会の倉庫です」

「火事が起こったのに、誰も来ていないの?」

「さあ、町を出て行ってしまったか、どこかに隠れているのかもしれませんね」


 現代日本ならこれだけの大型設備ならスプリンクラーの設置義務があるのだが、この世界には似たような物は無いのだろうか?


「ねえ、ここには消火設備とか無いの?」

「消火のためのマジック・アイテムがあるはずなのですが、何処にもありませんね」


 ベインは周りをキョロキョロと見回してから、そう答えてきた。


 消火用のマジック・アイテムが無いという事は、この出火は意図的なのだろうか?


 だが、それを確かめようにも、商会の人間が居ないのでは確認の取りようがなかった。


 もし居たら火事の原因物質も確かめられたし、それを理由にして責任を押し付けられたのだが、非常に残念だった。


 無事だった食材は、放置して腐らせるのも勿体ないので持ち帰ることにした。


 こういう時ゴーレムはとても便利だった。


 +++++


 七色の孔雀亭では、避難してきた人間達がバリケードを設置して立て籠もりながら、辺境伯様による町の解放を一日千秋の思いで待ちわびていた。


 そんな所に、外に様子を見に言っていた男が駆け込んでくると大声で叫び始めた。


「大変だ。あの雌エルフと獣人達が、アディノルフィ商会の食糧倉庫を略奪して火を付けたぞ」


 それを聞いた人間達は、騒然となっていた。


 宿の中では先の辺境伯軍の攻撃が、亜人が卑怯な手口で救援にやって来た辺境伯様の救助隊を皆殺しにしたという話にすり替えられていたので、亜人達に対する反感は膨れ上がっていた。


「何て奴らだ。ここの食糧は大丈夫なのか?」

「おい、奴らに取られる前に、流麗な詩亭と野外の宴亭の食糧をこちらに運び込んだ方がいいんじゃないのか?」

「ああ、そうだな。早速運び込もう」


 人々が慌てて外に出て行った後で、最初に叫んだ男はその後姿を見送ると誰も居なくなった宿でこっそりと連絡蝶を取り出した。



 コルンバーノ・ブリージは、パルラに潜入している部下からの報告を読んでいた。


 それによると先日の戦闘の話を作り替えて拡散した事と食料倉庫の破壊に成功した事で、人間達と亜人達の間に感情的な楔を打ち込めたようだ。


 後は女狐のネズミを見つけ出すだけだが、姿を隠すのが上手い奴らしく今の所手掛かりがなかった。


 ブリージは痛みが残る左手を見て顔を顰めた。


 雌エルフに砕かれた後、治癒魔法で完治しているはずなのだが未だに痛むのだ。


 そして右手に残る柔らかい感触を思い出し、顔がにやけていた。


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