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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―33 悪魔の山

 

 男爵領の村々の見学を終えてアージアと一緒に男爵館に戻って来ると、夕食の席で今日の出来事について話しているとアージアの母親が質問してきた。


「ガーネット卿に高濃度の魔素水を作って頂いたとのことですが、これで領内の食糧問題は解決したとみて良いのでしょうか?」


 土地に含まれる魔素量不足が原因ならこれで解決するだろうが、悪魔の山が影響しているのなら多分無理かもしれないなぁ。


「悪魔の山を調べてみないと、何とも言えませんねぇ」


 俺がそう言うと、アージアの母親は失望した事を隠す為顔を伏せた。


「あの、お恥ずかしい話なのですが、代金は分割払いでもよろしいでしょうか?」


 アージアが自領の懐具合を心配するように尋ねてきたので、俺がそれに首を横に振った。


「魔素水の対価は、悪魔の山の調査許可ですよ」


 俺がそう言うと、驚いたように顔を上げた。


「え、あの」

「他に対価は必要ありません」


 2人はお互いを見つめ合ってそれが対価になるのかという顔をしているが、悪魔の山には魔法国が隠したがっていた秘宝が眠っているはずであり、それは何物にも代えがたい報酬なのだ。


 俺がそう言って平然としていると、ようやくアージアが口を開いた。


「分かりました。それでは悪魔の山の調査をお願いします」

「ええ、お任せください」



 翌朝朝食を終えると、男爵領に来るとき上空から目撃していた黒い塊に向けて出発することにした。


「ねえ、本当に1人で行くつもり?」


 ジゼルが心配そうな顔でそう聞いてきたが、これはどうしても1人じゃないと駄目なのだ。


 それにジゼルには、他にやってもらいたい事があった。


「1人じゃないわよ。グラファイトとインジウムを連れて行くわ。それよりも悪魔の山は瘴気が強そうだから、ジゼルには別の事をしてほしいのよ」

「本当に?」


 ちょっとジゼルさん、そんな疑わしそうな顔をしないでくれる?


 それから絶対に魔眼で見ないでね。


「・・・分かったわ」


 ジゼルはちょっと不満そうな顔をしていたが、了承してくれた。


 ふう、あぶなかった。


 初見の場所にはどんな危険があるか分からないし、それに財宝を見つけて喜々としてそれをかっぱらう姿は、ちょっと見られたくないからなぁ。


「それじゃあ行って来るわね。ジゼルの方も頼んだわよ」

「うん、分かった。ユニスも気を付けてね」


 ジゼルには昨日訪れた村の監視を頼んでおいた。


 昨日訪問した時、少し離れた場所から村を監視する連中が居たのを目撃していたからだ。


 何かしてくるとは思えないが、連中が何か違う動きをしたらジゼルに教えてもらうつもりだった。


 グラファイトとインジウムを連れて上空に舞い上がると、上空からは直ぐに悪魔の山が見えてきた。


「お姉さまぁ、あの黒い塊に向かうのですかぁ?」

「ええ、そうよ」

「内部がどうなっているのか、さっぱり分かりませんよぅ」


 インジウムの指摘の通りだと思い魔力感知を発動してみたが、反応は全く無かった。


 その黒い塊を見ていると、なんだがガスの塊にも見えてきた。


 ガスと言えば、ガス惑星である木星にレーダーを当てても全く映らず、映るのは4つの大きな衛星だけという事を聞いたことがあるが、これもそうだとするとあの黒い塊の中は何もないという事も考えられるのか。


