11―27 新たな手掛かり
アニカ・シャウテンとドワーフ国の移転計画について合意すると、その内容を記した書面を作成した。
「それじゃこの手紙を持ってドワーフ国に戻ってね」
バラシュは手紙を受け取ると、それが危険な物かのように親指と人差し指でつまんでいた。
「なあ、お前さん、この中に書いてあるのは金鉱脈の要求だけじゃよな?」
俺はそれには答えず、にっこりと微笑んでやった。
バラシュはじぃっとこちらを見ていたが、俺がそれ以上何も言わないと諦めたのか、手紙を懐に収めた。
そして帰り際シャウテンにドゥランテの事を聞く事にした。
「あ、そうそう、ドゥランテは今何処に居るの?」
シャウテンは俺がドゥランテの事を聞くと、一瞬驚いた顔になった。
「えっと、あの男は我が国を危険に晒した罪で本国送還になりましたが?」
確かフリン海国の本国って違う大陸だったな。
「そのドゥランテに聞きたい事があるのだけれど、問い合わせする事は可能ですか?」
俺がそう尋ねると、シャウテンはとても困った顔になった。
「申し訳ございません。あの男は本国送還中、帰還船が海獣に襲われたらしく行方不明になっています。私見ですが絶望的ではないかと」
「えっ」
それじゃあ歴史書のページが切り取られた理由と、何が書かれていたかという内容は永遠に分からないという事か。
がっくりと肩を落としてシャウテンの店を出ると、バラシュはそのままドワーフ国へ、俺はクマルヘムを経由してパルラに帰る事にした。
上空から見えるパルラの町は何時もと変わらないように見えたが、領主館の前に降下すると、そこではビルギットさんとビアッジョ・アマディが待っていた。
「ユニス様からの連絡で、大慌てで人間達への周知徹底と獣避薬の服用を触れ回りました。まあ多少は問題がありましたが、概ね何とかなりました」
「流石はビアッジョね。ご苦労様でした」
俺がビアッジョの労をねぎらったというのに、この男は不満を口にしてきた。
「ところでユニス様、毎回このような状況になるといい加減私も対処に困るのです。ユニス様はこの状況は自分で何とかすると言っていましたが、それは何時なのでしょうか?」
ああ、そうか、それは連絡蝶で知らせていなかったな。
「もう安心していいわよ。獣人達の問題は完治できたから、今後獣人が狂化する事は無いわ」
「それは本当なのですか?」
ビルギットさんはそう言って俺の手を掴んできた。
普段はこんな事は絶対にしそうもないビルギットさんの行動に、かなり気が動転しているのが分かった。
「ええ、もうビルギットさん達が狂化することはないですよ」
「では、もう安心してよろしいのですね?」
「ええ、大丈夫です」
ビルギットさんがほっと一安心したところで、今度はビアッジョが賛意を示してきた。
「流石はユニス様です。それでは獣避薬はもう必要無いという事ですよね?」
「ええ、そうです」
ビアッジョとビルギットさんが安心して館に戻っていくと、俺達も一旦解散することにして、俺はあおいちゃんにアマル山脈での出来事を教える事にした。
お茶を入れたポットを持ってあおいちゃんの部屋をノックすると、直ぐに「入って」と返事が返って来た。
部屋に入ると、あおいちゃんは相変わらず歴史書とにらめっこしていた。
「あおいちゃん、そんなに根を詰めてないで一服しようぜ」
そう言って、空いているテーブルの隙間にカップを置くとお茶を注いだ。
するとそれまで歴史書にかぶりついていたあおいちゃんが、鼻をひくひくしながら顔を上げた。
「あら、神威君にしては気が利くじゃない。丁度喉が渇いていたところなのよ」
それなら自分でお茶を用意すればいいじゃないかとは思ったが、それは絶対に口にしてはいけないのだ。
お茶を飲み一息ついたあおいちゃんが、話しかけてきた。
「そう言えば、アマル山脈はどうだったの?」
「ああ、それなら」
俺はあおいちゃんにアマル山脈にあったのは試験の塔だった事と、魔法図書館で教えてもらったアル・メナム・エンキの実験を実行して獣人の狂化を治した事を話した。
「ふうん、じゃあ獣人達の暴走はもう無いのね」
「ああ、クマルヘムも確かめてきたが、問題なさそうだ。試験の塔の場所を教えるから、時間が取れたら調査でもしてきたら?」
「そうね。歴史書の解読がある程度済んだら行ってみるわ。ねえ、それよりもこれを見て」
そう言ってあおいちゃんは、嬉しそうな顔で歴史書を差し出してきた。
あおいちゃんが指を差す記述を読むと、魔法国が人間達を立ち入り禁止にしていた場所があるようだ。
しかも好奇心にかられた子供が中に入ろうとして見つかり、公衆の面前で折檻されたという記述もあった。
「ねえ、立ち入り禁止にしてまで隠すものって、ちょっと興味が湧かない? どんな施設で、何が隠されているかって。神威君はなんだと思う?」
何だと言われても、こういった時のお約束といったら軍事施設とかじゃないのか?
