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番外28 マウラの災難4(BC)

 

「まぁ、それ、大変じゃない」


 友人も目を丸くして驚いていた。


 マウラは心に溜まった物を吐き出せて少しだけ楽になったが、友人にはこんな重い話を聞かせて少しだけ後悔していた。


「でもぉ、素材が集まればいいのよねぇ?」


 そうなんだけど服飾店の販売員でしかない友人には、何も出来ないだろうと思っていた。


 だが、友人の口からは意外な言葉が出てきた。


「あ、ひょっとしたら何とかなるかもぉ」


 マウラはルーチェが何を言っているのか分からなかったが、突然友人が私の手を掴んで走り出したので、一緒に走るしかなかった。


 手を引っ張られ走らされていたマウラの息が切れかかってきた時に、ルーチェが向かっている先に見えてきたのはカフェのようだった。


 だが、その店の客層が異様だった。


 店の客が殆ど男性客だったのだ。


「マウラ、良かったわね。貴女、運があるわよぉ」


 運って何よ、あの男達に頼めと言うの?


 まさか、体を売れって言うんじゃないわよね?


 マウラはルーチェが何を考えているのか理解できず恐ろしくなってきた。


「はぁ、はぁ、ね、ねえ、あの店に居るハンターに素材集めを頼むというの?」

「はぁ、はぁ、そうですよぉ、あ、でもハンターじゃないけどねぇ」


 ルーチェは私の手を握ったまま男だらけの店内に突入した。


 その足取りは、まるで目的の人物がそこに居ることが分かっているかのような迷いのないものだった。


 そして立ち止まったテーブル席には、驚き顔をした2人の亜人が座っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、ユニス様ぁ、ちょっとぉ、はぁ、はぁ、いいですかぁ」


 辺境伯様はルーチェの顔を見ていたが、息が上がり赤くなった顔を見てテーブルの上の水を渡していた。


「ちょっと、ルーチェさん、水でも飲んで落ち着いた方がいいわよ」


 私もやっと解放されたので膝に手を当てて陸に上がった魚のように口をパクパクしていたら、あのオッドアイが水の入ったコップを渡してきた。


「貴女も、水を飲んだ方がいいわね」


 マウラはペコリと一礼してその水を手に取ると、ためらうことなく飲み込んだ。



 マウラは落ち着かずちょこんと椅子に座ったまま、目を伏せていた。


 どうしてこうなったのだろう?


 あの後、ルーチェが私の窮状を辺境伯様に訴えてくれたのだ。


 でも、何が「これは当然助けてあげなくてはいけませんよね?」よ。


 相手はこの町の最高権力者なのよ。


 よくそんな人を相手に簡単にお願い事が出来るわね。


 相手も困惑しているじゃない。


 でも、気が付いたら私達は同じテーブルに同席していて、私の目の前にはプリンアラモードというこの店の人気メニューとお茶が置かれていた。


 ルーチェを見ると、何の躊躇もなく黄色い塊にスプーンを入れながら、幸せそうな顔で食べていた。


 どうしてそんなに気楽にしていられるの?


 相手は怒らせたら人を大鍋で茹でてしまうような怖いお方なのよ。


 私がそっと顔を上げると、赤い瞳と目が合ってしまった。


「マウラさん、ひとまず目の前のお菓子でも食べたらどう?」


 その微笑んだ顔が、次に何を言うのか恐ろしくて再び目を伏せた。


 心の中では、どうしてこうなったのかとずっと問いかけていた。


 そんな事を考えていると目の前の辺境伯様は、隣のテーブルに座っている人間種の男性に声をかけていた。


「ねえガスバル、火炎陸亀の甲羅に魔樹の雫って、知ってる?」


 問いかけられた男はその場で立ち上がると、主人に呼ばれた飼い犬のように嬉しそうに傍に駆け寄って来た。


「はい、火炎陸亀はアマル山脈の麓に棲息している火炎ブレスを吐くアースドラゴンで、甲羅は固く何物も通さないと言われていますね。それから魔樹の雫とは、聞いた話ではヴァルツホルム大森林地帯にいる絶滅華という魔樹で、攻撃範囲に入った動く標的を蔦や根で攻撃するという厄介なやつです。その雫とは、捕食した獲物の残滓とも言われる結晶ですね」

