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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
370/416

12―19 伏魔殿1

 

「なあ、俺からも一言言っていいか?」


 その声がした方に全員の視線が向くと、その視線を一身に浴びたレスタンクールが口を開いた。


「全ての黒幕が俺みたいな流れになっているが、レスタンクール公爵家は、今朝、新皇帝となったアブラームから取り潰しを命じられたんだ。それにソフィー、いや、フリュクレフ将軍を騙したというが俺も初耳だぞ」

「それを信じろと?」


 白猫が睨みつけても、レスタンクールは平然としていた。


「あんた達はガーネット卿を探してこの館に来たんだろう? なら、ガーネット卿がここに居たか? それどころかこの館に来た痕跡があったか?」


 そう言われて白猫が感じていた違和感がようやく分かった。


 そうよ、この館に来る前倉庫の中も見たが、雇い主さんが持ってきたはずの荷馬車が何処にもなかったのだ。


 万が一、罠に嵌ったとしても、あの2体のオートマタが大人しくしている筈が無いし、その暴れた痕跡がどこかにある筈だが、そんな痕跡もなかった。


 今最も重要な事は、雇い主さんは一体どこにいるのかだ。


「パメラさん、ユニス様は何処に居ると思うか考えを教えて」

「私達もレスタンクールの館に居ると思って此処に来たんだけど・・・」


 そう言ってパメラはレスタンクール公爵を見ていた。


「だから、此処には居ないって何度言ったら分かってくれるんだ?」


 白猫は疑われて顔を真っ赤にしているレスタンクールに、何故だか雇い主さんの行方を聞いてみたくなっていた。


「レスタンクール、ユニス様は何処にいると思う?」


 白猫が質問すると、レスタンクールはじっとこちらを見つめながら何か考えているようだった。


「なあ、フリュクレフ将軍が偽物だと言ったよな。なら、フリュクレフ侯爵家を調べた方が良いんじゃないのか?」

「それはどうして?」


 白猫が聞き返すと、レスタンクールは自分の考えを披露した。


「俺とソフィー、ああ、フリュクレフ将軍は幼馴染なんだ。今までも気軽に本部や侯爵家に会いにいっていたんだが、少し前から全く会えなくなってな。相手が偽物なら俺ならそれに気づくと思って面会を拒否していたというのなら説明がつくんだ」


 今の話で、やはりルーセンビリカは信用できないのは分かった。


 それから雇い主さんが、フリュクレフ家に監禁されている可能性も出てきたわね。


「フリュクレフ将軍の館は何処にあるの?」

「この館と敷地が背中合わせなんだ。正面入口はエルヴェ通り側にあるぞ」

「そう、分かったわ。もうここには用はないわね。クロ、アカ、引き上げるわよ」


 白猫が黒犬と赤熊を伴って退出しようとすると、レスタンクールが引き留めてきた。


「待ってくれ、フリュクレフ侯爵家に行くのなら、俺も連れて行ってくれないか?」

「どうして私達がそんな危険な場所に行くと思うの?」

「え、違うのか?」


 こいつは馬鹿なの?


 ルーセンビリカが居る前で、敵ボスの家にお邪魔しますなんて堂々と言える訳ないでしょう。



 ルーセンビリカの館を脱出した白猫達は、敷地の隅で待機していたベルグランドと合流した。


「皆さん、その感じじゃあハズレでしたね?」

「ええ、だけど有力な情報を手に入れたから次に向かうわよ」

「へえ、それで次は何処で?」

「隣よ」

「え、ひょっとして家を間違えたんですかい?」


 その言い方だと、私が家を間違えて隣家に侵入したみたいじゃないのよ。


 この男は一言余計な事を言わないと気が済まないのか?


