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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
397/416

12―46 戦いの後

 

 皇帝を失った大帝国軍は逃げるでもなく、どういう訳かその場で呆然と立ち尽くしていた。


 そして俺が近づいていくと、敵軍の中に動揺が走った。


 俺はそんな敵軍に向かって複数の黄色魔法陣を発動すると、敵兵が慌てて武器や防具を捨てて兜を脱ぎ、あの降伏のポーズを取りだした。


 ふむ、どうやら抵抗するつもりはないようだな。


 だが、こんな大量の降伏兵なんかとてもじゃないか手に余る。


 それならここで解散させるか。


「罪深き者達よ。我が許しを欲するなら、このまま家族の待つ家に帰りなさい」


 俺の言葉を聞いた軍勢は雷を撃たれたようにびくりと動くと、慌てたように放り投げた武器防具を拾って逃げだした。


 敵は総崩れといった感じで、先を争いながらダラムの方角に向けて逃げて行った。


 あの姿を見たら再び戻って来る事は無いと思われるが、パルラの南門や、そこを守備していたゴーレムが破壊されていたので、念のため新たに2体のゴーレムを錬成しておいた。


 それから城壁上の居るジゼル達の元に向かうと、パルラの住民達までもがあの降伏のポーズをとっていた。


 あれ、俺だと分かっていない?


 俺はビルスキルニルの遺跡のあの台座の間で、8つ並んだ保護外装のマジック・アイテムの前でどれを選ぶか考えていた事を思い出した。


 最初はエルフの男型を選ぶつもりだったのだが、その時パルラの皆の顔が浮かんだのだ。


 そして俺の見た目というか性別が変わったら、パルラの皆の反応が今までと違ってしまうのではないかと不安になったのだ。


 そこで同じ物を選んだはずなのに、まさか違うのを手に取ってしまったのか?


 あれ、あれ、あおいちゃんとシェリーはなんて言ってたっけ?


 確か、「やっぱりそれを選んだのね」とか言っていなかったか?


 それって、同じものを選んだっていう意味だよな?


 だんだん不安になってきたぞ。


 そして皆の前に着地すると、あのアンブロシウス・リングダールが頭を下げながら前に進み出てきた。


「偉大なるディース神様。この度は下賤な私共のお味方をしていただき、この上ない喜びでございます」


 あれ、やっぱり他の保護外装を選んだのか?


 周りを見回すとジュビエーヌやクレメントそれにレスタンクール達も、そしてベルヒニア達エルフもベイン達獣人も同じポーズを取っていた。


「みんなどうしたの? そんな降伏のポーズをとる必要はないわよ」


 俺がそう言っても誰も動かなかったが、そんな中、1つの影がこちらに駆け寄って来た。


「ユニス、おかえり」


 抱き着いてきたのはジゼルだった。


「ええ、ただいま」

「随分早かったわね」

「魔素が早く戻って来たからね。それよりも間に合って良かったわ」


 抱き着いてきたジゼルが泣いているので、安心させようとジゼルを抱きしめた。


「敵は逃げて行ったから、もう大丈夫よ」

「うん」


 そして安心したジゼルの顔をじっくり見ると、そこには敵にやられたのか青痣や切り傷があった。


「ジゼル、随分やられちゃったわね。ちょっと待ってね」


 そしてジゼルに治癒魔法をかけた。


「女の子なんだから、綺麗にしていないとね」

「へへ、ありがとう」


 そんな俺達の会話を聞いていた周囲がざわつきだした。


 そして俺がジゼルと熱い抱擁をしていると、周りにジュビエーヌやベイン達が集まって来た。


「あのう、貴女様は本当にユニス様、なので?」


 そう質問してきたベインは困惑顔だった。


「え、急にどうしたの? まるで初めて会ったかのように他人行儀じゃない?」

「えっと、あの」


 ベインが言いにくそうにしていると、アースガルがその後を続けた。


「あの、貴女様はディース神様ではないのですか?」


 アースガルがそう言うとジュビエーヌや周りの人達が皆頷いたので、それが共通の認識だったようだった。


 俺が選んだ保護外装は前と同じ女エルフの物のはずなのに、何故そのような疑問が湧いてくるんだ?


