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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第10章 魔女の領地
295/416

10―26 リグア自由都市へ

 

 バツが悪くなったトラバールだが、男の説明は続いていた。


「酒場から戻って来た者が連中に状況を説明したんだが、聞き入れてくれなかったんだよ。その後は、お前さんらも知ってのとおりだ」


 トラバールが後ろに下がると、赤熊がその先を聞いてくれた。


「な、なあ、それでお終いとはどういう意味なんだ?」

「連中は船と乗組員を返さなければ、この町ごと焼き払うと脅してきたんだ」

「そんなの、ただの脅しだろう?」


 町を焼き払うなんて事は姐さんしかできないと思っているトラバールは、なんだか姐さんを下に見られたようで腹が立っていた。


「いや連中の目は本気だった。それにフリン海国の戦闘艦には、その能力があるんだよ」

「なんで、そんな事が分かるんだ?」

「だから、フリン海国の船が此処にあるからだよ」

「ああ」


 連中によると、フリン海国の船には魔法投射機というのが装備されていて、そこから投射される火炎魔法弾は町を壊滅させるほどの威力があるんだとか。


「あんたらが余計なおせっかいをしたから、あいつら艦隊を率いて戻って来るんだよ」


 魔法弾で焼かれるより、あの場で死んでいた方がマシだったとでも言いたいのか?


「おい、どうする?」


 赤熊がこちらを振り返って聞いてきた。


 どうするったって、これもうどうしょうも無いだろう。


 仕方がない、ここは姐さんに来てもらうしか方法が無いな。


 +++++


 俺はモヒカ男爵領やリグア自由都市それにフリン海国からの情報が送られてくるのを待ちながら、クマルヘムで獣人と人間達がお互い信頼関係が築けるように努力していた。


 お供はジゼルとブマク団のリスタちゃんにレアム入植地の生き残りのセリアちゃんだ。


 この2人はセンディノ辺境伯館で出会ったようで、いつの間にか仲良くなっていた。


 獣人と人間の融和には丁度良いモデルなので、一緒に来てもらっていた。


 最初に向かったのは畑だ。


 そこではウジェがブマク団の獣人とクマルヘムの住民達に、魔素水の使い方を教えていた。


 ウジェは温厚な性格なので、ブマク団とクマルヘムの住民の橋渡し役には丁度良い人材なのだ。


 そして魔素水を使えば収穫量も増え生育期間も短くなるのはここの住民達も知っていたようだが、魔素水は高価で使えなかったそうだ。


 俺達が来たことに気が付いた人達が作業の手を休めて手を振って挨拶してきたので、こちらも手を振り返していると、ウジェが慌ててやって来た。


「これはユニス様、来ていただいて皆も喜んでおります」


 ウジェの後ろでは、ホルスタインから魔素水を取水している人達の姿があった。


 俺の視線に気付いたウジェは、嬉しそうな顔をしていた。


「ユニス様のゴーレムには、とても助かっています」

「それは良かったわ」


 食料生産用にとパルラからホルスタインを持ってきていたが、高価な魔素水がふんだんに使えると聞いてとても喜んでいるそうだ。


 食べる物に困らなくなれば、皆心に余裕ができるからね。



 次に向かったのは、レアム入植地の生き残り達の居る建物だ。


 元教会だったこの建物は、この町が魔女領になったと知るやいち早く司祭達が逃げ出してもぬけの殻になっていた。


 広さも十分だったので仮の孤児院にしたのだ。


 そして何故かキリステンが子供達の世話係をしていた。


 彼女は人間を恨んでいると思っていたのでとても意外だったが、ジゼルの説明では俺がバンマールやレブス砦から連れ帰った人々の哀れな姿を見て考えが変わったんだとか。


 まあ何はともあれ、お互い仲良くしてくれるのは大歓迎だよ。



 街中では、ベイン達が道路整備や壊れた建物の修理、解体等を行っていた。


 普段そんな作業をしていないブマク団の連中も、不慣れな手付きながらベインから教えを受けていた。


「あ、これはユニス様、連中も多少は使えるようになりました」


 そんなベインの顔は少しやつれていた。


「ベイン、大変そうね」

「ええ、ですが、ユニス様がお茶をご馳走してくだされば元気百倍になります」

「え?」


 するとベインは笑顔である建物を指さした。


「いやあ実は、パルラのエルフ耳を模したカフェを作ってみたのです。ユニス様あの店でお茶するの好きでしたよね?」


 ベインが指さした店では、猫耳の獣人が嬉しそうに手を振っていた。


 隣のジゼルを見ると頷いているし、リスタちゃんとセリアちゃんも期待に目を輝かせていた。


 これは、お茶しないといけない雰囲気だな。


「それじゃあ、せっかくだから寄っていきましょうか」

「「わーい」」


 ベインの手造り感満載のカフェでテーブル席に着くと、直ぐに獣人牧場で最初に声をかけてきた猫獣人のガリナがやってきた。


「いらっしゃいませぇ~」

「えっと、ガリナさん、ここで何をしているのです?」

「え~、私が店長ですよぉ。ささ、何になさいますか?」


 するとリスタちゃんが元気良く手を上げた。


「は~い、私プリンが良い」

「あー残念、売り切れです」

「え~、じゃあ、パンケーキぃ」

「それも売り切れですぅ」


 そこでようやく気が付いた。


「店長のお勧めで良いわ。あ、ベイン達にもお願いね」

「はい、畏まりましたぁ」


 そう言ってにっこり微笑むとガリナが奥に下がっていった。


 それにしてもリスタちゃんが言っていた菓子って、確かあおいちゃんが自分が食べたいからってエルフ耳の店長に作り方を教えたものだよな。


 なんで知っているんだろう?


