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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
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12―40 パルラ防衛戦2

 

 モランが損害状況を調べていると、先に到着していた正規部隊の大部分が魔女を追ってヴァルツホルム大森林地帯に入った事が分かった。


 部隊が先走ったせいで魔女が逃げたとしたら大問題になるので、慌てて森に入った部隊と連絡を取ろうとした。


 そこに皇帝がやって来ると言う情報が入り慌てたモランは、膠着状態の戦況を改善しようとダラムで待機を命じていた残りの工兵部隊を呼び寄せるとともに、皇帝を迎える準備をするため戦場を見渡せる小高い丘に本陣の設営を命じた。


 そして待機していた工兵部隊がやって来ると、それを見たパルラ側から再び人形が物凄い勢いで突撃してきたのだ。


「ふふふ、お姉さまに仇なす愚か者共はぁ、お姉さまにぃ最も信頼されているこの私が天誅を下してやるぅ」


 そう言うと黄色い人形は、工兵部隊を護衛している正規軍の中に突入し兵達を薙ぎ払い押しつぶしながら突き進んでいった。


 その姿は、まるで木々をへし折りながら突き進むスクイーズを連想する姿だった。


 一体魔女は何体の人形を持っているのだ?


「おい誰か、アレを止められないのか?」

「む、無理そうです」

「拙いぞ、直ぐに工兵部隊を後退させるんだ」


 モランがそう叫んだ途端、護衛部隊を突き抜けた黄色い人形が最初の破城槌を破壊した。


 モランが重装歩兵に工兵部隊を守るよう命じようとすると、その黄色い人形に向けて魔法弾が命中した。


 放たれた先を見ると、そこには黒い羽を付けた大帝国皇帝が滞空していた。


 黄色い人形は上空からの攻撃を右に左にと避けていたが、皇帝が放った魔法弾はまるで相手が見えているかのようにその後を追いかけて次々と命中していった。


 さしもの魔女の人形も大量の命中弾を浴びると徐々に動きが鈍くなり、やがて機能を停止したのかその場で蹲まった。


 味方の兵が止めを刺そうと恐る恐る近づいていくと、突然青い人形が現れた。


「おーほっほっ、ちょっとは活躍したようですが、どうやらここまでのようですね。後はこの麗しく可憐なこの私に任せて、役立たずの黄色いのは退場なさい」


 そう言うと動かなくなった黄色い人形の腕を掴み、パルラに向けて放り投げたのだ。


 新たに現れた青い人形は無理に攻城兵器を狙わず、重装歩兵を中心に攻撃してきた。


 味方兵を盾に巧みに動き回っていたが、皇帝の魔法弾はそれに構わず追いかけて行った。


 まあ、味方も流れ弾でかなりの被害が出たが、青い人形も動きが止まるとその場で蹲った。


 これで魔女の人形も打ち止めだろうと思ったが、嫌な予感がしたモランがパルラを見ると赤い閃光が走った。


 モランがまたかと二度見すると、それは赤い人形で動かなくなった青い人形を捕まえるとそのままパルラに戻って行った。


 それを見た皇帝は、満足そうな顔でモランの前に降下してきた。


 モランと先遣部隊の将軍達は皇帝と新たな部隊を率いてやって来た元帥を本陣の上座に座らせると、ありとあらゆる美辞麗句を並べて機嫌を取った。


「流石は陛下でございます。魔女の奥の手ともいうべき人形も陛下にかかればただの下級ゴーレムと変わりありません」

「左様でございます。陛下にかかれば、反抗的な町も魔女のゴーレムも鎧袖一触でございますな」


 先遣部隊の将軍達は必死だった。


 彼らの失態となる魔女を追ってヴァルツホルム大森林地帯に入った正規軍と連絡が途絶えている事を知られたら、怒り狂った皇帝に何をされるか分からないからだ。


「はっはっはっ、そう褒めるな。確かにトリックの町を圧倒的な力で殲滅したのは俺の力を見せつけるためであったが、効果は覿面であっただろう?」

「はっ、まさにその通りでございます」

「あの反逆者共の恐怖の叫びや肉が焼ける臭いは最高だったな」

「はっ、まさにそのとおりでございます」


 上機嫌になった皇帝の顔を見てほっとしたモランや他の将軍達は、再び冷や汗をかくことになった。


「ところであれだけ派手に暴れたと言うのに魔女が姿を表さないのだが、魔女はあの町に居るのだろうな?」


 皇帝の下問にモランの背には冷たい汗が流れたが、それは先遣部隊の将軍達も同じだったようで、皆俯いたまま誰もその下問に答えようとしなかった。


「どうした。何故黙っている?」


 皇帝の機嫌が急降下したところで慌てたモランが何とか脳を働かせて上手い答えはないかと必死に考えていると、彼の元にディース神の救いがやってきた。


「ほ、報告します。パルラの城壁に魔女が姿を表しました」


 その報告を聞いた皇帝は、自ら手に持った遠見のマジック・アイテムでその姿を確かめていた。


「おお、まさしくあれは最悪の魔女だ。本当に御伽話のとおりの外見をしているな。よし、あの女とその隣にいる赤いオートマタは俺が相手をしてやろう。お前達は南門を突破するのだ。それから連中の死体を磔にする木柱も用意しておけ」

