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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
324/415

11―12 地中の町

 

 坑道内の駅の調査を終えた俺達は、ドワーフの国に向けて先を急いだ。


 隊列は先頭をグラファイトとインジウムに頼み、その後を俺達が坑道を補強しながら付いて行った。


 どれだけ時間がかかったか分からなくなりかけていた頃、先行していたグラファイトとインジウムに追いついた。


「どうしたの?」

「お姉さまぁ、ここから先ぃ、道が分かれてますぅ」


 ああ、どうやら分岐に差し掛かったらしい。


「バラシュ、この分岐は?」


 バラシュは困ったように頬をぽりぽりかいていた。


「うる覚えじゃが、先輩達の話だと右がドワーフ国に繋がっていて、左はゴミ置き場だったはずじゃ」


 俺達はここで待機することにして、グラファイトとインジウムにそれぞれの坑道の先を偵察してもらうことにした。


 待つこと数刻、グラファイトとインジウムが図っていたのかと思うほどぴったりのタイミングで戻って来た。


「大姐様、坑道の先はまだ続いておりました」

「お姉さまぁ、行き止まりで臭かったですぅ」


 そう言うとインジウムは、鼻をつまむような仕草をしていた。


 あれっ、オートマタって匂いを感知できるのか?


「右で間違いないようじゃな」

「そのようね」


 それまで自信なげだったバラシュが、ようやく元気になった。


 俺は迷わないように土で作った道標を立ててから、先を進む事にした。


 一方はドワーフ王国、もう一方はゴミ置き場と記載しておいた。


 グラファイトとインジウムが坑道の安全確保を終えた場所を補強していると、坑道から木の根が突き出していた。


 坑道の周囲はドワーフ達がコンクリートで補強してあるのに、そこを突き破って出てくるとはこの世界の樹木は随分生命力が強いようだ。


 コンクリートを突き破るといえば、日本にもイタドリという植物がいるから珍しくはないのか。


 そしてドワーフ王国に向けて進んでいくと、またインジウムが立ち止まっていた。


「今度はどうしたの?」

「お姉さまぁ、あれぇ」


 インジウムが指さす先には、鉄のフレームの中に砕石を詰め込んだ頑丈なバリケードが行く手を阻んでいた。


「バラシュ、あれは?」

「ああ、この坑道を閉鎖したと話したじゃろう」


 ああ、ここで封鎖したのか。


「それでどうするの? ここで引き返す? それとも取り除いて先に進む?」

「う、うむ」


 そう言って考え込んでいたバラシュが、相談するように小声で話してきた。


「お前さん、これ壊した後、元に戻せるかの?」


 まあ、材料があるから錬成で何とかなりそうだな。


「要は坑道をまた封鎖できるかという事よね。それなら問題無いと思うわよ。せっかくだから扉でも作ってさしあげましょうか?」


 俺がおどけながらそう言うと、バラシュの髭もじゃの顔が笑ったようだ。


「そうか。なら、お願いしたいが」

「ええ、任せてね」


 錬成陣の上にグラファイトとインジウムがバリケードからはぎ取って来た材料を載せてもらうと、早速錬成を始めた。


 出来上がった扉の枠を坑道にはめ込み隙間を埋めると、今度は鉄枠で補強したコンクリートの扉を作りそれをグラファイトとインジウムに取り付けてもらった。


 俺はかいてもない汗を拭う動作をしながら、バラシュにどや顔をしてやった。


「どう、立派な扉になったでしょう。これならどんな魔物が来ても大丈夫よ」

「ああ、そうじゃな」


 バラシュは瞬く間に出来上がった頑丈な扉を見上げて口を開けていた。


 出来栄えに満足した俺達は、早速扉を閉じてから先を進む事にした。


 すると突然広い空間が現れ、石畳の道とその両側に石造りの建物が現れた。


「これがかつてのドワーフ国なのね」

「ああ、そうじゃ。中央に向かって町が広がっておる。そして目の前は住宅区画じゃな」


 どうみても無人の廃墟だが、念のため魔力感知を発動した。


 魔力感知には樹木のような淡い反応は現れていたが、魔物のような強い反応は無かった。


 そして不思議だったのは何処かに光源があるのか、暗視魔法が不要なほど明るかった。


 光を発するような植物でもあるのか?


