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番外23 疑惑のミード5(BC)

 

「オルランディ公爵がパルラ産エルフミードの愛好家だったなんて、意外だわ」


 ジゼルのその感想に俺は頷いた。


 捕まえた暗殺者が自白魔法で白状した内容が、オルランティ公が良くパルラ産エルフミードを購入していて、その空き瓶をこっそり回収しているというものだったのだ。


 まあ、そのおかげでエルフミードの空き瓶が沢山出るから、偽物を作っている奴らに目を付けられたんだろうけどな。


「ねえ、ユニス、こんな所に隠れていないで、堂々と中に入っても良いんじゃないの?」

「そうだぜ姐さん、ここはあのオルランディ公爵家の王都館だろう? 別に知らない相手でもないし、事情を話して中に入れてもらっても良いんじゃないのか?」


 ジゼルとトラバールの不信そうな声に俺は振り返った。


「これはあれよ、えっと、敵に警戒させないための措置よ」


 俺達は見つからないように迷彩服を着て顔は迷彩塗料を塗り、迷彩帽子から木の枝を生やした格好で、公爵館の植栽の影に隠れていた。


「なあ姐さん、この恰好を見られたら植物系の魔物と勘違いされないか?」

「こんな公都のど真ん中で魔物が出る訳無いでしょう?」

「ユニス、ひょっとして楽しんでない?」


 ぎくっ。


 ま、拙い、ここでジゼルに魔眼を使われたらバレてしまう。


 いいじゃないか、ちょっと軍隊ごっこの気分を味わってみたかったんだよ。


「自白魔法で聞き出したけど、暗殺者も相手の言葉から推察しただけだったらしいし、ちょっとした調べ物に態々公爵の許可を取るのも面倒じゃない。それにジゼルの恰好もなかなか魅力的よ」


 ジゼルの視線はとても疑わし気だが、それ以上の追求は無かった。



 そして庭先を監視していると、番犬を連れた警備兵が現れた。


「姐さん、あれ、ヤバくないか?」


 地球では犬の嗅覚は鋭いが、この世界でもそうなのだろうか?


 だが、こちらにも嗅覚が鋭そうな者はいるのだ。


「トラバール、犬がこちらを見つけそうになったら威嚇するのよ」

「な、ちょ、俺は犬じゃないんだが?」


 トラバールは憤慨していがが、実際見つけられそうになったところで、番犬を威嚇してくれたので事なきを得ていた。


 うん、連れてきて正解だったな。


 そしてまた監視を続けていると、ようやく目的の人物が現れた。


 それは公爵館に御用聞きに来た商人で暗殺者が言っていたとおり木樽を3つ描いた前掛けをつけていた。


 暗殺者の話ではあの男がエルフミードの空き瓶と箱を回収していると言う事だったので、奴の後をつけていって工房を見つければいいのだ。


 その場で捕まえて自白魔法をかけてもいいが、その場合男を拘束するのは面倒だし、あの男が戻らなければ連中が警戒してしまうだろう。


 そして男が使用人から空き瓶を受け取ったのを確認すると、ジゼルの腕を掴んだ。


「よし、後をつけるわよ」


 だが、掴んだ腕は、ジゼルにしては太くでなんだかシワシワのような?


 そして振り返ると、そこにはオルランディ公爵の顔があった。


「えっ」


 俺が想定外の事態に驚くと、公爵はにやりと笑みを浮かべた。


「ガーネット卿にこんなに積極的に誘っていただけるのは光栄なのだが、こんな場所では興も冷めるというものだ」

「あ、あはは」


 拙い、何でこんな所に公爵がいるんだ?


 俺は日本人特有の笑ってごまかすをしてしまうと、それまでにこやかだった公爵が1つ咳払いして真面目な顔に豹変した。


「そんな面白い恰好で他家の庭に入って、何をしているのですかな?」

「えっと、なんで」

「なんで分かったのかって? 息子が愛犬を散歩させていたら、卿と従者達が変な恰好で隠れていたと笑って話してくれましてな」


 え、あの番犬を連れた警備兵は、次期公爵だったの?


