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番外2 大陸の新秩序2(AD)

 

 ダナは、ガリカ様がル・ペルテュで公聴会に出席している間、初めてのサン・ケノアノール見物に出かけていた。


 この町はディース教徒の聖地という事もありすれ違う人達の殆どがディース教徒で、店で売っている物もほとんどが教会の壁で見たことがあるディース神のお姿を象った木像やら姿絵だった。


 他にはディース教徒が道中で使う杖とか干物等の保存食料とか、お土産品の店も多かった。


 ダナもガリカ様のために杖でもどうかと品定めしていると、買い物をしているディース教徒の会話が自然と耳に入ってきた。


「それは本当なのか?」

「ああ、ディース教源流派が、パルラという町で顕現なされたディース神に神敵認定されたそうだ」


 だが、その発言は直ぐに他の信者に否定されていた。


「それはおかしい。教会の教えが正しいのなら、ディース神に神罰を与えられるのは最悪の魔女の方じゃないのか」

「そうだ、そうだ、お前の言う事はおかしい」


 ダナは普段教会でガリカ様が信者に説法する内容を聞いているので、それには心の中で同意していた。


「お前達、現実を直視したらどうだ。現にディース神に神罰を受けたのは源流派の連中であって、パルラに居るはずの最悪の魔女やそのしもべ達ではないのだぞ」


 ディース教徒達の会話はそこで一度途絶えたが、直ぐに再開した。


「つまり、教会の幹部が嘘を言っているか、源流派の所業が最悪の魔女以上に嫌われたという事か」

「ちょっと待て、俺達は主流派と源流派を区別できるが、ディース神様も我々に都合が良いように判断してくれると思うか?」

「どういう意味だ?」


 ダナもどういう意味なのか知りたかったので、耳をそばだてた。


「つまり、神は主流派と源流派の区別など関係なくディース教徒を神敵と判断されていたら、この町に突然現れて神罰をお与えになるかもしれない、という事だよ」

「ま、拙いじゃないか」


 え、それじゃあ、まさかガリカ様が呼び出されたのって。


「ああ、だから誰かがパルラに赴いて、ディース神様に申し開きをする必要があるだろうな」

「え、そんな危険な任務、誰が受けるんだ?」

「さあ、分からないが、きっと、貧乏くじを引かされたどこかの司教様だろうな」


 ダナは嫌な話を聞いて買い物をする気分ではなくなったので、宿坊に戻る事にした。


 急いで宿坊まで帰って来ると、そこには深刻そうな顔をしたガリカ様が待っていた。


 嫌な予感がしたダナは、それでも聞くしかなかった。


「ガリカ様、もう公聴会は終わったのですか?」

「ああ、ル・ペルテュは儂の話を聞いたうえで、司祭職に戻してきた」


 元々ガリカ様はサン・ケノアノールの司祭だったが、源流派に逆らったため助祭へ降格のうえフェラトーネへ左遷されていたのだ。


 それじゃあ、呼び出された理由は心配していた内容じゃなかったのね。


「へえ、良かったじゃないですか。おめでとうございます」

「ああ、うん、まあ、そうなのじゃが、それと新しい任務を命じられたんじゃ」

「え、それは何です?」

「パルラに赴いて、ディース神に新しい教皇の任命をお願いする事じゃ」


 ダナはガリカ様の昇進を心から喜んだが、パルラ行きを聞いて絶望的な気分になっていた。


「え、そんな大事なお仕事なら、もっと高位の方が行かれるのが普通ではないのですか?」

「ああ、それが、パルラ行きと同時に司教への昇進を言い渡された」


 それを聞いたダナは胸騒ぎを覚えた。


「ガリカ様、それは命の危険がある任務ですよ。断る事はできないのですか?」

「ダナも気付いていたか。ディース教会は源流派のおかげで神から神敵認定されておるからな、のこのこ会いに行ったらどんな目に遭うか分からんじゃろうな」


 ダナはガリカ様のその言葉が信じられなかった。


「ガリカ様、危険を知っていて、どうしてこの話を受けたのですか?」

「誰かがやらねばならないのだ。それなら先が短い老人が適任じゃろうて」


 ダナは自分が涙を流している事に気が付いた。


「うっ、うっ、ガリカ様、分かりました。骨は私が拾って教会に持ち帰ります」

「ダナよ。まだ、確実に死ぬと決まった訳ではないぞ?」




 ダナとガリカ様を乗せた馬車は、神聖ロヴァル公国に入国した。


 ダナ達が住むルフラント王国は公国と友好的だと聞いていたが、今回は先の戦争で敵対していた教国の使者として来ていた。


 このため、公国人が私達に悪感情を抱いているはずなので、姿を見せないように馬車から出ないようにしていた。


 だがそれもエリアル到着までで、ガリカ様が大公陛下に挨拶することになると、流石に馬車の中で引きこもっている訳にもいかなかった。


「それじゃあガリカ様、私は先に教会に行っています」

「ああ、儂も挨拶が終わったら教会に行くからな」


 ダナは、馬車を降りてガリカ様が公城アドゥーグの中に消えるまで見送ってから、教会に向けて歩き出した。