だが、あおいちゃんがまた子供が新しいおもちゃを貰った時のようなとても嬉しそうな顔をしているので、ここは一発かましてやるのが礼儀というものだろう。
「俺ならエリア51だな」
どうだと親指を突き出してみたが、あおいちゃんの顔からみるみるうちに笑顔が消え急に冷めた顔になると、それまでのハイテンションもダダ下がりになっていた。
あれ、すべった?
「まあ、この世界の人達からみたら、地球人である私や神威君は確かに宇宙人よね。だからと言ってエリア51は無いでしょう」
どうやらあおいちゃんはお気に召さなかったようだが、そんなに否定しなくてもいいじゃないか。
「そうかなぁ? 極秘施設といったらエリア51が定番だろう? まあ、これは男のロマンかもしれないけど」
「男じゃなくて、神威君のロマンでしょう。前にも酒に酔ってそんな話していたけどよっぽど好きなのね。でも、そうじゃなくて、未発見の遺跡といったら古代文明の情報が記されたヒエログリフとか、秘匿された財宝を思い浮かべるでしょう?」
あおいちゃんは人差し指を突き出し頬を膨らませて、不満をあらわにしていた。
まあ確かに滅んだ古代の遺跡から出土するものなら、何だってお宝だな。
だが、それよりも気になるのは、立ち入り禁止区域内で見たというこの大きな黒い塊という記述だな。
これって何かの実験施設じゃないのか?
例えばニコラ・テスラの実験施設みたいに放電現象が発生していたら、かなり危険な場所だぞ。
まあ、仮にそんな施設だったとしても、流石に今も生きている訳ないか。
いや、待て、ここは魔法がある世界だし、禁忌の魔法でも研究していたんじゃないのか?
もしかしたら、新しい赤色魔法が手に入るかもしれないぞ。
これは是非とも確かめてみたい。
あおいちゃんもキュレーネ砂漠で「豊穣なる大地形成」の魔法を覚えてとても嬉しそうだったし、この世界で新しい魔法を探すのも面白いかもしれないな。
それからあおいちゃんとこの立ち入り禁止地区がどの辺にありそうだとか、どんなものが隠されているのかについて意見を出し合っていた。
そんな時ドアをノックする音が聞こえてきた。
「ビルギットです。ユニス様、いらっしゃいますか?」
「ええ、居るわよ」
「アイテール大教国の方が、着任挨拶に来られました」
ああ、リングダールが来たのか。
「分かりました。それでは1階の応接に案内してもらえますか?」
「はい、畏まりました」
ビルギットさんにそう答えてから、あおいちゃんを見た。
「連中、貸し出している歴史書の管理の為と言っているけど、本当だと思う?」
あおいちゃんは少し考えたが、直ぐに首を横に振った。
「怪しいわね。どちらかというと、それにかこつけたパルラの実態調査と神威君の動向調査って感じじゃないの?」
「やっぱり、そうだよねぇ」
俺は軽く肩をすくめると、厄介な移住者に挨拶するため部屋を後にした。
評価、ブックマーク登録ありがとうございます。
いいねもありがとうございます。




