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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
263/416

9―33 魔女の評価2

 

 黒犬が言葉を失い静かになった部屋に、今度は目が覚めた赤熊の声が聞こえた。


「なあ、あのゴーレムも魔女が作ったのか?」

「ゴーレム?」


 狐獣人が聞き返すと、直ぐに豹獣人が助言した。


「ジゼル殿、多分グラファイト殿とインジウム殿の事では?」

「ああ、あの人形達ね。あれはゴーレムじゃないわ。オートマタよ」

「オートマタだと?」

「ええ、なんでもドラゴン並みの実力があるらしいわ」

「ははは、それはとんでもない化け物だな」


 それを聞いた赤熊が、妙に納得した顔をしていた。


 そういえば、赤熊は自分より強い者に憧れを感じる性格だったわね。



 白猫がそう思った時、突然扉が開きこの館の主が顔を出した。


 そしてアルベルダ侯爵は私達の顔を見るなり、指を突き付けてきた。


「おい、盗賊ども、私の館から盗んだドーピングのブレスレットを何処にやった?」


 そういえば、あのうさん臭い貴族がどうなったか知らなかったわね。


「侯爵、私の質問に答えてくれたら、教えてあげるわ」

「なんだと。この私に要求ができるとでも思っているのか?」

「それじゃあ、この話は終わりね」


 白猫がそういうと、侯爵の顔が真っ赤になった。


 さあ、どうする? 拷問でもするか?


 だが、侯爵は以外な事を口にした。


「分かった。何が知りたい?」


 え、そんなあっさりと?


「驚いたわ。無理やり聞き出そうとは思わないの?」

「そんな事をしたら、ガーネット卿に睨まれるからな」

「ガーネット卿?」

「ああ、ユニスの事よ。ユニス・アイ・ガーネットが正式な名前なの」


 狐獣人がそう補足してくれた。


 へえ意外、魔女にも人間みたいな名前があったのね。


「じゃあ聞くわね。侯爵は、そのガーネット卿の正体が最悪の魔女だと知っているの?」

「ああ、もちろん知っている」


 白猫はそのあっけない返答に、カッと頭に血が上った。


「あれは人間の最大の敵じゃないの? なんでそんなに落ち着いているのよ」


 白猫がそう指摘しても、侯爵は平然としていた。


「あのお方には、命を助けてもらったからな。それに陛下や王女殿下それに王子殿下も助けられたらしい。敬愛する王家の方々に大恩を与えて下さったのだ。敬意を表するのは当たり前だろう?」


 驚いたわ。


 あのいけ好かない貴族の王女暗殺計画を阻んだのが魔女だったなんて、それに王様の病気も。


 もしかして、あの男も魔女にやられたの?


「王都に居たアラゴン公爵派はどうなったの?」

「ああ、それならガーネット卿に捕まって、王女暗殺未遂について尋問されたそうだ」

「それじゃあ、今は牢の中なのね?」

「いや、もう解放されている。あ、いや、オルネラス子爵だけは違うな。今回の騒動の黒幕が奴だと判明したので、領地に捕縛隊が送られているそうだ」


 ふうん、あのいけ好かない男は、自分で自分の墓穴を掘ったのね。


「なら、その子爵が捕まれば、侯爵が探している物も見つかるかもね」

「なんだと、あの野郎が盗ませたのか。そうか、俺の元に態々来たのは油断させるためだったのか」


 そういうと侯爵は、床を踏みつけて文字通り地団駄を踏んでいた。


 騙されたのが相当悔しかったらしい。


 そして侯爵は「お前達には陛下の前で、今の話をもう一度してもらうからな」と言って、部屋を出て行った。


 白猫は怒りに肩を震わせて出て行った侯爵の後ろ姿を見て、みじめな姿になったのが自分達だけじゃない事に慰めを覚えていた。


 侯爵が出て行くと狐獣人が私達に声をかけてきた。


「これで分かったでしょう。ユニスは7百年前の魔女じゃないわ」


 そして今度は豹獣人が恐ろしい事を口にした。


「ああ、そうだ、お前達に良い事を教えてやろう。ユニス様に7百年前の記憶は無い。それにそっくりな顔をした双子の妹君もおられるぞ」


 え、魔女が2人も居るの?


 そんなはずがない。


「魔女は唯一絶対な存在のはずよ。貴方は嘘を言っているわ」

「嘘ではない。俺達はパルラの町で、実際にユニス様の妹君であるアオイ・エル・ガーネット様を紹介してもらっている」

「ええ、私もご挨拶したわよ」


 豹獣人の言葉を狐獣人が肯定した。


「ユニスは自分の事を新種のエルフだと言っているわ。だから同じような顔をしたエルフが存在しても、おかしくないんじゃないの?」


 ちょっと待って。考えるのよ。


 狐獣人はゴーレムの事を人形といったし、魔女は魔法で姿を変えられるんだから自分そっくりな人形も作れるはずよ。


 そうだ。そうに決まっている。


 獣王ブリアックだって、自分が裏切られるとは思っていなかったはずよ。


 可哀そうに、この獣人達も用が済んだら捨てられるわね。


「魔女の本性も知らずに、協力しているというの?」


 私が何も知らない獣人に憐れみを込めてそう言いうと、ジゼルは以外な答えを返してきた。


「違うわ、私を馬鹿にしないで。私が手伝っているのは、今のユニスを知っているからよ。ユニスは奴隷の私と友達になってくれたわ。そして私達獣人に居場所を作ってくれたのよ」

「ああ、そうだ。パルラの町は俺達の居場所だ。お前達も一目みれば分かる」


 この2人は何を言っているの?