「ふうん、それでガスバルなら狩れるの?」


 問いかけられたガスバルと呼ばれた男は首を横に振っていた。


「無茶言わないでください。アマル山脈の麓まで辿り着ける自信がありません」

「ふふふ、はっきり言うのね。貴方も高名な冒険者なのでしょう?」


 柔らかな雰囲気でそう指摘された男は苦笑いを浮かべていた。


「まあ、黄色冒険者としてそれなりに名は通っておりますが、ヴァルツホルム大森林地帯の奥まではちょっと。ですが、ガーネット卿なら問題無く狩れると思います」

「え、私だと魔物が寄ってこないのだけど?」


 それは貴女が最悪の魔女と呼ばれる、国も滅ぼす大魔法使いだからではないでしょうか?


「ああ、それならガーネット卿がオートマタを連れて行けば問題ないかと」

「え、グラファイトとインジウムの事?」


 辺境伯様がそう言った途端、何処からともなく「ドドド」という地響きを伴った足音が聞こえて来た。


 そして瞬きしている間に、辺境伯様の背後には黒い執事と黄色いメイドが立っていた。


 い、いつの間に?


「大姐様、命によりはせ参じました」

「お呼びですかぁ、お姉さまぁ」

「丁度良かったわ。貴方達魔宝石の交換をするから舌を出して」


 そして2人の舌についている大きな宝石を交換しているのだが、その間、何か爆発するとかいう不吉な警告が流れているのに、どうして誰も反応しないの?


 そして宝石の交換が終わると、再び辺境伯様が口を開いた。


「もしかしてだけど、グラファイトとインジウムを囮に使うとか?」

「はい、この2体なら火炎陸亀を見つけられますし、絶滅華が奇襲してきたとしても耐えられると思います。まあ、魔宝石を交換する必要があるかもしれませんが」

「ああ成程、参考になったわ」

「いえ、お役に立てて光栄です」


 周りの男達もさも当然かのように頷いていた。


「ユニス、どうするの?」

「そうねぇ、大公陛下が困るのだったら臣下としては協力するものよね」

「ふふ、そう言うと思ったわ。なら、私も手伝うわ」


 オッドアイがそう言うと、ガスバルと呼ばれた男も頭を下げていた。


「ガーネット卿がお出かけになるのでしたら、私も護衛として付いて行きますね」


 え、どうしてこの方はやる気になっているの?


 マウラはそれが不思議で自問していると、店にやって来る貴族夫人達がこの方の事を「大公のペット」と陰口を言っているのを思い出した。


 そうだわ。


 貴族夫人達の陰口から推測するに、この方は現大公陛下と仲良しで、大公陛下の権威が落ちると都合が悪いので協力するという事よね。


 それでもお貴族様が狩りに行くなんて事になったら、大人数の護衛を伴っての移動が普通だし、そうなったら人件費やそれに伴う経費がとんでもない額になってしまう。


 幸いなことに目の前に居るお方は国をも滅ぼす事が出来る高位魔法使いなので、そこまでの護衛は必要ないと思うけど、確か魔宝石の交換とかって言っていたわよね?


 あれって、とんでもなく高価な代物だったのでは?


 うう、そんな物まで必要経費として請求されたら、お店が大赤字になってしまう。


 だけど、やる気になったお貴族様に断りを入れるなんて恐ろしい事は、自分の命を縮める行為になるのでとても言えなかった。


 あああ、これ、もう、詰んだわね。


 オーナーすみません、お店に膨大な請求書が届いてしまいますが、私を首にしないでください。


 そして、お金払ってくださいと、心の中でオーナーにお願いしていた。


「マウラさん、火炎陸亀の甲羅と魔樹の雫は私達が取って来てあげるわ。ああ、それと青色水晶はバラシュにでも聞いてみましょう」


 バラシュって誰ですか?


