11―2 トップセールス
ルフラント王家との会食は終始和やかな雰囲気で行われていた。
以西の地南部の貴族を生きたまま引き渡した件に礼と謝罪を言われ、リグア自由都市の人々はとても気さで良い人達だったと答えるととても驚かれた。
一通り以西の地の事を話し終えると、ようやく本題であるクマルヘムにフリン海国の交易品を取り扱う商品取引所を作った事を紹介した。
王国の商人達にも利用を勧めると、フリン海国の商品流通を懸念していた王家も喜んでくれた。
国王は、俺が商業ギルドで商品取引所の宣伝をしたいと言うと、早速商業ギルド長宛に通達を出してくれることになった。
国王がさらさらと書類をしたためると、当番兵を呼んで渡してくれた。
「これで何時行っても歓迎してもらえますぞ」
「感謝いたします」
「ああ、それから隣接するニッセン伯爵にも便宜を図るように命じておこう」
そう言われて、クマルヘムの避難民を救出するためバンマールの町まで行った時の事を思い出した。
まあ、別れ際のあの怯えたニッセン伯爵ならこちらにちょっかいはかけてこないだろうが、王様からの口添えもあれば完璧だろう。
そしてこちらの用事が終わると、目を輝かせた王女様が話しかけてきた。
「ガーネット様、パルラに招待してくださるという話はまだ有効ですか?」
ん? ああ、王都が危険だった時に緊急避難の意味合いでそう言ったな。
「ええっと、訪問したいという事でしょうか?」
すると今度は国王が口を開いた。
「ガーネット卿、パルラの町に帝国の出先機関があると聞いたのだが?」
「ええ、私は領事館と呼んでおりますが、確かにあります」
「ほう、なら、王国の領事館というものがあっても問題なさそうですな?」
うん、帝国は魔女の呪いの対策のため領事館を置いたようなものだが、王国も諦めていないという事か?
すると今度はチュイが口を開いた。
「ユニス殿、妹はパルラに遊びに行きたいのです」
ああ、そう言いう事か。
「リリアーヌ殿下、何時でも歓迎しますよ」
「え、本当ですか?」
「ええ、クマルヘムとパルラの間で物資輸送用にゴーレムを使いますので、それを利用して頂ければ途中で面倒に巻き込まれる事も無くパルラに来ることが可能です。よろしければ殿下専用の館を建てておきますね」
「まあ、それはとっても素敵なお話ですわ」
王家との会談を終えると、今度はベルグランドの案内で早速王都にある商業ギルドを訪ねることにした。
商業ギルド前でゴーレム馬車を降りると、ゴーレム馬が珍しいのか通行人からの注目を集めた。
「ささ、女ボスこちらに」
馬車から降りると、通行人から悲鳴のような驚きの声が漏れてきた。
そう言えば俺達は、王国民のベルグランドはいるが、他はジゼルにトラバールそれにグラファイトとインジウムという構成なのだ。
驚かれるのも仕方無いか。
ベルグランドの案内で商業ギルドに入ると、そこは商人達が発する喧噪や熱気が襲ってきた。
「随分活気があるのね」
「ええ、王国内の商品や海国、伯国の商品も集まりますからね」
そしてギルド内の人達が俺達に気付くと、途端にあたりは静まり返った。
そんな空気の中、慌ててこちらに駆けてくる恰幅が良い男の姿があった。
「パルラ辺境伯様とお見受けします。私は王都商業ギルド長イスマエル・オヘダと申します。ようこそおいで下さいました。部屋を用意してありますので、こちらにどうぞ」
「ええ、感謝しますわ」
ギルド長と名乗った男は必要以上に大きな声でそう言ったのは、周りの人達に俺が何者か知らせたのだと理解した。
奥の部屋に通されてソファに座ると、従業員の制服を着た女性がワゴンを運んで入って来ると、俺の前にお茶のカップを置こうとした手がブルブル震えてお茶が零れてしまった。
「あっ、も、申し訳ございません」