 いいえ、これは魔女による洗脳なのよ。


「貴方達は夢を見ているのよ。現実を直視しなさい」


 私の指摘に2人の獣人は、ムッとしたようだ。


「ちゃんと見ているわ、この魔眼でね。貴女も、ユニスの本当の姿を見れば理解できるわ」


 そう言って狐獣人は、自分の右目を指さした。


 そういえばこの女の右目は橙色で左目は紫色ね。


 あの時も右目が光ったが、それは魔眼で私を見たという事だったの?


 聞いた事があるわ。


 確か狐獣人の巫女にその能力があるとか、相手の本性を見抜く事ができるとかなんとか。


 成程、だから私の変装を見破れたのね。


 魔眼で魔女を見てそれでも信頼しているというのなら、悔しいけれどそれは本当なのでしょうね。


 うう、頭では理解できても、感情が拒絶しているわ。


「見極めなきゃ」


 白猫は小声でそう呟いた。


 +++++


 アルベルダ侯爵館で俺はソファに座り、対面に座る侯爵と話をしていた。


「ガーネット卿、我が家からマジック・アイテムを盗ませたのは、あのオルネラス子爵だと判明したぞ。これは子爵による王家への重大な反逆行為であることから、連中を王城に連行して陛下の前で証言させる必要があるのだ。賛成してくれるな?」


 侯爵の深刻そうな顔を見て、この提案を否定するわけにはいかないなと思った。


「分かりました。ですが、怪盗達を逃がさないように私の監視下に置きますので、それは了承してくださいね」

「ああ、分かった。面倒な役目を任せて申し訳ないが、よろしく頼む」


 王城トリシューラに向かうため侯爵は2台の馬車を用意してくれた。


 1台は我々、もう1台は罪人である怪盗達を護送するものだ。


 護送馬車に3人の怪盗を乗せる際ちらりと怪盗達を見ると、白猫がじっとこちらを見つめてきたが、その目にあるのは敵意と疑念といった感じだった。


 まあ生きる希望を失って、いつ自殺してもおかしくないという状況よりはましだろう。


 護送馬車の監視にグラファイトとインジウムを同乗させると、その姿を見た怪盗達の顔が歪んだ。


 まあ、2人の怪盗はグラファイトとインジウムに簡単に捕まったようだし、その時の事でも思い出しているのだろう。



 侯爵の館から王城トリシューラまでは、それほど時間がかからずに到着した。


 王城入口には大勢の銀鎧を着た騎士達が待っていて、俺の姿を見た途端、動揺したのか鎧がかすれる音が聞こえてきた。


 俺は、王様に保護外装の姿を見せているので擬態魔法を解除していたので、どうやらそのせいのようだ。


 そして王城西門で見たことがある騎士が一歩前に出てきた。


 その騎士は、あの騎士団長と一緒に前に居た副団長だ。


「アルベルダ侯爵、王命で護衛のためお待ちしておりました。それと、あの、ガーネット様、先日は元騎士団長が大変失礼な事をして、深くお詫び申し上げます」


 テラダスは俺の目を見られないのか、うつむいたままだった。


「貴方の謝罪を受け入れます」


 俺がそう言うと、テラダスはようやく顔を上げてほっとした表情になっていた。


「テラダス殿、そろそろ案内を頼む」


 アルベルダ侯爵がそういうと、テラダスは俺から視線を外した。


「はっ、畏まりました。それと盗賊達は、こちらで預からなくてよろしいのでしょうか?」

「ああ、盗賊達はガーネット卿が監視しているので、手出し無用で頼む」

「分かりました」


 テラダス副団長は、それでも大丈夫ですかという顔でこちらを見てきた。


「グラファイト、インジウム、怪盗達に逃げられないように注意していてね」

「はあぃ」

「承知しました」


 そして心配は無いとテラダスに微笑みかけてやると、目を見開いて驚くと直ぐに視線をそらしていた。



 王城内をテラダスの先導で歩いていると、亜人の姿を見るのが珍しいのかすれ違う使用人達が皆驚いた顔でこちらを見ていた。


 向かった先は謁見の間だった。


 立哨が扉を開けると、正面奥にある玉座に王様が座り、その隣に王女様とチュイが立っていた。


 そしてアルベルダ侯爵の査問会で見たことのある貴族が数名控えていた。


 侯爵は王の前まで行くと、そこで跪いた。


「陛下に置かれましては、ご機嫌麗しくお喜び申し上げます」

「うむ侯爵、此度の働きあっぱれである。それとガーネット卿、賊捕縛への力添え、うれしく思うぞ」


 王様が俺の方に視線を移してそう言ってきたので、俺は軽く笑みを浮かべて会釈した。


「どういたしまして」


いいね、ありがとうございます。

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