 関わる人数が増えると経費が上がるのでとても不安になっていると、オッドアイが訊いてくれた。


「ねえユニス、バラシュって誰なの?」

「ああ、知り合いのドワーフ族よ。アマル山脈の鉱石といったら、彼らが第一人者でしょう」



 マウラは自分の意思とは関係ないところで勝手に決まってしまった素材採集の話を、どうやってオーナーに話せばいいのか悩んでいた。


 だが、悩める時間は目の前に彩花宝飾店の店舗が見えたところで終わりとなった。


 腹をくくったマウラは、店の中に入りオーナーを探した。


 だが、そこは無人だった。


 もう、こんな大事な時にオーナーはいったい何処に行ったの?


 そこでオーナーが歩く宝石状態になっていた事を思い出した。


 そして馬車でこの町にやって来た時に門前で見た、ガラの悪い連中の記憶が蘇ってきた。


 その2つを繋ぎ合わせれば、得られる答えは1つだけだった。


 大変、オーナーが装飾品目当てに攫われてしまったわ。


 慌てたマウラは、人間種を見つけてはオーナーの事を見なかったか尋ね回った。


「すみません、紫色の服に装飾品を沢山身に着けた、金髪の中年の女性を見かけませんでしたか?」


 だが、誰も見ていないという。


 これはきっと自分が厄介毎に巻き込まれるのを嫌がって、話さないのだろうと察した。


 どうしよう、これでは行方の手がかりもつかめないわ。


 マウラが困っていると、後ろから声をかけられた。


「お嬢さん、その女性を知っていますよ」


 マウラは、こんな時に相手の方から声をかけてくるのは、騒ぎになるのを恐れて私の口封じにやってきた犯人だとあたりをつけた。


 だが、無視するわけにもいかないので、そっと振り返った。


 するとそこにいたのは、頭の上に猫耳を付けた体格の良い男だった。


「その女性なら、多分賭場の方だと思いますよ」

「え、賭場?」

「ええ、1階の障害物レースを観戦しているのだと思います」


 マウラはオーナーが攫われていない事に安堵したが、安心したら今度は店をほったらかしにして遊んでいる事に怒りが湧いてきた。


 その変化に気が付いたのか、目の前の獣人がちょっと困った顔で補足してきた。


「最近は人間種の貴族さんが、自慢の騎兵を参加させているんですよ。結構人気になっていて、1階の貴賓席には貴族さん達が集まっているので、営業でもされているのではないでしょうか?」

「あっ」


 確かにこの町で店を再開を考えているとしたら、需要調査をするのは当然だったわね。


 賭場の場所は知っていたので、教えてくれた獣人に頭を下げてから駆け出した。


 マウラが賭場に入ると、目の前には南門前で見かけたあのガラの悪い人達の視線が一斉にこちらに向いたので、思わず足がすくんだ。


 えっ、ここを入って行かなければならないの?


 どう見ても公都のスラム街のような雰囲気があるんですけど。


 マウラが立ち尽くしていると、また背後から声をかけられ飛び上がりそうになるほど驚いた。


 この町の人達はどうしてみんな背後から声をかけるのよ?


「失礼、お嬢さん、どちらに向かわれるのですか?」


 振り返ると、そこにはまた獣耳の獣人が立っていた。


 どうして私に声をかけて来るのは全て獣人なの?


「あ、えっと、その、こ、ここの貴族席に行きたいのです」


 周囲の状況に恐怖を感じていたマウラは、貴賓席と間違えて貴族席と言ってしまったが、目の前の獣人にはしっかり通じていた。


「分かりました。それではご案内しましょう」


 案内を買って出た獣人が歩くと、そこにたむろしていたガラの悪い男達が道を開けていた。


 その自然とできた道をマウラは獣人の後を続いて歩く事ができた。


 そして案内された貴賓席で見つけたオーナーは、大勝ちして気前が良くなった貴族に商品の売り込みをしているところだった。


 その姿を見たマウラは脱力して、案内してくれた獣人にお礼を言うのを忘れてしまっていた。


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