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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
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12―42 上空に現れし者

 

 リリアーヌ・マノン・ルフラントは、父王に呼ばれて王城トリシューラのとある一室に来ていた。


 そこでは既に父王とカリスト兄さまがいた。


「父上、お待たせしました」

「おお、リリアーヌよ。こちらに」


 リリアーヌは父王に勧められた椅子に座ると、早速カリスト兄さまが話し始めた。


「父上、アラゴン公爵派はバンダールシア大帝国へ領地を返還せよと迫っているのですよね?」

「全くあの連中は、少しも国に対する義務を果たすという気はないのか。全く腹立たしい。ちょっとでも不利な状況になると直ぐに有利な方に靡きよる」


 呼ばれたのは、あのバンダールシア大帝国から送られてきたと言う脅迫状への対応のようね。


 でも、それなら大帝国の最大の目標はガーネット様のはず。


「父上、カリスト兄さま、それならガーネット様と大帝国の勝負がつくまで静観していた方がよろしいのでは?」


 私がそう提案すると、カリスト兄さまが首を横に振った。


「リリ、どうやらユニス殿はかなり分が悪いようだよ」

「何故です? あのお方は大陸最強なのでは?」

「それがユニス殿は、魔女の休日という弱点があったようだね。それでアラゴン公爵派が勢いづいているんだ」


 え、あの最悪の魔女と言われたお方に弱点が?


