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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
369/416

12―18 ユニスの行方

 

 12番が魔女の首目掛けて渾身の力で振り下ろした半月斧は、首の手前で見えない壁にぶち当たり跳ね返された。


 その反動が酷く12番はそのまま後ろに跳ね飛ばされ、跳ね返された半月斧は後ろの壁に突き刺さっていた。


「いてて、くそっ、意識が無いのに防御魔法はしっかり展開してやがる」


 12番が服をはたいて埃を落としながら立ち上がると、斧を振り下ろした魔女の首を確かめてみた。


 だが、そこには傷一つなかった。


 駄目か、それなら体内魔素を奪い取ってやればいいだけさ。


 13番が見つけた遺跡から魔素を通さない材料で作られた棺と、魔素を吸収するテロスの実を用意することにした。


 魔女の体をこの棺に入れ、その中に大量のテロスの実を詰めてやれば、いかな魔女でも体内魔素量が減少して防御魔法が解除されるだろう。


 流水園に持ち込む頃には、調理するのに丁度良い状態になっているはずだ。


 そして執務室に戻ると棺とテロスの実を調達するための必要書類をしたためた。


 ふふふ、普段の書類仕事はうんざりするが、今回だけはとても楽しいな。


 そして魔女肉をどのように調理してやろうかを考えると、とても幸せな気分になっていた。


 そんな時、執務室の扉を開けて入って来る者がいた。


 +++++


 本館3階の部屋を調べその全てがハズレた後、最後に残った公爵本人が居ると思われる執務室の前に集合した。


「何処かに移送した可能性もあるから、レスタンクールに直接尋問した方が速そうね」

「ああ、拷問なら任せてもらおうか」


 赤熊がとても良い笑顔をしているが、白猫は黒犬を見た。


「ねえ、自白魔法のような便利なマジック・アイテムは無いの?」

「流石にないわね。いいじゃないここは赤熊に任せましょう」

「仕方がないわね、そのかわり悲鳴を遮断するマジック・アイテムを発動させてね」

「分かった」


 そしてドアノブに手をかけると一気に開けて、部屋の中に突撃した。


 突然に乱入に机で書類仕事をしていたレスタンクールは驚きの顔をしていたが、直ぐに黒犬がマジック・アイテムを展開して人を呼ばれるのを防ぐと共に赤熊が一気に間合いを詰めていった。


