11―36 目的の場所
俺達は魔法国の永久機関から逃げながら、次の手を考えていた。
魔法書が置いてあった場所に居たアレと同じならエナジードレインで吸収してしまえば良さそうだが、それには天井に無数に存在するあの虫が邪魔だった。
あの虫から魔素を供給されていては、エナジードレインの効果がかなり阻害されてしまうだろう。
それならこちらの方が移動速度は上だから逃げてしまうか?
そんな事を考えていると、インジウムが声を上げた。
「お姉さまぁ、あれを見て下さい。グラがいましたよぅ」
そしてインジウムが指さしたのは、透明な永久機関の中にある黒い物体だった。
ああ、やっぱり食われていたか。
それなら供給源を断って救出するしかないな。
「インジィ、天井の虫を叩き落して」
「はあぃ」
そしてインジウムが天井近くまで移動して、天井に張り付いている虫をはたき落としていった。
俺は落ちてきた虫を袋の中に入れて、永久機関がエネルギーを補充できないようにしていった。
これで魔素補給を阻害できるはずだ。
振り向くと気のせいか、スピードが遅くなったように感じた。
そして一杯になった袋を前方に放り投げると、インジウムとともに方向転換した。
「インジィ、グラファイトを救出するわよ。付いてきて」
「はあぃ、頑張りますぅ」
そして迫って来る永久機関にダイビンググローブを付けた左手で触れると、思いっきり魔素を吸収していった。
魔素を吸収された部分は白く濁りはじめていた。
その白くなった部分をインジウムが思いっきり殴りつけると、粉々に砕け散った。
その作業を繰り返し行っていくと、ようやくグラファイトと思われる黒い物体に手が届く場所まで辿り着いた。
「インジィ、グラファイトを引っ張り出して」
「はあぃ」
そして引っ張り出されたグラファイトは、膝を抱えて丸くなったまま停止していた。
「グラファイト、再起動しなさい」
俺が命じると直ぐにグラファイトが起動した。
「ああ、大姐様、ご無事なお姿を拝見できてうれしく思います」
「グラファイトも、無事で良かったわ」
俺はグラファイトの肩を叩くと、2人に声をかけた。
「それじゃあ、こいつが動き出す前にここから脱出するわよ」
「はい」
「はあぃ」
魔法国の永久機関は体の半分以上を失っていたが、もう自己修復が始まっているようだった。
こいつを完全に破壊してからゆっくり出口を探したほうが良いか、それとも覚えたばかりの転移魔法で逃げた方が良いか。
どっちにしようかと悩んでいると突然目の前が光り、見覚えのある物体が現れた。
現れたのは体長30cm程の人型で、背中には2枚翅があり、その翅は根本が白く先端に行くほど緑色が濃くなり、黒色の放射状に延びる等間隔の線があった。
もう3回目だと、何も言われなくても相手の正体は直ぐに分かった。
「驚いたわ。掃除機が壊れたから様子を見に来たら、こんな所に訪問者が居るなんて」
「初めまして、私はユニス・アイ・ガーネットよ」
「え、あ、私はアムよ。ねえ、どうしてここに訪問者が居るの?」
ここに魔法国の人口精霊が居るという事は、ここが歴史書に記載のある魔法国の遺構で間違いなさそうだ。
それにしても今度はアムか。
ロム、ラムに続いてアム、アム、う~ん、AND型フラッシュメモリー? ちょっと苦しいか。
いや、今はそんなあほな事を考えている暇はないぞ。
「塔の罠にはまってここに落ちてきたのよ。ところでアムちゃん、ここは魔法国の施設なの?」
「ええ、ここは訪問者さんとお別れする場所だよ」
別離の場所?
まさか、処分場か何かなのか?
エリア51のように研究材料にされたりして?
