12―24 もう1人の転移者2
シェリー・オルコットに落とされた場所は、天井に丸い穴がありそこからお椀をさかさまにしたような円形の天井そして円筒形をした壁があり、それはパンテオン神殿の内部構造を想起させた。
俺が周囲の光景を観察していると、どこからかシェリー・オルコットの声が聞こえてきた。
「どう、これが魔法国の遺跡よ。素晴らしいでしょう」
「ああ、そうだな」
「古代遺跡からの出土品に釣られて帝国にやって来たのでしょう。この素晴らしい遺物を目にしながら息を引き取るのは本望でしょう?」
そんな事言われたって嫌なものは嫌だよ。
「いや、俺はまだ往生したくないんだが?」
「往生? ミシロは無神論者であって仏教徒じゃないでしょう。でも駄目よ、貴方はここで私に看取られて永遠の安息を得るのよ」
すると円形の壁から壁の一部が突然せり出してきた。
それは反対側からもで、こちらを潰そうとしているようだった。
タイミングを計って後ろに避けるとそれを見越していたように、他の壁がせり出しこちらに迫っていた。
それを身をよじってなんとか避けると、今度は天井から石塊が落下していた。
石塊をすんでのところで重力制御魔法で軽くすると、シェリー・オルコットの声が聞こえてきた。
「いい加減潰されなさいよ」
「嫌だよ」
「ここを生き延びてもどうせ1番に殺されるのよ。それよりもこの私が、私の膝の上で最期を看取ってあげるから安心して逝きなさい」
なんで、それで俺が喜ぶと思っているんだよ。
「なんでそうなる? それに1番って誰だ?」
「1番は黒蝶のリーダーよ」
黒蝶といえば、俺の命を狙っているという闇組織だったはず。
「黒蝶という名前は前にも聞いたことがある。俺とは無関係なはずだが、何で俺を付け狙うんだ?」
「それは、ミシロが最悪の魔女と思われているからよ」
またか、何故俺を最悪の魔女と呼ぶんだ?
「最悪の魔女は、7百年前に討伐されたんだろう? それなのにどうして俺をその魔女に仕立て上げようとするんだ?」
「ミシロも甘いわね。自分達の国を誰かが乗っ取ったら国民の反発を招くでしょう? その事を認めない人達が反乱を起こすかもしれない。でも、強力な敵が現れて自分達を滅ぼそうとしていたら? 自分達の皇帝がその敵に対して何もできない無能と思ったら?」
確かにそのような事態が発生したら恐ろしい敵に恐怖するし、頼りないリーダーに見切りを付けて敵をやっつけてくれる強いリーダーを望むな。
シェリーは、黒蝶の目的達成のため共通の敵が必要だと指摘していた。
「つまり俺の事を、人々が一致団結するための共通の敵に仕立て上げるという訳か。黒蝶って一体何者なんだ?」
「黒蝶は、7百年前に滅びたバンダールシア大帝国を復活させるための組織よ。そして1番の本名はザカリー・ウェス・アラスティア、バンダールシア大帝国皇帝一族の末裔なのよ」
そんな連中が暗躍していたのか。
それでも、その黒蝶が俺を始末出来ると確信している理由が分からなかった。
「なあシェリー、この保護外装の能力を知っているだろう? それでどうして黒蝶が俺を討伐出来ると確信を持つんだ? 今まで何回も刺客が来たが、全て撃退しているぞ」
「それは人為的に魔女の休日を発生させるからよ」
魔女の休日?
そう言えば何処かで聞いたことが・・・あ、サン・ケノアノールの大聖堂で会った男が最後に「魔女の休日には気を付けろ」と言っていたな。
「その魔女の休日とはなんだ?」
「頭の悪いミシロには結果だけ教えてあげるわ。この保護外装が効力を失うのよ」
つまりこの保護外装がパージされるという事か?
それは拙い。
ビルスキルニルの遺跡から1時間以内の距離なら新しい保護外装を纏えそうだが、そうじゃなかったらこの世界の環境に適応できず一巻の終わりだ。
「シェリー、それだけじゃ分からないぞ。魔女の休日というのをもっと詳しく教えてくれ」
「どうしてそんな事を教えてあげないといけないの? いい加減、神に召されたらどうなの」
憤怒を込めたシェリーの声が空間に響くと、地下のはずなのに雨が降ってきた。
展開している空間障壁にその雨粒が次々と当たると、雨粒はジュっと音を立てて固形化するとまるで雹でも降ったかのように地面に降り積もっていた。
その雨粒が固定化する度に魔力を吸われる感覚があり、空間障壁を維持するため更なる魔力供給が必要になっていた。
そこで思い至ったのが出発の塔にあったあの変化石だ。
あの石は魔素を吸収する性質があるので、展開している空間障壁の魔法からも魔力を吸収するようだ。
保持している魔素を魔力に変換して魔法を発動しているが、このままでは体内魔素が確実に減っていき、保護外装を維持する分も無くなったらおしまいだ。
この攻撃を長時間受けるのは非常に拙い。
焦りだしたところで、シェリーの勝ち誇った声が聞こえてきた。
「ふふふ、瞳の色が橙色になったわよ。随分体内魔素が失われたんじゃないの」
保護外装の瞳の色が体内魔素量を示すインジケーターになっている事を、シェリーも知っていたのか。
そこで保護外装の種類の違いについて考えてみた。
たしかあおいちゃんは人間型は呪術や占術が使えて、手先が器用だからマジック・アイテムの製作も得意だとか言っていなかったか?
