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番外3 大陸の新秩序3(AD)

 

「まず、其方らに伝えます。私がこの町に居る時は領主という立場です。よろしいですね?」


 俺が目ヂカラをこめると、2人もその意味に気付いたようだ。


「・・・分かりました。私はディース教のガリカ司教です。えっと、それではガーネット様とお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「ええ、それでお願いします。どうぞ、楽にしてくださいね」


 これで楽な会談になるだろうと、そっと肩の力を抜いた。


 フェーグレーン司祭とガリカ司教は戸惑いながらも、俺の前で立ち上がった。


「それでディース教の方々が、どのような御用でこちらに参られたのですか?」


 俺の声が冷たいのに気付いた老人は、居ずまいを正してから口を開いた。


「まずは、フェラトーネの危機を救って頂きましてありがとうございます。私は信者達と共に教会の屋根に追い詰められておりまして、本当に命拾いをしました」


 ああ、あの黒い虫が現れた時フェラトーネに居たのか。


「それは災難でしたね。無事でなによりです」

「はい、ありがとうございます。それとあの時のガーネット様は、まさに奇跡の御業を使った神々しいお姿でした」


 もしや、この老人は俺が最悪の魔女であり、かつディース神でもあるという事を理解していて、それを遠回しに伝えて来たのか。


「へえ、そうなのですね」


 それからしばらく当たり障りのない話が続いた後、老人が再び居住まいをただした。


 さて、ようやく本題か。


 俺も相手に会わせて少しだけ話を聞く態勢をとった。


 俺がじっと耳を傾けると、老人が話始めた。


「実は、ガーネット様にお願いがあるのです」

「どうぞ」

「今ディース教では、最高権威となる教皇の地位が空席となっております」

「はぁ、そうなのですか」


 それと俺に何の関係があるというのだ?


 俺が小首を傾げると、直ぐにその後を続けてきた。


「それで誠に恐れ多い事ですが、ガーネット様に教皇をお決め頂けないかと」

「はっ?」


 どうしてそんな事を俺に押し付けるんだよ?


 俺はディース教会の内情なんか、これっぽっちも知らないぞ。


 まさか、教会内部の権力闘争に巻き込もうというのか?


 俺が断ろうとすると、隣のジゼルが袖をちょんちょんと突いてきた。


「ねえ、この人、本当に困っているみたいよ」


 え、なんで? 


 もしかしてこの老人は中立の立場で、対立する各派閥から圧力でもかけられているのか?


「ええっと、ガリカ司教さん、どうして私が教皇を決めないといけないのですか?」

「それは、前職の教皇がディース神様の不興を買ったからです。我々が勝手に選んだ教皇が、またディース神様の不興を買う事は何が何でも避けなければなりません。それならいっその事ディース神様に決めて頂ければよいのではと」


 もしかしてジュビエーヌが神聖ロヴァル公国の大公になった事が、他にも影響を及ぼしているのだろうか?


「出来ればサン・ケノアノールの大聖堂にお越し頂き、教皇候補の中から選んで頂きたいのです」


 え、態々そんな所まで行かなくちゃならないの?


