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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―38 襲撃者2

 

 後ろの連中はあの村から奪った魔素水を担いでいるので、どうしても足が遅くなっていた。


「おい、もっとシャキッと歩かないと日が沈むまでにブコトの町に辿り着けないぞ。旨い酒と女を楽しみたいのなら足を動かせ」

「すみません。女の1人が足を引きずっているもので」


 それを聞いたダミアーノはまたイライラしてきた。


「おい、こんなペースで日暮れまでに町につけると思っているのか? 足手まといは始末しておけ」

「え? よろしいので?」

「1人くらい構わん」

「へい」


 ダミアーノはあの魔素水が高く売れたら、もうあの野郎のくだらない仕事を辞めるつもりだった。



 一行のペースが上がり上機嫌になったダミアーノが再び空を見上げると、今度は上空から何かが降りてくるのが見えた。


 それは明らかに道を塞ぐように降りてきたので、後ろを続く仲間に止まるように合図を送った。


 そして道を塞いだ者は、1人が雌エルフ、もう1人はメイド服を着ているが黄色い何かだった。


 また亜人かよ。


「誰だ?」


 そう声をかけたところで、仲間の1人がそっと耳打ちしてきた。


「ダミアーノ、後ろにも変な奴が道を塞いでいるぞ」


 その言葉に後ろを見ると、黒っぽい何かが道を塞いでいた。


 こちらの逃げ道を塞いでいる事で敵対する意思は明白だが、こちらは30人もいるのだ。


 たった3人で何をするというのだ?


 酷い馬鹿なのか、それともこれだけの人数をたった3人で何とかできるとでも思っている自分の力量も分からない愚か者か?


 まあ、いずれにしても馬鹿であることは間違いないな。


 それなら自分の間違いに気づかせてやれる俺は、ひょっとしていい奴なんじゃないか?


 +++++


 中の村から上空に舞い上がると、村長が指示した方向に向けて飛行しながら魔力感知を発動した。


 案の定、高濃度の魔素水は直ぐに反応が現れた。


 相手に見られないように少し高度を上げて高速で飛行すると、直ぐに尾根を歩く1列の隊列を発見した。


 遠見の魔法で見ると、村を襲った男が30人と攫われた女が3人だった。


「敵を発見したわ。1人当たり10人ってところね」

「大姐様、私なら20人でも余裕です」

「ちょっとグラ、抜け駆けは駄目よ。お姉さまぁ、私なら30人でも構いませんようぅ」


 俺はやる気十分な2人に頷いた。


「グラファイトは敵の最後尾から、インジウムと私と敵の先頭から仕留めに行くわよ。一人も逃しちゃ駄目だからね。あ、それからリーダー格は尋問するから生かしておいてね」

「はい、お任せ下さい」

「はあぃ、大丈夫ですぅ」



 そして連中の行く手を塞ぐように降下すると、直ぐに相手もその意図に気付き戦闘態勢を取っていた。


「誰だ?」


 そう誰何してきたのが、どうやらこいつらのリーダーらしい。


 会話をするつもりも無かったし敵も殺る気十分のようなので、直ぐに魔法を発動すると同時に男の方も剣を手に襲い掛かって来た。


 俺の目の前に現れた4つの藍色魔法陣から放たれた石礫は、男の両手両足に命中するとゴキっといやな音を立てた。


 それでも男は痛みに耐えて力を振り絞って剣を投げてきたが、その剣は俺には届かず足元に落ちていた。


 インジウムの方は俺が魔法を発動すると同時に飛び出すと、俺が狙う男の後ろにいた男達に襲い掛かっていた。


 既に後ろではグラファイトが、男達を薙ぎ払いながら突き進んでおり決着は直ぐにつきそうだ。


 四肢を潰され前のめりに倒れたリーダーらしき男に近づくと、反撃を警戒して脇腹につま先を入れてひっくり返した。


 男には既にこちらを攻撃する手段は無いようで、睨みつけてくるだけだった。


「お前が、スクウィッツアート男爵領の村を襲った責任者だな?」


 男は俺の方を見ていたが、やがて口角を上げた。


「亜人の癖に、随分といい体をしているじゃないか。素裸になって俺を楽しませてくれたら喋ってやるかもしれないぞ」


 こいつは頭がおかしいのか?


「なら喋る必要はないぞ」

「はあ、どういう意味だ?」


 男が眉を寄せたので、今度はこちらが口角を上げてやった。


「自白魔法で強引に喋らせるだけだ。お前のちっぽけな抵抗など何の意味もないのさ」


 そして動けない男に自白魔法をかけ早速尋問を始めた。


「お前の名前と役割は?」

「ダミアーノ、村の監視と邪魔をすることだ」


 やはり村を監視していた連中だったか。


「お前の雇い主は何処の誰だ?」

「アリッキ伯爵家のアヴァティという男だ」


 予想通りあのトドの部下だったか。


 それからアヴァティという男は、アリッキ伯爵から領地運営を任されているようだ。


 こいつはアヴァティという男の命令に従って魔素水を奪ったようだ。


 だが、ジゼルを必要以上に暴行する必要があったのか?


