番外13 魔法学校の開校祭1(BC)
エリアル魔法学校のサロンで儀礼科に所属するシュレンドルフ侯爵家の3女コルネーリアは、友人のバスクヮーリ伯爵家のアンナリーザ嬢とストラーニ子爵家のノヴェッラ嬢とお茶とお菓子を楽しんでいた。
するとコルネーリア達の元に、華やかなドレスを纏った令嬢がやって来た。
「まあ、コルネーリア様、ごきげんよう」
「カールラ様、ごきげんよう」
コルネーリアが挨拶を返すと、カールラ嬢は手に持った扇で口元を隠した。
「コルネーリア様、お披露目会がマンネリ化しているように思いませんか?」
儀礼科のお披露目会は、身内の集まりのようなもので家族や近親者を呼んでパーティを開くような感じなのだが、何かあるのだろうか?
「えっと、それは普通ですよね?」
するとカールラ嬢は、ぐいっと顔を近づけてきた。
「ええ、何時も私達の親族や婚約者が来られるのですけど、ロヴァル騒動のせいで婚約者を亡くされた方もいらっしゃるでしょう。外部から来たお客様の顔ぶれを見て悲しまれるご令嬢も居ると思うの。だから、普段とは違う顔ぶれがあれば、少しは、気も紛れるのではないかしら? でも、私には良い考えが思い浮かびませんの。ここは儀礼科の中心でもあるコルネーリア様に是非考えて頂きたいですわ」
カールラ嬢は公国東側に領地を持つベルトーネ侯爵家の次女で、コルネーリアに失点を付けさせようと何かとちょっかいをかけてくるのよね。
そこでカールラ嬢が今回はクレメント殿下をお呼びすると言っていたのを思い出した。
「カールラ様、クレメント殿下をお呼びすれば・・・」
コルネーリアがそこまで行ったところで、カールラ嬢がとても寂しそうな顔になったのでそれ以上は言わない事にした。
それでも様々な事情でお相手がいない令嬢が居るのは事実だし、何か興味を引く話題でもあれば確かに場が華やぐかもしれないと考えていると、ぽっと1人の顔が脳裏に浮かんだ。
「分かりましたわ。私も伝手を頼りに聞いてみますわ」
「まあ、流石はコルネーリア様ですね。それではお願いしましたわよ」
そして既に私が何とかすると思ったカールラ嬢が離れて行くと、心配そうな顔をした2人が声をかけてきた。
「コルネーリア様、あんな約束をして大丈夫でしたの?」
「そうです、あれ、絶対コルネーリア様が失敗する事を期待していますわよ」
コルネーリアは心配そうな2人ににっこり微笑んだ。
「ふふ、大丈夫ですよ。私もそろそろあのお方とお会いしたいですし」
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パルラの領主館で俺が書類と格闘していると、ジゼルがやって来た。
「ねえユニス、コルネーリアさんからダンスのお披露目に参加してくださいって」
うん、ダンス?
「私には踊る相手なんて居ないわよ」
「踊って欲しいんじゃなくて、皆が踊る姿を見て欲しいって事のようね」
そこまで言われて、コルネーリア嬢がお披露目の日は魔法学校が開放日となって露店なんかも出ると言っていたのを思い出した。
成程、コルネーリア嬢は学校でお祭りをやるから楽しんでくださいと言ってきたのだな。
偶にはジゼルと一緒に祭り見物というのもいいかもしれないか。
「分かったわ。ジゼル、お祭り見物に行きましょうか」
「ええ、良いわよ」
「そうと決まれば、早速ドレスを作りましょうか」
「え、私も?」
俺は案内状をひらひらさせながら、ドレスコードが指定されている事を話した。
そして目を丸くしたジゼルを引っ張ってリーズ服飾店に向かっていると、トラバールがやって来た。
「姐さん、何処に行くんだ?」
「エリアルで開催されるお祭りを見に行くため、私とジゼルの服を作るのよ」
「なんだって、なら護衛が必要だな」
俺にはグラファイトとインジウムが居ると言おうとしたところで、期待を込めたトラバールの目を見て言葉を飲み込んだ。
「貴方も祭りに参加したいのね?」
「ん、あ、いや、俺は護衛を・・・」
「まあ、いいわ。せっかくだから貴方にも夜会服を仕立ててあげるから付いてきなさい」
そしてジゼルとトラバールを伴ってリーズ服飾店に入って行くと、俺達の姿を認めたルーチェ・ミナーリが飛んできた。
「あ、ユニス様、ジゼルさん、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用命でしょうか?」
ニコニコ顔のミナーリを見て、彼女の目には俺がカモで、ジゼルがネギ、トラバールが鍋に見えているんだろうなあと思っていた。
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エリアル魔法学校の学校長室で、コルネーリアはカールラ嬢と一緒に学校長と面会していた。
「ほほ、すると今回のお披露目会では、賓客としてガーネット卿が参加されるのか」
「ええ、そうですわ」
「それでは歓迎しなければな。ふぉ、ふぉ、ふぉ」
コルネーリアは学校長の笑顔を見て、事前に何をするのか知っておいた方が良さそうだと考えた。
「まあ、どんな歓迎をなさるのですか?」
「そうじゃなぁ、せっかくだから学校を上げての祭りにしようではないか。各科の教師達にもその方向で通達を出しておこう」
「「え、それはとっても素敵ですね」」
学校長は普段はあまり見せないほど嬉しそうな顔をしていた。
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エリアル魔法学校で学校を上げてのお祭りを実施するという話は、教師を通じで瞬く間に全校に周知されていった。
