表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第10章 魔女の領地
296/416

10―27 奪われた船

 

 そして俺が立ち上がると、ガーチップ達も一斉に立ち上がった。


 この人数で向かったら相手を威圧しないか?


「ガーチップ、貴方達はここで待っていて」

「え、ああ、分かった」


 ガーチップ達は何か不満そうな感じだが、大人しく従ってくれるようだ。


 そしてトラバール達に案内させて向かった部屋には、ボコボコにされた男達が座っていた。


「ちょっとトラバール、やりすぎじゃないの?」

「し、仕方無かったんだ」


 さっきこの連中を助けたとか言ってなかったか?


 俺達の声を聞いた男達が顔を上げたので、名前を確かめてみる事にした。


「お前がフーゴか?」


 俺はそう声をかけながらフードをとると、男は目を見開き突然叫び出した。


「お、おい、最悪の魔女じゃないか。それに隣に居るのは獣人だぞ」


 どうやらジゼルもフードをとって顔を出したようだ。


「あ、ちょっと待て、姐さんはお前達が思っているような人じゃ」


 トラバールが誤解を解こうと慌てていると、男達が叫んだ。


「なんで初めから魔女の部下だと言わなかったんだ」

「あ?」


 男達の言動にトラバールが戸惑っていると、男達は立ち上がって俺の方に突進してきた。


 直ぐに俺の視界の隅に黒と黄の残像が現れると、目の前に壁が出来上がった。


 すると慌てた顔のジゼルが腕を掴んできた。


 その意味するところを察した俺は、直ぐに2人を機能停止にした。


 男は自分を亡き者にしようとする死の象徴が突然停止したことにも気付かず、その場で跪くと首を垂れていた。


「魔女様、お初にお目にかかります。私はフーゴと言うしがない密売人です。これからは魔女様の部下として身を粉にして働きますので、どうぞご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」


 予想外の申し出に何かの罠ではないかとジゼルの方を見たが、ジゼルが頷いたのでどうやら本気みたいだ。


 しかし、いかにも悪役面の男から、これから俺の為に積極的に悪事に加担しますと言われて、なんて答えればいいんだ?


 悪事を頑張れって言えないし、堅気になれとでも忠告してやるのも違うような気がするので、結局受け流す事にした。


「ああ、そう。ところで、フリン海国がこの町を焼き払うと聞いたのだけれど、それ本当なの?」

「はい、奴らの船にはその能力があります」


 この世界でまだ船を見たことが無いが、戦艦に大型砲でも装備しているのか?


 俺は小首を傾げたのをみた、フーゴが慌てて言葉を継いだ。


「本当です。実物を見てもらえば分かって頂けると思います。早速見学に行きますか?」


 へえ、この世界の船かぁ。ちょっと興味をそそられるよなぁ。


「ええ、お願いね」


 俺達は来た時同様フード付きローブで姿を隠すと、フーゴの案内で港に向かう事になった。


 海岸線の道を歩いていると、インジウムが機能停止した事が不満だと嘘泣きしながらアピールしていた。


「うっ、うっ、悲しいですぅ。お姉さまをお助けしようとしただけですのにぃ」


 先ほどからずっとこの調子だが、あのまま放置していたら確実に貴重な情報源をミンチにしていたよね?


 それでもいい加減鬱陶しくなってきたので、宥めることにした。


「あー、分かりました。ごめんさないね、インジウム。それから助けようとしてくれてありがとう」


 そう言ってインジウムの頭を撫でてやると、ようやく機嫌が直ってきたようだ。


 そしてもう1人のグラファイトは、黙って背中で語るといった感じだ。


「グラファイトも、ありがとうね」


 そう言って軽く肩を叩くと、嬉しそうな顔をした。



 そしてフーゴが立ち止まった場所には、船ではなく岩山があった。


「おい、何のつもりだ?」


 トラバールがそう文句を言うと、フーゴは手を上げた。


「まあ、待って下さい。これは隠ぺい魔法です。こうやって」


 そう言ってフーゴが魔法を解除すると、そこには大きな木造船が現れた。


 艦尾には艦名だろうか「フェラン」と刻印されていた。


 木造船の高い舷側から桟橋にかけては粗目のネットが張られていて、フーゴは慣れた手つきで縄を掴むとスルスルと甲板まで上っていってしまった。


 取り残された俺がはっと我に返ると、舷側からフーゴが顔を出した。


「今からブランコを下ろしますね」


 そして甲板からロープに括りつけられた板切れが降りてきた。


 それは荷上用クレーンを使ったブランコで、これで甲板まで釣り上げてくれるようだ。


 水兵じゃない俺にネットを伝って上るのは無理だろうと、配慮してくれたようだ。


 俺は自身とジゼルの服装を確かめながら、ネットの網目を踏み外して足はおろか下着まで無様に晒す恥ずかしい姿を思い浮かべていた。


 そしてフーゴの配慮に感謝しようかと思ったが、ブランコで荷物のように釣り上げられる自分の姿があまりにも情けなさすぎるので、断る事にした。


 そしてジゼルやガーチップ達全員を集めて重力制御魔法で軽くすると、そのまま木造船に飛び移った。


 俺達が船の後甲板に着地する姿に、フーゴは目を丸くしていた。


「流石は魔女様ですね。このような移乗手段があるなんて御見それしました」

「おべっかはいいわ。それよりも船の案内をお願い」

「はい、畏まりました」


 フーゴに案内されて前甲板の方に歩いていくと、船の傷跡が目についた。


 船の中央部には柱が根本から折られた形跡があり、甲板の一部にも穴が開いていた。


 前を歩くフーゴが、舷側から半円形に突き出しているガンデッキを指さした。


「魔女様、あれが対海獣用のバリスタです。矢の中には毒液が入っていて命中すると海獣の体内に毒液を注入する仕組みになっています」


 そこに設置されているバリスタは陸上で使う物よりも大型で、装填される矢も銛と言った方がいいほどごついものだった。


 火薬式じゃないが、捕鯨船が使うハープーンガンに近いのかもしれないな。


 そのガンデッキが片舷に8基ずつ装備されていたが、左舷側の中央の2基は破壊されていて、舷側と甲板には大きな亀裂が入っていた。


 俺の視線に気付いたのかフーゴが話しかけてきた。


「ああ、多分ですが、海獣と戦った痕跡だと思われます」


 海獣って何だ?


