11―7 魔法国を探して
パルラに戻ると、その足であおいちゃんの部屋に向かった。
「あおいちゃん、解読は進んでる?」
「ええ、読みごたえは十分ね」
そしてあおいちゃんは歴史書を開いて、ある1点を指さした。
「これによると、魔法国は人間達の暴動で一夜にして滅ぼされたようね」
「暴動ねえ」
「ああ、歴史書では決起と記されているけどね」
俺はその単語に疑わしい匂いを感じていた。
「魔法図書館の説明では、人間達は魔法国に保護されていなかったか? 感謝こそすれ滅ぼすなんて、そんな事あり得るのか?」
「ああ、それね。魔法国は、人間達を魔物に対抗できるように遺伝子を弄ったでしょう?」
そう言われて魔法図書館の説明を思い出した。
「確か、それで獣人を作ったんだよな」
俺の言動に頷いたあおいちゃんは、また歴史書の一部を指さした。
「人間達は、それが自分達を滅ぼすための人体実験だと誤解したようね」
「ああ、見方によっては確かにそうだな」
そこまで聞いてなんとなく状況を理解できた。
「魔法国は良かれと思って人間達に魔物に対抗できる能力を提供しようとしたが、それが理解できなかったんだな」
「ええ、親切の押し売りは、時に相手にとっては大きな迷惑になるという典型ね。それに獣人が狂化して人間を襲う事も、反感を買う要因の1つになったようね」
「ああ、あれか」
パルラの町でも獣人達が暴れた事があったな。
「すると魔法図書館が言っていた狂化の治療が出来ていないのは、その前に暴動が起きて魔法国が滅んだという事か」
「その可能性が高いわねぇ」
そこで魔法国が何でそんな事をしたのか考えてみた。
「なあ、あおいちゃん、魔法国が人間改造をしようとしたのは、何時までも人間達を保護できないと思ったのか、それとも保護する負担から解放されたかったんじゃないか?」
「ああ、そうかもしれないわね。難民問題は地球でも大変だからね」
そこで俺は腑に落ちない疑問を口にした。
「この保護外装の能力からみて、魔法国の魔法技術は相当高かったはずだ。火山の噴火や大洪水で滅んだなら分かるが、暴動で滅びるものなのか?」
「う~ん、それもそうねぇ」
恐らくだが、これも著者が大げさに書いた結果じゃないのか。
「日本の歴史書にも主人公に忖度して、大げさで信頼性が低い記述があるだろう。これも同じなんじゃないか?」
「人間達に忖度した内容って事? 確かにそうね。どこかそれらしい記述がないかしら?」
そこで何か他の要因が無いかと歴史書を調べていると、記述がおかしな箇所を見つけたのだ。
「なあ、あおいちゃん、このページおかしくないか?」
「そうね、前後の記述が合ってないわね」
そこで歴史書を広げて調べてみると、そこにはページを切り取った痕跡があった。
「ああ、ここ、ほら、切り取られているぞ」
「あ、本当だわ。何か隠したい事実があったのかもしれないわね」
「問題は誰が切り取ったか、だね」
「元々禁書庫にあった歴史書なら、奪った相手が切り取ったんじゃないの?」
この歴史書に関わったのは、怪盗の3人娘とフリン海国のドゥランテという男か。
白猫には後で聞いてみるとして、とりあえず分からない事を悩んでも仕方が無いので、魔法国があった場所が分からないか歴史書を調べる事にした。
そして帝都キュレーネが、魔法国を埋めた上に建設されたという記述を見つけたのだ。
「あおいちゃん、確か帝都キュレーネはあのキュレーネ砂漠にあったんだよね?」
「そうね」
「前に一度キュレーネ砂漠に行ったことがあるんだ。アイテールの連中に教えてもらった城塞跡地が帝都キュレーネなのか?」
だが、あおいちゃんは首を横に振った。
「いえ、あそこは確か帝都防衛用の要塞だったはずよ」
「じゃあ帝都は何処だ?」
「要塞の近くだとは思うけど、何分7百年前に崩壊しているから分からないわね」
ここで考えていても仕方が無いので、俺は1つの提案をした。
「なあ、あおいちゃん、ちょっと探しに行ってみないか?」
「えっ?」
「魔法国の遺跡を調べたくないのか? それに空から行けばそんなに時間はかからないだろう。ここで悩んでいても何も解決しないし」
「もう、仕方ないわね」
口調はめんどくさそうだと言っているが、あおいちゃんの顔はとても嬉しそうだ。
これも考古学者の本質なんだろうか?