「ねえ皆、私の顔を忘れたの?」


 俺がそう尋ねても皆互いに顔を見合わせるだけで、誰も答えてくれなかった。


 そんな中、ジゼルが口を開いた。


「そうじゃないのよ」


 そしてジゼルが指を2本立てて、その理由を教えてくれた。


「まず1つめは、突然上空に現れたでしょう」


 ああ、あれは赤色魔法の「既知空間への跳躍」を使ったからな。


 いや、待て、「既知空間への跳躍」をパルラの人達に見せたのは初めてだったか。


「そして2つ目は、虹色の翅を付けていたでしょう」


 それはシェリーが、敵の注目を集める為にはそれが最も効果的だと教えてくれたからだ。


 俺としては黒蝶という組織に居たシェリーが言う事だから、これが最適なのだろうと思ったのだが、違うのか?


「それの何が問題なの?」

「その姿は、ディース教会が教えるディース神がこの世に顕現した時のお姿そのものなのです。私達には、まるでディース神がこの世に顕現したようにしか見えませんでした」


 そう言ったのはアンブロシウス・リングダールだった。


 え? そうだったの。


 シェリーはそんな事一言もいっていなかったぞ。


「えっと、上空に突然現れたのは転移魔法を使ったのよ。そしてあの翅は、戦闘中に皆の注目を集めやすいからって態とやったのよ」


 俺が理由を言ったのに皆微妙な顔をしているので、先に疑問に思ったことを尋ねてみた。


「ところでその両ひざを突くポーズは、何なの?」


 するとアンブロシウス・リングダールが教えてくれた。


「これはディース神様に祈りを捧げる正しい姿勢です」


 え、あれって降伏のポーズじゃなかったのか。


 これは完全に誤解されたな。


 くそっ、今頃シェリーが腹を抱えて大笑いしている光景が目に浮かぶぞ。


 だが、やってしまった事はもうどうしようもない。


 それに俺の事をディース神と誤解しているのなら、あいつらを追っ払うのに丁度良かったじゃないか。


 俺は再び上空に舞い上がり敵軍の撤退状況を確かめてみると、既にパルラの周辺に敵兵の姿は無かった。


「どうやら敵兵は戻って来ないようね。今日は皆疲れたでしょうから、これで休みましょう」

「「「はい」」」


 そして皆が疲れ果てて自宅に戻って行くのを見送った俺は、石像になっている3体のオートマタに新しい魔法石を取り付けた。


「グラファイト、インジウム、テルル、起動しなさい」


 俺がそう命じると、3体のオートマタが起動した。


「大姐様、再びお会いする事が出来て光栄です」

「お姉さまぁ、私ぃ、頑張りましたぁ」

「あ、黄色いのずるいわよ。お姉様、私の方が頑張りました」


 テルルがそう言うとインジウムがムッとした顔になったので、慌てて制止した。


「3人ともよくやってくれました。とても感謝しているわよ」

「はい、ご命令通り対応いたしました」

「はあぃ、敵のおもちゃを沢山壊しましたぁ」

「お姉さま、この黄色いのを救出した後で、敵兵共を蹂躙いたしました」

「あ、ちょっとそこの青いの、なんて事をいうのよぉ」


 俺は再起動後も変わらないオートマタ達の掛け合いに嬉しくなった。


「ふふふ、皆、頑張ってくれたのね」


 俺の機嫌が良さそうだと思った途端、インジウムが「お姉さまぁ」と言いながら抱き着いてきた。


 そして俺を見たテルルも「あ、ずるい」と言いながら俺に抱き着いてきた。


 そんな2人の頭を撫でながら、視線が合ったグラファイトに頷いてやった。


「ところでセレンとアルマンダインが居ないけど、何処に居るか知ってる?」

「あ、この中で最後にスリープしたのは私ですが、セレンとアルマンダインはまだ起動していたので、どうなったか分かりません」


 テルルがそう教えてくれたので、皆で手分けして2人を探すことにした。



 2人を見つけたのは、七色の孔雀亭の敷地内だった。


 セレンもアルマンダインもボロボロの姿だったが、口の中に魔宝石を入れて起動を命じると自動回復が始まった。