「「「ははっ、畏まりました」」」


 そう言って皇帝が飛び立ち、元帥が部隊の指揮を執る為馬に乗るのをじっと見送っていた将軍達は、自身の失態を糾弾されなかった事にほっと安堵のため息を漏らしていた。


 そんな将軍の1人が疑問を口にした。


「な、なあ、城壁の上に魔女が居るのなら、森に逃げ去った魔女は一体何者だったのだ?」

「良かったじゃないか。パルラに魔女が居るのなら森に逃げたのは魔女では無かったのだろう」

「ああ、確かにそうだな。アレは魔女らしき者だったのだろう」

「そうだな。森に逃げたのは魔女らしき者で間違いないな」

「ああ、そうだな」


 先遣部隊の将軍達は、皇帝に最悪の魔女が大森林地帯に逃げた可能性があると言えなかったので、「魔女らしき者」と呼ぶことにしたようだ。


 だが、念のため確認しておいた方が良いだろう。


「誰か、魔女らしき者を追ってヴァルツホルム大森林地帯に入ったドラホミール将軍から連絡はあったのか?」

「全くありません」


 モランがそう尋ねると、誰も確認を取っていないようだった。


「馬鹿者、伝令部隊の怠慢だぞ。連絡が取れないのなら、こちらから兵を送ってでも確かめてこい」

「それが何回も行っているのですが、誰も帰ってこないのです」

「なんだと」


 それを聞いたモランは、何か非常に拙い事態に陥っているのではないかという不安を感じたが、今は皇帝の不興を買わないためにも一刻も早く南門の攻略を進めることにした。


「おい、陛下の命令を実行するぞ」

「おお、そうだな。皆南門へ圧力を強めるのだ」


 そして慌てて駆け出していった将軍達の後ろ姿にため息をつくと、モランもその後を追う事にした。


 +++++


 ザカリー・ウェス・アラスティアが上空からパルラの城壁に迫って行くと、そこには赤色のオートマタを従えた最悪の魔女が待ち構えていた。


 魔女の人形は既に2体を片付けその力量も分かっているから、もう1体増えたところで大した問題とは思っていなかった。


 ザカリーが魔女に狙いを定めると、魔女は赤い人形を伴って逃げ出した。


 既に大気中から魔素が大分減っているので、魔女は空を飛ぶ事もできないらしい。


 くくく、逃げるだけの獲物を上空から一方的に狩るというのは実に痛快だな。


 魔女も自分が持っていたマジック・アイテムの能力で狩られるとは、思ってもいなかっただろう。


 魔力溜まりのネックレスで生み出した膨大な魔素を魔力に変え、魔力操作のサークレットで操れば驚異的な命中率を上げるのだ。


 既に大量の命中弾を浴びた護衛役の赤い人形は動きを止め、魔女自体もヨロヨロしながら逃げていた。


 ほらほら、もっと悪あがきをしろよ。


 そんなんじゃ、楽しめないだろう。


 上空から一方的に魔法弾を撃ち込んでいると、やがて魔女も動かなくなった。


 ちぇっ、これで終わりか。つまらないじゃないか。


 まあ、魔素が消えているのだ。これは当たり前か。


 仕方がない、魔女に味方した獣共を叩きに行くか。


 +++++


 ジゼル達の目の前には、目立つように背中から黒い蝶のような翅を付けた男が滞空していた。


 その姿を見た地上の敵兵達は、武器を持った手を振り上げ、足を踏みならしながら大声でその人物を称える叫び声を上げていた。


「おおお、我らが皇帝陛下にバンザーイ」

「我ら人間の繁栄は陛下の物に」

「陛下がこられたからには、敵は全滅だ」


 上空の男はその歓声にこたえるかのように存在を誇示した。