 雇い主さんがこの男を雑に扱うのも、なんだか分かったような気がしてきたわね。


 そしてレスタンクール家の敷地からフリュクレフ家の敷地の境界戦を越えて侵入すると、そこには侵入者避けの罠があった。


 まあ、怪盗と呼ばれる私達がこんな罠に引っかかるわけないけどね。


 そして簡単に罠を越えて先に進もうとすると、後ろで「あ」という声が聞こえ罠が発動した。


「あ、すみません」


 ちょっとぉ、貴方罠の専門家じゃないのぉ。


 すると黒犬が袋の中から1つのマジック・アイテムを取り出すとそっと罠の傍に置いた。


 白猫はベルグランドを小脇に抱えると音もなく走り出した。


 罠が発動した場所に駆け付けてきた警備兵は、黒犬のマジック・アイテムで召喚された小動物を見つけるだけなので、きっと誤報として処理してくれるだろう。


 +++++


 12番は扉を開ける音を聞いて振り返えった。


 入って来たのは黒蝶の部下だった。


「報告します。罠が発動したので確かめたところ、どうやら寝ぼけた小動物が罠にかかったようです」


 それは館に仕掛けてある侵入者避けの罠が発動した事の報告だった。


 だが、12番はその報告に満足しなかった。


「馬鹿者、侵入者は必ずいる。今すぐ全員武装して周囲の警戒に当たらせろ。いいか、ネズミ一匹見逃すんじゃないぞ」

「はっ、畏まりました」


 魔女と一緒にやって来た2体のオートマタと捕らえた獣人1匹は対処済だった。


 残っているのは6人だが、そのうちルーセンビリカの案内役と男爵は論外なので残りは男女の4人組だろう。


 ふふふ、面白い。


 先ほどの反応はこの4人で間違いないはずだ。


 そこで12番は、人間を標的にした狩をするという面白い遊びを思いついた。


 まったく魔女様は、俺を心底楽しませてくれるらしい。


 +++++


「こっちには居ないぞ~」

「よし、あっちを探せ。いいか絶対逃がすなよ。それから見つけたら館の前まで追い立てろ。どうやらボスが止めを差したいようだ」


 バタバタと男達の足音が遠ざかって行くのを聞きながら、白猫はそっと隠れている場所から頭をだした。


「敵は?」

「どうやら居なくなったわ。まったく、しつこい連中ね」

「それもこれもこの男が下手をうつからよね」

「ええっ、あれは不可抗力ですよぉ」


 黒犬がベルグランドを睨んでいるが、今更そんな事をしても意味がないのだ。


 すると先ほどから何もしゃべらない赤熊を見ると、白猫達が逃げ込んだ倉庫の中をじっと見つめていた。


「赤熊?」

「おい、あれを見ろ」


 赤熊が指さす暗闇に目を凝らすと、そこには見たことがある荷馬車が浮かび上がった。


「え、これって」

「ああ、俺が御者をしていた荷馬車だ」


 という事は、この館が当たりで間違いないという事ね。


「どうやら敵はこちらの目的を察知していて私達を生かして返すつもりもなさそうだから、こちらもそのつもりで対応するわよ」

「へえ、汚い仕事は随分久しぶりね」

「じゃあ、俺も本気で相手をするか」


 +++++


 12番はメンヒバルから報告される内容に激怒していた。


「報告します。敷地北側では突然現れた魔物を相手に現在警備兵との間で戦闘が行われていますが、鎮圧には増援が必要です。そして敷地南側では獣人が現れ、とても手ごわく味方が蹴散らされています」

「くそっ、急いで増援を送るんだ」

「そうしますとこちらの警備が手薄になりますが?」

「敵を鎮圧できなければ同じだろう。数で圧倒して速やかに処理するのだ」

「はっ、承知しました」


 警備兵が部屋から出て行くと12番は思わずテーブルの上にあったものを怒りに任せてぶちまけていた。


「全く使えない奴らだ。こうなったら今すぐ食材を流水園に持ち込んだ方が良さそうだな」


 机の下のボタンを押すと「ガタン」と音がして隠し部屋への扉が開いた。


 12番が扉を開けて中に入ると、そこには中央に作業台があり、その周りには実験装置を載せた机や薬品類を入れた棚、床には樽がいくつも置かれていた。


 その中央の作業台に、12番が最高級食材と呼ぶ物体が横たえられていた。


「入れ物がまだ届いていないが、袋で代用するか」


 12番がそう呟くと、後ろから予想外の声が聞こえてきた。


「そんな心配はしなくていいわよ」


 12番は自分の毒舌に答える声があるのに一瞬驚いたが、直ぐに手元に置いてある斧を手に取ると声がした方向に向けて振り下ろした。


「おっと、危ないわね。随分なご挨拶だこと」

「驚いたな。警備網を掻い潜ってここまで辿り着くとはな」

「褒めてくれるのなら、そこのユニス様を貰っていくわ」

「やはりお前は、魔女に同行していた女の1人か」


 12番は白毛の獣人を睨みつけた。


 +++++


 フリュクレフ家の敷地内に入り直ぐに侵入者避けの罠に引っかかった白猫達は、北側で黒犬がマジック・アイテムから召喚した魔物で、南側では赤熊が自慢の腕で大暴れして敵兵を引きつけてくれている間に、白猫は敵の本拠地と思われる本館に潜入していた。


 そしてその男を見つけたのだ。


 驚いたことにその男の顔は先ほどまで嫌というほど睨みつけていたあのレスタンクールにそっくりだった。


 そしてしばらく様子を窺っていると、敷地で大暴れしている黒犬と赤熊の状況を報告する声が聞こえてきた。


 それを聞いた男は、危機感を覚えたのか隠し扉を開きその中に消えて行った。


 白猫は男が逃げたと思い直ぐに後を追うと、そこで目的の人物を見つける事ができた。


 作業台に横たえられたユニス様は、全裸のまま生死が不明な状態だった。


「ユニス様、大丈夫ですか?」


 白猫のかけた言葉に返事をしたのは、あの男だった。


「声をかけても無駄だ」


 ユニス様は全く反応せず、この男に何かされたのは明白だった。


「ユニス様に何をしたの?」

「素直に教えてやるとでも思っているのか?」

「そう、なら、体に聞いてやるわ」


 そして白猫が両刃のナイフを取り出すと、それを見たレスタンクールそっくりの男は笑い声をあげた。


「この斧にそんなちっちゃいナイフで挑むつもりか?」

「やってみなければ分からないわよ」


 そして白猫がナイフを逆手に持って接近すると、男は手に持った斧を右から左へ横殴りに振りぬいた。


 白猫は斧の軌道を読んで、さっと身をかがめると獣人の身体能力で一気に加速した。


 男の横を通り過ぎる時に手ごたえを感じたが、その感触は肉を切ったものではなかった。


「ふん、獣人は身体能力が高いというのは本当のようだな」


 男はそう言って切られた服を見ていた。


 その服からは鎖帷子のようなものがみえていた。


「ところでレスタンクールにそっくりな顔をしているけど、貴方は一体何者なの?」

「12番とだけ答えてやろう」


 そう言った男が手に持った何かを押していた。


 嫌な予感がしたのでさっと横に飛びのくと、今まで白猫が居た場所に針のようなものが突き刺さっていた。


 ここは敵の懐の中なのだ。


 どんな罠が仕掛けられていてもおかしくないので、時間をかけるのは危険だった。


いいね、ありがとうございます。

第7章の文言修正をさせて頂きます。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。


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