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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―22 塔の攻略

 

 女王蟻を討伐後巣に残っていた黒蟻を掃除すると、今度は屋上にあるスズメバチの巣を片付ける事にした。


 皆に重力制御と飛行魔法をかけて吹き抜けを上昇していくと、周囲の壁から蔦が伸びてきた。


 突然襲って来る蔦に絡み取られたトラバールやオーバンが、吹き抜けの地下に向けて叩き落されていった。


 重力制御で軽くしているため蔦に捕まると簡単に投げ飛ばされてしまうが、その反面軽いから叩き落されても大した怪我はしていないようだ。


「お前さん、このままじゃ儂らが落とされるのも時間の問題じゃぞ」

「ユニス、私も自信がないわ」


 吹き抜けの空間が狭いく蔦を回避する時間的余裕が殆ど無いというのに、上下に延びる蔦の間から突然伸びて来るから、予測も出来ないのだ。


 仕方がない、俺達は上昇をやめ最寄り階に着地した。


 そして周囲の蔦を処分することにした。


「小火炎」


 俺の前に現れた多数の藍色魔法陣から小さな炎が蔦に向かって飛んでいくが、水分を多く含んでいるのか全く燃え上がらなかった。


「お前さん、火力が足りないんじゃないのか? そんなしょっぼい炎じゃ、料理もできやせんぞ。もっと火力を上げたらどうじゃ?」


 おい、しょぼいって言うな。


 それに火力を上げて塔の機能に支障が出たら困るんだよ。


「仕方ないでしょう。この建物を無傷で手に入れたいんだから」

「お前さん、態と手加減しているのか? じゃが、上に行けなかったら目的を達成できんぞ?」


 そんな事言われなくたって分かっているよ。


 火が駄目なら、水ならどうだ?


 そして藍色魔法の水弾粒を撃ってみたが、ウォータージェットのように切断する事は出来なかった。


「お前さん、庭園に水まきに来たんじゃないぞ?」


 ええい、うるさいわ。


 こうなったらもう仕方がないな。


「グラファイト、インジウム、ちょっとこっちに来てくれる」

「はい」

「はあぃ、お姉さまぁ」


 俺は2人に触れると、両腕の手首から肘にかけて沢山ののこぎり状になった円盤を付けていった。


「いい、2人とも、これで周囲の蔦や葉を片っ端から刈っていくのよ」

「はい、お任せください」

「お姉さまぁ、朝飯前ですぅ」


 そう言うと2人は左右に分かれると、そのまま走りながら壁に張り付いた蔦を刈っていった。


 隣では、その光景にあんぐりと口を開けているバラシュの顔があった。


「お前さんのオートマタは凄いのう。じゃが、あれでは直ぐに魔力切れを起こすんじゃないのか?」

「ええ、そうかもね。だけど予備はあるから大丈夫よ」


 2人の作業を見守っていると、蔦に捕らえられて地下に落とされたトラバールとオーバンが戻って来た。


「姐さん、すまねえって、何だ、あれ?」

「ユニス様、足手まといになってしまって申し訳ありません。うわっ、何ですかあれ、まるで癇癪を起して暴れまわる魔物みたいですね」


 2人が戻って来ると、オートマタの動きに驚いていた。


「ああ、おかえり。怪我をしていたら治療するわよ?」

「いや、大丈夫だ」

「はい、問題ありません」


 そして壁の蔦を処分しながら次の階という風に上がっていくと、地下茎を支えにして吹き抜けの空間に蔦や葉を編み込んで出来たような大きな球形があった。


 球形を魔力感知で調べてみると、強い反応が現れた。


「どうやらあれが蔦の本体みたいね」


 その声がトリガーになったのか、その球形の下に蔦や葉を伸ばして瞬く間に防御壁のようなものを作り上げていた。


 スズメバチと黒蟻の次は蔦のようだ。


 あれを突破して球形の本体を処分すれば、試験の塔を手に入れられそうだ。


 勝利を確信したもののそうは問屋が卸さず、蔦と葉で作られた防御壁から木の実のようなものが雨あられと降ってきた。


 その木の実が地面に落ちて弾けると猛烈な悪臭が広がり、一瞬ラフレシアを思い浮かべたが直ぐにその考えを振り払った。


「きゃぁぁ、何、この匂い」

「だ、駄目だ、意識が飛びそうだぁ」


 強烈な匂いに鼻の良い獣人達が悶えていた。


 俺のその強烈な悪臭に鼻がまがりそうになり、なんとか口で呼吸することで耐えていた。


 こんな状態では嗅覚が鋭い獣人は大変だろうと心配すると、ジゼルは既に鼻を両手で抑えて蹲り、トラバールは泡を吹いて倒れオーバンも白目を剥いていた。


 すると今度は違う種類の木の実が弾け、周囲に粘着性の液体をばら撒いた。


 その物質を浴びたバラシュは髭にくっついた液体を振り払おうとして素手で掴むと、両手と髭にくっつき更にもがいていると足元がお留守になったのか、もつれて倒れてそのまま動かなくなった。


