番外6 ゴールド・ハンター(BC)
ロヴァル公国北部の町パルラにある喫茶プレミアム。
領主様もやって来るというこの店では、今日もおいしいお茶とお菓子を求めてお洒落で露出多めな服装をした女性客が多く詰めかけていた。
そんな華やかな空気の中、この店のテラス席に座り黒いお茶を啜る2人の男性客は浮きに浮きまくっていた。
「兄貴ぃ、見てくださいよぉ。この町の女達はみんな裸みたいな恰好してまっせ」
やせ型で長身長髪の男スパーノが周りをキョロキョロしながらそういうと、直ぐに鳥打帽をかぶったチビで小太りの男ガヴィーノがたしなめた。
「おい、ここに来た目的を忘れるなよ。この町で女達に絡むと、どこからともなく獣人がやって来てつまみ出されると言われただろう」
「あの情報屋の情報って、どこまでが本当なんすかねぇ?」
「おい、絶対に確かめようとするなよ。目を付けられたら俺達の計画がパーになるんだからな」
「へ~い」
間の抜けた返事をするスパーノは、不満そうな顔で一口カップの中の黒い液体を飲んだ。
これはこの町でしか提供していないというモッカという飲み物で、そのままだと苦いがこの町では甘味大根という特産品があり、甘くして飲むことができるのだ。
「兄貴ぃ、この町には玉遊びをしながらうまい酒が飲める、ぷーるばーとかいう面白い場所があるらしいですぜ」
「おい、集中しろ。俺達はここに遊びに来たんじゃねえ、仕事しに来たんだ」
ガヴィーノはそう言って、スパーノの頭をこつんと叩いた。
「あいた、ひどいじゃないっすかぁ。それに金貨を飲み込んだゴーレムなんて、本当にいるんすかぁ?」
「しー、しー、おい、声がでかい、抑えろ」
「あ、すいやせん」
ガヴィーノは、周囲を見回し他の客の注目を集めていない事に安堵のため息をついた。
「いいか、情報屋の話だと貯金箱1号と呼ばれているゴーレムがいて、そいつの腹の中には大量の金貨があるって話だ」
「そんな金貨を飲み込んだゴーレムが街中をうろついているなんて、嘘くさい話本当に信じたんすかぁ? そんなのが実際に居たら直ぐに解体されて、中の金貨を抜かれますぜ」
ダラムの酒場で会ったあの男は、うまい話があるといって近づいてきた。
そして銀貨5枚で語った話は、ダラムの北にあるパルラという町には、腹の中に大量の金貨を飲み込んだゴーレムが街中をうろついているという嘘みたいな内容だった。
ただし、外れが3体いるらしいから当たりを見つける必要があるのだとか。
外れのゴーレムには銅貨を飲み込んだゴーレムが2体、銀色の何の価値もないコインを飲み込んだゴーレムが1体いるらしい。
普通に考えたらそんなお宝が街中をのこのこ歩いていたら、襲われて中身の金貨を奪われそうなものだが、そういった輩はパルラの南門で追い返されていた。
どうも南門の詰め所では、腹黒い奴を見破る獣人が居るらしかった。
情報屋の話では、見破られないため詰め所では敬虔なディース教信者になったつもりで神の事でも考えていろと言われたのだ。
弟分のこいつと一緒に南門に来ると、奴の言った通り詰め所に通されたのだ。
「パルラに来た目的は?」
「遊びにきたんだ」
目の前の厳つい獅子と猫野郎にじっと見つめられたが、ガヴィーノは言われた通り子供の頃を思い出し教会で祈りを捧げた時の事を思い出していた。
ガヴィーノの言葉に満足したのか、雌獣人は手持ちの金をパルラで使える物に交換して中に入れてくれた。
ふっ、ちょろいもんだぜ。
「あの野郎の話では、このカフェで待っていると、そのゴーレムが目の前の道を通るそうだ。お前もその両目を見開いて、しっかり見張っているんだぞ」
「へえぃ」
そうは言っても、スパーノは直ぐに他のテーブルの女性客に関心が移ってしまうので、全く当てにならなかった。
