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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第11章 歴史探訪
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11―3 注目される町

 

 俺が馬車の窓から眼下の光景を眺めていると、ジゼルが話しかけてきた。


「それで先に南門に行くの?」

「いいえ、先に領主館に戻ってビルギットさんに状況を聞いてみましょう」


 パルラの城壁を越えてパルラの町の中に入ると、そこかしこに人の姿があった。


「中もかなりの人がいますねぇ」


 ベルグランドが窓から下を見ながらそう呟いた。


「ええ、そうね。こんな事一度も無かったわね」


 上空からゆっくりと領主館の庭に降下していくと、俺達の帰還に気付いたビルギットさんが大慌てで駆け寄って来た。


 そのいつもと変わらないビルギットさんの困り顔を見ると、不謹慎ながらホット一安心してしまうのだ。


「ユニス様、大変です」

「ビルギットさん、館の管理ご苦労様です。何があったのか聞きたいので食堂で話を聞かせてもらいますね」

「はい、分かりました」


 そしてビルギットさんが他の人に声をかけてきますというので、先に食堂に入って厨房に居るチェチーリアさんに挨拶した。


「チェチーリアさん、ご苦労様です。お茶と何かつまめる物を出してもらえませんか?」

「あ、お帰りなさいませ。はい、ちょっと待ってくださいね」


 そして食堂の椅子に座っていると、チェチーリアさんが早速お茶と焼き菓子を出してくれた。


 俺達がのんびり休憩していると、ビルギットさんを先頭にぞろぞろとパルラの主要メンバーが入って来た。


「みんなどうしたの?」

「どうしたの、じゃないさね。領主がとんでもない事をやって外国にとんずらするから、こちらは大変だったんだよ」


 ブルコがそう愚痴ると、集まった人達が全員頷いた。


「え?」

「それでは、まず私からよろしいでしょうか?」


 最初にそう言ったのはビアッジョ・アマディだった。


「ユニス様が陛下とオルランディ公爵に行った興行を見た観客が、よその町で噂をばら撒いたようです。それを聞いた人達がこの町に押し寄せてきました」


 ほう、そうなのか。


 観光客がやって来るという事はこの町にお金を落としてくれる訳で、町の運営としてはむしろ歓迎なのでは?


 経済的にも、これは需要の輸入になる訳だしな。


「街が活性化するなら、良い事じゃないの?」


 すると今度はベインが口を開いた。


「ユニス様、留守を任せていた者に聞いたのですが、外からやって来た人々の素行が悪く女性達から一人で出歩けないと苦情が出ているようです」


 ああ、そうか。人が増えると治安の問題が出て来るんだな。


 館が完成したらリリアーヌ殿下も遊びに来るだろうし、街中の治安問題は真剣に取り組まなければいけないな。


 だが、何でそんなにガラの悪い連中が入って来るんだ?


「ビアッジョ、観客はゲームを見ているだけよね? 何でそれでガラの悪い連中がやって来るの?」

「ああそれはですね、連中はあらゆるもので賭けをしているようです。特にゴーレム馬の障害競走は人気のようです」

「え、賭け事をしているの?」


 するとビアッジョ・アマディが大真面目な顔をした。


「元々ここは貴族や金持ちが遊ぶ町ですから、賭け事は当たり前ですよ?」


 ビアッジョのこの言葉に集まった人達が全員頷いた。


 ああ、皆そういう認識なんだな。


「でも、ゴーレム馬のメンテナンスとか騎手の保護とかは、どうしているの?」

「ああ、それはアオイ様に協力いただいております」


 ああ、あおいちゃんに負担かかっているのか。


 考古学の時間を邪魔されて、絶対不機嫌になっているな。


「あの、私からもよろしいでしょうか?」


 そう言って手を上げたのは、パルラで宿泊施設の管理運営を任せているジルド・ガンドルフィだった。


「パルラにやって来る人達は宿にお金をかけたくないらしく、七色の孔雀亭や流麗な詩亭を敬遠します。そして野外の宴亭に泊まれなかった人達が、従業員との間で問題を起こしております。そこで流麗な詩亭の宿泊料を値下げして対応できないものでしょうか?」


