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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第10章 魔女の領地
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10―12 魔女領へ

 

 出発当日、集まったのは攻城用ゴーレムであるサソリもどき、食料や資材を載せた運搬用のゴーレム30体、魔素水運搬用のホルスタイン5体、人員運搬用ゴーレム2体それに給仕用ゴーレムそれに随員40名だ。


 俺は集まってくれた皆に軽く会釈をすると、ゴーレム達を連結し重力制御魔法で軽くしていった。


 そしてトラバールが操縦するサソリもどきに乗り込むと、そこにはジゼルの他ガスバルとベルグランドそれに怪盗三色の3人娘が乗り込んでいた。


 アーム操縦手席に座った赤熊に、何故かトラバールがアームの操作方法を教えていた。


 少し不安になったがジゼルが俺の傍にやってくると、トラバールが暇な時、サソリもどきの操作の練習をしていたと聞かされた。


 トラバールも役に立とうと、いろいろやってくれていたようだ。


 納得した俺は飛行魔法をかけ、上空に浮かび上がった。


「さあ、それじゃあ、ブマク団の塒に向かうわよ」

「「「はい」」」


 +++++


 ブマク団の根拠地の中でガーチップは悩んでいた。


 魔女がやって来て自分達の生活が大きく変わった事に戸惑いながら、同時に魔女が齎した新たな問題への解決策が見つからず困っていたのだ。


 1つは、魔女が連れてきた大勢の女子供だ。


 彼らは獣人牧場に閉じ込められていたため、森で生きていくための知識を全くもっていなかった。


 これには教育が必要だったが、感覚でなんとなくやっているブマク団のメンバーは人に教えるという事が苦手だった。


 そしてもう1つは食料問題で、チュイが王国に戻ってから食料の援助をしてくれているのだが、今まで敵対していた相手からの援助に眉をしかめる者も多くいるのだ。


 援助が嫌ならヴァルツホルム大森林地帯内で開墾すればいいと思うだろうが、人口が増えた分畑の規模も大きくなるので確実に魔物に襲われるだろう。


 では、今までのように王国の馬車を襲い物資を強奪すればという者もいるが、そんな事をすれば王国からの援助が打ち切られるばかりか、討伐隊が送られてくる可能性もあるのだ。


 今までなら面倒事は全てチュイが片付けてくれたが、今はその頼りになる男が傍に居ないので全てガーチップの元にやってくるのだ。


 ガーチップは手元の書類を放り投げると、椅子の中で大きく背伸びした。


「ああ、また魔女がひょっこり現れて問題を解決してくれないかなあ」


 そんな事をぼやいていると、それに答える声があった。


「え、お姉ちゃんがまた来るの?」


 声がした方を見ると、そこにはお茶が入った盆を手にしたルヴィスの妹リスタが居た。


「リスタか。ちゃんと食べているか?」

「はい、大人の人にとても良くしてもらっています。あ、お茶、此処に置いておきますね」

「ああ、ありがとう」


 ガーチップはリスタが机にお茶を置いてくれるのを見ながら、自分があの魔女を頼りにしている事に驚いていた。


 魔女に会う前は、我々獣人を裏切った極悪人で見つけ次第復讐をするのだと思っていたはずが、そんな相手をこれだけ頼りにするようになるとは思ってもみなかった。


 ガーチップはお茶を飲みながら、しばらく目の前の問題から逃避することにした。


 すると今度は、リスタの兄ルヴィスが駆け込んできた。


「大変だ、上空におかしな物が浮かんでいる」

「馬鹿者、おかしな物とはなんだ。もっと詳しく報告せんか」


 ガーチップが一括するとルヴィスは一瞬気後れしたが、直ぐに言い直した。


「えっと、魔物が浮かんでいます」

「は?」


 ガーチップは訳の分からない報告に戸惑ったが、武器をひっつかむと入り口に向けて駆け出した。


 面倒な書類仕事よりも、こうやって武器を持って戦う方が性に合うのだ。


 そしてこれが凶報でなければ良いがと願っていた。


 +++++


 ブマク団本部の塒の上空に到達した俺達は、上空で滞空するとゆっくりと降りて行った。


 塒の前ではガーチップ達が上空からゆっくりと降下してくるサソリもどきを見て、口をあんぐりと開けていた。


 塒から沢山の獣人が手に武器を持って現れたので、先にこちらの正体を明かす事にした。


「ガーチップ、私よ。貴方達を迎えに来たの」

「その声は、魔女殿か」


 ガーチップはこちらの正体が分かると、ようやく武器を収めてくれた。


 サソリもどきのハッチを開けて外に出ると、ガーチップの後ろからリスタちゃんが駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん」


