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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
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12―29 薄れゆく魔素

 

 まるでスローモーションのように懐かしい姿に戻ったシェリー・オルコットが落下してきたのを思わず抱きとめると、ずっしりとした重さを感じた。


 やっぱり意識が無い人は重く感じるな。


 いつもなら重力制御魔法で軽くするところだが、地球人の姿に戻ったシェリーの体に魔法がどんな影響を与えるのか分からなかったので、抱きかかえたまま体勢を変えてお姫様抱っこをするとゆっくり地面に降下していった。


「おい、シェリーしっかりしろ」


 俺は意識が無くぐったりしたシェリー・オルコットの体を揺すってなんとか意識を取り戻そうとしたが、全く起きる気配が無かった。


 こんなことをしていてもタイムリミットになってしまうのでシェリーを起こすのを諦め、直ぐに身に着けた魔法石をダイビンググローブで掴み魔素を大量に取り込んだ。


 これで失った魔素も大分回復したはずだ。


 そして魔力探知で周りに誰も居ない事を確かめてから、俺とシェリーの体を空間障壁の魔法で保護した。


 この世界の大気は地球人の体には毒なので、気休めかもしれないが空間障壁で覆っておけばダメージを軽減できるような気がしたのだ。


 今の状況でシェリーを助けるには、あおいちゃんの日記にあったとおり1時間以内にビルスキルニルの遺跡にある転移の間に行く必要があった。


 そのためには転移魔法を発動する必要があり、地球人の体にどんな影響を及ぼすのか不安だった。


 だが、他に選択肢は無いのだ。


 ここで逡巡していても時間切れになってしまうので、覚悟を決める事にした。


 この空間障壁が、転移魔法の影響を相殺してくれることを願うしかないのだ。


 さて、それじゃあやってみるか。


 シェリー、駄目だったらごめん。


「既知空間への跳躍」


 この世界に対応できない地球人の体に転移魔法がどれだけ悪影響を与えるのか全く分からないが、それでも心配だった俺はシェリーの体を抱きしめて少しでも影響がない事を願った。


 一瞬でビルスキルニルの遺跡に転移した俺は、直ぐに意識のないシェリー・オルコットに異変が無いか確かめた。


 良かった、呼吸はしているし外傷もないようだ。


 シェリー、今寝床を作ってやるから少しの間ここで我慢してくれよな。


 目を離した隙に亡くなってしまうのではという不安はあったが、硬い床に転がしておくわけにもいかないので急いでこの遺跡で寝泊まりしていた時に作った簡易ベッドを持ってくることにした。


