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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第10章 魔女の領地
287/415

10―18 レブス砦1

 

 クマルヘムの外に降りると、避難民達は呆然とした顔で見慣れたクマルヘムの城壁を見つめていた。


「なんだか、あっという間に戻って来たな」

「は、初めて空を飛んだ」

「あれだけ苦労してバンマールまで何日も歩いたというのに、こんな簡単に戻って来るなんて・・・」

「これが魔女様のお力なのか」


 そんな驚き顔の避難民達に町中に獣人が居る事をあらかじめ説明すると、避難民達は俺の傍にいるジゼル達をチラチラと見ていた。


 いきなり受け入れろと言われても、なかなか難しいのかもしれないな。


 そこでこれからの生活について相談するため代表者を数名選んでもらい、獣人達と話し合いをすることにした。



 元センディノ辺境伯館に来てもらった元領民の代表とパルラから連れてきた獣人達がテーブルを挟んで向かい合うと、その対照的な表情が目についた。


 パルラの獣人達は人間を見慣れているのでにこやかな表情をしているが、初めて獣人を見る元領民の表情はとても微妙だ。


 強面のガーチップをこの席から外しておいて本当に良かった。


 最初は固かった話し合いも、気遣いが出来るベインと真面目なウジェの雰囲気で少しずつ緩んできていた。


 そして休憩としてジゼル達がお茶とお菓子を配ると、ようやく笑みが浮かぶようになってきた。


 よしよし、雰囲気が和んできたぞ。


 そんなところに乱暴に扉が開き鬼の形相をしたガーチップが入って来ると、再び場の空気が凍り付いた。


「ユニス殿、大変だ」

「ちょ、ちょっとガーチップ、落ち着きなさい」

「「「うわぁぁぁぁ」」」


 ガーチップは周囲の空気と俺の焦った顔を見比べて、自分が場違いな場所に現れた事を理解したようだ。


「す、すまない。緊急の話がある」

「分かったわ。ウジェ、後はお願いね」

「はい、お任せください」


 ここは真面目なウジェに任せておけば大丈夫だろう。


 俺とガーチップはサロンに移った。


 そこには既にガランというガーチップの部下が待っていた。


「それでどうしたの?」

「ユニス殿、西の偵察に行ったガランが戻ってきたんだが、どうやらレブス砦に王国兵が残っていて我らの通行を阻んでいるそうだ」

「はあ、王国からの帰還命令が出ている事は伝えたの?」


 俺の疑問に答えたのはガランだった。


「それが取りつく島もない状態でして。ちょっとでも近づくとバリスタを撃ってくるので近づけないのです」


 王国兵が王の命令も聞かず、近づく者を問答無用で攻撃するものなのか?


「砦に居たのは本当に王国兵だったの?」

「奴らの軍服を確認しました。奴らは王国兵で間違いございません」


 ガランのその顔には、くやしさが滲んでいた。


「そうなると、故郷に帰りたい獣人達は足止めされてしまうわね」


 それにその砦の先に行かないと、リグア自由都市を調べにいけないんだよなぁ。


 トラバールも俺が町を占拠して以来、戦いらしい戦いをしていないからそろそろガス抜きが必要だろうし、サソリもどきもせっかく持て来たんだから有効活用したいよな。


 俺がとてもうれしそうな顔をしていたのだろう。


 ガーチップとガランが何とも言えない顔をしていた。



 城門の前には、サソリもどきの操縦メンバーと案内役のベルグランドそれに俺の傍から離れないオートマタとガスバル、それと一緒に行くガーチップとガランが率いるブマク団の兵士20人が待っていた。