「お前さん、う、うごけん」


 バラシュ、何をしているんだ。


 だが、この状況は拙いな。地味に全滅しそうだ。


 そしてグラファイトとインジウムを見ると、魔物に一番危険と判断されたようで木の実が大量に降り注いでいた。


 そのせいで強烈な悪臭を放ちながら粘性のある液体まみれになっているのだが、元々呼吸をしないので案外平気そうだった。


 俺は息を止めたままグラファイトとインジウムに上の防御壁を指さしそれを両手で広げるようなジェスチャーで穴を開けるように伝えると、2人とも上を見上げて大きく頷いた。


「大姐様、分かりました」

「お姉さまぁ、まっかせてくださぁい。グラ」

「おう」


 2人はそう言うと、グラファイトがインジウムの体を掴みそのまま上の防御壁に向けてインジウムの体を放り投げた。


 続いて俺もグラファイトに投げられて、インジウムの後を追った。


 インジウムも俺が後から付いてきているのが見えていて両手を広げて回転してくれたので、俺の体には木の実がぶつかる事は無かった。


 インジウム、ありがとうね。


 インジウムは防御壁に到達すると、回転力を上げて防御壁を切り裂いていった。


 インジウムの後ろについていた俺は、スリングショットに赤弾を装填した。


 この猛烈な悪臭の中魔法を唱えられるか不安だったので、スリングショットを選んでいた。


 インジウムが開けてくれた空間から、魔物の本体に向けて赤弾が吸い込まれていった。


 そして上昇力を失い落下し始めたインジウムの体を掴むと、インジウムの方も俺に抱き着いてきた。


「あはっ、お姉さまぁ、私の事ぉしっかり捕まえていてくださいねえっ」


 ああ、汚れが移ってしまったが、これは仕方が無いな。


 頭上では大きな爆発音が聞こえてきた。


 そしてインジウムと一緒に皆がいる階層に着地すると、頭上から蔦や葉の破片が降り注いできた。


 赤弾の効果を確かめる為吹き抜けを見上げると、球形があった場所にはちぎれた地下茎の残骸だけが残り、その上方にスズメバチの巣とおぼしき茶色の構造物が見えていた。


 魔力感知で調べてみると吹き抜けには屋根が無く、スズメバチの巣に赤弾を撃ち込んでも爆風は外に抜けそうだった。


 再びグラファイトに飛ばしてもらい吹き抜けを上昇すると、スリングショットを構えてスズメバチの巣目掛けて赤弾を撃ち込んだ。


 スズメバチの巣が爆発して吹き上がった粉塵が消えると、そこには空が見えていた。


 久しぶりに見た外の世界だ。


 これでアマルの悪魔の処分は終わりでいいよな。


 塔の中に籠っていた悪臭も上空から抜けて行くと、倒れていたジゼル達も意識を取り戻していった。


「ユニスぅ、もうベトベトで気持ち悪いよう」


 俺達は悪臭と粘性のある液体でくっ付いた色々なゴミまみれになっていた。


 魔法で綺麗にする事も可能だが、それよりも気分的にはお風呂に入りたかった。


 塔から出て野営用の砦に戻って来ると、早速風呂を作る事にした。


「グラファイト、インジウム、ちょっと岩を削って錬成陣の上に置いてくれる」

「直ぐにやります」

「はあぃ、待っていて下さぁ~い」


 そして集めた岩を錬成して2つの浴槽を作ると、その間に衝立を置いた。


 スリングショット用の水弾で浴槽に水を張ると、それを温めてお湯にしていった。


「ねえ、ユニス、これは?」

「パルラにも、魔素水浴場があるでしょう」

「ええ」

「これは只のお湯だけど、体を綺麗にするにはこれで十分でしょう」


 そして男達に声をかけた。


「貴方達はそっちの浴槽を使ってね。それとこっちを覗いては駄目よ」


 俺がそう言うと、3人の男達は真っ青な顔になって首をぶんぶんと左右に激しく振っていた。


 彼らが何でそんなに激しい反応をしめすのかさっぱり分からないが、彼らの視線の先にはグラファイトとインジウムが居るようだった。


 オートマタ達の顔が見えないが、2人が監視役になってくれているのならジゼルも安心して風呂を楽しめるだろう。


 さあ、明日からは試験の塔の機能を元に戻すための作業を始めるか。


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