 ドーマー辺境伯が建てた七色の孔雀亭と流麗な詩亭は元々貴族や金持ちの宿泊を想定しているので、部屋は豪華で設備も整っていて運営に費用が掛かるのだ。


 ああ、それで街のあちこちで野宿が横行しているのか。


「う~ん、どちらかというと利用者が求めているのは木賃宿よね?」

「ええ、ですが建物を増やしても人手が足りません」


 ジルド・ガンドルフィがそう言うと、今度は酒場「エルフ耳」のカスト店長やカフェ「プレミアム」のベルタ店長らが口々に客が多すぎて、人手が足りないと訴えてきた。


「ねえ、人が足りないなら雇えばいいんじゃないの?」


 俺がそう言うと、ブルコが深いため息をついた。


「全く、このあほエルフは何を呑気な事を言っているさね?」

「な」


 おい、あほとはなんだ、あほとは。


「パルラ生活協同会社の人事権は、社長しか持っていないさね」

「あ」


 そうだった。俺しか採用出来ないんだった。


「今この町に余剰人員は?」

「居ないから、こんな事態になっているさね」

「分かった。とりあえず緊急措置として人を雇い入れましょう」

「ああ、その事で1つお願いがあるのですが、紹介状を持った者が4人いるのです」


 そう言ってビアッジョから紹介状を受け取り内容を読むと、それは商会長が書いた正式な書類だった。


 ビアッジョ・アマディの話によると、景気の良いパルラの噂を聞いた人達が職を求めてやって来るそうだが、その中でも正式な紹介状を持っている者はぞんざいに扱えないんだそうだ。


 追い返したら問題が起こりそうだったので、俺が戻ってくるまで宿に滞在してもらっているらしい。


 俺は就職希望者全員と面会することを約束してから一旦解散し、あおいちゃんに歴史書を渡すことにした。


 領主館の2階にあるあおいちゃんの部屋をノックすると、中から「入って」という声が聞こえてきた。


 そして俺が部屋に入ると、あおいちゃんが「キッ」と音が聞こえてきそうなくらい目を三角にして睨んできた。


 好きな事をする時間を邪魔されたからって、そんなに怒らんでも。


「なあ、あおいちゃんが大公をやっていた頃は、もっと忙しかったんだろう?」

「勤勉さや配慮といった言葉は、あの頃に使い果たしたわ」


 そう言ってプイと横を向いたが、なんだかんだ言ってもパルラの住民から頼まれたら断れないあたり、そんな事は無いと思うぞ。


 俺はそんなあおいちゃんが座っている机の上に、取り返した歴史書を置いた。


「これがアイテール大教国の禁書庫にあった歴史書だよ。人間視点で書かれているから、魔法国の記述を探すのはちょっと苦労するかもしれないけどね」

「まあ、これがそうなのね。それくらい問題ないわ。少しでも手掛かりがあるなら大助かりよ」


 そう言ったあおいちゃんは、子供が大好きなおもちゃを貰ってはしゃいでいるようだった。


「それじゃ歴史書は預けるから、解読よろしくね」

「ええ、分かったわ」


 そう言ったあおいちゃんの目は、既に歴史書に釘付けだった。


 +++++


 フェオリーノ・グイノ・アガッツァーリは、パルラにある流麗な詩亭という宿屋の豪華なテラスに座りお茶を楽しんでいた。


 実家の侯爵家は既に長兄が後を継ぐ事が決定しており、予備の予備でしかない俺の一発逆転の道は、騎士団に入るか他家の養子になるしかなかった。


 だが騎士団入団に失敗し、他家に行く予定も無い俺は、もはや家の無駄飯食らいと陰口を叩かれる存在に落ちぶれていた。


 そんな俺に父親が命じたのが、ここパルラでの情報収集だった。


 俺だってここが住民の半数以上が獣人やエルフだという事は知っていた。


 そして領主も貴族の間で大公のペットと揶揄される亜人だが、公国の貴族年間の第3位に記載のある高位貴族な事も。


 そんな場所の諸事情を調べるなんて、相手にバレて不興を買ったらどうするつもりだ?