「大姐様、これからあの瘴気の中に入るのでしょうか?」

「ええ、空間障壁を展開するから2人とも私の傍に来てくれる」

「はい」

「はあぃ」


 ガス惑星の中は中心にいくほど圧力が強くなり潰されてしまうが、あの塊は木星と比べたらはるかに小さいから潰される程の圧力は無いだろう。


 だが、危険そうなら途中で引き返す事も考えておいた方がいいな。


「それじゃあ突入するわよ。何かあるかもしれないから注意してね」

「はい」

「はあぃ」


 上空から瘴気の中に降下していくと、直ぐに周囲が暗くなった。


 真っ暗な瘴気の中は、暗視魔法を使っても何も見えなかった。


 瘴気の中ゆっくりと降下しているはずなのだが、何も見えないので本当に降下しているのか分からなくなってきそうだった。


 これが夜間飛行する操縦士に起こる、空間識失調なのかもしれない。


 それでも重力制御魔法を操作してゆっくり降下していくと、下の方がぼんやりと明るくなってきた。


 そして瘴気の雲を突き抜けると、そこにはピラミッドを途中ですっぱり切ったような台形の構造物が眼下にあった。


 それは天井の中央に細長い塔がそびえ立ち、先端から黒い煙を吐き出していた。


 その黒煙はまっすぐ上空に延びて行くと、やがて瘴気の一部になっていた。


 この魔法国の遺構は、まだ生きているように見えた。


 こうなると盗賊避けの罠も元気一杯で稼働している可能性が高かったので、用心のため少し離れた場所に降りる事にした。



 地面に着地すると、早速偵察用ゴーレムを作っていった。


「お姉さまぁ、これで何をするのですかぁ?」

「ああ、この偵察用ゴーレム達であの遺跡の入口とか罠を探すのよ」

「えぇ、そんなのぉ、私が見つけてきますよぅ」

「偵察には人手がいるからこの方が効率的よ」


 それにインジウムが罠にはまったら、助け出すのが大変そうだしな。


「え、ちょ、インジウム?」

「どうせぇ、私じゃぁ、お姉さまのお役に立てないのですねぇ」


 何で、オートマタがいじけるんだよ。


 錬成で作った偵察用ゴーレムを魔法国の遺跡に向かわせている間、俺は両人差し指を押し付けていじけているインジウムの機嫌を取る事に費やされた。


 そしてインジウムの機嫌を取っていると、十数体の偵察用ゴーレムからの反応が消えていった。


「偵察用ゴーレムが倒されているわね」

「え、じゃあ、私が偵察しましょうかぁ?」


 インジウムの機嫌も直った事だし、偵察用ゴーレムの反応が消えた理由を調べてみるか。


 俺達は、地面から僅かに浮いた状態で魔法国の遺跡に近づいていった。


 どこに罠があるか分からないので、地面を踏むわけにはいかないのだ。


 そして反応が消えた偵察用ゴーレムの残骸を探したが、それらしき痕跡が何処にもなかった。


 破壊された破片でも残っていれば罠の存在も分かると言うのに、これでは何も分からないではないか。


「おかしいわね。偵察用ゴーレムの痕跡が何処にも居ないわ」

「そうですねぇ」


 遺構の壁はピラミッドのように石が積み上げられた構造になっていて、どこにも入口らしき窪みも隙間も無かった。


 それと侵入者を排除するための番人のような姿も無かった。


 こうなると残りは、瘴気を排出している塔しか考えられなかった。


 石の斜面も危険なので、飛行魔法で天井まで上昇して遺構の天井ぎりぎりで滞空すると、天井部分を構成している石材を目視で調べてみた。


 石材には表面に凹凸はあるが、入口らしき構造は見られなかった。


「う~ん、いかにも入口といった構造物は無いわね」


 こうなったらピラミッドの盗掘犯のように、無理やり壁に穴を開けてしまう事も考えた方がいいかもしれないな。


「お姉さまぁ、お困りですかぁ?」


 俺がどうやって中に入るか考えていると、インジウムがそんな事を言ってきた。


「目視だけだと流石に難しいわね」

「じゃあグラ、ちょっと降りてみて」


 そう言うとインジウムはグラファイトと蹴飛ばしていた。


 制止する間もなく遺構の天井にグラファイトが足を着けると、硬い石材だと思われていた天井に飲み込まれていった。


「え?」


 グラファイトが罠にかかり飲み込まれていく姿を見て慌てて手を伸ばしたが、グラファイトはその手を掴むことなく俺の荷物を押し付けてきた。


「お姉さまぁ、入口がありましたぁ」


 いや、見ていたから分かるが、あれはどう見ても入口じゃなくて罠だろう?


 柔らかくなった岩の中に消えて行ったグラファイトを探す為慌てて魔力感知を発動したが、魔法が無効化されているのか全く反応が現れなかった。


 俺はグラファイトが押し付けてきた荷物を腰に巻き付けると、グラファイトが自力で脱出してくるのを待っていたが、全くその気配が無かった。


 どうやらグラファイトはのっぴきならない状況に陥っているようだ。


「インジィ、グラファイトを助けに行くわよ」

「え? はあぃ」

「それから勝手に行動しちゃ、駄目だからね」

「てへっ」


 どうも反省しているようには見えないが、今はそれよりもグラファイトの事だ。


 そしてグラファイトが消えた場所の上空でぎりぎりで滞空すると、片足で天井をつついてみた。


 足先で触れた石材は、グラファイトの場合と同じようにその瞬間揺れて液状化すると、しばらくして再び固くなったようだ。


 これが魔法国の不思議素材という事か。


 そう言えばこの保護外装も際限なく魔素を集めるので相当な質量になる筈なのに触ると柔らかいというのは、この不思議素材と似ているのかもしれないな。


 試しにもう数か所同じような行動をしてみたが、どこも同じ状態だった。


 だが、中央の瘴気を発生させている塔の根本付近を試してみると、そこの石材は変化しなかった。


 石材が変化しない床に着地すると、中央の塔の壁面を調べる事にした。


 すると俺の体が淡い光に包まれたのだ。


「わぁぁ、お姉さまぁ、とおっても綺麗ですぅ」


 この現象は、前にも見たことがあるぞ。


 そして周囲を見回すと予想通り目の前の空間が歪んでいた。


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