11―17 間が悪い男
蔦の中の徐々に取り込まれながらも何か手は無いかと考えていると、オーバンが両手剣を持っていた事を思い出した。
「オーバン、そこに居るの?」
「はい、こちらに」
俺がオーバンを呼ぶと直ぐに返事が返って来た。
「オーバン、絡みついた蔦を切って」
「はい、えっと、ユニス様、その、下着が丸見えですので、見ないようにして何とかしてみます」
足首に絡みついた蔦によってスカートがめくれているのだろう、オーバンはそれを指摘しているようだ。
だが、こんな時に目をつぶって手探りをしているような時間は無いぞ。
「オーバン、見てもいいからしっかり蔦を切って。それからジゼルのも見ていいから」
「え、いえ、そのような破廉恥な事は出来ません」
目をつぶって刃物を向けられる方が怖いわ。
「オーバン、今は緊急事態なのよ。しっかり見て蔦を切って。そして体の何処でも自由に触っていいから、私とジゼルの体を引っ張り出して」
「そうよオーバン、ユニスのおっぱいを揉んでもいいから早く助け出してあげて」
え、ちょ、ちょっとジゼルさん、オーバンに体に触ってもいいと言った事怒ってる?
俺とジゼルの必死の訴えにも、オーバンはまだ躊躇しているようだ。
「あ、いえ、ですが・・・」
オーバンが行動を起こさない間も、俺の体に絡みつく蔦が増えていて脱出が難しくなっているのだ。
「ちょっと、オーバン、早くしてよ」
「そうよ。もたもたしてないで早くして」
事情を知らない第3者が聞いたら誤解されそうな事を口走っているが、そんな事は今はどうでも良いのだ。
オーバンがまごまごしているうちに、俺の体は絡みついた蔦の圧力で徐々に取り込まれているのだ。
「オーバン、時間が無いわ」
だが、願いも空しくオーバンが動くよりも早く、俺達は蔦の中に完全に取り込まれていった。
オーバンの大馬鹿野郎。
俺は心の中でそう毒づいた。
+++++
オーバンの耳には、2人の絶唱が今も響いていた。
2人が飲み込まれていった蔦を見つめたまま呆然と立ち尽くしながら、何故自分はあの時動けなかったのか自問していた。
何度か意を決して手を出そうとしたのだが、その度に躊躇してしまったのだ。
だって、仕方がないじゃないか。
ユニス様のあのあられもない姿に、思わず目が釘付けになってしまったのだ。
なんなんだよ。ユニス様の素足に絡みつくあの蔦は。
露になった素足だけでも刺激が強いのに、そこにあの蔦が柔肌を締め付けるように絡みついているんだぞ。
それに、その先端がユニス様の下着の中に・・・
ああ、もう刺激が強すぎて、脳の処理能力がパンクしそうだったのだ。
そんな姿を見せられたら、思わず欲情してしまったとしても仕方が無いだろう。
普段は少し離れた位置から鼻をくすぐるあの香水とかいう微かな香りを楽しみながら、お姿を拝見しているだけなのだ。
そんな時にユニス様から突然体に触っていいという、想像の中でしか起こらないと思っていた事が突然現実になったんだぞ。
前にダラムでの戦闘中にユニス様がよろめいて俺の手に胸が当たった事はあったが、あの時はただ当たっただけで手を動かしてはいないのだ。
あの時の動揺は上手くごまかせたが、今回は直接触っていいと許可されたのだ。
そんな言われたら、いろいろ想像してしまうじゃないか。
あの存在感を遺憾なく発揮してくる2つの双丘の感触とか、形の良いお尻のやわらかさとか、きめ細やかで艶のある素足の肌触りとか。
今の心理状態でユニス様の体に触れたら、理性が吹き飛んでしまうに決まっている。
気が付いたら、蔦に手足の自由を奪われ身動きが取れないユニス様の胸を揉みしだき、股間に手を入れているかもしれないのだ。
