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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―14 侵入経路

 

 広場に作った即席の塔に群がった黒蟻は、1階2階そして3階へと上がって来て、屋上にいる俺達に迫っていた。


 逃げ道の無い孤塔の上に追い詰められた数人の男女、完全に包囲され今にも襲い掛かろうとする巨大蟻、この絶体絶命の場面で誰が生き残れるのか?


「ちょっとユニス、こんな時に変な事考えるの止めてよね」


 振り向くと、そこには頬を膨らませたジゼルが俺を睨んでいた。


 俺が妄想を膨らませたところで、ジゼルに怒られてしまった。


「あ、ごめん」


 だからぁ、何で俺の事を魔眼で見るんだよぉ。


 塔の屋上は各自受け持ち区間を設け、のこぎり間から顔を出す黒蟻に対処してもらっていた。


 グラファイトとインジウムの2人には広めの区間を頼んでいたが、彼らはその受け持ち区間を右に左に移動して、のこぎり間を越えようとする黒蟻を素早い動きで殴り飛ばしていた。


 その姿は、プロボクサーの華麗に舞って華麗に打つべしといった感じに見えた。


 手先が器用なオーバンは両手に持った細剣を巧みに操って、押し寄せる黒蟻に危なげなく対処していた。


 トラバールも剛腕を振るって飛び越えてこようとする黒蟻に対処していたが、その大剣の一閃の隙をついた個体がのこぎり間からジャンプしたのを見て、素早く魔法弾で仕留めておいた。


 トラバールは、後方で閃光があがりバラバラになった黒蟻が吹き飛ぶのを見て、後ろを見ずに親指を突き立ててきた。


 良くやったと言いたいんだろうが、遊んでないで真面目にやれ。


 そんな皆の鉄壁な守りも時の経過とともに敵の数が増えると、余裕が無くなってきていた。


「お前さん、そろそろ限界じゃぞ」

「大姐様、最後尾の個体がラインを越えて入ってきました」

「お姉さまぁ、こちら側もですぅ」


 バラシュの弱音と、グラファイトとインジウムから全ての蟻が燃える石のラインを越えて入ってきたとの報告が同時にあった。


 よし、頃合いだ。


 俺は皆の背中に触れて重力制御魔法をかけると、そのまま上空に退避させていった。


 そして上空から燃える石に向かって火炎弾を撃ち込んだ。


 燃える石が燃え上がり塔の周りに円形の炎の壁が現れると、退路を塞がれた蟻共は前へ前へ、上へ上へと押し寄せてきた。


 押し合いへし合いした蟻共が仲間の背中を使い塔の壁を垂直に登り、抵抗する俺達が居なくなった屋上部分に到達していた。


 よし、お膳立ては整った。


「あばよ」俺は心の中でそう呟くと、魔法を発動した。


「大火災」


 自分の身長よりも大きな黄色い魔法陣から発生した高温の炎が、火災旋風となって真下に落ちて行った。


 その猛烈な炎は即席の塔を飲み込み、燃える石で作った炎の壁まで達すると猛烈な火炎地獄と化していた。


 その業火の中で、黒蟻共の悲鳴が聞こえたような気がした。


 魔法の効力が消えると、そこには炭化した蟻の残骸と黒色に変色した塔が残っているだけだった。


 一応魔力感知を発動したが、魔物の反応は無かった。


「ふう、どうやら殲滅できたようね」


 俺の言葉にトラバールが口笛を吹いた。


「ひゅぅ~、つくづく姐さんが味方で良かったと思うぜ」


 あれ、やりすぎた?


「お前さん、すさまじいな。帝都キュレーネが崩壊する訳だ」


 バラシュは眼下の惨状に口をあんぐりと開けていたが、我に返るとそう呟いていた。


 あれ、あれ、やっぱりやりすぎた?