 俺は膝を落として、駆け寄ってくるリスタちゃんを受け止めた。


「リスタちゃん、元気だった?」

「うん」


 リスタちゃんは頭を優しく撫でてあげると、とても嬉しそうな顔をしていた。


 俺とリスタちゃんのやり取りが一段落したのを見計らって、ガーチップが話しかけてきた。


「本日、突然の来訪の目的をお伺いしても?」

「ええ、貴方達に私の領地に移住してもらおうと思って、勧誘に来たのよ」

「えっと、それはパルラという町の事ですか?」

「いいえ、貴方達の故郷ね」


 ガーチップはあまりにも突拍子もない事を言われてぽかんとしていたが、直ぐに正気を取り戻した。


「え、それはどういう意味なので?」

「ドックネケル山脈以西の地よ」


 驚いたガーチップは、俺を手で制してきた。


「ちょっと待ってくれ。すまないが中で話を聞かせてくれないか」

「ええ、いいわよ」


 俺はゴーレム隊の事をトラバールに任せて、ジゼルを連れて塒の中に入っていった。


 そして案内された部屋で俺がソファに座ると、隣にジゼルそして俺の膝上にはリスタちゃんが座っていた。


 直ぐにガーチップが男性2名と女性2名を連れて入って来た。


 男性の1人は、俺の馬車を襲撃してきた熊獣人で俺が鼻腔に草を突っ込んだ男で名前をダングというらしい。


 ダングもあの時の事を思い出しているのか、口を引き結び鼻をひくひくしていた。


 もう1人は、犬獣人でガランと名乗った。


 こちらは俺に敵意が無いようで、終始にこやかに微笑んでいた。


 チュイが居なくなった後は、この2人はガーチップを支えているようだ。


 そして女性の方は、獣人牧場の生産施設で俺に親し気に話しかけてきた猫獣人で、名前はガリナと名乗った。


 もう1人は、俺が命を救ったあの廃棄処分とされた女性で、キリステンと名乗った。



「魔女殿の実力には何ら疑問を差しはさむ余地はないと思っておりますが、以西の地に住めると言われてもにわかには信じられませんが?」

「そうです、かの地は王国に奪われている。一体どうやったのか教えてもらっても?」


 ガーチップとダングは信じていないようだ。


「そんな事よりも、証拠がちゃんとあるわよ」


 俺が取り出した王国と交わした割譲書を見た獣人達は口々に「本当だ」とか「帰れるなんて」とか言いだした。


 ガーチップの顔に驚きの表情が浮かぶと、突然椅子から立ち上がって頭を下げてきた。


「魔女殿、いえ、ユニス様、何といえばいいか分かりません。本当にありがとうございます」

「それじゃあ、私の勧誘に同意してくれるのね?」


 俺がそう聞くと、ガリナが質問してきた。


「えっと、ここに以西の地の人間が定住を希望する場合は安全を保障すると書かれているのは、どういう意味ですか?」

「私の領地となった事が嫌だと思う人は出て行くでしょう。それでも様々な事情で残らざるを得ない人達には身の安全を保障するという意味です」


 それを聞いた獣人達の顔が固まっていた。


 人間と呟きながら、お互いの顔を見合わせているのだ。


 するとキリステンが立ち上がり、俺を睨みつけてきた。


「どうして人間が居るの? あんな奴らと仲良くなんてできない」


 キリステンは人間にひどい目に遭ったのだ、その感情は理解できる。


「貴女達が嫌う権力者は追い出すから大丈夫よ。残るのは日々土地を耕して生活している人達だけだと思うわよ」


 俺がそう説明すると、ガリナがキリステンを慰めていた。


「キリステン、大丈夫よ。何かあったら私が何とかするから」

「ガリナ、ありがとう」


 するとそれまで俺の膝の上で黙っていたリスタちゃんが、俺の顔を見上げてきた。


「お姉ちゃん、人間と一緒に暮らすの?」

「そうねえ。隣にいる訳じゃなくて、たまに見かけるとかそんな感じね。だから、姿を見ても喧嘩しないでねという事よ」

「うん、分かった」


 リスタちゃんが元気よく返事をすると、今度はガーチップが頷いた。


「故郷に戻れるのなら、それくらいは許容しましょう。他の者にも言い聞かせておきます」

「他に質問は?」


 俺がそう尋ねると、じっと話を聞いていた犬獣人のガランが口を開いた。


「以西の地といっても広いですが、何処まで連れて行ってもらえるのですか?」

「ああ、最初の目的地はクマルヘムという町よ。そこで現地の様子を見てから後の事を考えましょう」


 俺がそう言うと皆同意するように頷いた。


「それじゃあ私は外で皆さんの乗り物を用意しておくから、準備が出来たら外に出てきてね」

「はい、分かりました」


 それからブマク団の塒の中は怒声が飛び交う混乱状態となったが、走り回る人達の顔は皆笑顔だった。


 そして住民達とその荷物を運ぶための運搬用ゴーレムを新たに作成すると、次々とゴーレムに乗せて行った。


 そして兄ルヴィスに手を引かれたリスタちゃんもやって来た。


「お姉ちゃん、これに乗るの?」


 リスタちゃんの視線の先には蹲った運搬用ゴーレムが居て、大人達がゴーレムの尻尾から上り背中の籠の中に入っていた。


「そうよ。一人で乗れる?」

「うん、大丈夫」


 そして全員がゴーレムの乗り込むのを確かめると、重力制御魔法で軽くして上空に舞い上がった。


 ゴーレム隊はベルグランドの道案内のとおり、ヴァルツホルム大森林地帯からドックネケル山脈を越えてから以西の地に向けて南下していった。


 するとベルグランドの言う通り前方に道が見えてきたので、そこで地上に降りる事にした。


 此処まで来るのに時間がかかったせいか、おとなしくしていた乗客もゴーレムが地上に降りると、皆外にでて手足を伸ばしていた。


 すると俺の元に怪盗の3人娘がやって来た。


「ユニス様、それではフリン海国に行ってきます」

「近くまで送っていかなくて大丈夫なの?」


 俺がそう尋ねると、白猫は首を横に振った。


「はい、黒犬のマジック・アイテムがあるので、問題ありません。それから赤熊を置いていきますので、雑用に使ってください」


 その言葉に3人そろってなくて大丈夫か聞いたが、今回の作戦では別行動の方が都合が良いらしい。


 俺は赤熊を預かると、残りの2人は手を振って去っていった。


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