俺達は地上から見つからないようにかなり高空を、一路キュレーネ砂漠に向けて飛行していた。
ヴァルツホルム大森林地帯の上空ならこの高度でも鳥型の魔物とかが飛行しているが、人の住む地域だとそれも無くまるで自分達だけの世界のようだ。
そして砂漠が見えてきたところで、徐々に高度を下げていった。
キュレーネ砂漠では、城塞跡地を中心に円を描くように捜索する予定だ。
「あおいちゃん、それじゃあ時計回りで調べて行こうか?」
「ええ、いいわよ」
上空から地面を見ても見えるのは砂だけだったが、城塞跡地から南西の方角に差し掛かると人の痕跡があるのを見つけた。
そこには沢山のテントが張ってあり、人々がスコップ等の土を掘る道具を使って地面を掘り返していた。
「なあ、あれって何をしているんだと思う?」
「私には発掘調査をしているように見えるわね」
「ちょっと確かめてみようか」
「そうね。それじゃあ、降下するわよ」
無事着地すると直ぐ擬態魔法で人間に化け、発掘現場に向けて歩きだした。
発掘現場に近づくと、そこには砂で作られた壁があり、侵入者を阻んでいた。
門まで移動してもすんなり入れてくれる保証も無いので、壁を飛び越える事にした。
「あおいちゃん、ちょっと飛ぶぜ」
「分かったわ」
そしてぴょんと飛んで壁の内側に着地すると、そこには多数のテントが張ってあった。
無人のテントに入ると、そこに置いてある樽をポンと叩いて封印の魔法を解除して蓋を開けてみた。
樽の中身は食料だった。
俺はメラスに教えてもらった封印の魔法で再び樽を密閉するとテントを出た。
他のテントでは粗末なベッドが置いてあったり、ポーション類が置いてあるテントもあった。
「普通は出土品が置いてあったりするんだけど、全く無いわね」
あおいちゃんがそう指摘したので、発掘調査じゃ無いのかもしれないな。
中央には本部らしき大きなテントがあるが、見つかると拙いので近寄らない方がよさそうだ。
「それじゃあ作業をしている人に聞いてみるか」
「怪しまれないかしら?」
「なあに、バレたって簡単に逃げられるだろう」
そして出来るだけ人が少ない場所を探して、そこで働いている人に声をかけてみた。
「やあ、何か成果はありましたか?」
突然声をかけられた男は驚いて手を止めると、こちらを凝視してきた。
「女? ああ、そうか」
何かを納得した男はにやりといやらしい笑みを浮かべると、直ぐに指を3本立ててきた。
「これでどうだ?」
俺はその指と男の顔を見て、何を言われたのか直ぐに理解した。
一瞬馬鹿な事を言う男を殴ってやろうかと思ったが、直ぐに思い直した。
「それじゃあ、人に見られない所に行きましょうか」
俺がそう言うと慌てたあおいちゃんが耳打ちしてきた。
「ちょっと何考えてんのよ」
「まあ、いいから、口裏を合わせて」
男の方はすっかりやる気だ。
「おお、おお、姉ちゃん2人で相手してくれるのか? いいぜ、いいぜ、早くやろうぜ」
そう言うと男は、俺とあおいちゃんの胸や腰に視線を向けては、いやらしい笑みを浮かべていた。
愉悦に浸った男の顔とは裏腹に、あおいちゃんの顔はみるみるうちに不安で引きつっていった。
そして男は俺達を誘ってテント群の裏側にある人目に付かない場所までやって来ると、俺達に振り返った。
「さあ、ここでいいだろう」
振り返った男に向けて魔法を発動した。
「微弱雷」
「ぴぎゃあ」
男を電撃で気絶させると、直ぐに周辺の注意を引いてないか見回してみたが、問題なさそうだった。
「よし」
「よし、じゃないわよ」