 そこで俺の隣でじっと2人を見つめていたジゼルに話しかけた。


「ねえジゼル、この老人は私の事どう思っているか分かる?」

「う~ん、これは、尊敬と恐れ、そんな感じかなぁ」


 この老人は俺の正体を知っていて、そのうえでいたずらに騒ぐことも無く俺に敬意を払っている。


 それにあの皇帝と一緒になって俺と敵対したのだから、此処に来るのも相当な覚悟が必要だったろう。


 なら、もう結論は出たよな。


「それでは新しい教皇は貴方です」

「はえ?」


 目の前の老人はぽかんと口を開けて呆然としていた。


 そして動かなくなった老人の隣で、フェーグレーン司祭が袖を引っ張って注意を促していた。


「ガリカ教皇、しっかりしてください」

「はっ、えっと、その」

「どうしたのです? ちゃんとそちらの要望に答えましたよ」

「あの、ですね」


 老人は明らかに狼狽していた。


「ディース教では、司教であれば教皇になる資格があるのでしょう?」

「はい、確かにそうなのですが・・・」


 すると隣のフェーグレーン司祭が大きく頷いた。


「これは喜ばしい事です。我らはまだ神に見捨てられていない事が証明されました。早速サン・ケノアノールに戻りこの事を皆に伝えなければなりません」


 ガリカ司教の袖をフェーグレーンが掴み退出しようとしたので、こちらもお願いをすることにした。


「ああ、ちょっと待ってください」


 俺の声に2人が立ち止まり、こちらを振り向いた。


 その顔には、何か拙い事でもあったのかという不安が張り付いていた。


 俺はそんな2人を安心させるため、笑顔を作った。


「パルラは小さな町です。ディース教徒の方が巡礼で大挙して押し寄せられても困るので、こちらには来ないように周知徹底しておいてくださいね」

「「え?」」


 その「え」は、来る気満々だと言っているよな。


 ジルド・ガンドルフィの懸念は当たっていたようだ。


 ここは絶対に念を押しておこう。


「重ねて言いますが、巡礼者を受け入れる能力が無いので、巡礼は絶対にやめてくださいね。それからパルラにディース教の聖堂を造りたいというのも駄目ですからね」

「し、しかし、それでは、せめて代表者だけでも」


 食い下がるな。仕方がない此処はちょっとだけ妥協するか。


「それでは、パルラに来るのは教皇もしくはそれに準じる役職の方数名としましょう」


 俺の答えに2人は小声で何やら相談していた。


「あの、それではサン・ケノアノールに来ていただくと言うのは?」


 ええ、面倒くさいし、俺が神じゃないって化けの皮が剥がれる危険があるから駄目だよ。


「私に出向けと言うのですか?」


 俺がちょっときつめに言うと2人は慌てだした。


「め、め、滅相もございません」


 そう言うと慌てて退出していった。


 どうやら教国はこれで片付いたようだ。


「ジゼル、ありがとう。助かったよ」

「何っているのよ。そのために私を呼んだのでしょう」


 おっと、バレていたか。


 俺とジゼルは互いに顔を見合わせて笑いあった。


 +++++


 ダナは館の兎獣人に案内された食堂で冷めてしまったお茶を前に、凶報が齎されるのをじっと待っていた。


 やる事が無いダナには想像する事しかできなかったが、そのどれもがガリカ様との楽しい思い出ばかりで、それがもう見られないと思うと涙がじわりとにじんできた。


 そんなダナの姿を見て、厨房の中で料理人が心配そうな顔で見つめている事も気付いていなかった。


 やがてダナの耳に懐かしい声が聞こえてきた。


「ダナや、待たせたな」


 はっとなって振り返ると、そこには苦笑いをしながら頭をかいているガリカ様が居た。


 その姿を見て涙がこみ上げて来たダナは、思わず駆け寄って抱きついていた。


「うっ、うっ、ガリカ様、生きていて本当に良かった」


 てっきり神の怒りに触れて神罰を下されると思っていたのに、再び生きているガリカ様に会う事が出来るのがとても信じられなかった。


 すると後ろから入って来た空気を読めないフェーグレーン司祭が、ダナの言葉尻を捕らえていた。


「確かに、本当に良かったですなあ。ガリカ教皇様」

「え? 教皇」


 死を覚悟してパルラに来たと言うのに、教皇って、何の冗談なの?


 意外な一言に驚いたダナが、ぱっと離れてガリカ様を見上げると、そこにはちょっと困ったような表情を浮かべていた。


「いやあ、まさかこんな事になるとは、儂も思わなんだ。わっはっはっはっ」


 死の恐怖があったはずなのに、いい大人が子供の様に笑っている姿をダナはジト目で見返していた。


 勿論心の中では、私の心配と涙を返せと叫んでいたが。


 +++++


 大帝国軍として参加した兵達が帝都ヌメイラに戻って来ると、自分達が信奉するディース神から神敵に認定されるという信じられない話が瞬く間に広まっていった。


 ヌメイラの人々は、戦いと豊穣の神にそっぽを向かれる事がどれだけ恐れ多い事なのかと不安になり、どうしたら神に許されるのかを必死になって考えていた。


 ヌメイラのとある酒場でもその噂で持ちきりだった。


「な、なあ、俺達は神のご意思に従い最悪の魔女の討伐に行ったんだよな? それで何で神敵にされるんだ? 意味が分からないぞ」

「おい、受け入れられない現実から目をそらしたいのは分かるが、いい加減戻ってこい。俺達は、既に神から神敵に認定されているんだぞ」


 その言葉に、酒を飲んでいた客達の間に動揺が広がった。


「ディース神から神敵認定されたのは、大帝国であって俺達じゃないよな?」

「どうして神がそんな都合がよい区別をしてくれると思うんだ?」

「いや、だって、俺達関係無い、よな?」


 酒場に集まった男達もその言葉にうなずいたが、男は深いため息をついた。


「はぁ、だ、か、ら、ディース神から見たら俺達だってその大帝国の一部なんだぞ。どうしてそんな都合がよい考えができるんだ?」

「え、駄目、なのか?」

「神というのは、おおざっぱな連中なんだ。こいつはディース教徒だから駄目、こいつは平民だから除外、なんて微調整してくれるとでも思っているのか?」


 その考えが酒場の客達の間に広まると、皆青い顔になった。


「た、大変じゃないか。一刻も早く神のお怒りを鎮めなければならん」

「ああ、そうさ。そのためには神の怒りに触れた愚か者を、供物として神に進呈し怒りを鎮めてもらう必要があるよな?」

「供物・・・あっ」


 それを聞いた客達は一斉に立ち上がった。


 ++++


 リュカ・マルタン・アブラームは、自分が皇位を譲る事で得た賄い費用の増額を求めて帝城ラトゥールにやってきたのだが、そこには皇帝も宰相も誰もいなかった。


「一体どうなっているんだ?」


 そして誰も居ない玉座の間に入ると、主人の居ない椅子に座った。


「また俺がこの椅子に座ってもいいかもしれないな。ふはははっ」


 久しぶりに玉座の感触を楽しんでいると、突然部屋の向こう側が騒がしくなった。


 そして突然扉が開くと、赤ら顔のむさくるしい男達が入って来た。


「無礼者、ここを何処だと思っている」


 汚い身なりをした者達に嫌悪を抱いたアブラームが怒鳴ったが、男達はそれに怯む事も無く、むしろ獲物を見つけた捕食者のような目をしていた。


「おい、いたぞ。奴を捕まえて神への生贄にするんだ」

「「「おう」」」


 アブラームは想像とは全く違う行動をする男達に身の危険を感じると、玉座から逃げ出した。


「おい、逃がすな。絶対に捕まえろ」


 アブラームは自分が何故追いかけられているのかさっぱり分からなかったが、本能が捕まったら最後だと告げていた。


 そして赤ら顔の男達を何とか撒いて一安心したところで、今度は別の男達と出会ってしまった。


「いたぞ~。その上等な服を着ている奴は高位貴族だ。ディース神様への生贄にするんだ~」

「「「おう、任せとけ~」」」


 その声を聞いて再び逃げ出したアブラームは目立つ上等な上着を投げ捨てると、皇族だけが知っている秘密の通路までなんとか捕まりませんようにと祈っていた。


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