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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―26 ドワーフ国移転計画

 

 グラファイトとインジウムに観音開きの扉を強引に開けさせると、人間達を警戒させないためフーゴを連れて中に入った。


「皆、そのまま聞いて、獣人の問題は解決しました。もう外に出ても大丈夫ですよ」

「外に獣人が居るがもう正気に戻っている、心配ない」


 俺とフーゴがそう言うと、1人の男性が前に出た。


「魔女様、獣人達は元に戻るのに2日は必要だと聞きました。本当に大丈夫なのですか?」


 この男はバンマールの外で見たな。 


 確かガビノとか言ったか。


 不安を感じている人間達には、多少の嘘を交えても安心させる必要があるな。


「ガビノさん、詳しいのですね。でも、大丈夫ですよ。獣人達の異常は私の魔法で全て完治しました」

「え、ええ、そ、そんな事が?」


 ガビノの顔には疑念と戸惑いといったものが張り付いていた。


 もう一押しだ。


 噓も方便と言うしな。


 こういう時はそれらしく見えるように堂々と嘘をつくのだ。


 俺は態と胸をそらし見下すようにガビノを見た。


「私を誰だと思っているのです? 私は最上級の魔法使いですよ。こんな事は朝飯前なのです」

「そうだぞ。俺はこのお方を間近で見てきたが、その凄さは本物だ。何も心配する必要は無い」


 おおフーゴ、ナイスフォローだ。


 人間達は戸惑っているようだったが、その中から1人の白髪の男が近づいてきた。


「魔女様、それは本当なのですね?」

「ええ、後ろを見てみなさい。皆元に戻っていますよ」


 白髪の男が俺の後ろを見て目を見開いていたが、直ぐに納得したようだ。


 振り返ると人間達に語り掛けた。


「皆、魔女様はこの大陸の半分を支配する偉大なる魔法使いだ。そのお力は計り知れん。もう大丈夫だぞ」


 その白髪の男の言葉を聞いて人間達は歓声を上げた。


 いや、出来れば俺の言葉で歓声を上げてくれないかなぁとは思ったが、まあ、結果良ければいいだろうと納得した。


 それじゃあ、メラスと赤熊を探しに行くか。


「フーゴ、此処を頼んだわよ」

「はい、お任せ下さい」



 そして待っていた白猫達とメラスと赤熊を探す事にしたのだが、それは直ぐに見つかった。


 目の前の酒場からやたら豪快な声が響いているのだ。


 酒場に入るとそこに赤熊とメラスそれにガーチップ達が居て、飲み比べをしていた。


「がははは、おい、メラスもう終わりか?」

「ふん、舐めてもらっては困るな。勝負はこれからだぜ」


 全く、人が心配して探しているというのに、なんてのんきな奴らなんだ。


「ちょっと貴方達、随分楽しそうね?」

「これは領主殿、一杯どうです?」

「こんな所でサボってないで、仕事したらどうなの?」


 俺が仕事しろと文句を言うと、酒場の皆はきょとんとした顔をしていた。


「頭を使う机仕事は、後ろの白猫達がやってくれてるぜ?」


 それを聞いて振り返ると、白猫と黒犬が微妙な顔をしていた。


 相当苦労しているんだろうなぁ。



 白猫達を連れて領主館に戻って来ると、そこでは先ほど会った白髪の男が待っていた。


「おかえりなさいませ」


 その男の顔に見覚えがあったが名前が出てこなかったので思い出そうとしていると、男の顔がみるみるうちに真っ青になったと思ったら体も震えてきた。


 すると、いつの間にか隣に来ていたジゼルに脇腹をつつかれた。


「ちょっとユニス、笑顔」

「え?」

「だから、え、が、お」


 ジゼルは俺の眉間に人差し指を当てた。


 どうやら必死に記憶を手繰り寄せている過程で、眉間に皺が寄っていたらしい。


 それにしても飛び込み営業の営業マンでも飲食店の店員でもないのにそんなにスマイルを要求しなくてもと思ったのだが、俺がそんなことを考えているのをジゼルはお見通しだった。


「最悪の魔女に睨まれたら、みんなあのような反応になるからね」

「あっ」


 俺は慌てて顔を整えると、敵意はありませんよとにっこり微笑んだ。


 だというのに、この男に引かれた気がするぞ。


 白髪の男性は気を取り直すると、俺に深々とお辞儀をした。


「魔女様、いつぞやは見逃していただきましてありがとうございます」

「あ」


 男の言葉を聞いて、ようやくこの男がモヒカ男爵館の執事だった事に気が付いた。


「驚いたわ。執事服を着ていないから分からなかったけど、確か王国に帰ったはずじゃなかったの?」


 俺がそう尋ねると、それに答えたのはこれまたいつの間にか俺の隣にやってきた白猫だった。


「ユニス様、実はこの男なかなか優秀なので私が勝手に雇いました。彼をこの町の代官補佐にして、後任を育ててもらおうと思っております。出過ぎた真似でしたら直ぐに解雇しますが?」