 まあそうなったら、俺が勝手にやった事にされて侯爵家からあっさり切り捨てられるのは明白だろうがな。


 そんな父親への反発から、中をちょっと覗いて帰ろうと考えたのだ。


 父親には町まで行ったが追い返されたと言えば、証拠が無い以上、何も言われないと思ったからだ。


 だが、南門で強面の獣人に凄まれた時、思わず「働きに来た」と言って父親から渡された出入り商人の紹介状を渡してしまったのだ。


 慌てて回収しようとしたが、既に手紙は獣人の手の中にあり、無理やり奪い返そうとしたらそのまま噛みつかれるんじゃないかと怖かったのだ。


 すると中身を見た獣人が困り顔でどこかに行ってしまい、戻って来ると領主が不在だからとの理由で、この宿に通されたのだ。


 この宿の従業員は全員人間で、豪華な内装と美味しい食事それに気の利いたサービスにすっかりくつろいでいた。


 宿の外に出て町を清掃する獣人を見なければ、ここが亜人の町だという事を忘れてしまいそうだった。


 そしてテラスでお茶を楽しんでいると、自分と同じ境遇の男女が居ることにも気が付いた。


 最初は遠目で会釈する程度だったが、次第に会話を交わすようになった。


 そして長身で茶髪の男が俺に会釈すると、同じテーブルにやって来た。


「おはようございます。席よろしいですか?」

「おはようございます。ええ、どうぞ」


 そして給仕がお茶を置いて離れると、早速話しかけてきた。


「貴方も、大公のペットに興味が?」


 正確にはこの町全体に興味があるのだが、ここは話を合わせておく方がよさそうだ。


「ええ、亜人といえど、爵位を持った独身女性ですからね」


 フェオリーノが話を合わせると、相手の男はそれに乗って来た。


「ああ、やっぱり。夜会でも、公国に誕生した爵位持ちの2人の女性が話題になっていますね。だが、スクウィッツアート女男爵の方はアリッキ伯爵が狙っているようで、その圧力に皆指をくわえているようです。それに引き換えパルラ辺境伯は、妖精種特有の美しい顔立ちと豊満な肉体をしているんだとか。ちょっと気になりますよね?」

「ああ、確かにそうですね」


 そう言って俺達はお互い笑いあった。


 次に会った時は、他に男女を連れてきた。


 そして4人でテーブルを囲みながら当たり障りのない会話をしていると、俺達のテーブルに1人の男がやって来た。


「パルラ生活協同会社の者です。パルラ辺境伯様が戻られたので、この後面接を行います。服装等の準備を整えて、ここに戻って来てもらえますか?」

「ああ、分かった。準備してくるので少し待っていてくれ」


 そう言って自分が使っている部屋に戻るとき、他の3人に話しかけた。


「なあ、面接の時だけど相手は亜人だ。俺達の素性は黙っておいたほうが良いと思うんだが、どうだ?」


 すると直ぐに長身で茶髪の男が同意を示した。


「ええ、そうですね。それは良い考えだと思います」


 男がそう言うと、他の2人もそれに合わせるように頷いた。



 流麗な詩亭の正面玄関には、ゴーレム馬が引く馬車が待機していた。


 俺達はその馬車に乗り、パルラ生活共同会社の男に案内されて領主館までやって来た。


 総2階建ての領主館の会議室に入ると、そこには会議テーブルの向こう側に2人の亜人が座っていた。


 1人は頭の上に獣耳がある獣人で、そしてもう1人が大公のペットと呼ばれる女性だった。


 フェオリーノはその整った顔立ちと特徴的な赤い瞳に、目が釘付けになっていた。


評価ありがとうございます。

いいねもありがとうございます。


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