「姐さん、ようやく俺の出番だな?」


 戦えると知って、トラバールはとても嬉しそうな顔をしていた。


 やはりトラバールにはガス抜きが必要だったか。


「ええ、派手にやりましょう。それと王国との関係が悪くなるから、出来るだけ殺さないでよ」

「おお、任せてもらおう」


 そして意気揚々と城門をくぐり外に出た俺達の前には、サソリもどきが鎮座していた。


 トラバールはやる気満々だが、ガーチップとガランはやや不満そうな顔をしていた。


「ユニス殿、本当にこれ1体で行くのか? もっと他のゴーレムも使って数で威圧した方が早いのでは?」

「敵が王国の正規兵で、かつ王国の指示に従わない連中なら、数で脅しても屈しないでしょう。それに砦1つ、これだけで十分よ」


 まあ実際は砦を破壊してしまえば、行き場を失って王国に逃げ帰るだろう。


「それじゃあ、街道の西にあるレブス砦に向かうわよ。搭乗員は前のハッチから、ガーチップ達は後ろのハッチから乗り込んで」

「「「おう」」」



 俺が操縦席に入ると既にトラバールやジゼルは配置についていた。


 オーバンの席だった場所に座る赤熊も誰に教えてもらったのか、俺に向かってサムズアップしていた。


「それじゃあ、しゅっぱ~つ」

「「「おう」」」


 サソリもどきが西に向けてゆっくりと飛行していると、目の前に目標となる砦が見えてきた。


「ベルグランド、あれがレブス砦なの?」

「はい、王国の重要拠点ですから堅固に作られています。前にあの砦の司令官だった将軍が難攻不落だなんて自慢しておりましたね」

「ふふ、それも今日までね」


 俺がそういうと、操縦室内から笑い声が上がった。


 飛行を解除して街道を西に進んでいくと、街道の先に四隅に円錐形の塔がある物体が見えてきた。


 サソリもどきは図体が大きいので砦側でも接近してくる姿を発見しているようで、城壁の上では大慌てで走り回る兵士の姿が見えた。


 そんな時、「ガン」という音が聞こえた。


 なんだろうと顔を上げると、赤熊と目があった。


「どうやら砦から撃って来たようだぜ」

「ふうん、問答無用って訳ね。トラバール構わず前進よ」

「おう、任せとけ」


 +++++


 レブス砦の司令官室で王国民から巻き上げた金銀財宝を前に、フニベロはニンマリと口角を上げていた。


 全てが偶然だった。


 盗賊団の斥候役であるナチョがレブス砦で王国兵が撤退準備をしていると言ってきた時、これはチャンスだと思ったのだ。


 武装させた手下を連れて砦が見える場所まで来ると、確かに王国兵が砦を出て行くのが見えた。


 奴らが俺達を罠に嵌めようとしているのではと疑ったが、奴らの荷物の多さを見て本当に撤退するのだと分かった。


 奴らが街道を東に消えていくまで我慢していたフニベロは、手下を連れて砦の中に入ると直ぐに王国兵が戻って来てもいいように戦闘準備を進めた。


 だが、王国兵が戻って来る事は無かった。


 そして本当に放棄したことを確信すると、早速砦の略奪を始めた。


 砦の中には、粗忽者が忘れていった予備の武器や王国兵の軍服が残されていた。


 フニベロは自分のボロボロの服を見て早速金ぴかな軍服に着替えると、手下どもにも着替えさせた。


 根無し草の盗賊でも、こうやって制服を着ると一端の者に見えてくるから不思議だ。


 そんな感じで高揚感を味わっていると、西の方から馬車がやって来ると手下が知らせてきた。


 フニベロはその報告を聞き自分達の姿を見て、良い事を思いついた。


 馬車や大きな荷物を背負った平民は何も疑う事も無く砦にやって来るので、そのまま捕まえて金品を奪ってから処分してやった。


 その時、慰み者にする女や労働力となる子供に処分する現場を見させてやり、抵抗する気力を奪ってやったのだ。


 フニベロは奪った金銀財宝を前に、にやりと笑みを浮かべた。


 待っているだけでお宝の方からやって来るこの状況に、笑いが止まらなかった。


 そんな時、手下が慌てた様子で部屋に入って来た。


「お頭、獣人が攻めてきました」


 フニベロの顔は笑ったまま固まった。


 身体能力が高く、密林を自在に移動する獣人は怖かった。


「それで、どうなった?」

「へい、何かわめいていましたが、バリスタを撃ったら尻尾を撒いて逃げていきました。あんな奴ら、この砦があれば簡単に撃退できますぜ」

「そうか」


 フニベロがほっと一安心したところで、ナチョが話しかけてきた。


「お頭、ひょっとして獣人に負けて王国が撤退したんじゃ?」


 ナチョのその発言にヒヤリとしたが、せっかく手に入れた住処を何もせず失うのは我慢ならなかった。


「そんなはずないだろう」

「ですが、そうでも考えないと王国兵が砦を放棄するとは思えませんが?」


 この砦には元々獣人対策用の獣人返しが設置されているし、攻められても撃退することはたやすいはずだ。


 そんなに心配することも無いと自分に言い聞かせた。


「問題ない。それでも見張りはちゃんとしておけよ」

「へい」


 手下が出て行くと、再びナチョが話してきた。


「お頭、連中から奪った金目の物をリグアで換金しておきましょう」

「なんだ、突然」

「いえ、万が一という事もあります。換金しておけば、この砦から逃げ出した時、フリン海国に逃げ込めますぜ」

「逃げ出す、だと?」

「あ、いえ、やむを得ず放棄しなければならなかった場合、という事です」


 フニベロの脳裏に牙を剥きだした獣人に襲われる光景が浮き上がり、冷たい汗が流れた。


「フーゴの所か?」

「ええ、元々密売人ですからね。やばい商品も簡単に処分してくれます」


 フーゴはぼったくり野郎だが俺達を騙して全部持っていくような奴じゃないので、やばい品を捌くには丁度良い相手なのだ。


「そうだな。護衛役として2、3人連れていけ」

「はい、分かりました」


 ナチョが、目の前の宝の山から宝石やらマジック・アイテムを選別して袋に入れると、早速リグアに向けて出かけて行った。


 フニベロは商人から奪ったエルダールシア産の高級酒をグラスに注ぐと、香を楽しみながらその液体を口にした。



 気持ち良く酔いが回ったところで、手下が慌てた様子でやって来た。


「お、お頭、デカい魔物が攻めてきました」


 フニベロはその報告を聞くと、手の中のグラスが中身と一緒に滑り落ちた。


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