 ディース神から神敵認定されている教国や伯国の人々は表情も暗く空気も重かったが、公国は神に祝福されているせいか人々の顔は明るく空気も軽やかだ。


 神に認められるだけでここまで違うのね。


 エリアルの住民からは懸念していた敵意も感じなかったので、店先や露店を眺めながら散策をすることにした。


 そこで気が付いたのは、どの店にも大公陛下がディース神からこの国の統治を任された時を写した額縁入りの絵を置いてあった。


 ダナがその絵をじっと見つめていると、店員が明るい声をかけてきた。


「お客さんどうだい? その絵はエリアルに神が顕現なされた時の姿を写したものだよ。ディース教徒でなくても人気があるんだよ」


 ダナが首を横に振ると、めげない店員は次にパルラの町の特産品を勧めてきた。


「じゃあ、こっちの化粧品はどうだい。これは神が住まうパルラという町の特産品で、大公陛下も愛用しているんだよ」


 それは小さな入れ物で中に赤や紫などの色が沢山あったが、若いダナにはまだ不要な物だ。


 ダナは首を横に振って店を離れると、あちこちの元気な店員からの呼び込みを聞き流して教会に入って行った。


 そして教会の椅子に座り、正面の壁に描かれているディース神が大帝国初代皇帝に国の統治を任せた時の絵をぼんやり眺めていた。


 この絵もそのうち、大帝国皇帝を大公陛下に変えられるのだろうかと考えていると、後ろから声をかけられた。


「ダナや、待たせたな」

「ガリカ様、随分早かったのですね」

「大公陛下も、教国の関係者とはあまり親しくなりたくないのじゃろうな」


 まあ、少し前まで戦っていた相手だしね。



 ガリカ様と教会の裏手に入ると、直ぐにフェーグレーン司祭が現れた。


「ガリカ司教、フェーグレーンです。遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」

「ええ、ル・ペルテュが速やかに神への面会を求めたいらしくてな。手間をかけさせる」

「いえ、いえ、今回の手筈を整えれば多大な貢献になりますから、私にも大きな利益があるのですよ」


 会談成功を疑っていないフェーグレーン司祭の顔は、満面の笑みを浮かべていた。


 ダナはこれから行く先が死地でしかないのに、この司祭はなせこうも嬉しそうなのかと不思議に思った。



 パルラまでの道中は、整備された街道と野営することなく宿でゆっくり休めた事でそれほど疲れる事は無かった。


 そしてディース教徒に悪感情を抱く荒ぶる神に面会するガリカ様と最後の別れをした。


「ダナよ。では、行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」


 ダナは最後になるだろうガリカ様の顔を見るため、涙が出そうになるのを必死に堪えていた。


 +++++


 俺の元にビルギットさんがやって来た。


「ユニス様、ディース教の方々が面会したいと南門にやって来たそうです」


 その言葉を聞いてリングダールが言ったことを思い出した。


「それはリングダールに会いに来たついでに、私に挨拶したいといった意味だったりして?」


 俺が期待を込めてそう言ったのに、ビルギットさんは眉間に皺を寄せてきた。


「そんな訳ありません。ユ、ニ、ス様に会いに来たのです。まあ、正確にはディース神様と言った方が正しいのでしょうけど」


 ああ、やっぱり。


「分かりました。1階の応接でお会いしましょう。あ、ジゼルも呼んでもらえますか」


 だがビルギットさんは動かなかった。


「どうかしたのですか?」

「ユニス様、先方はディース神に会いに来たのです。それなりの権威があった方が良いと思いますよ」


 え、権威って言ったって。


 俺が困惑していると、ビルギットさんは領主館で働いている獣人達を集め、館で一番大きな部屋である1階の大会議室の装飾を始めた。


 カーテン類を使って部屋全体を白を基調にした空間にすると、テーブルに花を飾ったり貢物らしい供物を置いたりして、神聖な場所風に変えていった。


 そして俺もジゼルに手伝われて、白を基調にした服に着替えさせられた。


 すっかり出来上がったセットの中でビルギットさんが玉座を作って下さいと頼まれ、しぶしぶ豪華な玉座を作ると、そこに座らされた。


 暫くすると、入口に待機していた儀典官役の獣人が声を上げた。


「ディース教訪問団ガリカ司教様」


 そして入口が開くと、白と金色を基調にした祭服に身を包んだ老齢の男性が、見覚えのあるフェーグレーン司祭を従えて入ってきた。


 明らかにフェーグレーン司祭よりも格上である老齢の男性は、俺が座る玉座の前まで来るとそこで両ひざを突くあの祈りのポーズをとった。


「我らが崇拝するディース神様、この度はご尊顔を拝する栄誉を賜り、身に余る光栄にございます」


 全く堅苦しいなあ。


 そんな事を思っていると、隣に立つジゼルに脇腹を抓られた。


 はいはい、真面目にやりますよ。


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