 子供達は不満そうな顔をしていたがガリナがお茶と焼き菓子を持ってくると、直ぐに機嫌が直ったようだ。


 隣の席のベイン達も休憩を楽しんでいた。


 そんな時、俺に左手の甲に連絡蝶が現れた。


 誰だろうとその翅に触れてみると、それはトラバールからの報告だった。



 クマルヘムの元センディノ辺境伯館でウジェやベイン達に集まってもらうと、早速要件を切り出した。


「リグアに偵察に行ったトラバールから報告が送られてきたのだけれど、私に来てほしいそうよ」

「何か問題でも起きたの?」


 ジゼルがそう聞いてきたので、俺は頷いた。


「多分ね。目立たないように夜中にこっそり来て欲しいんだって」

「何かありそうね。それじゃあ私も同行するわ」


 ジゼルには魔眼があるので、相手が何を考えているか知る事が出来るのはとても助かるのだ。


 俺がジゼルの動向に同意すると、今度はガーチップが口を開いた。


「俺達も行くぞ。ここは俺達の土地なのに、汗もかかないなんてありえないからな」


 ガーチップは、てこでも動かないぞと言わんばかりに俺を見つめてきた。


 ここで拒否したら暴れ出すかもしれないな。


 仕方がない、連れて行くか。


「分かった。それじゃあウジェそれとベイン、留守番をお願いね」

「はいユニス様、お任せ下さい」

「ですが、出来るだけ早くお戻りください」


 ベインは余裕の表情だが、ウジェは心配そうな顔をしていた。


「ええ、用事を済ませたら直ぐに帰って来るわね」



 夜にこっそり潜入するといっても、ガーチップ達が加わったので結構な大人数になってしまっていた。


 これでどうやってこっそり潜入するんだ?


 そこでリグアが港町だという事を思い出し、バンマールで作った屋形船風のゴーレムなら他の船の中に紛れ込んでしまえば目立たないだとうと思ったのだ。


 木を隠すなら森の中ってね。


 全員を乗せた屋形船型のゴーレムがバンダールシア大陸の西端まで到達すると、リグア側に気付かれないように一気に海面すれすれまで降下していった。


 その時ジゼルが引きつった顔でしがみついてきたので、降下速度が速すぎたのだと分かった。


 そして後ろにいるガーチップ達を見ると、皆平然とした顔をしているのだが急降下で浮き上がった尻尾の毛が全員逆立っていた。


 その顔との対比に思わず吹き出しそうになったが、ガーチップ達がやせ我慢しているので必死に笑いをかみ殺した。


 それでも俺にしがみついているジゼルにはバレてしまったようで、思いっきりつねられた。


 ジゼルに謝りながら速度を緩め海面すれすれまで降下しそこから夜陰に紛れてリグアの東岸に向かうと、陸側から光の合図があった。


 どうやらトラバール達が待ってくれているようだ。


 船を接岸させると俺の隣にガーチップがやって来た。


「ユニス殿、陸上で何があるか分からん。ここは俺が先に上陸して安全を確保するぜ」


 そこでふっとトラバールと赤熊が、擬態魔法で別人の顔になっている事を思い出した。


「ガーチップ、人間の男女が居たらそれは味方だからね」

「ああ、分かった」


 ガーチップは嬉しそうに頷くと、颯爽と船から降りて行った。


 その後をガーチップの部下たちが降りていったので、俺は最後に上陸して乗って来たゴーレムを土に戻した。


 陸上ではガーチップ達がまるで橋頭保を確保するかのように、半円形に展開して周囲の警戒をしていた。


 トラバールと赤熊は俺の姿を認めると、直ぐに駆け寄って来た。


「姐さん、手間をかけさせて申し訳ない」

「それは良いんだけど、何があったの?」


 俺が尋ねてみると、トラバールは左右を見回してから小声になった。


「ちょっと込み入っているんで、落ち着ける場所で話します」

「分かった」

「それじゃあ、こちらです」


 トラバールと赤熊に案内されたのは、通りに面した2階建ての建物の1室だった。


 そこで2人から説明されたのは、フリン海国を怒らせて町を焼かれるというなんとも突拍子もない内容だった。


「フリン海国とリグアの交渉に割り込んで決裂させたうえ、この町が焼かれる原因を作ったと?」


 俺がそう指摘すると、トラバールは額に大汗を搔いていた。


「いや、確かにそうなんだが、俺は殺されそうだった連中を助けただけで・・・」


 トラバールが必死に言い訳をしようとするのを手で制した。


「言い方が悪かったわね。別に怒っていないから安心して」


 それにしても、理由はどうあれトラバール達の行動が原因で、この町の住民が重大な危険に晒されているのは確かなようだ。


 トラバール達をこの町に潜入させたのは俺だから、最終的な責任はとらないと拙いよな。


 だが、1つ確かめる事があった。


「でも、どうやってフリン海国はこの町を滅ぼすの?」

「ユニス様、それはこの町の連中に聞いてくれた方が早いと思うぜ」


 俺の質問に答えたのは、赤熊だった。


「分かった。それじゃあ案内してくれる?」


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