表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
336/415

11―24 ジゼルの捜索

 

 試験の塔を稼働させると、直ぐにバラシュが待っている砦に戻った。


「バラシュ、私よ。中に入れて」

「おお、お前さんか、待っとったぞ。で、首尾は?」

「ええ、バッチリよ」


 俺がそう言って片目を瞑ると、バラシュも片目をつむりサムズアップしていた。


「おお、流石じゃのう」


 砦の中ではオーバンとトラバールが横たわっていた。


「いやあ、お前さんが戻って来てくれて本当にうれしいわ。お前さんが戻って来る前に意識を取り戻したらどうしようかと不安だったんじゃよ」

「迷惑をかけてしまったわね」


 そしてグラファイトとインジウムに頼んで、オーバンとトラバールを試験の塔から発せられる光が当たる場所まで移動させた。


 オーバンとトラバールに淡い光が当たっているが、これでもう大丈夫なのだろうか?


 考えてないで起こしてみれば分かる話だな。


「2人を起こすけど、万が一襲い掛かって来たら取り押さえてね」

「はい、お任せ下さい」

「はあぃ、余裕ですぅ」


 そして襲ってきても回避できるように、少し距離をとって2人の脇腹を足でつついた。


「おい、起きろ」


 何回かつついていると、意識が戻ったようだ。


「ううっ」っとうめき声を上げて目を開けると、その目は普段の色合いになっていた。


「ユニス様? おはようございます」

「姐さん、朝っぱらから何で脇腹を小突くんだ? ひょっとしてまた飯の調達か?」


 どうやら2人とも元に戻ったようだ。


 試験の塔から発せられる光の効果範囲が分からなかったのでビアッジョとフーゴ達に状況を問い合わせてみたかったが、今はそれよりもジゼルの捜索が最優先だ。


 今頃正気に戻って一人ぼっちで心細い思いをしているだけなら良いが、魔物に襲われて危険な目に遭っていたら大変だからな。


「オーバン、トラバール、2人とも寝ぼけてないでシャキッとしなさい。そして貴方達獣人の優秀な嗅覚を使ってジゼルを探すのよ」

「え、ジゼル殿がどうかしたのですか?」


 俺は事情が呑み込めていない2人に、自分達がどうなっていたか説明した。


「え、そんな事になっていたのですか?」

「あ、姐さん、すまねえ」

「理解できたのなら、皆で協力してジゼルを探すのよ」


 俺がそう言うと、トラバールとオーバンは周囲の広大な山脈地帯を見回していた。


「な、なあ、姐さん、魔力感知で探せないのか?」

「そうです、こんな広大な大地でジゼル殿を探すのは至難の業かと?」


 ここで議論している暇はないのだ。


 俺は2人の前に、ジゼルが着ていた上着を差し出した。


「ここは魔物だらけのアマル山脈よ。反応が多すぎでどれがジゼルか分からないのよ。理解できたのなら、さっさとジゼルの匂いをくんくん嗅いで追跡するのよ」

「くんくんって、俺は犬じゃないんだが?」

「ユニス様、女性の匂いを嗅いで後を追うって、ちょっと変質者みたいで誤解を受けそうで嫌なのですが?」


 文句を言う2人を両手で押しのけてバラシュが俺の前に来ると、得意そうに胸を張った。


「お前さん、こんな連中を頼るよりも儂を頼った方がいい。こうみえて儂冒険者やっとるから、足跡から追跡できるんじゃぞ」


 バラシュの得意そうな声に、慌てて2人が口を挟んできた。


「いやいやドワーフ殿、ここは私がユニス様から指名されたのですから、私に任せてもらいましょうか」

「ちょっと待て、俺が姐さんからお願いされたんだから、お前達は遊んでいても良いんだぞ?」


 俺はそんな言い争いを始めた3人の肩を順番に叩いた。


「いい、最優先は一刻も早くジゼルを見つけ出す事よ。3人で協力して可及的速やかに探し出すのよ。ジゼルが無事に見つかったらちゃんとお礼をするから」

「お、おう」

「分かりました。全力で対応します」

「お前さん、安心しておれ」


 +++++


 ジゼルが意識を取り戻すと、全身の痛みにうめき声を漏らした。


「うっ」


 一体何が起こったのかと自分の体を見てみると、衣服のあちこちが裂け脇腹あたりには深い傷が出来ていて周りが真っ赤に染まっていた。


 何故自分が傷だらけなのか全く記憶にないのだが、今はそれを考えるよりも治療が先だった。


「えっと、詠唱は確かこうね。偉大なる戦いと豊穣の神ディースに虹色魔法に必要な力をこいねがう。我が身に大気の魔素を分け与えたまえ」


 するとジゼルの体内の魔素量が増えて行くのがなんとなく分かった。


 治癒魔法は、ユニスと一緒にエリアル魔法学校を訪れた時に教えてもらったのだ。


 ユニスは体内魔力で簡単に使えるようだけど、私にはちょっと難しかった。


「重傷治癒」


 青色魔法陣から現れた光が全身を覆うと、体じゅうから発せられた激痛が和らいでいった。


 完全に痛みが消えると、脇腹にあった深い傷口も綺麗に元通りになっていた。


 確か私は皆と夕ご飯を食べて、ユニスと一緒に眠ったはずだ。


 それなのに、目を覚ましたらどうして知らない森の中なの?