「それで姐さん、これで終わりなのか?」


 トラバールがそう聞いてきたが、戦いはむしろこれからだろうなぁ。


「皆疲れたでしょう。宿に戻って朝まで眠りましょう」

「あ、賛成、賛成」


 あれだけやられたらもう今晩は襲ってこないだろうし、万が一にも襲ってきたらグラファイトとインジウムが対処してくれるだろう。



 宿に戻り朝までぐっすり休んだ俺達は、空腹を満たす為早速朝食の準備を始めた。


 中央広場は昨晩のまま放置してあったので、宿の調理場を使って暖かい朝食を作った。


 蜂蜜入りの固パンにエルフお手製のジャムを付けて頬張っていると、バラシュが声をかけてきた。


「なあ、お前さん、これでもう大丈夫なのか?」


 ここは地球じゃないから蟻に似ているからといって必ずしも女王蟻が居るとは限らないが、昨晩の集団行動を見るに、どうしても調べておかなくてはならないポイントだろう。


 女王蟻がいたら、せっかく潰した兵隊蟻も直ぐに増えてしまうからね。


「巣を探し出して、女王蟻を仕留めないと駄目かなぁ」

「なんじゃ、その女王蟻って?」


 バラシュは、意味が分からんとばかりに首を傾げていた。


 仕方がない、ここはちょっと説明しておくか。


「オークやゴブリンも組織だった動きをする時は、上位種が群れを統率しているでしょう」

「うむ、そうじゃな」

「そして黒蟻が襲撃してきた時も、意思統一された動きだったと思わない?」


 俺がそう聞いてみると、バラシュも何を言おうとしているのか分かったようだ。


「確かにそうじゃな。するとお前さんは、連中に命令できる上位種が居ると思っとるんじゃな?」

「ええ、そしてその上位種は敵の巣の奥深くに居ると思うのよ」


 厳密には上位種じゃないが、バラシュが理解してくれたならそれでいいだろう。


「ここまでは分かった。じゃが、連中の巣はどうやって見つけ出すんじゃ?」

「それはこれから調べてみましょう。連中が使った侵入路があるから、そこを辿って行けば連中の巣が分かるはずよ」

「何じゃと、侵入路が分かったのか?」


 バラシュは目を大きく見開いてあんぐりと口を開けていた。


 昨晩襲撃があった時、魔力感知にはほぼ全域から魔物の反応があったということは、連中が使う通路がありとあらゆる場所にあるという事だ。


 そこで反応があった近場の場所に行ってみる事にした。


 そこは石造りの建物で、中に入ってみても殆ど何もなかった。


「黒蟻が通れそうな穴を探すのよ」

「「「了解」」」


 皆で手分けして建物の中を探していった。


 竈の中、水場、収納内、階段の裏等いろいろ調べていき、通路になりそうな隙間を見つけては偵察用のゴーレムで調べていった。


「駄目ね」


 ちゃんとGの侵入経路を参考に調べているのだが、見込みがありそうな通路が無かった。


 俺がポツリとそう言うと、オーバンとトラバールが応じてきた。


「ええ、どこも行き止まりですね」

「なあ、姐さん、本当にここから出て来たのかぁ?」


 おい、こら、疑うんじゃない。


 それに魔力感知に反応があったから、ここに進入路があるのは確かなのだ。


 そして周りを見回してみると、あるものが目についた。


「ねえバラシュ、ドワーフは家の中で植物を育てているの?」

「な、これだから胸無しは。ドワーフを馬鹿にするでない。いくら何でも木の根っこを鑑賞する趣味は無いぞ」


 石造りの壁にある罅からは、木の根がのぞいていた。


 その木の根は随分太く、堅そうにみえた。


 ん、ひょっとして。


「グラファイト、ちょっとこの木の根を引っ張り出してくれる」

「承知しました」


 グラファイトは木の根の周辺の石壁を破壊すると、露になった木の根を掴み引っ張り出した。


「随分太い根っこね。これ、何の木なの?」

「さっぱり分からんぞ」


 バラシュは首を横に振っていた。


 ドワーフも知らない木の根ねえ。だが、この太さは非常に気になる。


「トラバール、これを切ってみて」

「お、おう」


 トラバールには俺の意図は訳が分からなかったようだが、素直に手に持った武器で木の根を切断してくれた。


