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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
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12―31 奇策

 

 パルラ領主館1階の会議室では、ロの字型のテーブルに椅子が並びテーブルの上にはビルビットさん達が用意した飲み物とお菓子が置いてあった。


 そして続々とやって来た獣人や人間の主だった者達は、思い思いの場所に座っていった。


 彼らはジゼルから事情を聞かされているようで真剣な面持ちだった。


 俺は、最後にジゼルが隣に座るのを待ってから口を開いた。


「まずは、しばらく留守にしたことについて謝ります。すみませんでした」


 俺が謝った事で集まった者達がざわついたが、トラバールの一言で静まった。


「姐さんが謝る事は無いと思うぞ。それよりも敵が来ると言うのなら、俺達はどうすればいいのか教えてくれ」

「宿に泊まった商人達がそのような事を言っていましたが、はやり噂は本当なのですか?」


 宿の管理をしているジルド・ガンドルフィが不安そうに尋ねてきた。


「皆、なに辛気臭い顔をしているんだ? 前にも大軍が攻めてきたが、ユニス様が撃退していただろう。今回だって同じさ」

「おお、確かにそうだな」


 オーバンの指摘に皆が楽観的な雰囲気になった時、バンビーナ・ブルコが爆弾を落とした。


「なあお前さん、ジゼルから聞いたんだけど弱っているって本当なのかい?」


 ブルコのその質問に、ここに集まった者達が一斉にどよめいた。


「え、そんな事があるのか?」

「いや、普通に考えたらそんな事はあり得ないだろう?」

「我らがユニス様の力が落ちているなんて、とても信じられないぞ」


 そんな彼らは答えを求めるように俺の視線を向けてきた。


「ええ、本当ですよ。私の瞳の色は体内の魔素量を表しているのです」


 俺がバンビーナ・ブルコの質問を肯定すると、またどよめきが起こった。


 既に橙色になっていた俺の瞳を見たビアッジョ・アマディが慌てて質問してきた。


「ユニス様、瞳の色が橙色になっているということは、まさかとは思いますが赤色魔法が使えないという意味なのでしょうか?」


 ビアッジョ・アマディのその指摘に、集まった者達が皆俺の瞳の色を見て驚きの声を上げた。


 どうやら自分達が拙い状況に陥っている事を悟ったようだ。


 確かに今の状態でも赤色魔法は撃てるかもしれないが、下手をするとシェリーのように保護外装がパージする危険もあった。


 なので、ここでは楽観的すぎる期待は持たせない方がいいだろう。


「ええ、撃つことはできないわね」


 俺の答えを聞いた者達は、それまでのなんとかなるだろうといった雰囲気が一気に吹きとんでいた。


 どうやら今が深刻な事態だと理解したようだ。


 その重苦しくなった雰囲気の中、バンビーナ・ブルコの声が響いた。


「それで、どうするさね? まさかとは思うが、ここでだまってやられるつもりじゃないだろう?」

「ええ、そんなつもりはありませんよ」


 俺の否定する言葉を聞いてようやく顔を上げた皆の瞳には、希望という光が戻っていた。


 俺はそんな皆に、未来はあると分からせるため笑顔を見せた。


「私の力が落ちているのは、大帝国が魔女の休日というものを発動したためです」

「ユニス様、その魔女の休日というのが良く分からないのですが、どういったものなのでしょうか?」


 皆を代表してビアッジョ・アマディがそう質問してきた。


 俺はビアッジョ・アマディに一つ頷くと、皆に向かって説明を行った。