 レスタンクールも直ぐに椅子から立ち上がると迫って来る赤熊に対抗しようとしたが、丸腰の人間に力で負ける訳も無く赤熊に組み伏せられた。


「き、貴様ら、こんな事許されると思っているのか?」

「黙れ、この人攫い野郎が」

「なんの事だ?」


 レスタンクールが赤熊に抑え込まれているところで、今度は白猫が男の頭を掴んだ。


「黙りなさい。お前は私の質問に答えるだけでいいのよ」

「お前は誰だ?」


 白猫はその質問を無視すると、早速尋問を始めた。


「この館を昼間訪問したお客様を何処にやった?」

「昼間に客? 何の話だ」


 まあ、こちらが何処まで知っているのか探る上でもとぼけるのは常套手段ね。


「質問が多い男ね。いいわ、この館にロヴァル公国のユニス・アイ・ガーネット様が訪問したのは分かっているのよ」

「はあ? ここは帝都だぞ。なぜ、他国の貴族が居ると思うんだ? ひょっとして頭が弱いのか?」


 全く認めようとしないばかりか私を挑発するなんて、少し刺激が必要なようね。


 白猫が頷くと、赤熊がレスタンクールの体を締め上げた。


「うぐっ、ちょ、ちょっと待て、それ以上締められるといろいろ拙い事態になりそうだ」

「なら、素直にガーネット様の居場所を喋りなさい」

「お前は馬鹿なのか? ガーネット卿の居場所が知りたいのなら公国へ行け」


 あくまでも認めようとしないゲス野郎に、白猫はだんだん腹が立ってきた。


「いつまでとぼけるつもり? 貴方から辺境伯様宛に、公爵位を継いだから遊びに来て欲しいという招待状が来たのを知っているのよ」

「なんだって、俺はそんな物出していないぞ」


 白猫はレスタンクールが焦っている様子を見て、王国の貴族共もこんな感じで平気で嘘をついていた事を思い出していた。


「あんたの演技にはもううんざりよ。質問に答えないのなら骨の2、3本は折る事になるわよ」

「いや、待て、待て、よく考えて欲しい、あんたが言っているのは、あの魔女殿だろう? なら、俺にどうにかできる存在だと本気で思っているのか?」


 そこで白猫ははっとなった。


 雇い主さんはこの大陸随一の魔法の使い手であり、王国を手玉に取った実力者だ。


 それにあの御仁には、相手の意図を簡単に看破する狐さんと常に付き従う2体のオートマタがいたはずだ。


 そんな相手をこの男が簡単にあしらえるだろうか?


 白猫が考え込んでいると、レスタンクールが話しかけてきた。


「やっと話を聞いてくれる気になったか? まあ、少し落ち着いて座って話さないか?」


 白猫はこの男の口をなめらかにするためには、それも良いかと考え直した。


「分かったわ。だけど、ちょっとでもおかしな真似をしたら首の骨を折るわよ」

「ああ、何もしないさ」


 白猫はレスタンクールをソファに座らせると、その後ろに赤熊を控えさせておかしな行動をしたら何時でも首の骨を折れるようにした。


 そして黒犬と一緒に反対側のソファに座ると、レスタンクールが口を開いた。


「ところで俺からというその招待状は、誰が届けたんだ?」

「ルーセンビリカが貴方からと言って届けに来たそうよ」

「ルーセンビリカ・・・」


 レスタンクールはその単語を聞くと何故か考え込んだが、直ぐに声を上げて笑い始めた。


「ぶははは、これは愉快、皇帝直属のルーセンビリカが、たかが公爵家の使いをすると本気で思っているのか?」


 こいつは私を馬鹿にしているの?


 いや、まさか時間稼ぎ?


