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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―39 白猫の決断

 

 俺は上空から魔法の効果を確かめた。


 王都を覆っていた黒い絨毯は綺麗に消え失せていた。


 そして見渡している限り、赤色魔法による人的被害は出ていないようだ。


 屋根の上の住民達が神に祈りを捧げているようにも見えるが、大した問題ではないだろう。


「よし、これで契約は履行したな。さて、戻るとするか」


 王城のテラスに着地すると、そこには王女様とチュイが出迎えていた。


「ガーネット様、王都を助けて頂きありがとうございます」


 王女様の頬に涙の筋が出来ているので、よっぽど怖い思いをしたようだ。


「リリアーヌ殿下、あの虫は全て退治しましたから安心してくださいね」

「ええ、ええ、とても安心いたしました」


 王女様を見ると指先が小刻みに震えていた。


 俺は王女様を安心させるようにそっと手を取ると、その手を両手で優しく包み込んだ。


 そして王女様の震えが収まったところで、謁見の間に入っていった。

 

 そこでは赤色魔法を自らの体で体験した人々が、驚きの表情で待っていた。


「王様、私の方は契約完了となります。そちらも恙なく契約の履行をお願いしますね」

「うむ、分かった。それとだな。」

「何でしょう?」


 王様がちょっと困った顔をしていた。


「命じても、住み慣れた場所から離れたがらない者も居ると思うのだが、その者らの事は頼めるだろうか?」


 ああ何だ、そんな事か。


「ええ、勿論ですよ。ですが、私の領地では獣人達とも仲良くしてもらいますけどね」


 俺は王様にそう言ってから、後ろで拘束されている3人に怪盗達に王国の人間に見えないようにウィンクすると、3人は目と口を大きく開けていた。


「それは獣人に土地を返すという意味なのか?」


 宰相が怪訝そうな顔でそう聞いてきた。


「いいえ、魔女の領地ですよ。ですが、獣人が勝手に住み着いたからと言って、攻め込まないでくださいね」

「ああ、ガーネット卿と敵対するつもりはないが、残った人間が差別されるのではないのか?」


 俺が釘をさした言葉に返事を返したのは王様だった。


 そして懸念も口にしたので、それには真摯に答える必要があるな。


「そんな事はありません。私の領地であるパルラでは、多種多様な人種が仲良く暮らしています。それが私の領地での普通なのです」


 王様は俺の説明に納得してくれたが、また宰相が口を挟んできた。


「請われて、助けに行く事はあるかもしれないぞ?」

「その行為が私に無断で行われたのであれば、それは私に対する敵対行為と見なしますからね」


 俺が釘を刺すと宰相は顔をこわばらせたので、その意味が分かったようだ。


 そして帰ろうとしたところで王女様とチュイが頷きあうと、俺の方にやってきた。


「ガーネット様、お譲りする土地についてお耳に入れておきたい情報があります。どうでしょうか、事件解決の打ち上げを兼ねて食事をしながらその話をするというのは?」

「そうです、ユニス殿。これで終わりというには、あまりにもあっけなさすぎますので是非受けて下さい」


 俺は2人からそう誘われたので、断るのも失礼かと思い誘いを受ける事にした。


 そして後ろにいる人達を見て、一言追加した。


「私の友人達と、あの3人の怪盗達にも食事をお願いしても?」

「え、あ、はい、大丈夫です」



 王族3人と俺が1つの食卓を囲んでいた。


 まあ食卓を囲むといっても王族の食事テーブルなので、お互いの手が届く距離ではないのだが。


 そしてズラリと後ろに控えている給仕係が順番に料理は運び、空になったグラスに飲み物を注いでくれた。


 食事中は、王国の料理やら国の発展やらの自慢話を聞かされていたが、料理長自慢の肉料理が出たところで、ようやく本題になった。


「ガーネット様、今回割譲することになるのは、ドックネケル山脈以西の土地ですが」


 そう言った王女様は一瞬その先を言うのを躊躇していた。


「ええ、それで何か注意する事があるのですか?」


 俺がそう聞き返すと、王女様はちょっと言いよどんだが直ぐに続きを話してくれた。


「実はガーネット様にお譲りする土地の西端にリグア自由都市というのがあるのですが、自由都市といえば聞こえは良いのですが、実態は犯罪者や王国で暮らせなくなった民が寄せ集まって出来た掃きだめのような場所なのです」

「それで?」


 俺が続きを促すと、今度はチュイが後を継いだ。


「そのような場所なので、王国からの立ち退き命令に素直に従うとは思えないのです」


 ああ、成程。そういう事ね。


「大丈夫ですよ。立ち退きに従わないからと言って、王国に文句は言いません」


 それを聞いて3人がほっとしているようだった。


 そんなに厄介な相手なのか?


 ちょっと面白いかも。


 食事の最後はデザートだったが、それは俺が持ち込んだ霊木の実だった。


 メロンのように切り分けられ皿の上に載っているのだが、それが大皿で山盛りになっていた。


 この実には高濃度の魔素が含まれているが、大丈夫だろうか?


 それでもこの世界の人間の舌には濃密な魔素程おいしく感じられるようで、霊木の実は王族にはいたく喜ばれ、次々と口の中に運んでいた。


「ユニス殿、これいけますね」

「ガーネット様、これ物凄くおいしいです。エラディオが言っていましたが、これがロヴァルの女狐が貴族達に特別に振舞ったという木の実なのですね」

「ええ、そうですよ」


 ああ、そんなに食べて大丈夫か?


