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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―31 無礼講の集まり4

 

「スクウィッツアート卿、その災害というのは具体的にどのような事象なのでしょうか?」


 急に俺が食いついてきたので、アージアはちょっと驚いているようだった。


「え、あ、あの、実は、領内に悪魔の山というのがありまして、そこから溢れ出る瘴気を抑えられなくなっているのです」

「最近はその瘴気が我が領にも悪影響を及ぼしているがな」


 アージアの説明に、トドがまた口を挟んできた。


 悪魔の山ねえ。それに瘴気?


「スクウィッツアート卿、悪魔の山とはどんな外見をしているのですか?」

「お前達スクウィッツアート家の者は誰もかれも瘴気をまき散らす巨大な黒い塊を、何故悪魔の山と呼ぶのだ? 山の形もしれおらんではないか。さっぱり分からん」


 俺の質問に答えたのはアリッキ伯爵だった。


 黒い塊?


 それって、歴史書に記載のある魔法国の立ち入り禁止区域で見たという黒い塊の事なんじゃ?


 これは確かめてみる価値が大いにあるぞ。


「ガーネット卿、悪魔の山の外見は半円形の黒い塊です。それとアリッキ卿、いくらぶれいこうの席とは言え、ガーネット卿への言動は非礼ではありませんか?」


 アージアの注意にトドはふんと不満そうに顔をそむけたが、俺にとってはもうそんな事はどうでもよくなっていた。


「スクウィッツアート卿、ひょっとして前から私を招待してくれていたのは、その件の相談だったのですか?」

「はい、お恥ずかしい話ですが、優秀な魔法使いであるガーネット卿なら、何か良い案を思いついてくれるのではないかと思ったのです」


 俺は頭を抱えた。


 この話を早く聞いていれば、もっと早く魔法国の秘密を暴けたのではないのか?


 いや、あおいちゃんが歴史書を読んで指摘してくれていなければ、これが魔法国の遺構だと気付いていなかったから意味ないか。


「スクウィッツアート卿、是非その悪魔の山を見学させて下さい」

「え?」

「はぁ、ガーネット卿、繊細な貴女があんな瘴気だらけの土地にいったら病気になりますぞ」


 このトドは、少しは空気を読んで黙っていてくれないかな。


「ちょっと調べてみるだけです。それに私は意外と頑丈なのですよ。スクウィッツアート卿、どうですか?」

「は、はい、よろしくお願いします」


 よし、これで調査ができる。


 万が一そこに魔法国の重大な秘密があるのなら、どうしても調べてみたい。


 ああ、俺も新しいおもちゃを見つけて心がウキウキしているな。


 これでは、あおいちゃんを笑えないぞ。


 そんな俺のにやけ顔に声をかけた人物がいた。


「随分と楽しそうじゃな。ガーネット卿」


 声がした方を見ると、細身にぴったりな豪奢な服を纏った白髪の男性が立っていた。


「貴方は?」

「儂はラファエル・クレーメンス・バスラーじゃ。公国の宰相職についておる。普段領地から出てこないガーネット卿とは、あまり接点が無いので知らないのも無理はないな」


 いや、公都をうろちょろしていないから引きこもりと勘違いされているようだが、教国や王国それにヴァルツホルム大森林地帯とか積極的に外出していますよ。


「バスラー卿、丁度良い所にいらっしゃいました。今、スクウィッツアート男爵領併合の話をしていたのです」


 トドがそうバスラー卿に話しかけると、一瞬顔を顰めていた。


「ああ、アリッキ卿から提出されていた合併申請じゃが、ディース教会が認めたスクウィッツアート卿との婚姻許可証が無いと認められんぞ」

「なあに、そんなに難しくはありません。あの死にかけの領地を立て直すには、私との婚姻による救済合併しか方法が無いのですからな。はっはっはっ」


 すると女男爵が椅子から立ち上がった。


「宰相閣下、お待ちください。ガーネット卿に我が領地を調べてもらえる事になりました。状況によっては持ち直せるはずです。もう少し時間を頂きたく、お願いします」

「ほう、流石はガーネット卿ですな。あの悪魔の山の瘴気も何とか出来るとは、その魔法使いとしても実力は底がみえませんな」


 アージアの提案を聞いた宰相は、俺の方に顔を向けるとにやりと笑みを浮かべた。


 その顔を見た途端、隣のジゼルが息を飲む音が聞こえた。


「まだ見ていないので何とも言えませんが、調べてみる価値はあると思いますよ」

「ほほう、あの黒い塊の中に何があるのか、とても楽しみですな」

「ちょっと待って頂きたい」


 俺とバスラー卿が話を進めているのが面白くなかったようで、トドが口を挟んできた。


「アリッキ卿、どうかなされたのか?」


 宰相が涼し気な顔で聞き返すと、トドは顔を真っ赤にして反論していた。


「バスラー卿、ガーネット卿が何かする事によって、我が領に瘴気が流れてくると困るのです。ガーネット卿も、事前に私の許可を取ってもらわねば困りますぞ」


 前もってそんな事を言って来るという事は、もしかして邪魔をするつもりか?