お茶を零した女性が真っ青な顔で頭を下げると、慌てたギルド長も真っ青な顔で俺に頭を下げてきた。
「も、申し訳ございません。とんだご無礼を」
「いえ、別に構いませんよ」
俺が何でもないと言うと、お茶を零した女性は何度も頭を下げてから逃げるように出て行った。
「なんだか怖がられているわね」
俺がジゼルにしか聞こえない小声でつぶやくと、ジゼルも小声で返してきた。
「当然でしょう。ここの人達は、王都上空に浮かんだユニスのこわ~い顔を見ているはずよ」
ああ、あれかぁ。
「ちょ、あれはジゼルがメイクしたんでしょう」
「何を言っているのよ。ユニスがそうしろと言ったのよ」
「うっ」
言い返せなくなった俺が正面に座るギルド長を見ると、そこには困惑した顔があった。
「えっとギルド長、それでは早速要件に入ってよろしいでしょうか?」
「は、はい、お願いします」
そこでギルド長を相手にクマルヘムの商品取引所についてプレゼンを行ったのだが、どうも反応が芳しくなかった。
興味が無いというよりも、どうしてよいか分からないといった感じなのだ。
「えっと、当ギルドとしては、加盟する商人に対して紹介は出来ますが、強制はできないという事は、ご承知おき頂きたいのですが?」
どう見てもプレゼンが失敗したような気がするぞ。
俺は隣のジゼルにそっと呟いた。
「拙いわ、ジゼル」
「ええ、そうね。このままだと失敗しそうよ」
だが、この状況を一発逆転する上手い案が思いつかなかった。
これもうどうしょうもないな。
「ええ、それは当然ですね」
俺はそう言うとプレゼンを終えて会議室を後にした。
一応クマルヘムにフリン海国の交易品を取り扱う取引所が出来た事は紹介することが出来たが、あの反応を見る限り王国の商人がクマルヘムに足を運ぶかは微妙だった。
せめてクマルヘムに来て、自分の目と耳で体験してもらえたら違うんだけどなぁ。
ギルドを出て王都内をゴーレム馬車で移動していると、1つの建物が目に付いた。
そこにはアルコルタ商会と壁に名前が刻んであったのだ。
アルコルタと言えば、マリカ・サンティに化けていた時一緒に野営した商人じゃなかったか?
人違いかもしれないが、試しに入ってみる事にした。
「御免下さ~い」
「いらっしゃいませ~」
店の奥から声が聞こえてくると、バタバタと足音を響かせて見知った顔の男性が現れた。
「久しぶりですね。セブリアン・アルコルタさん」
「え、あ、あの、どちら様ですか?」
アルコルタは俺達の容姿に驚くよりも、俺が名前を知っている事の方に驚いているようだった。
ああ、しまった。今の俺はマリカ・サンティではないので久しぶりと言っても、戸惑われるな。
「私はユニス・アイ・ガーネット、ロヴァル公国の貴族で、以西の地の領主でもあるわ。そしてこちらは私の友人のジゼルよ」
「ジゼルです。よろしくお願いします」
ジゼルが頭を下げると、アルコルタもそれに合わせて頭を下げて挨拶をしてくれた。
「以西の地・・・」
その漏れた言葉から、何を考えているのかはなんとなく分かった。
「あの、私の名前は誰かから聞かれたのですか?」
俺に向き直ったアルコルタは、困惑の表情で質問してきた。
「ああ、マリカ・サンティにね」
「え、マリカ・サンティですって? 彼女は元気なのですか?」
「ええ、ロヴァル公国にあるパルラという町で元気に働いていますよ」
俺がそう言うと隣に居たジゼルが裾を引っ張った。
まあ、いいじゃないか。嘘は言ってないぞ。
「ええっ、公国の商人だとは思いませんでした。公国だと気楽に行ける場所じゃないのが残念ですね。もし、よろしければ、またお会いしたいと伝えてもらえますか?」
「ええ、伝えておきましょう」
そしてにこやかだったアルコルタの顔が急に真顔になった。
「それで私の店に来たのは、何か要件があったのではありませんか?」
「ええ、そうなのです」
