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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第12章 魔女VS黒蝶
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12―9 帝国への招待

 

「レスタンクール公爵からの手紙を預かっています」


 パメラのその一言に最初に感じたのは違和感だった。


「レスタンクール公爵?」

「あ、ユニス様も見知っているあのアースガル・ヨルンド・レスタンクール様が跡目争いに勝って公爵位を継いだようです」


 そう言えば本国に帰る時に、父親が病に臥せっているとか言っていたな。


「でも何でアースガルの手紙を預かっていたのです? 貴女の上役は確かフリュクレフ将軍よね?」

「はい、私はルーセンビリカの所属なので、フリュクレフ将軍の命令で動いています。ですが、将軍とレスタンクール公爵は幼馴染なので、気軽に頼み事が出来るのだと思います。あ、それとフリュクレフ将軍からも手紙を預かっております」


 公私混同も良いところだが、帝国の情報機関は意外と緩い組織なのかもしれないな。


 パメラがテーブルの上に置いた2通の手紙を手に取ると、そこにはきちんと封蝋が押されていた。


「パメラはこの内容を知っているの?」

「多分ですけど、帝都ヌメイラへの招待だと思います。フリュクレフ将軍からユニス様の道案内をするように申しつかっておりますので」


 え、帝都?


 そこで帝国最北端の町カルメで賞金首になっていた事を思い出した。


 レスタンクールは、その事を忘れたのだろうか?


「ちょっと失礼するわね」


 そう一言断りを言ってからレスタンクールの手紙を開封してみた。


 そこには公爵を継いだので、一度帝都の公爵館に招待したいという内容が書かれていた。


 これはどう見ても、公爵になった自分を自慢したいという事だよな?


 そんなのに別に付き合う必要はないんじゃないか?


 そしてフリュクレフ将軍の手紙を開くと、そこには古代遺跡から珍しい遺物が出土したのでどんな物か見て欲しいという内容が書かれてあった。


 こ、これは、是非見てみたい。


 レスタンクールには舞踏会の練習に付き合ってもらい、ジゼルが攫われた時は情報を貰った事だし、ここは自慢に付き合ってやるのが大人の対応かな。


「分かりました。それで帝都まではどうやって向かうのですか?」

「あ、それは、ハンゼルカ伯国から教国を抜けて帝国に入る事になります」


 なんだが遠回りになっていないか?


 それにアイテール大教国は、歴史書の件もあるから出来れば入国したくないな。


 帝都まで飛んでいければさほど時間はかからないが、他国のしかも首都に乗り付けるのは流石にやりすぎか。


 どこか目立たない所まで飛んで行って、そこから陸路を移動して帝都に入るというのが妥当な線か。


 だが、何処に降り立つかとなると帝国の地理に詳しくないので、よさそうな場所が分からなかった。


 まさかパメラに聞く訳にもいかないしと考えていると、ふっとガスバルの顔が思い浮かんだ。


 ああ、そうだ。


 彼に聞けばいいじゃないか。


「ちょっと検討させてくれる」

「はい、良い返事を期待しております」


 パメラが領事館に戻っていくと、早速ガスバルを探す事にした。


 そこで思い当たるのが酒場だったので、前に起こった出来事を思い出して後ろに控えているグラファイトを見た。


「グラファイト、酒場エルフ耳に行ってガスバルを連れてきてくれる」

「承知いたしました」


 グラファイトはそう言うと既に姿が無くおやっと思っていると、直ぐに戻って来た。


 その肩に担がれていたガスバルは、泡を吹いているような気がした。


「ガスバル、大丈夫?」

「え、あ、ああ、これはガーネット卿、酒場で酒を飲んでいたのですが気が付いたら此処に居ました」


 ちらりとグラファイトを見るといつもの無表情の顔だったが、ほんの一瞬だけにやっと笑みを浮かべたのに気が付いた。


 絶対に楽しんでやったな。


「ああ、それは悪かったわね。ちょっと聞きたい事があったのよ」

「はい、何でしょうか?」

「アースガルとルーセンビリカから帝都へ招待されたのよ。移動時間を短縮したいので空を飛んでいきたいんだけど、帝都の傍でどこか目立たない着陸場所はないかしら?」


 するとガスバルは、とても嬉しそうな顔になった。


「おお、それでは是非我が領にお越しください」

「え、確か前に船で魚釣りとか言っていたから、貴方の領地は東の海岸沿いにあるんじゃないの?」

「ええ、確かに東アルアラ海に面しておりますが、なあに、ガーネット卿なら帝都までならあっという間に行けますぞ」


 だから帝国内を堂々と空を飛んでいけと?


 いや、待て。


 パメラに案内されて陸路を遠回りに移動するよりも、ヴァルツホルム大森林地帯から一気に東に抜けて、東アルアラ海からガスバルの領地に入った方が早いし、海上を移動すれば誰にも見られないから騒ぎにもならないか。