 巨大イカか? それとも巨大海亀か?


 俺がそんな事を考えていると、フーゴが立ち止まった。


 そこはフォアマストの折れた柱の根本と思われた。


 ここまで来る間に根本から折れた木柱が3つあったことから、この船が元は3本マストの帆船なのだろうと想像できた。


「これを見て下さい」


 フーゴが指さした所には、船首に向けて2本のコの字型のレールが伸びていた。


「これがフリン海国の主兵装である魔法投射機です。この溝に魔法弾を装填して、魔法で弾体を加速して投射します」


 それはつまりレールガンのような物か? いや、電磁力じゃないからカタパルトといったところか。


 砲尾の傍に給弾装置があり、そこに現れた魔法弾は人間程の大きさがあった。


「こいつは水平線上の敵を撃てるので、フリン海国の船はメインマストの先端に所属旗を必ず付ける事になっています」

「それは、つまり正体不明の船は問答無用で撃たれると?」

「はい、海賊船など、こいつを食らえば一発で沈みます」


 あーここにも海賊は居るのか。


 フーゴはその弾を手で触れながら、命中の衝撃で火炎魔法が発動するのだと教えてくれた。


 俺が霊木の実で作ったスリングショットの弾を大きくしたような物のようだ。


 成程、こんな弾が撃ち込まれたら町も壊滅するかと納得したところで、穏便に済ませる方法は無いかと考えてみた。


「ねえ、今からでも乗組員を探して、船と一緒に引き渡せばいいんじゃないの?」

「それが、ヒルの一味は全滅していて乗組員の居場所が分からないのです。それに生きているかどうかも・・・」


 それを聞いたトラバールと赤熊は俯いていた。


 こ、これはどうしようもないな。


「赤熊、白猫達に連絡して、フリン海国の港に居る艦艇数と出航の動きがあるか聞いてもらえる」

「ああ、分かった」


 そして感じていた疑問をフーゴにぶつけてみた。


「ところでマストが全部折れているのに、どうやってここまで運んできたの?」

「ああ、ではそちらも見学してみましょう」


 そしてフーゴは階段から船内に降りて行った。


 階段を降りていっても船内には所々魔法の光があるので、全く見えなくなるという事は無かった。


「船倉は空ね」

「ええ、多分ヒルの野郎が全部持ち出したんだと思います」

「ん、それじゃあ、連中の拠点が何処かにあるんじゃないの?」

「はい、それも含めて探してみようとは思っています」


 そして随分降りて来たなと思ったところで、ようやくフーゴが立ち止まった。


「これです。フリン海国の船は魔宝石を使った水魔法でも走れるのです」

「水魔法?」

「ええ、水魔法で水流を作り、それを艦尾から放出して前に進むのです」


 それってポンプジェット推進みたいなものか?


 それにしても帆走とポンプジェットのハイブリッドとはねぇ。


「残念ながら、もう魔力が切れて使えないのですが」


 そういってカートリッジを開くと、そこには空になった魔宝石が入っていた。


 俺はグラファイトを手招きすると、差し出された袋の中から魔宝石を取り出しカートリッジの中身を交換してみた。


 するとそれまで死んでいた装置が復活したのだ。


「おお、流石は魔女様。これからはこの船も魔女様の物でございます。存分にお使い下さい」


 すると赤熊が声をかけてきた。


「ユニス様、白猫から返事があった。フリン海国の港には、12隻の戦闘艦が係留されているが、出航の気配はないそうだ」


 という事は黒装束の脅しは事実であり、攻めてくるのも時間の問題という事か。


 魔法投射機の射程距離から、町が見える場所まで来られたら負けだな。


 かといって、この町のならず者をクマルヘムに連れて行ったら、ようやく平静を取り戻した町の治安が破綻しそうだ。


 そうなると、この船で迎撃に出るしか選択肢は無いという事か。


「フーゴ、お前は何故、フリン海国の船にこんなに詳しいの?」

「おお、よくぞお聞き下さりました。実は、商人のふりをして何度もフリン海国に潜入しては、酒場で水兵達に酒を奢って色々聞き出したのです。本当は船を盗めないかと画策していたのですが、残念ながら無理でした。それを知っていたヒルの野郎が、この船を私の所に持ち込んだのです」


 フーゴは得意分野の話題で気分が良いのか、饒舌になっていた。


「この船の修理は可能なの?」

「はい、船大工は居るので応急修理は可能ですが、マストはちょっと無理かもしれません」


 フーゴの視線の先には、根本からぽっきり折れているマストの残骸があった。


 まあ帆走は出来なくても、ポンプジェットは動くので問題はないか。


「船体の修理のみでいいわ」

「分かりました。それでは仕事の依頼に行かなければなりませんが、受けてくれるかは相手次第なのはご理解願います」


 まあ、相手にも都合があるだろうし、仕事を受けてくれるように条件を提示する必要もあるよな。


「そう、なら早速案内してくれる?」

「はい、分かりました」


 俺達はフードを被りローブで身を包んで姿を隠すと、フーゴの案内で船大工が居るという場所に向かう事にした。


いいね、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