俺がその言葉を聞いて身構えたのを見た人口精霊は、慌てて両手を突き出して左右に振っていた。
「あ、違うわよ。ここは魔法国の出発の塔よ。訪問者は元の場所に帰るから、お別れの場所って意味よ」
それを聞いてやっと日本に帰る手段が見つかったと安堵したのだが、それと同時に寂しさも感じていた。
「ねえアムちゃん、元の場所に帰る魔法陣は何処にあるの?」
「塔の中よ。あ、案内してあげようか?」
俺はその提案に乗る事にした。
「ええ、よろしくお願いします。ところでこの掃除機? という物を壊しちゃったけど賠償とかしないと駄目かな?」
俺が魔法国の永久機関を指さしながらそう言うと、アムはこちらに向けた掌を左右に振った。
「いいえ、この程度なら自動回復するから問題ないわよ。でも後で自動回復した掃除機を動かすのを手伝ってほしいかな」
「ええ、分かったわ」
どうやら怒られる事はないらしい。
俺達はアムの後を追ってトンネル内を移動していくと、とある壁の前で停止した。
「ここよ。この壁に触ってみて」
アムに指定された壁に手を触れると、その部分が扉の形に液状化した。
俺は両腕でグラファイトとインジウムの体を抱き寄せると、横向きになって液状化した扉の中に入っていった。
液状化する扉の先には石階段があり、それが上の方に続いていた。
アムは何の注意もすることなく、浮かんだまま登り階段を上がっていくので、俺も老朽化した階段で足を踏み外さないように、同じように飛行魔法で浮き上がってアムの後を追った。
次に現れた液状化する扉の向こう側にはすり鉢状になった円形の広い部屋があり、中央にある円形の空間からスタジアムのような階段席がせり上がっていた。
「ここは待機室。転移装置の準備が整うまで、ここで待つ事になるわ」
そして階段席の最上階の通路の先にある凝った彫刻を施された扉を開けると、その部屋の中央に帰還の塔で見たのと似た魔法陣が床に描かれていた。
「ここが目的地に行くための部屋よ。訪問者は元の場所に戻る事になるわ」
そう言われて自分の保護外装を見た。
「この保護外装は勝手に解除されるの?」
「ああ、この部屋に入った先に門があるでしょう。あの門で保護外装が自動的に解除されるのよ」
アムが指さす先には、空港にあるような金属探知機みたいなゲートがあった。
「あ、でも、ここは環境対策していないから、勝手に中に入って保護外装が解除されると大変よ。中に入るのは帰る時だけにしてね」
そう言われて中に入ろうとした足を止めた。
今強制的に保護外装を解除されたら日本に帰るしか方法が無くなるし、そうなったら急に消える事になるから他の皆に迷惑をかけてしまうな。
それに今は手元に換金できる物を何も持っていないので帰る意味も無い。
そこで今気になっているビルスキルニルの遺跡との違いについて質問してみる事にした。
「ねえ、帰還の塔では環境対策しているのに、どうしてこっちはしていないの?」
「門をくぐったら直ぐに魔法陣から元の世界に帰るんだから、問題ないんじゃないの?」
まあ、そう言われてしまったら確かにそうなんだが、なんとなく魔法国人の性格がおおざっぱな気がしてきたぞ。
それにしても帰還の塔と出発の塔では、警備が全然違うのは何故だ?
「ねえアムちゃん、この施設はどうしてこんなに厳重に警備されているの?」
「あ、それは魔法国の方針みたいね。こちらの人間が勝手に別の場所に行かない用心みたい」
確かに塔の姿が見えていたら俺みたいな人間が中を調べたいと思うし、勝手に入って飛ばされたら二度と戻って来られないだろうな。
「あ、それと帰還の塔の方は、歓迎されない人達が来たとしても勝手に外に出て、勝手に死んじゃうでしょう」
確かに、この地の環境に適用できていなければ生命を維持できないだろうし、仮に出来たとしてもあの魔物だらけのヴァルツホルム大森林地帯を生き延びるのは難しそうだ。
そう考えると、なんであんな場所に帰還の塔があるのか納得してしまった。
だが、瘴気が拡大している事は何とかしないとな。
「出発の塔を外部と遮断している瘴気の雲が拡大しているんだけど、消せとまでは言わないけど、もう少し抑える事は出来ないの?」
「私には無理ね」
やっぱり無理なのかと諦めかけたところで、ふっと、アムが「私には」といった事が気になった。
私にはとは、他の人なら出来るという意味なんじゃないのか?
「それなら私が代わりにする事は出来るの?」
「ええ、それは出来ると思うわよ」
あ、危なかった。
アムの言動に違和感を覚えていなかったら、瘴気の調整が出来ないと勘違いするところだった。
アムの話では塔から放出される瘴気は塔の内部で生成されるのだが、その放出量は魔法国人が調整していたそうだ。
既に滅びた魔法国人には調整など出来るはずも無いので、俺がその役割を肩代わりすることにした。
アムと向かった場所では、瘴気の生成場所から塔の先端へ瘴気を送る送煙管、いや、煙を送っている訳ではないから送瘴管? なんかそんな感じの石造りの煙路に取り付けられた円形に膨らんだ部分だった。
その円形の中にはターンテーブルが設置されており、これを回転させることで瘴気の量を調整する仕組みになっているんだとか。
「アムちゃん、あの回転台を少しずらして瘴気の量を調整すればいいのね?」
「ええ、そう。私にはアレを動かす事は出来ないからね」
俺はグラファイトとインジウムに手伝ってもらって、重い回転台を動かして塔に送られる瘴気の量を調整した。
「ふう」
アムの話だと瘴気を完全に止める事もできるそうだが、そんな事をしてこの塔が白日の下に晒されたらあのバスラー卿がここで何かするか不安だったので、少し放出量を抑えるだけで止めておいた。
これでアージアも助かるだろう。
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