「貴族年鑑第3位の高位貴族が、何故、他家の庭で従者とおかしな恰好でこんな奇行をしているのですかな? まさか、エルフという種族にはそんなおかしな事をしてしまう悪癖があるとでも? それなら同情はしてやれるが、その行動について肯定はしませんぞ」


 そう言って顔をしかめて見せた。


 ジゼルとトラバールは相手が誰だか分かっているので、先ほどから空気のようになっていた。


 ここで公爵に足止めされているうちに目的の人物を取り逃がすわけにはいかないので、隠れているグラファイトとインジウムに御用商人を追跡するように合図を送った。


「えっと、公爵様、実は偽ミードを売っている連中を追いかけている最中なのです」

「ほほう、すると我が家がその偽物を売っている連中と関わっていると思われているのですかな?」


 公爵の顔がみるみるうちに厳しいものに変っていった。


 こ、これは拙い。


 ジゼルの忠告を聞いて、公爵に断りを入れておけばよかったか。


 ここは素直に謝った方が傷は浅そうだ。


「公爵、申し訳ありません。事前に許可を取っておくべきでした」

「ほっほっほっ、謝罪を受け入れるには条件が必要ですな」


 くそっ、こんなところで弱みを握られてしまうとは。


 こうなったら女性型の外見を生かして、必殺のあれをやるしかないな。


 俺はわざとらしく困った顔をして公爵に小首を傾げてやった。


「なんでしょうか?」


 だが、老獪な公爵には全く効き目が無かった。


「我が家で主催する夜会に、参加して頂く事ですなぁ」


 そう言った公爵の目がとてもいたずらっぽく感じた。




 オルランディ公爵館を出た俺達は、グラファイトとインジウムの反応を追っていた。


 公爵に夜会への強制参加を確約されてしまったが、1回参加してくれたら見逃してくれるというのだから、これは仕方が無いのだ。


 公爵館で空瓶を受け取った男が入って行った建物は、公都エリアルの最も治安が悪い地区にあった。


 その建物の外壁はまるで要塞かと思うほど分厚い石積みだった。


「中が全く見えないわね」

「そうねえ、それに王都の街中にこんな建物があったなんて驚きだわ」


 俺の呟きにジゼルが応じてきた。


 だが、そんな状況でもトラバールは元気だった。


「姐さん、それじゃあ早速制圧するか?」


 ちょっと待て、こういった建物のお約束だと、絶対に裏口というか隠し通路みたいなのがあるんじゃないのか?


「トラバールちょっと待って。誰が出て来るのを待って、情報を得るため自白魔法を掛けるわよ」

「ああ、分かった」


 物陰からじっと観察していると、建物から人が出てきた。


 それを見たトラバールが声をかけてきた。


「それじゃあ、捕まえて来るか?」


 どうやら物陰からじっと動かなかったから、トラバールは我慢できなくなっているようだ。


 下手に我慢させて暴発されるよりも、ここは仕事を与えていた方が良さそうだな。


「ええ、それじゃあ、捕まえてきて」

「おう、任せてくれ」




 暫く待っているとトラバールがまるで荷物でも担ぐように気絶した男を連れてきたので、早速自白魔法を掛けた。


 そして尋問のため起こそうとすると、トラバールが男を蹴飛ばした。


「ちょっとトラバール」

「敵に情けは無用だぜ、姐さん」


 まあ、確かにそうなんだけど、トラバールがやると弱い者いじめにしか見えないんだよなぁ。


 気を取り直すと、早速尋問を始めた。



 男が知っている内容では建物の中に部屋は4つあり、食堂、水場、倉庫そして待機室のようだ。


 そして懸念していた隠し通路や裏口の類は無いようだった。


 これなら正面から突っ込んでも問題なさそうだ。


「最後だ。中に何人居るんだ?」

「5人です」

「良し、それなら俺1人でも問題ないな」


 自信満々に立ち上がったトラバールに、やる気をそぐことを言うことはしない。


 そっとグラファイトとインジウムに補佐するように合図を送った。


 +++++


 薄暗く狭い部屋で1日中ずっと液体に魔法を込めているガイオには既に曜日の感覚がなくなっていた。


 そして何時眠ったのかとか、何時食事をしたのかもはっきりしなくなっていた。


 魔法使いにとって美味しい仕事があると言われて応募したのだが、それがこんな激務だったとは思わなかったのだ。


 魔法使いを自称しているガイオでもずっと魔力を込められる訳もなく、魔力切れでぶっ倒れるとポーションを無理やり飲まされてまた液体に魔力を込める作業を続けさせられていた。