そんな事になったら、もうユニス様の傍にいる事も出来なくなるだろう。
それだけは絶対嫌だ。
そんな心の葛藤をしているうちに、2人が蔦に飲み込まれてしまったのだ。
その手遅れになってしまった現実に呆然となっていると、突然体に強い衝撃を付けた。
「馬鹿野郎、何をしているんだ」
「トラバール、何をする」
トラバールの蹴りにオーバンが文句を言ったが、トラバールはそれに構わず先ほどユニス様を飲み込んだ蔦にハンマーを叩き込んでいた。
すると蔦が伸びてトラバールを捕えようとしたが、すんでのところで後ろにジャンプして逃れていた。
「くそっ、これじゃあ、駄目だ。おい、オーバン、なんで姐さんを助けなかったんだよ」
ハンマーが役に立たない事を知ったトラバールが、こちらを振り向いそう言ってきた。
「し、仕方がないじゃないか。ユニス様から体に触っていいと言われたんだぞ」
オーバンがそう叫ぶと、それまでオーバンを貶める暴言を吐いていたトラバールが突然黙り、目を大きく見開いていた。
そしてぱくぱくと息をするだけになった口から、ようやく声が出てきた。
「何だと、なんでそんなうらやま、い、いや、そうじゃない。しかしお前、据え膳に手を付けないとは、なんて情けない奴なんだ」
「・・・お前なら手を出していたというのか?」
オーバンがそう尋ねると、トラバールはにんまりと笑みを浮かべた。
「ああ、好きなだけ触れて、しかも感謝されるんだぞ。躊躇する理由が分からん。だからお前は駄目なんだよ」
「ほっとけ」
トラバールは同情するように肩を叩いて慰めてきた。
「だが、これからどうすればいいんだ?」
そして2人して呆然と蔦を見つめていると、後ろから怒声が聞こえた。
「お前らなに黄昏てるんじゃ。早いとこエルフ殿を助け出さんか」
振り返ると、ユニス様の知り合いというドワーフが顔を真っ赤にして怒っていた。
「そうは言われましても、あの蔦に突撃してもユニス様と同じ目に遭うだけです。それでは単に被害者を増やすだけで、救助にならないのでは?」
オーバンがそう指摘すると、ドワーフも先ほどのトラバールが攻撃した時の反応を見ていたようで、それ以上は何も言ってこなかった。
だが、このままではいけないのは確かなので何とかしたいのだが、その方法が思いつかないのだ。
「じゃが、このままではエルフ殿が消化されてしまうのではないか?」
ドワーフがそう指摘してきたが、何故だかそれに同意できない自分がいた。
「ああ、いや、姐さんが、あれくらいで死ぬとは思えないというか」
トラバールが少し困ったような顔で頬をぽりぽりかきながらそう言うと、オーバンもその答えが腑に落ちていた。
「それでも助けに行かない訳にはいかんだろう」
ドワーフのその指摘に、ふっと此処に居ない2人の事が思い浮かんだ。
「そうだ。ユニス様の人形達が侵入路を作っているはずだ。そちらに合流しよう」
オーバンのその提案に、互いに顔を見合わせていたトラバールとドワーフが頷いた。
「それだ」
「おお、確かにそうじゃったな。じゃあ急ごう」
「だがあの人形に姐さんの事情を説明するのは、オーバンに任せるぜ」
トラバールにそう言われたオーバンは、あの黄色い人形の普段の行動を思い出して冷たい汗が背中を流れた。
「待て、あの2体がどう反応するか怖いんだが?」
「仕方ないだろう。お前のせいなんだから。諦めろ」
オーバンは先に走るトラバールとドワーフの背中に恨めしい視線を送りながらも、ユニス様を助ける為だと思考を切り替えると、黄色い人形に殺されないような何か上手い良い言い訳は無いかと必死に考えていた。
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