「明るいわね」


 するとバラシュが右手やや上方をゆびさした。


「ほれ、あそこの先は切り立った崖になっていて、そこまで通路を通して明り取りの窓を作ってあるんじゃ」


 バラシュが指さした先には四角く切り取った穴と、その下には連絡通路のようなものが見えた。


 バラシュの話だとアマル山脈にあるクレバスを利用して明り取りとその下を流れる川から飲料水を調達しているそうだ。


 そして明り取りの窓は石造りの鎧戸で閉じる事ができるので、魔物の襲撃時や厳冬期の夜は閉じるそうだ。


 その他にも石炭のような燃える石で明かりや暖を取ったりするんだとか。


 その採掘場もいくつかあって、この町から坑道が伸びているそうだ。


 その説明に納得した俺は、バラシュの案内で誰も居ないゴーストタウンに足を踏み入れた。


 最初は住宅区画で、慌てて逃げ出したのか玄関扉が開け放たれている家や窓から見える室内は家具が散乱していた。


「ここら辺からは職人街じゃな」


 バラシュがそう言うと、次の区画に入ったようで大きな建物が続いていた。


 軒先の看板は朽ち果てたのか跡形も無かったが、石造りの部分はしっかり残っていた。


「この先は中央広場じゃな」


 バラシュが指さした先には大きな広場があり、等間隔でかがり火用の台座や奥には演説台等も設置されていた。


「バラシュの用事は此処を見るだけなの?」

「いや、再び住めるか確かめたいんじゃが」

「そう、なら手分けして調べてみましょうか?」


 バラシュは周りを見回してから頷いた。


「お前さんが慌ててないところを見ると、魔物の気配は無さそうじゃし頼めるかの?」

「ええ、いいわよ」


 そして皆が手分けして町の損傷具合を確かめる事にした。


 俺とジゼルは住宅街に隣接する市場に来ていた。


 道の両側に並ぶ露店は木材と布製で出来ているせいか、ちょっと力を入れると簡単に崩れ落ちてしまった。


「ねえユニス、壊すんじゃなくて調べるんでしょう?」

「仕方ないでしょう。劣化具合を確かめようとしたらこうなったんだから」


 色々調べてみたが特に魔物に襲われたような痕跡は無かった。


「バラシュの話だと魔物に襲われて国を捨てたと言っていたけど、それらしい痕跡は無さそうね」

「そうねえ、あるのは元気よく伸びた木の根っこくらいよ」


 俺達は市場を一通り調べ終わると、集合場所に定めていた中央広場に戻っていった。


 そこでは既に他の調査を終え陽気に歌を歌っているトラバールと、その横で頭を抱えているオーバンが居た。


 よく見るとトラバールの顔は赤みがかっていた。


 確か、この2人の受け持ちは商業区画だったはず。


「やあ、姐さん、今日もお美しくありますなぁ」

「ちょっとトラバール、調査にかまけて酒を飲んだわね」


 俺が詰問すると、オーバンが頭を下げた。


「ユニス様、申し訳ありません。酒場に保管されていた酒が腐っていないか確かめると言って飲んだのです。で、ですが、ちゃんと調査は行っております」


 どうやらオーバンは真面目に調べてくれていたようだ。


 それにしてもそんな古い酒、絶対腐っているだろう。


 そんなのを飲んだら大変な事になるだろうがぁ。


 俺はトラバールの傍に行くと、状態異常の解除とついでに治癒魔法をかけた。


 トラバールは大あくびをすると、その場で横になってぐぅぐぅ寝息を立て始めた。


「全くしょうがないわねえ」


 俺が呆れかえっていると、ドワーフの王城を調べに行っていたバラシュが戻って来た。


