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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第10章 魔女の領地
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10―11 歴史書の行方

 

 人間将棋もどきが終わると俺は身だしなみを整え、賓客達が待っている昼食会場となる闘技場五の角に向かった。


 そこでは上機嫌の賓客達が待っていた。


「ガーネット卿、なかなか面白いものを見せてもらいましたぞ」


 公爵がそういって「ははは」と笑うと、ジュビエーヌも機嫌良くそれに続いた。


「あのゲームは、味方や敵方の駒達の性格を把握したうえで、より相手方の駒を翻弄出来る駒を選んだ方が勝つという頭脳戦なのですね」


 いや、本当の将棋とは全然、全く、違うんだけどね。


 まあ大公なら配下の貴族達の性格を把握するのは、国家運営には必要だよね。


「でも凄いわね。力に任せたごり押し、買収や威圧それに相手の弱みを突いた攻撃って、なんでもありなのね。相手の事を良く分かっていなければできない戦術よ」

「あ、うん」


 めちゃくちゃな将棋だったけど、ジュビエーヌがとても満足しているのならこれはこれで良しとしておこう。


「ええ、陛下に置かれましても、貴族達の性格を把握なされるのは良い事だと愚考いたします」

「それにしてもタスカ子爵に勝ちを譲るとは、なかなか接待というモノが分かっておりますな」


 公爵がそう言ってにやりとすると、ジュビエーヌは眉間を揉んでいた。


「タスカ学校長は、なんて大人気ないのでしょうか」

「姉上、良いではないですか。魔女の負ける姿などめったに見られるモノではないのですから、これは大収穫というものです」


 ああ、そうですか。


 そのタイミングで俺達のテーブルに食前酒が運ばれてきた。


「エルダールシア産の高級酒でございます」


 何時もの手順で、俺が最初に毒見をしてから皆が飲みだした。


「ほう、これも旨いな。ガーネット卿、昨晩のミード酒とこの酒をお土産として貰えんかな?」

「ええ、分かりました」


 俺が公爵に同意すると、今度はタスカ学校長が口を開いた。


「おお、それでは儂も女生徒達の土産として下着を」

「駄目です」

「冷たいのう。儂も一応招待客じゃぞ?」

「タスカ学校長にもお土産として酒を用意しますから、それで満足してください」


 そしてジュビエーヌを見た。


「陛下には、霊木の実を用意いたしました」

「まあ、ありがとう」

「それでクレメント殿下ですが、何か希望はありますか?」


 俺がクレメントに質問してみると、少し考えるとなにやらいたずらを思いついた顔になっていた。


「そうだなぁ、それじゃ、ガーネット卿の館を見学したい」

「あ、私も見たいわ」


 クレメントがそう言いうと、ジュビエーヌもそれに同意してきた。


「分かりました。それでは皆様をご案内いたします」



 賓客達を領主館に連れてくると、内部の見学を行った。


 そして館の中に女性しかいない事にジュビエーヌが不思議そうな顔をすると、クレメントは俺の事をそういう性癖があると勘違いして、姉の身柄を心配して俺を遠ざけようとしていた。


 いや、俺の性癖じゃなくて、元娼館の従業員を雇ったらそうなったという事だからね。


 クレメントは渋い顔をしているが、他の賓客達は俺の生活空間を見る事が出来て満足しているようだった。



 賓客達は1泊2日のパルラ滞在に満足してくれたようだ。


 帰りの馬車の中にお土産を積み込んでいると、ティランティ将軍が配下を連れて現れた。


 それを見て一応公爵に帰り方を聞いてみる事にした。


「オルランディ卿、帰りは護衛達と一緒に帰りますか?」

「いや、帰りも頼む」

「閣下」


 ティランティ将軍は不服そうな声を上げたが、公爵はそんな将軍に冷たかった。


 それでいいのかと思っていると、公爵が俺の耳元で囁いた。


「あれが勝手に付いてきたのだ。私のせいではない」


 そう言うと馬車の中に入ってしまった。


 ティランティ将軍は俺を睨んでいるが、俺のせいじゃないからね。


 賓客達が馬車に乗り込むと、エリアルへ向けて空の旅に出発した。


「陛下、楽しんでいただけましたか?」

「ええ、とても楽しかったわ」


 上機嫌の姉を見てクレメントも嬉しそうだ。


 そしてオルランディ公爵も機嫌がよさそうだ。


 これで受けた恩は返しましたからね。



 パルラに招待した賓客を無事エリアルまで送り届けると、今度は新しく魔女領となったドックネケル山脈以西の地に訪問する準備を始める事にした。


 そこでパルラの主だった者達と怪盗の3人娘に集まってもらい、現地の知識があるベルグランドにドックネケル山脈以西の地について聞いてみる事にした。


「さて、今回集まってもらったのは、私が手に入れたドックネケル山脈以西の土地に、ブマク団という獣人達の集団を移住させる案件になります。まあ、元々は獣人達の土地だったんだけどね。ルフラント国王と宰相から割譲書は受け取っているけど、現地の貴族が素直に明け渡すかどうかを含めて、ドックネケル山脈以西の地の現状を知っているベルグランドに話してもらいましょう」


 俺がそう頼むと、ベルグランドが頷いた。


「はい、現地の貴族が大人しく王家の方針に従うかどうかは、クマルヘムの町に行けば分かると思います」

「クマルヘム?」


 俺がそう繰り返すと、ベルグランドは頷いた。


「この町は、ドックネケル山脈以西の地、ああ王国では単に以西の地と呼んでいるので、そう言いますね。以西の地で最も力を持っているのはセンディノ辺境伯です。そしてクマルヘムは辺境伯の領都となります。辺境伯が領地の明け渡しに同意していれば、他の貴族もそれに倣うでしょう」