 そう言って白猫の顔は、こちらに探るような視線を送ってきた。


 まあ、優秀な人材は得難いので否はないのだ。


「白猫がそう判断したのならそれは尊重します。アマラント、これからもよろしくお願いするわね」

「は、はい、お任せください」



 ようやく落ち着いたところで、白猫と黒犬を誘ってお茶会をした。


「魔女様、どうぞお召し上がりください」


 俺の目の前にお茶を置いたのは、給仕服のお仕着せを着たメラスだった。


 優雅な仕草でお茶を用意してくれたのは嬉しいのだが、どうもその極悪な見た目が全てを台無しにしているんだよなぁ。


 お茶の用意が終わったところで、白猫が初見の男の事を聞いてきた。


「ところで隣のドワーフ族とは、どういった関係で?」

「こちらはバラシュさんです。大陸南のコルタカ山脈にあるドワーフ国が、北のアマル山脈に移転する計画があるの。それが実行された場合、クマルヘムはその中継地点になるから協力してほしいのよ」

「え、それでどのような協力が必要なのでしょうか?」


 白猫がそう聞いてきたので、バラシュの顔を見ながら答えた。


「そうねぇ、長期の移動になるから休憩所と飲食料それと消耗品の提供かな。ああ、移動手段は私がゴーレムを用意するわ」


 それを聞いたバラシュがこちらを見てきた。


「儂らの移転にも協力してくれるのか?」

「ええ、ついでにフリン海国にゴーレムの立ち入りを許可してもらえないか聞いてみてもいいわよ。そうすればフリン海国からアマル山脈の坑道まで、ゴーレムで送ってあげられるわ。貴方達も徒歩区間が減れば助かるでしょう?」


 バラシュはちょっと考えていた。


「お膳立てしてくれるのは嬉しいが、何か裏がありそうで怖いんじゃが?」

「ふふ、それは当然よ。私の要求には、ちゃんと答えてもらうわよ」


 俺がそう言うと、バラシュはごくりと唾を飲み込んだ。


「本当は聞きたくないんじゃが、その要求とやらは何じゃ?」


 よし、此処まで協力するんだ。絶対金脈はもらうぞ。


「私が欲しいのは金鉱山よ」

「金鉱山じゃと?」

「妥協はしないわよ」

「分かった。陛下に伝えてみる」


 お茶会を終えると、そっと白猫に質問した。


「ねえ、取り返してくれた歴史書にページが切り取られた跡があったんだけど、何か心当たりはない?」


 だが、白猫は首を横にふった。


「すみません。私達はただ依頼を受けて盗んだだけで、中身を見ていないんです。何かしたとしたらフリン海国のイゴル・ドゥランテだと思います」


 イゴル・ドゥランテかぁ。


 するとフリン海国に行く必要があるな。


 それならバラシュを見送りがてらフリン海国まで行ってみるか。



 フリン海国に入ると、ドワーフとエルフが連れ立って歩いている姿がよっぽど珍しいのか、すれ違うガタイの良い水兵達が必ず振り返ってきた。


 俺達はそのままアニカ・シャウテンが経営する店に入っていくと、バラシュは白ビールとツマミを俺はお茶と甘味を注文した。


 そして注文品に舌鼓をうっていると、早速部下を従えたアニカ・シャウテンが現れた。


「魔女様、こんなところで人目を忍んで逢瀬を楽しんでいるのですか?」

「ぶふぉ」


 アニカ・シャウテンの物言いに、バラシュが噴き出した。


「いや、いや、ドワーフ国の移転について貴女に協力をお願いしたいと思いまして、ここで待っていたのですよ」


 それを聞いたシャウテンは一瞬目を見開いたが、直ぐに元の顔に戻った。


「奥の個室で伺いましょうか」


 アニカ・シャウテンに誘われて奥の個室に移動すると、ドワーフ国の移転について相談した。


「成程、それで国内通過の許可が欲しいという事ですか?」

「ええ、そうなりますね」


 俺とシャウテンが話していると、バラシュが声を挟んできた。


「の、のう、儂らの移転話なのに、何故お前さんが勝手に仕切っとるんじゃ?」

「ドワーフ達がアマル山脈に戻るには、フリン海国から魔女領を経由する方が問題は少ないわよ。それとも他の国と交渉したいの?」

「い、いや、そうじゃないんじゃが。儂、なんだか置物みたいな気がしてのう」


 そう言って顎髭をしごいていた。


「話が進むなら、それでいいじゃない。そこで置物になっていてね」


 シャウテンはドワーフ国の移転に意外と協力的だった。


「まあ、この国に港建設にはドワーフの力を借りていますから、協力することに問題は無いでしょう」


 シャウテンとドワーフ国の移転案に概ね合意が成立すると、後はドワーフ国から正式な協力要請という形で実行することになった。


いいね、ありがとうございます。

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