あれ?
そんな相手が準備万端整えて待ち構えていた所にのこのことやって来た俺って、もしかして考えなしの愚か者だったりして?
ここは何とか誤解を解いて、シェリーに機嫌を直してもらわないと拙いな。
だが、何故俺を殺そうと思うほど怒っているんだ?
そこでサン・ケノアノールの大聖堂の中で会った男の名前を思い出した。
あっ。
「シェリー、お前の一族にハドリー・オルコットという男は居るのか?」
「やっと思い出したのね。そうハドリー・オルコットは、宝探しに出かけて行方不明になったオルコット家のご先祖様よ。」
オルコットというラストネームで直ぐに気付くべきだったか。
「もしかして俺がハドリー・オルコットを殺したと思っているのか?」
「当たり前でしょう。この保護外装の能力で、ミシロが赤色魔法で葬り去った場面をしっかり見たのよ」
シェリーは俺がハドリー・オルコットを殺したと思っているようだが、あの時使ったのは浄化魔法だ。
生きている者には影響がない魔法なんだから、俺が殺したとは言えないんじゃないのか?
「お前は勘違いをしているぞ」
「何が勘違いよ。保護外装の能力ではっきり見た光景なんだから、間違いなんてありっこないわ。この無神論者の殺人鬼め」
何とかシェリーを説得しようと試みている間も変化石の雨は降り続けており、俺の保護外装から魔素を奪い続けていた。
このままだと魔素を全て失って本当に終わってしまいそうだ。
俺はシェリー・オルコットを探す為魔力感知を発動した。
変化石の雨が邪魔する中なんとかそれらしい反応を探しているのだが、それが複数あってどれがシェリーなのかさっぱり分からなかった。
まさかとは思うが伏兵でも配置しているのか?
それともデコイだろうか?
試しに撃ちやすい場所の反応に向けて魔法弾を撃ち込んでみると、何かがはじけ飛んだのでデコイのようだ。
「私の居場所を特定したいようだけど無駄よ」
シェリーは物陰に隠れ、罠を発動してこちらの魔力を削ろうとしている。
シェリーの方が魔素量が多かったら、先日やったように魔法弾の撃ち合いをして相手を負かしてしまった方が手っ取り早いと思うのだが、シェリーはそれをしようとしない。
それに先日の魔法の撃ち合いも、先に逃げたのはシェリーの方だ。
もしかして俺のエルフ型の方が、シェリーの人型より内包する魔素量が多いんじゃないのか?
保護外装の瞳は体内魔素量を示すインジケーターだ。
シェリーの保護外装の瞳は何色だった?
おい俺、ちゃんと思い出せ。
さっき俺を見る為目隠しを上げた時の瞳の色はなんだった?
必死に思い出そうとしたところで、頭の中に天啓がおりた。
そうだ、たしか橙色だった。
やっぱり保護外装のタイプによって、内包する魔素量に違いがあるようだ。
エルフ型は最も多くの魔素を内包しているようだ。
撃ち合いをするには相手を見つけないとだが、白猫達の話だと行動を先読みされると言っていたので、こちらの行動も予測済か。
シェリーを出し抜くには想定外の行動をしないと駄目という事のようだ。
そこで地球で宝探しをしていた頃の事を思い出した。
シェリーとお宝の争奪戦をしていた時は、お互いに撤退という言葉は無く、とにかく相手を出し抜いて先にお宝を手に入れようと争っていたな。
つまりシェリーにしてみれば、俺が逃げるなんて事は1ミリも考えていないという事だ。
俺は重力制御魔法で体を軽くすると、飛行魔法をかけて天井に開いた円形の空間に向けて飛び上がった。
ロケットのように飛び上がり、円形の空間を潜り抜けて真っ暗な空間を地上に向けて物凄い速度で上昇を続けると、直ぐに前方に光が見えてきた。
目の前の光を突き抜けるとそこは空だった。
そして俺の耳にはシェリーの怒声が聞こえてきた。
「卑怯者、逃げるな」
振り向くとそこには黒い服を纏ったシェリー・オルコットが追いかけて来る姿があった。
よし、釣り上げたぜ。
シェリー、もう逃がさないからな。
いいね、ありがとうございます。
第8章の文言修正をさせて頂きます。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。