そしてクマルヘムの取引所の事を話し、そこではアルコルタが興味を示した魔素水や甘味大根も取り扱う事を説明した。
「それは、私にクマルヘムのその取引所を利用してもらいたいという事でしょうか?」
「ええ、フリン海国やロヴァル公国の交易品に興味があれば是非」
俺がそう提案したが、アルコルタは顎に手を当てて何か考え込んでいた。
するとジゼルがそっと耳打ちしてきた。
「疑念だらけって感じね」
ああ、俺が騙していると思われているのか。
「アルコルタさん、それでは一度クマルヘムの取引所を見学してみませんか?」
「見学・・・ですか?」
「はい、商売を成功させるには他者を出し抜くのが重要ではないですか?」
「た、確かに」
「それに大きな利益を掴むには、多少の危険は覚悟するべきじゃないですか?」
「うう、ごもっとも」
ようやくアルコルタの顔に笑みが浮かんだようだ。
「分かりました。私も商人の端くれ、ここまでお膳立てされて、断る事はできませんな」
「ありがとう。それじゃあ、早速行きましょうか」
「え? 今からですか」
そして半信半疑のアルコルタを連れてクマルヘムに戻って来た。
商品取引所にはシャウテンから派遣してもらった責任者を紹介して、それから一通り設備の紹介を行った。
取引所の責任者がフリン海国の人間だと分かると、俺の言葉も少しは信じてもらえたようだ。
そして俺は最後の一押しをすることにした。
マリカ・サンティに化けてアルコルタに会うのだ。
見学を終えて食堂で休憩しているアルコルタの前にマリカ・サンティの姿で現れた。
「あら、アルコルタさん、久しぶりですね」
「え、えええっ、さ、サンティさんではありませんか。どうしてこちらに?」
「ああ、フリン海国の商品を購入して公国で売るのです。かなり有利な商売ができるのですよ」
「え、でも、公国に行くには王国と伯国を経由しないと無理なのでは?」
王国と公国は直接繋がる道が無いので、その疑問は当然だろう。
「ああ、ヴァルツホルム大森林地帯を経由するのです」
「え、そんな事が可能なのですか?」
「ええ、パルラ辺境伯様がヴァルツホルム大森林地帯を突破するのにゴーレムを貸してくれるのです。とても助かっていますわ」
俺の言葉に驚いたアルコルタが隣の席を進めてきたので、素直に座る事にした。
するとアルコルタが周りを気にしながら小声で話しかけてきた。
「ところでサンティさんは、そのパルラ辺境伯様が最悪の魔女という事はご存じなのですか?」
うっ、やはり王都の上空に顔を浮かび上がらせたのは、結構影響があったんだなあ。
「ええ、知っていますよ。とても気さくで良い人です」
「その魔女が王国を脅迫して、この地を強奪したのを知っていますか?」
「いえ、この地は王都に発生した人食い虫を退治する代償だと聞きましたし、脅迫したのも王国を乗っ取ろうとした悪者を王都から追い払うためだったそうですよ」
「そうだったのですか」
ま、まあ、多少は脅迫めいていたが、相手が納得してくれるのならそれでよしとしよう。
それにしても、何処の世界でも信用を得るのは大変だなぁ。
アルコルタを王都まで送り届けた後で、パルラに戻る事にした。
クマルヘムの運営にガーチップ達だけでは不安だったので、あの怪盗の3人娘にも手伝いをお願いしておいた。
そしてパルラに戻る馬車の中には、ベルグランドが居た。
「ベルグランド」
「はい?」
「何故、馬車に乗っているの?」
「え、だって、パルラにリリアーヌ殿下の宿泊所を作るんですから、監督役が必要ですよね?」
「はあ、まあ、いいわ」
そしてパルラまで戻って来ると、南門の前に黒山の人だかりができていた。
「何かあったようね」
「姐さん、直ぐ確かめた方がよさそうですぜ」
「そうね。急いで戻りましょう」
いいね、ありがとうございます。