 何とか昨日の行動を思い返してみても、こんなに傷だらけになった記憶が全くなかった。


 一瞬ユニスに捨てられたのかと思ったが、それは絶対無いと嫌な考えを追い払った。


 何かの幻覚かと思いユニスの名を叫んでみても、聞こえてくるのは虫なのか魔物なのか分からない「カサカサ」という動く音や「キー」とか「ガー」とかいう変な鳴き声、それに遠くから聞こえる「ドシン、ドシン」というお近づきになりたくない音だけだった。


 見通しの悪い森の中でたった一人という状況に危険を感じると、しばらくその場から動けなかった。


 どうしていいか分からず膝を両腕で抱えて小さくなっていると、おなかがぐぅと鳴った。


「おなかすいたわね」


 周りを見回して食べられそうな物を探しても、食べられる草や木の実の知識がなかったので怖くて手が出せなかった。


 森の中でじっとしていても考えたくない未来しか思い浮かばないので、ユニスを探す事にした。


 森の中は下生えが酷く、足を踏み込むとずるりと滑ったり見えない蔦に足を取られて転びそうになった。


 これでは全く進めないし、隠れている魔物に気が付かず襲われそうだった。


 そこで枝を伝って飛び移れないかと木に登ってみると、直ぐに魔物に襲われて地面に落とされた。


 仕方が無いので木の枝を折るとそれで地面を叩き、下生えをならしながら進むことにした。


 そして木の枝を地面に叩きつけた瞬間こちらに何かが飛んできたのを見て、最初それが折れた枝の先端だと思ったが、それはうねりながら近づくと目の前で牙が付いた口を開いた。


 なんとか横に倒れてそれを回避すると、更に噛みついてこようとするそれを手に持った枝で打ち据え、再び襲って来るそれに枝を突き刺して動きを止めると暴れまわる頭を何とか踏みつぶした。


「はぁ、はぁ、危なかったわ」


 心臓が早鐘を打ちパニックになりそうだったので、気を静める為大きな木の根元で休憩を取る事にした。


「ユニスぅ、何処にいるのぉ?」


 木の根元で蹲りながら、心細さから無意識にユニスの名前を呟いた。


 そんな時、はっと顔をあげた。


 そうよ、あの大きな塔が見つかればユニスもそこに居るはず。


 やっと自分がやるべき事が見つかった喜びで立ち上がると、今まで下草に遮られて見えなかった森の前方に大きな魔物の姿があった。


 ゾワリ


 その魔物と目が合うと一瞬で全身に鳥肌が立ち、体の奥底から危険を知らせるアラームが鳴り響いた。


 急いでこの場から逃げなければならないと魔物に背を向けて走り出したが、その魔物はもうすぐ後ろに迫っていた。


 なんでそんなに足が速いのよ。


 そしてすぐ傍まで追いつかれそうになった時、前方の木の幹を蹴り無理やり方向を変えた。


 そして魔物の突進を回避したと思った瞬間、何かが足首に絡みつきそのまま引っ張られた。


 抵抗出来ないまま引っ張られた先を見ると、そこには先ほど蹴った木の幹があった。


 目の前に木の幹が迫る中、何とか致命傷を避けようと頭を下げて手でかばって回転して背中から激突した。


「うぐっ」


 全身に衝撃が走り意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって堪えたが、体から感覚が無くなっていた。


 何と逃げようと思うのだが、体に力が入らなかった。


 狭くなる視界の中、勝利を確信し止めを刺そうと近づいてくる魔物が見えていたが、もはや逃げられないと諦めるしかなかった。


 だが魔物は突然立ち止まると、周囲を警戒するように首を振った。


 やがて何かに恐怖したように後ずさりしだすと、どこからともなく懐かしい声が聞こえてきた。


「こんのぉくそったれがぁ、よくも、よくも、俺の大事なジゼルにこんなひでえ事をしやがったなぁ。全身穴だらけにして丸焦げにしてやる」


 ジゼルにはそれが幻聴なのか現実なのか分からなかったが、最後にユニスの声が聞けて良かったと思いながら意識を失った。


評価、ブックマーク登録ありがとうございます。

いいねもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