 なんでも、王城にはよそ者には見せたくない物もあるとかで、単独で調査にいっていたのだ。


「バラシュ、どうだったの?」

「ああ、補修と修繕は必要じゃが、構造自体は問題なさそうじゃ」


 それなら此処に戻って来る事も可能という事だな。


「問題なさそうなら、ここに戻って来るの?」

「ああ、そうじゃなぁ」


 そういってバラシュは顎に手を置くと、何か考え込んでいた。


 何も答えようとしないバラシュを見ながら周囲を見回すと、調査に時間がかかったのか既に薄暗くなっていた。


 トラバールは潰れているし、ここは一泊するしかないか。


「そろそろ日が落ちるわ。どこか泊まれる場所は無いの?」

「宿屋はあるが、寝具はないぞ」

「別にいいわ、気分の問題よ」

「ああ、分かった。じゃが・・・」


 バラシュは何か心配事でもあるのか、先ほどから盛んに周囲を警戒していた。


 そう言えば、ここは魔物に襲われたんだったな。


「そんなに心配なら、進入路になりそうな所を塞いでおきましょうか?」

「ん、ああ、そうじゃな」


 俺がそう提案すると、バラシュは直ぐに頷いた。


 そして窓の鎧戸を閉じた後、俺はバラシュの案内で2つの外と繋がる坑道と採掘用の坑道全てを錬成したコンクリートで閉鎖していった。


 作業を終えて広間に戻ると、ジゼル達が夕食の支度を整えてくれていた。


「ユニス、夕ご飯できたわよ」

「ありがとう」


 焚火を囲んで夕食を食べる頃には、トラバールも起き上がっていた。


「トラバール、もう大丈夫なの?」

「あ、ああ、迷惑をかけて申し訳ない」

「それにしても匂いを嗅げば、腐っているかどうか分かるでしょう?」

「それが、とても良い香りがしたんだ」

「ああ、酒樽には密閉の魔法がかけられておったはずじゃ」


 ふうん、ドワーフ達も密閉の魔法を使うんだな。


 食事を終えた俺達は、宿屋に移動してかつてベッドだった場所に横になった。




 ドンという音でぱっと目を覚ました俺は、周囲を警戒するように体をひねりうつ伏せになると、同じように起きたジゼルが警戒している方向に顔を向けた。


 そこではインジウムが何かを踏みつけていた。


「インジィ?」

「あ、お姉さまぁ、起こしちゃいましたかぁ。害虫を退治しましたぁ。もう安全ですぅ」


 俺が小声で話しかけると、インジウムはとっても嬉しそうな顔をしていた。


 ん、害虫ってなんだ? 


 蚊でも入って来たのか?


 いや、待て、インジウムは踏みつぶしたな。


 ああ、Gか。


 そしてジゼルと目が合ったので問題無いと頷いてから再び微睡みの中に沈もうとしたところで、ふっと俺の頭の中に変なイメージが湧き上がった。


 それは夜這いしに来たトラバールが床にうつ伏せに倒れ、その背中を勝ち誇ったインジウムが踏みつけている場面だった。


 拙い。


 俺はガバッと起き上がると急いでインジウムの傍に駆け寄り、嬉しそうに潰したそれに目を向けた。


 インジウムの美しく均整の取れた足元で潰れているそれは、少なくとも夜這いに来た男の誰かでは無かった。


 トラバール、すまん。変な事を考えてしまって。


 そしてインジウムの足元で、粉々になって原型をとどめていないそれを指さした。


「何、これ?」

「さぁ、何でしょうかぁ?」


 インジウムが可愛らしく小首を傾げた時、男部屋の方から破壊音と誰かのくぐもった絶唱が聞こえてきた。


いいね、ありがとうございます。

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