剣技科のガッテイ教師は、生徒に向けて学校祭の内容を説明した。
「いいか、お前ら、定例の儀礼科のお披露目会を全校規模に拡大して学校祭を開催する事になった。そこで剣技科の役割を、儀礼科令嬢のエスコート役、校内警備、模擬戦の3つに分ける。希望するグループに集まってくれ。それから人数調整をするからな」
すると以外にも儀礼科のエスコート役に貴族家の子息が多く集まっていた。
「お前達、いつもは儀礼科のサポート役は政治・行政科の役目だとか言っていなかったか?」
ガッテイ教師がそう指摘すると、学生たちは黙ったまま苦笑いをしていた。
それを遠回しに見えていた平民出身の生徒が厳しく指摘してきた。
「それは見目麗しい高位貴族が、主賓で参加するからですよ」
「うん、ああ、なんだ、お前達、貴族年鑑第3位といっても相手はエルフだぞ?」
ガッティ教師のその指摘も、成り上がりを狙う生徒はどこ吹く風だった。
「何と言われようが3男、4男が立身出世する方法はそう多くは無いのです。このようなチャンスは当然狙いに行くべきでしょう?」
貴族家の子息達が良い笑顔で頷くのを見て、ガッティ教師は彼らに現実を伝えてやった。
「そんなお前達にとっておきの話をしてやる。エスコート役の定員は、なんと2名だ」
「「「え?」」」
「お前達が考えるような事を、政治・行政科の連中も考えているという事だよ」
「え、だってあっちは、次期領主のはずじゃあ」
「領主間での付き合いも大事、という事だ。あっちは長命種だし、自分達が領主になった時の事を考えているのだろう」
ガッティの話を聞いた貴族家の生徒達は、それまでの浮かれ気分からどん底に落とされた顔に変っていた。
ガッティはそんな彼らをおいて、他のグループのチェックを始めた。
次に向かったのは模擬戦をするグループで、そこでもかなりの人数が集まっていた。
「ふむ、お前達は、模擬戦が良いのか」
「ええ、観戦する貴族家当主にアピールできますから」
「ガッティ教師、模擬戦といっても今回はその主賓へのお披露目が目的でしょう?」
そう言ってやる気がなさそうな声を発したのは、バルギット帝国から留学してきたアドリアン・オノレ・シャミナードだった。
「なんだ、つまらなそうだな?」
「ええ、俺としては、その主賓だという魔法使いと模擬戦がしたいのですが?」
「「「えっ」」」
シャミナードの発言を聞いた他の生徒が、皆驚いたような声を上げた。
それもシャミナードには気に喰わなかったようで、ムッとした顔になっていた。
「フラムという魔法の盾が普及してから、帝国では魔法使いの地位はかなり下がっています。それは公国でも同じなのではないのですか?」
そう指摘されたガッティ教師は少し前までは同じ考えをしていたので、シャミナードが言っている事も理解できた。
「ほう、だが、本物の魔法使いにはフラムは無力だぞ」
ガッティ教師がそう言うと、シャミナードの目が光った。
「それです。他の生徒も同じような事を言っているのですが、それが本当なのか実際に試してみたくはないですか?」
「え、本当にパルラ辺境伯様と模擬戦がしたいのか?」
ガッティ教師が呆れたようにそう言うと、シャミナードが口角を上げた。
「ええ、そのとおりです」
すると何名かの生徒達が笑い出した。
「何がおかしいんだ?」
馬鹿にされたと感じたシャミナードが、笑った生徒を睨みつけていた。
「まあ、そういきり立つなシャミナード君、他の生徒は無詠唱で魔法を連発する魔法使いの実力を知っているだけだ」
「ふっ、無詠唱は体内魔力を消費するのですよ。連発なんて無理でしょう」
ガッティ教師が教えてあげたが、シャミナードは信じていないようだ。
こういった自意識過剰なタイプは、一度ガツンとやられて現実を思い知った方がよさそうだ。
「そうだなぁ、もしパルラ辺境伯様にご協力いただけたら、特別模擬戦でもやってみるか」
「えっ、それって、ガーネット様と模擬戦をするという事ですか?」
ガッティの案に他の生徒が色めき立った。
「ああ、やってくれたら、の話だがな」
「その時は是非私達も参加させてください」
ほぼ、全員が手を上げたのを見て、シャミナードが呆れかえっていた。
「お前達、1人を大人数で叩くなんて誇りは無いのか?」
すると生徒達が一斉に笑い出した。
「いや、俺達が束になってかかっても、10分も持たないと思うぞ」
その言葉の意味が分からず、シャミナードは首を傾げるだけだった。
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開校祭が実施されることは商業科でも話題になっていた。
学校長の提案で、商業科は露店を出したらどうかと提案されたので、普段外部からやって来る露店とは趣が違うものを考える事になった。
普段外部からやって来る商人達は、食べ物や装飾品の小物を出店していたので、それ以外という事になる。
「アレッシア、何か良い案はある?」
アレッシア・ロザートに声をかけてきたのは、仲の良い友人の一人だった。
そこで思い出したのは、とても楽しい思い出になった見学旅行だった。
あの町では魔素水浴場の2階や他の場所でも自分で体を動かす娯楽が沢山あり、アレッシア達は眠るのも忘れて遊び回っていた。
あれを簡単に体験出来れば、魔法学校に来てくれた方も楽しめるのでは?
そこで生徒達からの提案を待つように見回している教師に手を上げた。
「はい、私に良い案があります」
いいね、ありがとうございます。