「それでは大人しく降伏するのですか? エラディオの報告では、大帝国の皇帝は私達にあまり良い感情は持っていないようですよ」

「分かっておる。祖先から譲り受けた大事な国をちょっと脅されたからと言って簡単に差し出すつもりは無いが、魔女殿が敗れたのならそれも厳しいかもしれんな」


 リリアーヌは父王の言葉を聞いて、相手によって女神にも魔女にもなるお方が本当に負けるのだろうかと考えていた。


 +++++


 ジゼルの目の前に現れたのは、敵の皇帝だった。


「その笛で誰に合図を送るんだ?」


 そう言うが早いか皇帝の脚が眼前に迫って来たので、危険を感じて両手でガードしたが、横顔を蹴飛ばされそのまま吹き飛ばされた。


「きゃっ」


 ジゼルは自分の手に笛が無い事に気付き直ぐに笛を探したが、それは皇帝の足元に転がっていた。


 慌てて取り返そうとしたが、皇帝はにやりと笑い「獣人、残念だったな」と言いながら落ちた笛を踏み潰した。


「あっ」


 思わず声を漏らすと、皇帝は既に次の標的となった陛下と殿下に狙いを定めていた。


「魔女に与する愚かな姉弟か、仲良くあの世に行くがよい」


 そして素早い動きで姉弟の傍に行くと片足を上げた。


 あ、駄目。


 ジゼルが2人の前に飛び出すと同時に皇帝の脚が迫って来た。


「うぐっ」


 皇帝の蹴りをまともに食らったジゼルは吹き飛ばされたが、狙われていた2人に被害は無かったようだ。


「げほ、げほ」


 脇腹に強烈な一撃を食らったジゼルは、呼吸が苦しく激しくせき込んでいた。



 ジゼルを見下していた皇帝の顔に笑みが広がった。


「ぶははは、魔女に協力する愚か者共、あの木柱を見よ」


 皇帝が指さす方向に目を向けると、そこには沢山の木柱が立っていた。


「大帝国に歯向かった罪として、お前達の躯は朽ち果てるまであの木柱に括りつけて晒しものにしてやろう」


 ジゼルは、以前パルラの町でアルベルト・フラーキに石打刑のため木の杭に括りつけられた時の事を思い出して戦慄した。


 皇帝は高笑いをしながら城壁の上から空に舞い上がると、敵陣の方に消えて行った。


 眼下の南門では、ユニスのゴーレムを打ち負かした敵兵が続々とパルラの町に吸い込まれていった。


 その光景を目の当たりにした人間達が、皆戦意を無くして蹲っていた。


 町に侵入してきた敵兵は、直ぐに城壁に上がる階段を見つけるだろう。


 ユニス、ごめんなさい。


 再び会うという約束は果たせそうも無いわ。


 +++++


 ブリス達民兵部隊は正規軍がパルラの南門を攻略している間、命令にしたがって城壁前にばら撒かれているカルトロップ地帯に通路を造る作戦を展開していた。


 そうは言ってもカルトロップは先端が鋭く尖っていてとても危険で進む事等出来なかった。


 そこで考えたのが、危険地帯に土を盛って埋めてしまうという作戦だ。


 だが土を運んできて危険地帯にぶちまけようとすると、壁の前に待機しているゴーレムから石礫を撃たれてしまい近寄る事が出来なかった。


 盾持ちを並べてゴーレムからの石礫を防ごうとしても、民兵が持っている皮の盾では猛烈な勢いで飛んでくる石礫に全く対抗できなかった。


 そのため被害が増大してしまい、一旦作業を取りやめて他に方法を検討することになった。


 だがそんなブリス達の元に、正規軍から胸の甲冑に聖杯の前に杖を交差させたディース教騎士の紋章を付けた宗教騎士がやって来た。


「お前達、攻撃もせずこんな所で何をやっているのだ?」

「それがあの危険地帯に土を盛って道を作ろうとしたのですが、ゴーレムからの妨害が酷くて被害者が増える一方だったのです。そこで他に方法がないかと検討しているところなのです」