「最後にもう1つ聞くぞ。何故あれほどまでに獣人の女の子に暴行を加えたのだ?」


 すると男の顔に愉悦の表情が浮かんだ。


「何を言っている、相手は獣だ。牙をむく獣にしつけをして何が悪い?」

「しつけ?」

「ああ、そうだ。しつけだ。人間様に楯突いたんだからな。すばしっこいから農民の子供を人質にしてやっと捕まえたが、子供を離せとかふざけた事を言いやがった。獣のくせに人間様を心配するなんておこがましいんだよ。それにあの獣、殴っても踏みつけても悲鳴1つ上げないんだ。全くつまらなかったぜ」


 嬉しそうな顔で卑怯な手口でジゼルを捕まえ、あの酷い怪我を負わせた男の戯言を聞いていた俺は、ふっと気が付くと男の顔を踏みつけていた。


 しかも無意識に常時発動している重力制御魔法を解除していたようで、男の顔は俺の足の下で潰れていた。


「・・・あ」

「お姉さまぁ、美しいお足が下賤な男の体液で汚れてしまいましたぁ」


 え、気にするのってそこなの?


 俺はジゼルに暴力を振るう様をさも嬉しそうに語る男の口を塞ぎたくなって、つい体が動いてしまった。


 少しだけ反省したところで、グラファイトが3人の攫われた女性と戻って来たが、何故か4人目の女性を抱っこしていた。


 あれ4人も居たのか?


「大姐様、この女性が虫の息です」


 なんだって?


 地面にそっと下ろした女性を見ると、確かに胸に刺し傷があり、ひゅーひゅーと空気が抜けるような呼吸をしていた。


 直ぐに重体治癒の魔法をかけて回復させると、不安そうに見守っていた3人の女性達からも安堵のため息が漏れていた。


 他の女性の話によると、日暮れまで町に戻れないという理由で処分されたそうだ。


 それを聞いて俺は、踏みつけた男への憐憫が一切気にならなくなった。


 女性達の顔には疲労の色が色濃く出ているし魔素水も持ち帰りたいので、運搬用のゴーレムを作る事にした。


 そのついでに1体の人型のゴーレムも作っていた。


「お姉さまぁ、このゴーレムは何に使うのですぅ?」

「ああ、これはこうするのよ」


 そして前に封鎖されたパルラでやったとおり擬態魔法をかけた。


 人型ゴーレムの顔がみるみるうちにダミアーノの顔になっていった。


「お前はこれからアリッキ伯爵領の領都ブコトに行って、伯爵館を破壊しそこに居るアヴァティにこう言うのよ」


 そしてゴーレムに耳打ちしてから出発させた。


 そんな俺の顔をインジウムが覗き込んでいた。


「お姉さま、とおっても悪いお顔してますぅ」


 ジゼルを酷い目にあわされた報復はしてやらんとな。


 それにこれくらいの仕返しで許してやるのだから、俺は意外と優しい奴だと思うぞ。


 +++++


 アリッキ伯爵領の領都ブコトの伯爵館で、アヴァティは自分の執務室の中でアリッキ伯爵からの指示書を読んでいた。


 それによるとスクウィッツアート男爵領にパルラ辺境伯が来訪するので、決して手を出さずその行動を注意深く観察し、逐次報告するようにと書かれてあった。


 だが、アヴァティは知っていた。


 伯爵が自身の執務室の机の裏にあるカーテンで隠された壁に、アニスという女の裸婦画を額縁に入れて飾ってある事を。


 そして伯爵の言動からそのアニスという女の顔が、パルラ辺境伯と瓜二つであることを。


 それを考えれば伯爵がパルラ辺境伯という女性を手に入れたいが、自分よりも位が高く手が出せない事を悔しく思っている事など容易に察しがついた。


 そう考えるとスクウィッツアート男爵領に触手を伸ばすのは、少しでも序列を上げて思い人に近づきたいと思っている事は明らかだった。


 やれやれ、恋慕とは人を狂わすものだな。


 そんな事を考えていると、突然執務室の扉が開いた。


「誰だ?」


 アヴァティが誰何すると、男が姿を現した。


「ダミアーノ、いや、お前は誰だ?」


 そいつはダミアーノそっくりの顔をしているが、俺の目は騙されん。


 今も目の前の男は握力で壁を破壊して粉々にしているのだ。


 あの男にこんな力がある筈がないのだ。


「何をしている?」


 再び声をかけると、ダミアーノそっくりのそれは、にやりと口角をあげた。


「アヴァティ、アリッキ伯爵に伝えろ。今後スクウィッツアート男爵領に手を出したら、この館だけでは済まないとな」


 そういうとダミアーノそっくりの男は、恐ろしい怪力で館を破壊し始めたのだ。


 門番やら力自慢の使用人に命じて何とか止めようとしたが、全く歯が立たずなすがままの状態になったのを見て、門番達に剣を抜く事を許可した。


 だがダミアーノそっくりの男は剣を抜いた門番達を薙ぎ払い、放り投げ、館の破壊を続けたのだ。


 もはや何をやっても止められないと悟ったアヴァティは、絶対に守らなければならない物を取りに向かった。


 そう、アリッキ伯爵が愛してやまないアニスの絵だ。


 アヴァティには勝算があった。


 あの絵だけでも無傷で確保できたら、自分はアリッキ伯爵に咎められないだろうという事を。


いいね、ありがとうございます。

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