 どうやらあの黒い翅を付けた男が、バンダールシア大帝国を名乗る皇帝のようだ。


 その皇帝は、上空からユニスの人形を魔法弾で狙い撃ってきた。


 あれだけ素早い動きをする人形に魔法弾を当てられるものかと思っていたが、敵の皇帝が放った魔法弾は何処までも人形を追いかけていた。


 その結果が後ろで石像となった人形達だった。


 何とかやっかいな攻城兵器は破壊することに成功したが、こちらの戦力低下も相当なものだった。


 そして南門には重装歩兵、上空には皇帝がこちらに魔法攻撃を行い、アイテールの魔法騎士が飛行魔法で攻めていた。


 最後に残ったユニスの人形があの魔法使いを牽制してくれている間は、上空から侵入してくるアイテールの魔法騎士にはリングダール達が迎え撃ち、それを城壁上からベルヒニア達エルフが魔法攻撃で支援することで均衡を保っていた。


 それでも数的劣勢のため旗色は非常に悪かった。


「皆ユニスが戻ってくるまで頑張って」


 ジゼルが声を張り上げたところで、城壁にジュビエーヌ陛下と弟君が現れた。


「陛下、殿下、何故こちらに?」


 するとジュビエーヌ大公は手に持ったスリングショットを掲げて見せた。


「私もこれで戦います。それにユニスから聞きましたが、あの重装歩兵にはこの緑の弾が効果的なんでしょう?」


 そういうが早いか、ジュビエーヌ大公は早速スリングショットで緑の弾を、南門前でユニスの作ったゴーレムと戦っている重装歩兵に向けて放っていた。


 ジュビエーヌ大公が放った緑弾は、敵の重装歩兵の隊列の中に着弾して白い煙を吐き出した。


 その効果は覿面で、直ぐに敵兵は戦闘不能になった。


 それを見たベイン達が歓声を上げたがそれもあの皇帝が戻ってくるまでで、直ぐに風魔法で緑弾の効果を打ち消していった。


 堅牢な南門前では今もユニスのゴーレムと敵の重装歩兵が戦っているが、時間の経過とともに劣勢になっていた。


 そんな時誰かの「敵だ~」と叫ぶ声が聞こえると、ジゼル達が居る城壁に突然あの皇帝が舞い降りたのだ。


 その姿を見たベインが前に出ると皇帝と対峙した。


「敵の大将が目の前に現れるとはな。愚かな大将を討ち取ってこの戦いに終止符を打ってやるぜ」


 ベインがそう叫ぶと周りに居た獣人達が皆「おおお」と雄たけびを上げ突撃していった。


 ジゼルは皇帝と戦いうベイン達の戦いを信じられない思いで見ていた。


 ベイン達獣人がたった1人の人間に翻弄されていたからだ。


 どうして身体能力の高い獣人が束になってかかっているのに、あの人間に負けているの?


 あの男の獣人以上の身体能力は何?


 そのうえ、ユニス並みの魔法攻撃で支援攻撃をしていたベルヒニアさん達エルフも次々と無力化していた。


 そして皇帝の顔には余裕の表情すら浮かんでいるのだ。


 だが、ここで敵の皇帝を仕留めれば戦いが終わるはずなので、ジゼルはベイン達を励ました。


 そんな時、足元で南門が破壊された轟音が響いた。


 それは皇帝への対処に精一杯になり、城を攻撃する敵軍への攻撃が出来なかったためだった。


 そこでジゼルはユニスから手渡された笛を手に取った。


 これはユニスから、南門が突破されたらこの笛を吹くようにと渡されていたものだ。


 ジゼルがそれを口にすると、目の前に黒い影が映った。


いいね、ありがとうございます。

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