「調べてみる前からそのような事を言われても困りますね。隣領に影響がありそうな時は事前に相談しますので、それでよろしいですよね?」


 トドは何やらもごもごいっていたが、バスラー卿に促されるとしぶしぶ「頼みましたぞ」と言って他の席に移っていった。


「それでは結果を楽しみにしておりますぞ」


 そう言うと宰相も他のテーブルに移っていった。



 宰相が見えなくなると、直ぐにジゼルに質問した。


「ジゼル、バスラーという男、魔眼で見たのね?」

「ええ、あの男は危険よ」


 ジゼルがそう言うのならそうなのだろう。


 あの男、黒い塊の中から魔法国の兵器でも出てきたら絶対悪用しそうだな。



 その後もアッスント伯爵がやって来て、パルラに送り込んできた3男をネタにした腹の探り合いをしたり、パルラが繁栄した手法を手に入れようと探りを入れてくる貴族達をいなしながら、時間が過ぎるのを辛抱強く耐えていた。


 そしてパーティの終わりを告げる鐘が鳴った時には、絶え間なく襲来する腹黒い貴族達の精神攻撃でHPが0になった気分だった。


「ふぅ、やっと終わったわ」

「ふふ、お疲れ様。それにしても凄かったわね。ヴァルツホルム大森林地帯で魔物狩りをやった時の魔物の暴走を思い出したわよ」


 ああ、パルラを封鎖されて食料確保に森に入った時の事か。


 ベイン達がボロボロになっていたな。



 その日の夕方公城でジュビエーヌ達との夕食の席で、俺はスクウィッツアート男爵領に行くことを伝えた。


「スクウィッツアート男爵領にある悪魔の山を調べてこようと思っているの」


 俺がそう言うとジュビエーヌは食事の手を止めた。


「そう、スクウィッツアート男爵家は由緒ある家柄で、なんでも初代様が直接悪魔の山の管理を任せたそうよ。現男爵になってから手が負えなくなっているとも聞くわ。元々はバルバリ丘陵の戦いで、スクウィッツアート男爵家の者達がことごとく戦死してしまったのが原因でもあるの。その事に関しては王家も引け目を感じているから、ユニスが何とかしてくれるのならとても嬉しいわ」

「ええ、任せておいて」


 そしてジゼルが危険と言ったバスラー卿の事を聞いてみる事にした。


「それと、今の宰相はどんな人なの?」

「バスラー侯爵の事?」

「ええ、宰相になった経緯とか教えてほしいわ」


 ジュビエーヌはちょっと考えていた。


「私も詳しい経緯は知らないんだけど、お母様であるラヴィニア・ビーチェ・サン・ロヴァルが大公をしている時に宰相に任命されたの。有能で悪い噂も聞かない事から、そのまま宰相職を任せているわ」

「へえ、有能な男なのね」

「ええ、とても助かっているわ」


 すると公国やジュビエーヌにとっては有能な人物なのか。


 大方選民思考が強い人間至上主義者で、外見上エルフな俺という異物が公国に紛れ込んだ事を良く思っていないといったところか。


 それならジュビエーヌには何も言わず、セレンとテルルにだけそれとなく注意するように命じておく程度でよさそうだな。



 翌日、公都にあるスクウィッツアート男爵館に向かうと、そこにあったのはかつて綺麗だっただろう寂れた猫の額ほどの庭と小さな館だった。


 玄関で向かい入れてくれたのはこれまたくたびれた執事服を着た老人で、ちょっと耳が遠いようなので少し大きな声で話す必要があった。


「私はユニス・アイ・ガーネット、こちらは友人のジゼルよ。スクウィッツアート卿に取次お願いね」

「承っております。ようこそおいで下さいました。どうぞ、中にお入り下さい」


 館の中は、所々傷んだ壁や床板がメンテンナンスされずに残っていた。


 そんな状態を見て、日本にあった俺の店も客の目に触れない場所はこんな感じだったなあと思い出していた。


 そして通された部屋で待っていると、アージアと老齢の女性がお茶を持って現れた。


「ガーネット卿、ジゼルさん、このようなあばら家でちょっと恥ずかしいのですが、来ていただきましてありがとうございます」

「いいえ、特に気にしていませんよ」


 館のこの状況を見ても、アリッキ伯爵が言っていたとおり領地運営がうまくいっていないのが見て取れた。


 これはかなりのテコ入れが必要だな。


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