 せっかく帝国に行くのならジゼルに観光でもさせてあげたいな。


 ああ、それと怪盗の3人娘も連れて行こう。


 これ以上機嫌が悪くなったら、下手したらクマルヘムの管理運営を投げ出されてしまかもしれないし、ドワーフ達の移転に汗を流してくれた労には報いてやるのは当然だからな。


 出発当日、領主館の前にはジゼルに怪盗の3人娘、それに案内役のパメラとガスバルが居たが何故かベルグランドも居た。


「ベルグランド」

「はい?」

「何故、貴方が此処に居るのですか?」


 俺の質問に答えたのは、ガスバルだった。


「あ、それは私が招待したのです」

「つまり、ベルグランドはガスバルに招待されて同行することになったと?」

「はい、帝国内での彼の面倒は私が見ますので、ガーネット卿にはご迷惑はおかけしません」


 まあ、そういう事なら仕方が無いか。


 今回は我々が乗る馬車が2台とガスバルやアースガルへのお土産用の荷馬車1台という構成になった。


 馬車の御者はグラファイトとインジウムに任せるとして、もう1台誰にしようかと考えていると意外にも赤熊が手を上げてくれた。


 上空に舞い上がった馬車隊は、そのままヴァルツホルム大森林地帯を一路東アルアラ海に向けて飛んでいった。


 パメラには事前にこちらの希望ルートで帝国に向かう事を伝えてあった。


 ヴァルツホルム大森林地帯を通過する時は、かなりの高度を維持していた。


 以前、ヴァルツホルム大森林地帯を飛行して魔物の暴走が起こった事があったので、地上の人達に迷惑をかけないための配慮だ。


 あまり高度を取るとアマル山脈に棲息するという古竜に餌と間違われてしまうので、周囲の警戒は十分に行っていた。


 そして何事も無くヴァルツホルム大森林地帯を抜けて東アルアラ海に出ると、そのまま方向を南に向けた。


 海上だと目標とする道標が少ないので、注意していないと通り過ぎる危険があった。


「ガスバル、貴方の領地の傍には何か目標となる島とかあるの?」

「ああ、それなら領地の沖に岩礁地帯があります。常に白波が立っているので目印には丁度良いですぞ」

「分かったわ。インジィ、海面に白波が立っている岩礁を見つけたら教えてね」

「はあぃ」


 ガスバルの領地まではもう少し時間がありそうなので、せっかくだから領地の事を聞いてみる事にした。


「そう言えばガスバルは当主様なのでしょう? こんなに長い間領地を離れていて大丈夫なの?」

「ああ、領地経営に長けている一族の者に任せておりますので問題ありません」


 面倒な領地運営を信のおける身内に任せて自分は冒険者という道楽を満喫するなんて、なんて羨ましい人生なのだろう。


 そんな時、インジウムの声が聞こえてきた。


「お姉さまぁ、岩礁らしきものが見えましたよぅ」


 どうやら道標の場所に到着したようだ。


「インジィ、岩礁を過ぎたら西に転進してね」

「はあぃ」


 さて、そろそろ着陸の準備をしないとな。


「ガスバル、帝国に亜人は居るの?」

「帝国には少数ながら存在しておりますね。ですが、扱いはあまり良い物ではありません」


 すると帝国内を移動する時は、人間種に化けていた方がトラブル防止には良いという事か。


「ジゼル、人間種に化けるわよ」

「うん、分かった」


 そして俺達が擬態魔法を発動して人間種に化けると、その顔を見たガスバルが感想を口にしていた。


「ガーネット卿が化けたのは、これは確かリーズ服飾店の女社長ですな。それとジゼル殿は、ああ、カフェプレミアムの女店主ですか。でも、せっかく化けるのでしたら瞳の色も変えた方が良いと思いますぞ」


 確かに俺の赤い瞳と、ジゼルの橙と紫のオッドアイではちょっと目立つな。


 そこで偽色眼というマジック・アイテムを使って、お互い藍色に変えた。


「パメラは・・・」

「あ、私は大丈夫です」


 パメラは対外諜報員なので身バレは大丈夫かと聞いてみたのだが、どうやらいらぬ心配だったようだ。


「後は、後ろの馬車に乗っている怪盗の3人娘ね。ガスバル、着陸地点を人気のない場所にしてもらえる」

「はい、それなら良い場所がありますよ」


 そしてガスバルに指定された場所は何もない荒地だった。


 馬車から降りると、地面は固く耕作に向かないのは一目瞭然だった。


「ここら辺は土地が痩せていて固いので何も育たないのです」

「領地には耕作地が少ないという事?」

「多少はありますが、主な産業は漁業になります」


 ガスバルと話しているとグラファイトが御者を務める2台目の馬車が着陸したので、早速白猫達に擬態魔法をかけるため近づくと、開いた扉から見知らぬ女が現れた。


「えっと?」

「あらやだ白猫ですよ、ユニス様、ここは知らない人間の国なので変装してみました」


 ペコリと頭を下げた白猫の後ろからまた知らない女性が出てきたので、黒犬だろうと判断した。


「ああ、赤熊の変装も直ぐに済ませますので、少しだけ待っていてもらえますか?」


 そう言って白猫は着陸してくる荷馬車を見つめていた。



 着陸地点から少し走ると直ぐに海岸線で出た。


 道から見える海岸線とは高低差があるので、砂浜ではなく崖が広がっているようだ。


 馬車が坂道を下っていくと、やがて両側に切り立った崖が現れ視界が遮られた。


 暫く崖ばかりの道を進むと急に視界が開け、そこにはちょっとした港町が広がっていた。


「ガーネット卿、我が領都フェリナにようこそ」

「ふふ、ご厄介になりますね」

「ガーネット卿のリグアと比べると少し見劣りしますが、自慢の港町です」


 ガスバル自慢の港にはコンクリート製の埠頭はないが、木製の桟橋が海に向けて突き出しており、その両側には漁船らしき船が係留されていた。


いいね、ありがとうございます。


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