そんな相棒にイライラしながらも大金が手に入るという欲望で何とか自制していると、スパーノが突然立ち上がった。
「おい、悪目立ちするのはよせ」
ガヴィーノが慌てて手で制すると、スパーノが道を指さした。
「兄貴ぃ、あれ、あれを見て下さいよ」
ガヴィーノが振り返ると、そこには大きな鼻に垂れた耳、白い体色をした4足獣が道をのんびり歩いていた。
その姿は、情報屋が語った金貨を飲み込んだゴーレムの外見そっくりだった。
「来た。急げ」
テーブルから立ち上がったガヴィーノは、相棒に声をかけて急いで会計を済ませると外に出て、目当てのゴーレムの後を追いかけた。
「本当にいたんですねぇ」
「ああ、これで俺達は大金持ちだ」
「なんだか旨そうな奴ですね」
「おい、あれはゴーレムだからな。腹を壊すから食うんじゃないぞ」
情報屋の話だと金貨を飲み込んだ当たりのゴーレムは、パルラで遊んだ客が出て行く時にロヴァル金貨と交換するため南門の両替所に向かうという事なので、それを確かめる為後を追うのだ。
ゴーレムは俺達が後を付けているのを知ってか知らずか、のんびりと街中を散歩しているようにしか見えなかった。
やがてゴーレムは南門の詰め所までやって来ると、そこに居た獣人が中に招き入れた。
獣人とゴーレムが中に入ったのを確かめてから、急いで窓の所まで来てそっと中を覗いた。
中では、獣人がゴーレムの口の中から金貨を取り出していた。
「兄貴ぃ、あれ、金貨ですぜ」:
「しっ、声が大きいぞ」
だがこれであのゴーレムが当たりなのは確かめられた。
後は、あれを襲って金貨を盗むだけだ。
「おい、武器は持っているな?」
「武器ってこれっすか?」
そう言ってスパーノが目の前に掲げたのは、木工職人が使う鉄の棒で先端がL字に曲がっていた。
「良いか、お前は何も考えずにその道具でゴーレムの腹を突くんだ。他の事は何も考えるなよ」
「兄貴ぃ、それじゃ早速捕まえるんで?」
ガヴィーノは、周囲に人が多いのを見て首を横に振った。
「もう少し人目が少なくなってきてからだ。それまでは追跡を続けるぞ。見失うんじゃないぞ」
「へえぃ」
2人の男がゴーレムに後を追っていると、ゴーレムは時折立ち止まりこちらを振り返っていた。
「ね、ねえ、兄貴ぃ、俺達が後を追っているのバレバレじゃないっすか?」
「だから何だ? あれはただのゴーレムだぞ。後を追っているからと言って、こっちをまいて逃げるなんて知能は無いから心配するな」
そして人気のない所で襲えるように後を付けて行くと、ゴーレムは側道の植え込みの中に入って見えなくなった。
ガヴィーノはチャンスととらえて、スパーノを急き立てて猛然とダッシュした。
植え込みに突っ込むと無数の枝に皮膚が突かれ、服が引っかかり、中々抜け出せなかった。
やっとの思いで植え込みから抜けだすと、目的のゴーレムはかなり先に居てじっとこちらの様子を窺っていた。
気のせいか、その顔は俺達の酷い恰好を笑っているように見えて、無性に腹が立ってきた。
「くそっ、あの野郎、俺達を笑ってやがる」
「兄ぃ、ゴーレムに感情なんかあるんすかぁ?」
「いいから、追いかけるぞ」
ガヴィーノはスパーノの肩を叩くと、こちらの様子を窺っているゴーレムに向けて猛ダッシュした。
「うぉぉぉぉ、待ちやがれ~」
するとゴーレムは悠然と歩きだした。
向かった先には豪華が建物があり一瞬拙いと思ったが、ゴーレムは建物には向かわず、中庭の方に歩いて行った。
そこは庭園となっており、植木やら石造りの構造物なんかがあって身を隠せる場所が沢山あった。
建物の中にいる者に見られないように身を隠しながらゴーレムを追いかけて行くと、それは庭園内にあった池の中に入って行った。