 急いで戻って来ると、幸いな事にシェリー・オルコットの呼吸音が聞こえた。


 俺はシェリーを簡易ベッドに寝かせると、次に水を調達することにした。



 ふっと目が覚めると、俺は固い床の上に転がっていた。


 一瞬自分が何処に居るのか分からなくなり慌てて上体を起こすと、目の前には簡易ベッドにシェリー・オルコットが横たわっていた。


 はっとなってシェリーの傍まで行き、俺がうたたねしている間に亡くなっていないか確かめると呼吸をする音が聞こえてきた。


 ふぅ、大丈夫のようだ。


 ベッドサイドには変化石を使って魔素を抜いた水差しが置いてある。


 この世界の全ての物質には魔素が含まれているので、地球人の姿に戻っているシェリーが寝ぼけて外に水を探しに行かないようにするためだ。


 流石に食べ物の魔素を抜く事までは出来なかったが、魔女の休日が終わる2日程度なら水だけでなんとか耐えられるだろう。



 どれくらい時間が経ったのか、転移の間にあおいちゃんがやって来た。


「こんな所に居たのね」


 そう言えばあおいちゃんにはキュレーネ砂漠に行く事は伝えたが、此処に居る事は言っていなかったな。


「俺が此処に居るってよく分かったな」

「皆が何処にも居ないって騒いでいるんだから、だいたいの居場所は見当がつくわよ。それで、いつまでこんな所で引きこもっているつもり?」

「引きこもりって言われても、シェリーが意識を取り戻さないんだから仕方が無いだろう」

「シェリー? ああ、もう1人の転移者ね」


 あおいちゃんは、そう言って簡易ベッドで眠っているシェリーの顔を覗き込んでいた。


「地球ではいろいろあったけど、こうやって弱った姿を見せられたら助けてあげたくなるじゃないか」

「まあ、人としてそれは分かるけどね。でも、誰にも連絡しないというのは関心しないわよ」

「ああ、すっかり忘れていた」


 だが、あおいちゃんは「はぁ」とため息をついた。


「まったく少しは他の人達の事も考えたらどうなの。こんな所に引きこもってないで顔を出してきなさい。ジゼルちゃん達も心配しているのよ」

「え、でも、シェリーが」


 それでも俺が渋っていると、あおいちゃんが俺の肩に手を置いた。


「その人の事は私が見ているわよ。ジゼルちゃんが心配しているから顔を見せてきなさい。それに何か大軍が攻めて来るんでしょう? 準備をしなくて大丈夫なの?」

「ああ、それは大丈夫さ、シェリーの話だと、大帝国とやらが攻めて来るのは完全に魔素が消えた時だから、まだ時間はあるはずだよ」


 だが、あおいちゃんは首を横に振った。


「そうだとしても、不安になっている人達を安心させてあげる必要はあるでしょう」

「分かったよ。それと魔女の休日の事が分かったから、あおいちゃんには知らせておくよ」


 そしてシェリー・オルコットから聞いた魔女の休日を説明した。


 あおいちゃんに魔女の休日の事を話し終えると、あおいちゃんは俺の目をじっと見つめていた。


「何?」

「神威君の瞳、既に橙色っぽくなっているわね」


 そう言われても自分では見られないので困っていると、あおいちゃんはポケットの中から手鏡を取り出して俺に差し出してきた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 礼を言って受け取ると自分の瞳の色を確かめてみると、指摘通り橙色に変わっていた。


「本当だ。あおいちゃんも大気中の魔素が消えて保護外装がパージする前に、ここに避難しておいた方が良いよ」

「ええ、そうさせてもらうわ」

「それじゃあ、ちょっとパルラに戻ってみるよ」


 そして手鏡を返そうと差し出すと、あおいちゃんは手のひらを見せた。


「ああ、その手鏡は持っていていいわよ。それがあった方が自分の状況が分かりやすいでしょう」

「そうか、じゃあありがたく使わせてもらうよ」


 あおいちゃんから手鏡を貸してもらいビルスキルニルの遺跡から外に出ると、その途端に大量の蝶にまといつかれた。


「うぉっ、何だ、これ」


 そしてそれが連絡蝶だと分かると、慌てて1つの連絡蝶の翅に触れてみた。


 すると、そこにはビルギットさんから「何処をほっつき歩いているのですか」といったかなりお怒りな文章が綴られていた。


 こ、これは拙い。


 俺は急いで上空に舞い上がると、パルラに向けて最大速度で飛んでいった。


 飛行中、大気中に含まれている魔素がかなり薄まっているのを感じていた。


 上空から見るパルラは、大帝国が復活して公国や王国への脅迫それと最悪の魔女討伐というニュースがパルラに届き、皆が不安になっているとあおいちゃんは言っていたが、何時もと変わらないように見えた。


 そして領主館に着地すると、何時もだとビルギットさんが困り顔でやってくるのだが、今日は後ろからジゼルに抱きしめられていた。


「ユニス、おかえり」

「ジゼル? ええ、ただいま」


 だがジゼルは抱き着いたまま離れようとしなかった。


「どうしたの?」

「どれだけ待たせるのよ。心配していたんだからね」

「ああ、ごめん。でももう大丈夫だから、ね」

「あの女は?」


 そう聞いてきたジゼルの魔眼が光ったので、思わずのけ反ってしまった。


 うおっ、こ、これは絶対にごまかせないな。


「分かった。全部話すからとりあえず中に入ろう、ね」

「むー、絶対ごまかされないんだからね」


 館の中に入ると、俺の姿を見た女性達が何か言いたげな表情でこちらをじっと見つめているが、ジゼルが隣で俺の腕に抱き着いているので声をかけてくることは無かった。


 そして俺とジゼルが使っている私室に入ると、ジゼルがお茶を用意してくれた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 私室でジゼルとお茶を飲んでいると、そろそろという雰囲気でジゼルが声をかけてきた。


「それじゃあまずは、あの女の事から教えて」


 ジゼルが魔眼を発動させながら質問をしてくるので、シェリー・オルコットの事や魔女の休日それに黒蝶に命を狙われている事まで全部話すことになった。


「話は分かったわ。このまま此処に留まっていたらユニスは死んじゃうし、大帝国とやらが攻めて来るって事ね。それで、どうするつもりなの?」


 そこで俺はシェリー・オルコットから敵の作戦を聞いているので、対処は簡単だと考えていた。


 だって、敵がいつ来るか分かるんだから、こちらはそれに合わせて対策を立てればいいだけだ。


 こんな楽な戦いは無いだろう。


「その事なんだけど、パルラの主だった人達を集めて説明しようと思うんだけど」

「何か案があるのね。分かったわ。それじゃあ主だった人達に声をかけて来るわ」


 ジゼルは俺が妙案を持っていると確信したようで、それまでの深刻そうな顔から今は笑顔になっていた。


「ああ、領主館1階の大会議室に来るように伝えてね」

「うん、分かった」


 そう言うとジゼルは足取り軽く部屋を出て行った。


 俺が会議室で皆が来るのを待っていると、ビルギットさんが俺のテーブルの前にお茶とお菓子の皿を置いてくれた。


「ありがとう」

「ええ、これから長い会議になるでしょうから、少し口に入れて置いた方がよろしいですよ」


 そしてビルギットさんが用意してくれた焼き菓子をお茶で胃の中に流し込んでいると、扉が開きパルラの主要メンバーが入って来た。


 その人数の多さから皆がどれだけ心配していたのか実感した。


いいね、ありがとうございます。

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