 はっとなったところで突然扉が開き、武器を手にした男がぬっと現れた。


 白猫は座っていた椅子から素早く立ち上がると、敵の奇襲を避けるため横に飛びながら現れた男の顔目掛けて隠しナイフを投げた。


 +++++


 前を行くジュール・ソレルが扉を開けた途端戦いが始まった。


 パメラからはジュール・ソレルの体が邪魔で部屋の中の様子が全くつかめなかったが、あのジュール・ソレルが押されていることから難敵と戦っているのは簡単に分かった。


 ルーセンビリカ本部の将軍の執務室から脱出した後バラチェ男爵館で男爵と会うと、豹変したバラチェ男爵との間でも戦闘が起こった。


 男爵とジュール・ソレルが戦っている間何とか誤解を解こうと話しかけ続け、ようやく全ての黒幕がレスタンクールと偽将軍だと納得してもらえたのだ。


 そして男爵から帝城であった出来事を教えてもらったのだ。


 レスタンクールがユニス様を帝都に呼んだのは、帝国消滅で公爵位を失い、それをユニス様の首を土産に再び復活しようとしているという企みなのだろう。


 パメラは自分がその手助けをしてしまったという後ろめたさから、ユニス様に危険を知らせる為に忍び込んできたのだ。


 だが、いざやって来たレスタンクールの館では誰かが潜入した痕跡を見つけ、のんびり調査している暇は無いと判断して直接公爵の執務室にやって来たのだ。


「ジュール、敵の数は?」

「4」


 それを聞いたパメラは、最も手っ取り早い方法を取る事にした。


 ルーセンビリカの装備品の1つである麻痺玉を手に取った。


 この玉は室内にいる悪党鎮圧用にルーセンビリカが開発したもので、炸裂すると神経を麻痺させる刺激臭のする煙を拡散させるのだ。


 パメラは麻痺玉を示すルーセンビリカの隠語である「5番」を使った。


「ジュール、5番」

「おう」


 そしてジュール・ソレルが剣を一振りしてから後ろに飛ぶと、初めて部屋の中を一望することができた。


 パメラは部屋の中に麻痺玉を放り投げようとした瞬間、ジュール・ソレルが誰と戦っていたのかを知る事が出来た。


 そこには予想通り上司であるフリュクレフ将軍を裏切った憎っくきレスタンクールの顔があったが、その後ろに今朝まで一緒に旅行していた赤熊の顔があったのだ。


「あ」


 パメラは慌てて麻痺玉を投げるのを思いとどまろうとしたが、既にそれは指先を離れてしまっていた。


 +++++


 白猫は突然扉を開けて姿をあらわした男に投げナイフを投擲したが、それは男が持った剣で弾かれていた。


 普段であれば罠と感じた瞬間直ぐに脱出を試みるのだが、今回は雇い主さんの行方を探らなければならないので、ここから逃げ出すわけにはいかなかった。


 そこで仕方なく男に向けて追撃を行ったのだが、男は戦闘に慣れているようで全てのナイフを防がれていた。


 ナイフを当てるには何とか敵の注意を逸らせないと駄目だが、赤熊はレスタンクールを捕まえているので、期待できるのは黒犬だけだった。


 白猫はそっと黒犬の方を見て眼で合図を送った。


 黒犬は小さく頷くとベルトに付けていた小袋の中から何かを取り出し、それを投げようとしたところで男が扉から消えた。


 白猫は追撃するため物陰から飛び出そうとした瞬間、何かが室内に飛び込んでくるのが見えた。


 嫌な予感を感じ、すんでのところで方向転換して物陰に隠れると、くぐもった爆発音とともに強烈な異臭が広がった。


「うっ、何?」


 異臭に気付き直ぐに鼻と口を押えたが体が痺れ、動かせなくなっていた。



 白猫が意識を取り戻すと、そこには意識の無い黒犬と赤熊そしてレスタンクールが居て、その傍にパメラと扉を開けた男も居た。


 白猫は素早く起き上がりナイフを向けると、パメラは慌てた顔で両手を振った。


「あ、待って、待って、私達は敵じゃないわ。そしてこの男はジュール・ソレルと言ってユニス様も面識がある男よ」

「それを信じろと? 貴女は私達を攻撃したわ」

「それも誤解なの。ジュールが邪魔で誰と戦っているのか分からなかったから、てっきりレスタンクールの一味と戦っていると思ったのよ」


 そう言われても白猫はパメラを全面的に信じる事は出来なかった。


「それ以上近づくな」


 白猫の一喝にパメラと男はピタリと止まった。


「パメラ、ユニス様はレスタンクールとルーセンビリカの招待で帝都ヌメイラにやって来たのよ。それを見計らったかのようなタイミングで突然大帝国が復活してユニス様の抹殺指令を出すなんて、初めから計画していないと出来ないはずよね?」

「ええ、私も貴女の立場だったらそう思うわ。だけど、私もルーセンビリカに裏切られたのよ」

「それを信じろと?」


 白猫がパメラを睨みつけると、男の方が口を開いた。


「ああ、俺からも一言言わせてくれ。パメラがルーセンビリカに裏切られたのは本当だ。そして今のルーセンビリカは、そこのレスタンクールに乗っ取られているんだ」


 パメラと男はこんな手の込んだ計略を仕掛けたのはレスタンクールだと言っているが、その男は私達に掴まって無様に転がっているなんて、なんとも詰めが甘すぎないか?


 それに先ほどから何かが変だと感じているのよね。


「ねえ白猫さん、私達が敵なら今頃貴女達は殺されているか、捕まっているとは思わないの?」


 うっ、確かにそう言われてしまうと頷かざるを得ないわね。


 疑心暗鬼になりながら距離を取って対峙していると、突然思いもよらない声が割って入った。


いいね、ありがとうございます。


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