 そして注意して3人を見ていると、やっぱりというか案の定というか、大量の魔素を取り込んだせいで、獣人化の呪いが発現していた。


「カリスト兄さま、お顔が」

「うん、リリ、その顔」

「お前達もか」


 それに気が付いた3人はお互いの顔を見て笑っていた。


 まったく、呑気なもんだな。


 それを治すのは俺なんだからな。


 俺は「はぁ」とため息をつくと、左手にダイビンググローブをはめ3人から余分な魔力を吸収して元の顔に戻していった。


 +++++


 白猫は、左右に黒犬と赤熊、そして正面には魔女の友達といった狐獣人と豹獣人そしてその左右には護衛役というガスバルとベルグランドという人間達と食卓を囲んでいた。


 そして部屋の隅には、私達の監視役である黒色と黄色のオートマタが、おかしな行動をしないかとじっとこちらを見つめていた。


 そんな環境の中で白猫は目の前の料理をじっと見つめながら、先ほど見た魔法の事を考えていた。


 魔女が放ったあの光の雨は、とても美しかった。


 獣王ブリアックも、あの魔法に魅了されたのだろうか?


 白猫は小さい頃から最悪の魔女は獣人を不幸にした元凶だと繰り返し聞かされ、自分でもそれを信じていた。


 だが、それは昔の話を人伝に聞いているだけでしかない事を今は理解していた。


 そして目の前の狐獣人から聞いた魔女の人物像は、実際に私が目にしたものと同じに見えた。


 恨みつらみを投げつけたはずなのに、それを聞いた魔女は奪われた獣人の土地を取り返してくれたばかりか、安全に暮らすことも保証してくれたのだ。


 それに毒を飲んだ私達を助けたり、王国への引き渡しも阻んでくれた。


 そして今は、こうして暖かい食事がとれるように気を使ってくれている。


 そこまでしてもらったのに、私は魔女に何の恩も返していない。


 こんな不義理な事どうして私はしているの?


 魔女は極悪非道だと言っておきながら、実際にそうしているのは私の方じゃないの?


 ぼんやりとそんな事を考えていると、赤熊が声をかけてきた。


「どうした白猫、そんな辛気臭い顔してないで早く食べたらどうだ?」


 きっと赤熊の方を見ると、そこには目の前の料理を口に頬張りながら、大ジョッキの白ビールで胃に流し込む呑気な姿があった。


「貴女こそ、なんです? その作法も優雅さも無い食べっぷりは」

「ははは、王国がただ飯を食わせてくれるんだ。遠慮なんかしてどうする? それよりも食える時は食っておいた方がいい」


 赤熊は、後半は他人に聞こえないように小声で囁いた。


「言われなくたって」


 白猫は目の前の料理にフォークを刺すと、そのまま口に運んだ。


 赤熊が言う事は正しい。


 これからどのような事が起こるとしても、身体能力を最善に保つには食べられる時はしっかりと食べておかなければならないのだ。


「それよりも白猫、これからどうするの?」


 そう声をかけてきた黒犬を見た。


 黒犬の表情も冴えなかったので、きっと私と同じことを考えているのだろう。


「私達は自分達の土地を取り戻すために、あのいけ好かない貴族と手を組んだわ」

「そうね」

「そして気に入らない仕事も引き受けてきたわ」

「ええ」

「それなのに、あの魔女があっさりと目的を達成してくれたわ」

「本当に、信じられないわね」


 そこまで言ってから白猫は、白ビールを一口に含んだ。


「私達は、受けた恩をまだ返していない」

「それは・・・歴史書の行方を教えればいいんじゃないの?」

「まったく釣り合わないわ」


 すると赤熊が、あっさりと答えを口にした。


「それなら、恩を返すまであの魔女のために働けばいいだろう?」

「赤熊、それ本気で言っているの?」

「ああ、そうさ。俺は受けた恩は返す主義さ。お前達は違うのか?」


 白猫は黒犬を見ると、黒犬も頷き返してきた。


「そうね。では、これからは魔女の為に働きましょう」


 白猫がそう言うと、何故か喉のつかえがきれいさっぱり消えている事に気が付いた。


 なんだか、ブリアックの気持ちが少し分かったような気がしてきた。


 そして顔を上げると、そこには狐獣人の顔があり優しく笑っていた。


 ああ、そういえばこの娘には裏の顔が見えるんだったわね。


 +++++


 王族達との食事を終えた俺は、パルラに帰るためジゼル達と合流することにした。


 ジゼル達は直ぐに見つかり、俺が手を振るとジゼルが手を振り返してくれた。


 すると俺の前に3人の盗賊達が現れたので、グラファイトとインジウムが素早く俺との間に割って入ってきた。


「ユニス、その3人は大丈夫よ」


 ジゼルがそう言ってきたので、俺は立ちふさがるグラファイトとインジウムを控えさせた。


 2人が視界から外れると、そこには俺の前に跪く3人の怪盗の姿があった。


「3人とも、どうしたの?」


 俺がそう尋ねると、代表して白猫が発言した。


「ユニス・アイ・ガーネット様、私達に貴女様に恩を返す機会を下さい」

「え?」


 俺は意外な言葉を聞いて驚いていたが、ジゼルの顔を見ると頷いていた。


「いいわ。貴女達を雇いましょう。ついてきなさい」

「「「はい」」」


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