 トラバールが切った切り口を調べると、そこにはあの黒蟻が通れそうなほどの空間があった。


「姐さん、これは?」

「調べてみる価値は大いにありそうね」


 そして中を調査するための偵察用ゴーレムを作ると、その空洞の中に入れていった。


 空洞内の様子はあおいちゃんに教えてもらった魔法で映し出しているが、映っているのは何も無い空洞だけだった。


「あの黒い魔物が居ないわね」


 俺の肩越しから映像を見ていたジゼルがそう言った。


「そうねえ。これが連中の通路だとしたら、今は昼間だから巣の中で休んでいるのかも」

「ああ、夜行性って言ってたやつね」

「だが、連中は本当に夜しか活動しないのか?」


 トラバールは疑わし気だが、今の所蟻の姿をみていないので夜行性というのは可能性が高そうだ。


「昼間に行動している個体が現れない限り、そう言えるわね」


 偵察用ゴーレムが更に通路を進んでいくと、他の通路と合流した。


 それから先も通路は分岐しているようだが、偵察用ゴーレムはそのまま先に進ませた。


 それにしても連中の姿が一切見ないのは、やはり昼間は皆巣の中で眠っているからだろうか。


 これなら女王蟻の寝込みを襲って仕留めるのも簡単そうだ。


 偵察用ゴーレムは何も発見する事も無く通路をまっすぐ進んで行くと、突然広い空間が映し出され、そして映像が消えた。


「何が、あったんだ?」


 驚いたトラバールが呟いた。


「これは、破壊されたわね」

「失敗しちゃったの?」


 突然映像が消えた原因を言うと、隣で見ていたジゼルが残念そうに聞いてきた。


「いいえ、連中の位置は分かったから、これから寝込みを襲いに行きましょう」

「なんだか、どちらが悪党か分からん言い草じゃな」


 おいバラシュ、こっちはお前達が故郷に帰れるように努力しているんだぞ。


 感謝こそすれ、文句を言う所じゃないだろうがっ。



 バラシュにドワーフ国の武器庫を開けてもらい、害虫駆除に必要な武器を見繕う事にした。


 何と言っても今回の相手は比較的小さい上に数が多いのだ。


 ジゼルはメイスをトラバールはハンマー、オーバンは両手剣そしてバラシュはドワーフ自慢の斧を選んだようだ。


 そしてインジウムは踏みつけるのが好きそうなので、グラファイトと合わせて2人にはごつい厚底ブーツを履かせることにした。


 インジウムはそのブーツをとても気に入ったようで、バン、バンと足音を響かせていた。


「お姉さまぁ、これで私の素敵なタップ技を見てもらえますねぇ」


 いや、いや、タップダンスは踊りであって、決して魔物を踏みつける技じゃないからね。


「え、ええ、楽しみにしているわね」


 ま、まあ、暴走したらグラファイトが何とかしてくれるだろう。


 俺は後方からの支援になるので、まあ手ぶらで大丈夫だ。



 準備が整うとムカデ型のゴーレムを作り、それに乗って坑道出口に急いだ。


 何としても日暮れまでに、夜行性と思われる女王蟻の寝込みを襲わなければならないのだ。


「なあ姐さん、あれだけで連中の巣の位置が分かったのか?」

「魔力感知で位置は分かったから大丈夫。ただ、ちょっとした懸念はあるけど」

「ユニス様、その懸念とは?」


 オーバンの質問にあの時の事を話した。


「偵察用ゴーレムは何者かに破壊されたでしょう。つまり、連中の中に昼間も行動できる個体がいるという事よ」

「するとユニス様が言っていた、寝込みを襲うという簡単な仕事にはならないという事ですか?」

「ええ、その可能性が高そうね」

「ユニス、大丈夫なの?」


 ジゼルがそう聞いてくると、何故かトラバールが返事を返していた。


「ああ、大丈夫だ。俺に任せておけって」


 戦いになると途端に元気になるのは、剣闘士の血が騒ぐって事なのか?


 いや、オーバンは割と普通に見えるな。


「皆、坑道を出たら敵の巣の近くまで一気に飛ぶわよ。それから敵が居たら蹴散らして女王蟻を一気に仕留めるわよ」

「「「おおお~」」」


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