「魔女の休日というのは、この地から魔素が無くなる現象の事を言います」

「え、そんな事が起こりえるのですか?」

「ええ、どうやらそうらしいわね。そして私はその影響で魔法が使えなくなります」

「え、それではユニス様はもう魔法が使えないのですか?」


 俺はその質問に首を横に振った。


「体内の魔素がなくなるまでは大丈夫でしょう。それに魔女の休日の影響は長くて2日程度のものです。それを過ぎれば大気に魔素が戻るので、私の力も回復するでしょう」


 それを聞いた皆がほっと一安心したところで、爆弾を落とした。


「ですが、大帝国は私が力を失うその2日間を見計らって攻めてきます」

「すると姐さんを守るのは、この俺という事だな」


 そう言ってトラバールが立ち上がると、勇ましく力こぶを見せてきた。


「何を言っている。その役目は俺のものだ」


 今度はオーバンが立ち上がって、トラバールとにらみ合っていた。


 まあ、やる気があるのは良いことだが、圧倒的な多勢に無勢だからいかに2人が勇ましくても数で飲み込まれてしまうと思うぞ。


 すると話が逸れて苛立ったブルコが、直ぐに話の方向を元に戻した。


「それでその大帝国が攻めて来るのに対して、ちゃんと対策があるんだろう? それを教えて欲しいさね」


 するとそれまで騒いでいた者達も、一斉に黙ってこちらに注目してきた。


 俺はそんな皆をみまわしてから、案を披露した。


「正直、魔素が消えたタイミングで攻め込まれたら対処出来ないでしょう。なので、私達はこの町を放棄します」

「え、ほ、放棄、ですか? それで流民にでもなれと言うのですか?」


 予想外の事に皆が「え」と声を上げると、直ぐにトマーゾ・アゴストが意見を述べてきた。


「私らはドーマー辺境伯に土地を追われパルラにやってきましたが、どこかほかの町にこっそり入り込んで生活することは出来るでしょう。ですが、獣人の皆さんはそうはいかないのではないですか?」

「そうさね、私なんかは裏社会に溶け込めるが、他はどうするさね?」


 人間達の視線が獣人に向いたところで、俺が説明を続けた。


「確かに受け入れ先が無ければ路頭に迷う事でしょうが、幸いな事に私達には行き先があります」


 そこで一度言葉を切ると、皆が興味をもったようで俺の方に皆の視線が集まった。


「私達は全員で、以西の地にあるクマルヘムとリグアの町に移住します」


 すると以西の地を知っている獣人達が納得の声を漏らすと、それを知らない人間達は疑問の声を上げていた。


 そんな中、ビアッジョ・アマディが疑問を口にした。


「あの、パルラに戻って来る事は出来ないのでしょうか?」


 俺は首を横に振った。


「戻っては来れないでしょうね。大帝国軍が無人になったパルラにやってきたら、腹いせで徹底的に破壊するでしょう。再建は難しいと思いますよ」


 すると、おずおずと言った感じでルーチェ・ミナーリが口を開いた。


「あのう、私達はどうなるのでしょうか?」

「リーズ社長に状況報告する手段はあるの?」

「えっとぉ、普段は社長が定期的に訪問するのでぇ、その時に報告しますぅ」


 リーズ女社長も、突然会社資産を全部失う事になったら大損害だろうなぁ。


 だが、荷馬車に載せてエリアルに戻ろうにも、敵軍と鉢合わせになったらどんな事が起こるか分かったもんじゃない。


「大帝国が攻め込んでくる中、エリアルには戻れないと思いますよ。私達と一緒にクマルヘムに避難して、その後で社長にどうするか相談する事をお勧めするわ」

「え、でもぉ」


 ルーチェの心配は、勝手な事をしてリーズ社長に怒られる事だろう。


「それなら私に強引に連れて行かれた事にしましょう。それにクマルヘムには金があっても使う場所が無いフリン海国の水兵さんや、エルダールシア産の商品で潤った王国の商人達が沢山いるわよ」