 既にヘロヘロになっているガイオがいくら魔力を込めても、目の前の液体にどれだけ魔力が込められているのかさっぱり分からなかった。


 いや、それよりもかすむ目で睨んでいると、何だか白く濁っているような気がしていた。


 ま、どうせ何が出来上がろうが俺には関係ないか。


 絶望の中、激務を強要され続けていたガイオは、ここから出してもらえるならもう報酬も要らないと思うようになっていた。


 そんな時、突然大きな爆発音が鳴り響くと、男達の怒声と剣戟の音が聞こえてきた。


 どう考えてもこの場所が敵対組織に見つかって襲撃を受けているとしか思えない状況だったが、精魂尽き果てていたガイオには逃げるだけの体力が残っていなかった。


 後は、敵対組織に少しでも慈悲の心がある事を願うしかなかった。


 だが、扉を蹴破って入って来た人物の姿を見たガイオは、その慈悲が全く望めない事を悟った。


 入って来た男の口には鋭い牙があり、頭の上に獣耳があったからだ。


 その恐ろしい形相の獣人が吠えた。


「姐さん、こいつで最後だ」


 どうやら恐ろしい獣人が従う存在が後ろにいるらしい。


 きっと、眦が吊り上がり、被害者の血で濡れた鋭い爪と牙を生やした恐ろしい顔をしているのだろう。


 そんな事を考えると膝が震え歯がカタカタと音を立てていた。


 扉の影から現れたそれは、怪物ではなく、この世の地獄に現れた救いの神だった。


 ガイオはその前に両ひざを突くと、手を合わせてディース神に祈りを捧げるポーズをとった。


「ディース神様、どうかこの世の地獄からお救い下さい」


 +++++


 密造酒工房に突入した俺達は、内部の制圧を行っていった。


 そしてトラバールの叫び声で最後の部屋に入ってみると、突然その部屋にいた男が俺の前で跪いていた。


 何故、俺の事をディース神と呼ぶ?


 だが、目の前で跪いた男はあの祈りのポーズをしたまま、おいおいと男泣きしているのだ。


 これ、どうすんだよ。


 自白魔法を掛けてさっさと終わりにしようと思ったのに、これは予想外だった。


 俺は仕方なく、男が落ち着くまで背中をさすってやった。


 その姿を見たトラバールは何とも言えない顔をしていたが、ジゼルの方は肩を震わせて笑っていた。


 そして男が落ち着いたところで質問してみた。


「落ち着いたのなら、お前の雇い主を教えなさい」

「はい、バリゴッツィ商会です」


 うん、バリゴッツィ?


 そう言えば、アレッシアと一緒に商業ギルドに商品登録に行った時にそんな名前の商人がいたような・・・


「それで、お前はここで何をしているの?」

「私はここで不眠不休の強制労働させられていたのです。ディース神様がお救いに来てくださらなければ、廃人になっていたでしょう。本当に感謝しております」


 そう言って男はまた俺を祈り出した。


 +++++


 自分の豪華に飾った部屋でお気に入りの酒を飲んでいたブルーノ・バリゴッツィは、部下からの報告を待っていた。


「くそっ、報告が遅いぞ。アランジの野郎をちゃんと始末したんだろうな?」


 すると扉が開く音が聞こえた。


「遅いぞ、早く報告をしろ」


 ブルーノがそう叫ぶと、開いた扉から入って来たのは何時もの男ではなかった。


 ブルーノは侵入者の姿を認めると、本能がここから逃げろと警報を上げていた。


いいね、ありがとうございます。


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