 俺はその内容に頷いた。


「つまり、そのセンディノ辺境伯の領都クマルヘムに行けば、以西の地の貴族達がどう行動するか分かるという事ね?」

「はい、クマルヘムにはドックネケル山脈を迂回してヴァルツホルム大森林地帯から南下すれば、街道にぶつかります。そこから西に行けばクマルヘムです」

「素直に明け渡してくれればいいけど、クマルヘムの防衛設備はどうなっているの?」


 俺がそう尋ねると、ベルグランドは一瞬怪盗三色の3人娘をちらりと見てから答えた。


「はい、元々対獣人用の拠点でしたので、城壁はかなり高いです。それにのこぎり間の下には獣返しが設置してあります」


 成程、獣人対策という事か。


「城門を閉じられたら面倒そうね」

「普通ならそうですが、ユニス様なら上空から入れますよね?」


 確かにそうなんだが、そんな事をしたら確実に戦闘になるよな。


 相手の戦意を削ぐには、圧倒的な戦力差を見せつけた方がいいか。


 俺がそんなことを考えているとトラバールが声を上げた。


「姐さん、あの攻城用ゴーレムを使えば良いんじゃないのか? ピコの町のように素直に城門を開けると思うぜ」


 そういえばジュビエーヌをエリアルに送り届ける時、ピコの町はあのサソリもどきを見てあっけなく降伏したんだったな。


「いいわね、トラバールの案を採用しましょう。今回はパルラから生活物資を送るのに運搬用ゴーレムも多数使うから威圧には丁度良いでしょう」


 そして俺は、パルラの食糧生産の責任者になっているウジェを見た。


「ウジェ、7百人が3ヶ月生きていけるだけの食糧を集めてね。それから現地で食料生産するための技術者5名を選出して」

「はい、では私と頼りになる部下4名を選出しておきます」


 次にベインを見た。


「ベイン、道路や家等のインフラを作る必要があるから、20人程度選定しておいてね」

「はい、私もご一緒させていただきます」


 するとトラバールが口を開いた。


「攻城用ゴーレムの運転は任せてくれ」


 トラバールはこの役は誰にも任せないぞとでもいうように、じっと俺を見つめてきた。


 これは、却下したらへそを曲げて暴れる危険があるな。


 留守中のパルラの防衛は、オーバンに頼むしかないか。


「分かった。それではパルラの防衛責任者はオーバン、お願いね」

「本当はご一緒したかったのですが、ご指名とあらば拝命いたします」


 そして会議が終了となると、俺は怪盗の3人娘を呼び止めた。


「貴女達には話があるから残っていてね」

「「「はい」」」



 参加者が出て行き怪盗の3人娘が残ると、早速要件を口にした。


「そろそろアイテール大教国の禁書庫から盗んだ歴史書を何処にやったのか、教えてくれるわね?」


 俺がそう質問すると、白猫は後ろの2人を振り返り頷きあっていた。


 そして一歩前に出た。


「はい、歴史書はフリン海国のイゴル・ドゥランテに渡しました」

「フリン海国?」

「はい、以西の地の南にある交易商人達の国です。そしてイゴル・ドゥランテは、フリン海国に3人いる行政執行官の1人です」

「行政執行官?」


 政府の役人か、何かか?


「ええ、フリン海国を運営する3人の最高執行官です」


 企業のCEOかCOOみないなもんか。


 そんな偉い奴が、どうして盗みなんかするんだ?


「その行政執行官は、歴史書を渡してくれると思う?」

「駄目でしょうね。盗んだのを認めたら、教国との関係が拗れてしまいますし」


 まあ、国宝を盗んだ相手が実は他国のトップだったとか知ったら、教国は絶対怒るわな。


「私が交渉に行くことはどう?」


 その提案に白猫は首を横に振った。


「ユニス様が現れたら、証拠隠滅のため確実に歴史書を焼き払うでしょう」

「それじゃあ、どうすれば?」

「表向き歴史書を持っている事は絶対に認めないでしょう。だから裏でこっそりやるしかありません。その役には私達が最適です」


 そう言った白猫の顔には、しっかりとした決意が見てとれた。


「それでは貴女達に任せましょう。支援が必要な時は連絡蝶を送るのよ」

「はい、分かりました」

「それから最も重要な事を言うわね」


 俺がそう言うと3人娘は互いに顔を見合わせた。


「なんでしょうか?」

「絶対無理はしない事。いいわね?」


 3人はまさか俺からそんな事を言われるとは思っていなかったようで、一瞬あっけに取られていた。


「ありがとうございます。まさか、そんな事を言われるとは思ってもいませんでした」

「何を言っているの? もう貴女達は私達の仲間なのだから当然でしょう」


 俺はそう言いきってやると、3人の顔に笑顔が浮かんだ。


「さあ、貴女達も出発の準備をしてね」


 俺がそう言って解散を告げたが、3人はなおも何か言いたそうだった。


「何か?」


 俺が促すと黒犬が口を開いた。


「そのブマク団という者達の中に、獣人牧場から救出した獣人達も居るのですね?」

「ええ、居るわ」

「助けた獣人達に王国から奪った土地を与えるのですね?」

「そうなるわね」


 黒犬はじっと俺を見てきたが、直ぐにペコリと頭を下げてきた。


「仲間達を助けて頂いて、ありがとうございます」

「気にしないで。自分でやりたいことをしただけよ」


いいねありがとうございます。


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