「ええっ、本当ですかぁ。高級紳士服とかぁ、軍服とかって売れますかねぇ?」


 フリン海国の若い水兵達は、以前黒猫が追いかけ回されたように若い女性に飢えているのだ。


 ルーチェがにっこり微笑みながらあの話術で勧めたら、フリン海国の水兵さん達も喜んで注文するような気がするな。


 それに王国の商人達も高級服で有名なリーズ服飾店の名前は知っているだろうし、気前よく金を払ってくれるだろう。


 なんだったらフリン海国に行ってアニカ・シャウテン女史に、リーズ服飾店の営業をするのも面白いか。


「きっとリーズ女社長も大喜びで、特別報酬をはずんでくれるかもよ」


 ルーチェは「え、そうですかぁ」とか言いながら嬉しそうな顔で自分の世界に入ってしまったが、同意してくれたようだから良しとしよう。


 そしてクマルヘムで町の整備をした獣人達は、人間達にクマルヘムがどんな所なのか教えていた。


 なんだか楽しくなってきたな。



 会議室に集まった者達が次第に移転に納得してきたところで、また口を開いた者がいた。


「ユニス様、クマルヘムという町にも宿はあるのでしょうか?」


 そう質問してきたのは、七色の孔雀亭等の宿泊施設の管理運営を行っているジルド・ガンドルフィだった。


 ウジェやベインにはクマルヘムの整備を手伝ってもらったが、宿は対象外だったからこの男は呼んでいなかったな。


 クマルヘムは、買い付けにやって来る商人達くらいしか宿泊需要が無いが、せっかくだからカルバハルやメラスに相談して、リグアに海水浴客や遊覧船用の宿でも造ってみるのも面白いか。


「王国や海国のお客様がやって来るから、専用の宿を造りましょうね」

「おおユニス様、パルラ生活協同会社社員としてより一層頑張ります」


 よし、人間と獣人達はこれで良いだろう。


 そして俺は、ここまで黙って話を聞いていたベルヒニアに声をかけた。


「ベルヒニアさん、エルフ達はノール湖に戻りますか? それとも私達と一緒に以西の地に移りますか?」

「えっと、今までのお話ですと、ノール湖に戻る途中で魔素が消えそうです。そうすると私達は、とっても困った状況に陥ります」


 ああ、魔法が使えなくなれば隠ぺい魔法も駄目という事か。


「それに、ユニス様と一緒の方が安心できそうです」


 頼ってくれるのは嬉しいんだけど、俺も魔素が消えると非常に拙い状況に陥るんだよなぁ。


 まあそうは言っても、不安にさせるような事は言えないのが苦しいところだ。


「では以西の地までの移動用ゴーレムを用意しますから、引っ越しの準備を始めてもらえますか?」

「はい、分かりました」


 これでパルラの全員が、以西の地に移り住む事に同意した事になるな。


 ああ、領主館に居るアースガル達にも声をかけておかないとな。


「納得したのなら移動用のゴーレムは私が造るから、皆は引っ越しの準備を急いでね。勝利を確信して意気揚々とパルラにやって来る連中には、空っぽになったパルラの町を見せてやりましょう」

「「「はい、分かりましたぁ」」」


 そう言うと、会議室に集まった面々は荷造りの為急いで出て行った。



 +++++(寸劇)

(ユニス)無人となったパルラの町には、大帝国軍を歓迎するため中指を立てた皆の身代わり石像を置いておきましょう。きっと、私達の大歓迎ぶりに地団駄を踏んで喜んでくれるわ。

(みんな)おおお~、ところで中指ってディース教徒にだけ分かる何かの符丁なのか?

(みんな)ディース教徒じゃない俺達に分かるわけ無いだろう。きっと、奴らが顔を真っ赤にして喜ぶ何かなんだよ。

(トラバール)おお、なら俺は、人差し指を立ててやるぜ。

(オーバン)なら、俺は小指で。

(ベイン)ほう、ならこっちは親指で。

(ウジェ)え、じゃあ薬指で。あれ、上手くできない。なら、人差し指と中指で。

(ユニス)お前ら、立てる指で意味がぜんぜん違うからな。


ブックマーク登録ありがとうございます。

いいねもありがとうございます。

第9章の文言修正をさせて頂きます。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。


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