 そして回復が完了すると2人の目が開いた。


「セレン、アルマンダイン、町を守ってくれてありがとうね」

「はい」

「はい、それで機能停止してしまったので、護衛対象がどうなったか分からないのですが」


 アルマンダインは笑顔だが、セレンは俺からジュビエーヌを守るように命じられていた事が遂行できなかった事を気に病んでいるようだった。


「ジュビエーヌもクレメントも無事だから問題ないわよ」


 俺がそう言うとセレンもようやく笑顔になった。



 5体のオートマタを従えた俺は、そのまま領主館に戻って来た。


 そこは戦いが終わり皆が疲れ果てて眠っているようで、ひっそりと静まり返っていた。


 俺はそんな皆を起こさないようにそっと扉を開けた。


 自室に入ると既にジゼルは眠っていたので、起こさないように注意しながらそっとその隣に潜り込んだ。


 そういえばドーマー辺境伯の配下に寝室を壊されてからずっとジゼルと寝室を一緒にしているが、もうそれがすっかり当たり前になってしまったな。


 まあ同衾したからといって保護外装を纏った状態だと何もできないんだけどね。


「ジゼル、おやすみ」


 そしてジゼルの寝顔を見ながら、再会できた喜びを感じていると自然と瞼が重くなってきた。



 翌朝空腹で目が覚めると、隣で眠っているジゼルを起こさないように身支度を整え食堂に向かった。


 そこではエルフの恰好をした男女が食事をしていた。


 女型はあおいちゃんだとすると、男型はもしかして。


「ちょっとそこの2人、どうして全て終わった後にのこのこやってくるんだよ。しかもなんだ、その朝食は?」


 2人のテーブルには、プリンアラモードが鎮座していた。


「あら、1人で充分対応できたのでしょう?」


 最初に顔をあげたあおいちゃんがそう言うと、今度はシェリーが口を開いた。


「そうよ。簡単に勝てる方法を教えてあげたんだから、むしろ感謝するべき。それとこれはすべてがうまくいった事へのご褒美ね」


 簡単に勝てるって、そのおかげでなんだか大事になったような気がするんだが。


 俺が文句を言おうとしたが、それよりも気になる事があった。


「ところでシェリー、なんで男型のエルフを選んだんだ?」

「女型のミシロに降りかかる厄介事を振り払うのに丁度良いでしょう。感謝してよね」


 シェリーはそう言うと俺に向けてサムズアップしてきた。


 厄介事ってなんだよ。


 すると厨房からチェチーリアさんが顔を出した。


「あ、ディ・・・ユニス様、ご注文は何になさいます?」


 どうやらチェチーリアさんも俺の事をディース神と勘違いしているようだ。


 本当は朝食を食べに降りて来たんだが、朝っぱらから2人が美味しそうに食べているプリンアラモードを眺めていたら、胃液が込み上げてきて食欲を失った。


「そうね、モッカをお願いします」

「えっ、それだけですか?」

「ええ」


 俺が注文を終えて2人が座っているテーブルに相席すると、シェリーが小首を傾げていた。


「モッカって何?」

「ああ、この世界のコーヒーもどきだよ」


 あおいちゃんがシェリーに説明していると、チェチーリアさんがコーヒーもどきと小皿に盛った焼き菓子を持ってきてくれた。


「はい、どうぞ。小腹がすいたら焼き菓子でもどうぞ」

「ありがとうございます」


 そしてチェチーリアさんが厨房に戻って行ったのを確かめてから、シェリーに声をかけた。


「おい、あの恰好がディース神がこの世に顕現した姿だと、どうして教えてくれなかったんだ?」

「でも、効果覿面だったでしょう」

「ああ、思わず笑ってしまう程にな」

「人間達にとってディース神は絶対神だからね。神に嫌われる事がどれだけ罪深く恐ろしい事か皆知っているのよ」


 そう言うとシェリーはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


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