 ブリスがそう言うと、宗教騎士は手に持った馬上槍の石突をドンと地面に叩きつけた。


「駄目だ、駄目だ、今すぐ攻撃を再開するんだ」

「し、しかし」


 ブリスが反論しようとすると、宗教騎士は槍の穂先をこちらに向けてきた。


「ディース神様は可及的速やかに敵の鎮圧を望んでおられるのだ。神の不興を買わないためにも、今すぐ敵を打ち負かさなければならん。よいな、今すぐ攻撃を再開しろ」

「は、はい、分かりました」


 ブリス達は宗教騎士を見送ると命じられた通り、危険地帯への道造りを始めたが、当然ながら被害者が続出することになった。


 そんな時同じ村出身のレジスがやってきた。


「なあブリス、これだけの被害が出ているのに、これがディース神のご意思だと思うか?」

「しかし、宗教騎士に神のご意思だと言われてしまえば、従うしか方法がないぞ」

「確かに、これがディース神のご意思なら俺達に出来る事は前に進む事だけだな」


 ブリス自身も、神がお味方した軍は負けないという神話を信じていたが、こんな苦難が待ち受けているとは思いもしなかった。


「今は我慢だ。そのうちディース神が勝利の祝福をお与え下さるさ」



 そして我慢して戦っていると再び宗教騎士がやって来た。


「お前達にもう一つ重要な仕事がある」

「はい、なんでしょうか?」

「パルラの城門にそって木柱を立てて行くのだ」


 ブリスは意味が分からず戸惑っていると、宗教騎士は下品な笑みを浮かべた。


「パルラが陥落したら、魔女に味方した愚か者共を木柱に括りつけて晒しものにするためだ。急げよ」


 ブリスは神への裏切り行為をした者には、それにふさわしい罰は当然かと納得した。


 そしてレジスを呼ぶと、宗教騎士が言った通り木柱を立てる相談を始めた。


「ああ、じゃあ俺達が木柱を立てて行くから、ブリス達は引き続き道づくりをしてくれ」

「分かった。頼んだぞ」


 そして必死になって作業を進めていると、南門の方から歓声があがった。


 なんだろうとそちらを見ると上空に黒い翅を付けた皇帝が現れ、パルラの城門で大暴れしていた。


 その効果は絶大で、南門を攻める正規軍は敵の抵抗が減った南門の突破に成功したようだ。


 南門が破壊された轟音が響くと、ブリス達の周りでも大歓声が上がった。


「おお、これで俺達の勝だぁ~」


 その声に釣られてブリスも歓声を上げた。


「ようやく我らもディース神からの祝福を与えられたぞ~」

「「「おおお」」」


 パルラへの一番乗りの栄誉は正規軍に取られてしまったが、少しでもおこぼれにあずかろうと南門の方に移動していった。


 そんな時、突然空が真っ赤に染まったのだ。


 何だろうとブリスが見上げると、パルラの上空に真っ赤な魔法陣が現れた。


 突然完成された赤色魔法陣が現れた事に度肝を抜かれたが、それが自分達の直上にはかかっていない事にほっとした。


 ブリスも御伽噺に出て来る帝都キュレーネの悲劇は嫌というほど聞かされていたから、あの赤色魔法陣が直上に現れたら自分も一瞬で身を焼かれる事は分かっていた。


 そして自分にその危険が及ばないと分かると、今度はどうして赤色魔法陣が突然現れたのかと興味が湧いた。


 そしてその場に立ち止まり、次に何が起こるのかとじっと魔法陣を見つめた。


 それは他の仲間達も同じだったようで、皆が戦いを止めて上空を見上げていた。


 すると赤色の魔法陣の中央がまぶしく光り、あまりのまぶしさに目を瞑った。


 そして再び目を開けると、先ほどまであった赤色の魔法陣は消え人型を模した何かが滞空していた。


 それは背中から体の何倍もある大きな2枚翅を生やしており、生え際が紫で先端が赤になる虹の七色を模していた。


 その姿はディース教信者なら誰でも知っていた。


 +++++


 ザカリー・ウェス・アラスティアは正規軍が南門を突破した事で勝ちが確定したことで攻撃を止めると、後は部下達の仕事だと言わんばかりに本陣の陣幕に戻って来た。


 そこでザカリー専用の椅子にどかりと座ると、すかさず世話係の当番兵がエルダールシア産の高級酒をテーブルの上に置いた。


「陛下、勝利の美酒です。どうぞお飲みください」

「うむ」


 ザカリーはそのグラスを手に持つと、集まっていた将軍達を見回した。


「諸君、最悪の魔女は仕留めた。後は、魔女の拠点を潰して反乱者共を処分してこの戦いは終わりだ」


 そう言うと手に持ったグラスから高級酒を飲んだ。


 ザカリーは上機嫌だった。


 先ほどまで力を失い地面を這いつくばる魔女を、動かなくなるまでいたぶっていた事を思い出してニヤリと笑みを浮かべた。


 大帝国軍が突破した南門に歓声を上げながら雪崩れ込む喧噪を聞きながら、あとどれくらいで終わるか考えていると、突然パルラの上空が赤く輝いた。


 それが赤色の魔法陣だと分かると、配下の将軍達が慌ててまだパルラに突入していない部隊に待機を命じる為伝令を飛ばしていた。


「陛下、あの町にはロヴァル大公が逃げ込んでおります。あれは多分」


 そうか、獅子の慟哭を使った最後の悪あがきか。


 ザカリーは最後の狩りを楽しむため椅子から立ち上がろうとしたところで、赤色の魔法陣が突然輝くと何かが現れた。


 その姿を見た将軍達の間に驚きの声が漏れた。


「ま、まさか、あれは」

「戦いと豊穣の・・・」

「ディース神様?」

「おお、こんな奇跡が起こるなんて」

「陛下、まさにバンダールシア大帝国の始祖が、ディース神よりこの地の統治を任されたあの場面の再現でございますな」

「まさに、まさに、ディース神が味方した軍は負ける事はありませんし、きっと、陛下が大帝国を復興された事を祝福するために顕現なされたのでしょう」

「「「おおお、なんと素晴らしい。陛下の輝かしい未来を祝福なされているのでしょう」」」


 将軍達は一斉に立ち上がると、ザカリーに向けて感動の拍手をしていた。


 想定外の事態にザカリーは面食らったが、それも自分に有利になるように利用するつもりだった。


「皆の者、ディース神を丁重に出迎えようじゃないか」

「「「ははぁ」」」


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