あおいちゃんがぷりぷり怒っているが、それよりも今はこの男だ。
自白魔法をかけてから気付けすると、直ぐに質問を開始した。
「おい、俺の声が聞こえるか?」
「ああ」
「お前達は此処で何をやっているんだ?」
「俺達は、ここで砂を掘れとだけしか言われていない」
「此処に何があるんだ?」
「知らない」
まあ、末端の作業員にそうそう情報を与える訳ないか。
「お前の雇い主は誰だ?」
「仕事が欲しければ荷馬車に乗れと言われて、乗っただけだ」
駄目だ。ある程度上の者じゃないと必要な情報は持ってないようだ。
「神威君、魔法で尋問するなら先に言ってよね。でも、この男は全く役に立たないわね」
「ああ、仕方ない。偉そうなやつを捕まえよう」
そんな時、突然背後から怒鳴り声が聞こえた。
+++++
キュレーネ砂漠の作業区と呼ばれる発掘現場で補給品責任者をしているラデクは、日々減っていく補給品に比例して作業員のやる気も低下している事に頭を悩ませていた。
本当なら魔法使いに発掘させる予定だったのだが、辺鄙な砂漠での作業を嫌って集まらなかったのだ。
まあ、こんな何もない場所に来るのは食いっぱぐれた連中だから仕方が無い。
そして俺の役目は、そんな連中のやる気を維持するための酒と食べ物の手配だった。
その貴重な補給品が魔物に襲われて、現在配給品を制限していた。
このままだと俺がクビにされてしまう。何とかしなければ。
何か良い案は無いかと、キャンプ内を見回りしていると1人の作業員が女を2人連れてこそこそ隠れる姿を見つけたのだ。
あの野郎、こんな場所にまで商売女を連れ込むなんて・・・いや、待て、これは使えるぞ。
あの女達を他の作業員にあてがえば、連中のやる気も上がるだろう。
ラデクは警備員を数名集めると、早速作業員が消えた場所に向かった。
そして作業員が消えた場所では男と2人の女が何やら話していたので、早速女を拘束する事にした。
「おい、その女共をこちらに寄越せ」
ラデクは作業員の男に言ったつもりだったが、こちらを振り返って声を上げたのは女の方だった。
「誰だ?」
その命令口調にイラっとしたラデクは直ぐに言い返した。
「ふん、なかなか上物じゃないか。これからは俺が雇ってやる。1日百人は相手にしてもらうからな。お前達もいい稼ぎになって良いだろう?」
ラデクがそう言っても、女は余裕の表情を崩さなかった。
「へえ、あんた責任者なんだ」
ラデクは自分を見下すその言動に腹が立ったので、直ぐに部下に捕縛を命じた。
「おい、この生意気な女共に現実というものを教えてやれ」
「「「へい」」」
そう言ってニヤニヤ顔の部下達が前に出ると、信じられない事が起こった。
部下達が次々に倒れたのだ。
「いったい何が・・・」
ラデクが思わずそう呟くと、目の前が一瞬光り意識を失った。
+++++
砂漠で作業していた男に自白魔法をかけて尋問していた時、突然後ろから声をかけられ訳の分からない事を言いながら捕まえようとしてきたので、そのまま返り討ちにしてやった。
そして地面に転がっている男達を見下ろしながら、その身なりをチェックしてみた。
「なあ、あおいちゃん、こいつが責任者で、他の連中がその護衛で間違いないよな?」
「そうねえ、私にもそう見えるわ」
「それじゃあ、この男に自白魔法をかけてみよう」
「神威君、なんだかうれしそうね」
そりゃあ、探し物が見つかるかもしれないんだから当然だろう。
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