ガヴィーノはスパーノと協力して池を出たところで捕まえようと2手に分かれて待ち構えていたが、一向に池から出て来る気配が無かった。
そこで追い出してやろうと石を投げても、相手はゴーレムなので石が当たっても平気な顔をしているので、むきになって投げつけてやった。
するとやつは後ろ足で水を蹴り、こちらに浴びせかけてきやがったのだ。
ずぶぬれにされ無性に腹が立ってきた俺は、ひときわ大きな石を両手で掴み放り投げた。
その石が当たる良い音が響き思わず声を上げて笑うと、奴は怒ったように水を蹴った。
その水圧はすさまじく俺は後ろに跳ね飛ばされた。
俺の無様な姿を、奴は絶対に笑ったと確信があった。
「あの糞野郎、俺の事笑いやがった」
「えっ、兄貴あれ、ゴーレムですぜ。そんな感情あるわけが」
「ええい、うるさい。あれは笑ったんだ。それは間違いない」
あまりにも腹が立った俺は、同じようにずぶぬれになったスパーノに合図を送り、手に持った武器を振りかざして池の中に入って行った。
「こんんのお糞野郎がぁ、この剣でずたずたに切り裂いてやる」
そして狙いすました一撃を振り下ろすと、ゴーレムはすっと剣を躱し、後ろ足で蹴り上げてきた。
「ふごっ」
「兄貴ぃ」
ガヴィーノが目を覚ますと、自分が土の上であおむけに倒れていた。
「兄貴ぃ、気が付きやしたか?」
スパーノの情けない声に振り返ると、そこには猫獣人達に捕まったスパーノのみじめな姿があった。
「お前達がユニス様のゴーレムにちょっかいを出していたのは分かっているんだぞ」
「さて、何の事やら?」
「とぼけても無駄だ」
そう言って猫獣人が視線を送った先を見ると、そこにはあのゴーレムが俺に尻を向けてふりふりしながら首をひねって舌を出した。
「ちくしょう、あの野郎また俺の事コケにしやがって、絶対ぶちのめして中身を奪ってやる」
「それは自白という事でいいんだな?」
ガヴィーノが挑発され思わず口を滑らすと、それを狙っていたのか猫獣人がにやりと口角を上げていた。
「・・・あ」
ガヴィーノはスパーノと一緒に南門まで連行されると、そこで犯行の一部始終を尋問され、未遂だった事で追放処分となった。
獣人の剛腕で門の外に放り投げられたがヴィーノは、泥まみれになった惨めな姿をじっと見つめるゴーレムと目があった。
すると奴は、まるで惨めな負け犬をあざ笑うように尻をこちらに向けてると、ふりふりと振ってきやがったのだ。
ちくしょう、次は絶対あの野郎の腹を裂いて金貨を奪ってやると地団駄踏んで悔しがった。
+++++
パルラの町で見回りをしていた俺の元に、町の治安維持を担当しているベインがやって来た。
「ユニス様のゴーレムにちょっかいをかけていた賊を見つけて、町から追放しました」
ゴーレムって結構いっぱいいるけど、賊というと戦闘用ゴーレムか。
それだと相手が怪我していないか心配だな。
「被害は無かったの?」
「ええ、何もありませんでした。それにしてもユニス様のゴーレムは一味違いますね。きっと退屈していたのだと思いますよ」
そういってベインはその場面を思い出したのか、思い出し笑いをしていた。
はて、戦闘用ゴーレムは普段スリープ状態だから、暇を持て余すなんて事は無いと思うんだが?
まあ、誰も怪我をしていないのなら良しとしよう。
「街が平和なのは、とても良いことね」
「はい、ついでに娯楽も提供してくれるユニス様のゴーレムは、もう最高です」
なんだか会話がかみ合っていないような気がするが、問題が無いのだから良しとしよう。
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