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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―24 王国の事情

 

 ルフラント王国国王ブラス・ジェラール・ルフラントは、魔女が出て行った扉をじっと見つめていた。


 それから王女の方を見ると、慈しむようにその頬を手で撫でた。


「リリアーヌ、お前1人に苦労を掛けたな。すまなかった」

「いいえ、父上。そんな事はございませんわ。こうして良くなってもらえましたので、後はのんびりさせてもらいますわ」

「ほほ、そうか、そうか」


 王様は次にチュイの方を見た。


「カリスト、よもや人間のお前にまた会えるとは思わなかったぞ」

「ええ、父上、私もこうやってまた再会できるとは思っておりませんでした」

「カリスト、生きていてくれて嬉しいぞ」

「はい、テラダスが逃がしてくれたのです」

「テラダス? エリザリデではないのか?」


「ええ、エリザリデは兄2人を手にかけて嫌になったようで、私を処分する役目をテラダスに押し付けたのです。テラダスも嫌だったのでしょう。私をこっそり逃がしてくれました。王国を脱出した私は、ヴァルツホルム大森林地帯でブマク団という獣人の盗賊団に身を寄せていました」


 チュイが生き延びた話を聞いた国王は、そっとチュイの肩に手をおいた。


「こうして3人で会えるのもテラダスのお陰だな。何か褒美をやらんといかんな」

「ええ、是非お願いします」


 場の空気が軽くなったところで、王様が疑問を口にした。


「カリストよ、魔女は解呪をしていないと言ったが、それは何時でも獣人化させられるという意味ではないのか?」

「ユニス殿は、獣人化は体内魔素量がある一定量を超えると発動すると言っていました」

「ええ、そうですわ。言い換えれば、カリスト兄さまの食事を制限すれば、獣人化は起こらないという事です」

「小食のリリアーヌには分からないだろうが、それは結構つらいんだよ?」


 チュイが困った顔でそう言うと、王女様は頬を膨らませていた。


「処分されるよりましでしょう。少しは我慢してくださいませ」

「呪いが発動したら、ユニス殿に戻してもらうとか?」


 そんな事を言うチュイに、王女が直ぐに反論した。


「ガーネット卿は、仮にも公国の高位貴族なのですよ。気軽に呼びつけられる相手ではありませんわ」


 子供達のやりとりを聞いていた国王は、笑い声をあげていた。


「なんだか久しぶりに楽しい気分だ」

「父上、いい加減なカリスト兄さまを叱って下さいませ」

「父上、私をやせ衰えさせようとするリリに、一言言ってやって下さい」

「な、何を言うのです、カリスト兄さま」


 また口喧嘩を始めそうな2人を見て、国王は手を上げて制止した。


「2人とも、それよりも今は魔女の事をもっと詳しく教えてくれ。始祖ルフラントは魔女に止めを刺した4人のうちの1人だぞ。なぜ、憎まれていないと言えるのだ?」


 その問いに最初に答えたのは王女だ。


「父上、私はルジャの館で暴漢に襲われている時助けてもらいました。その時、私はルフラントの一族だと正体を明かしたのですが、それでも助けてくださいました」

「そうです。父上、ユニス殿は7百年前の魔女とは別人だと言っています。それに暗殺しようとしたエリザリデも殺されていません」


 王様はその一言に目を見張った。


「エリザリデが魔女を殺そうとしたのか?」


 その問いに答えたのは王女だった。


「はい、エリザリデは降伏したと見せかけて暗殺しようとしましたが、ガーネット卿は怪我をしていないと言って許してくださいました。あのお方はまさに慈愛に満ちた女神様です。決して、災厄をもたらす魔女なんかではありません」


 王様は頭を抱えた。


「それでエリザリデはどうしたのだ?」

「捕らえて牢屋に入れてあります」

「魔女は、我々がエリザリデにどのような罰を与えるか気にするだろうな?」

「さあ、それはどうでしょうか? 案外、気にも留めないかもしれませんわ」


 そこで改めてチュイを見た王様が口を開いた。


「魔女が慈悲深いというのは分かった。だが、直ぐに信じる訳にはいかないぞ。魔女が欲しているのは初代様が戦利品として奪った魔女のアイテムではないのか? ブマク団とかいう獣人集団に興味があるのは、再び大陸を支配するための手駒にするためじゃないのか?」


 王様のその質問に王女が答えた。


「いいえ、ガーネット卿からそのような悪意は感じません。怪盗三色の捕獲も、アイテール大教国の依頼を受けた報酬を盗まれたからだと言っていました」

「その報酬とは、初代アイテールが戦利品として奪った魔女のアイテムではないのか?」

「それは・・・分かりません」


 王女様が王様の指摘に言い返せないでいると、今度はチュイが口を開いた。


「そうはおっしゃいますが、父上を治してもらったのは事実ですし、私も元に戻してもらいました。ユニス殿が我が一族に敵意を持っていないのは明白です」


 王様はじっとチュイの顔を見つめていた。


「私やお前達を助けたのは、今度は人間達の切り崩しをしているのだとしたら?」

「それは・・・」


 だが、すぐに王女様は不満そうな顔になった。


「それでは私は恩人に対して、何もお礼が出来ないという事ですか?」

「そうです。私もユニス殿にはお礼がしたい。父上、何とかなりませんか?」


 2人が王様に詰め寄ると、王様は手を上げてそれを制した。


「誰も、礼を尽くさないとは言っておらぬぞ。私は魔女には満足して帰ってもらうつもりだ」


 それを聞いたチュイと王女様は、互いの顔を見合わせた。


「父上はガーネット卿を厄介払いするおつもりですか? それよりも友誼を結べば、王家に獣人化の呪いが発症しても直してもらえるかもしれません」

「そうです父上、リリの意見に私も賛成です」


 2人が勢い込んでそう進言するのを、国王は手を広げて制止した。


「待て、待て、魔女への恐怖は、7百年経った今も消えていないのだ。それに魔女も我々と関わり合いになろうとは、思っていないかもしれないだろう」

「それは、御伽噺という形で語り継いできたからではありませんか。それに公国は魔女を受け入れております」


 王女がそう訴えたが、王様は浮かない顔だ。


「それはロヴァルの女狐がそうさせたからだろう。魔女を受け入れる下地が出来ていたのだ。だが、王国ではどうか? 今、魔女と友誼を結ぶと言ったら貴族や平民から一斉に反発されるぞ。王家は魔女に魂を売ったのかとか、もっと悪くすると、魔女の操り人形にされたと言われるだろう」


 王女はその光景を想像したのか、「はあ」とため息をついた。


「なかなか上手くいきませんわね」


 王女のその呟きに王様は頷いた。


「公国には魔女が居るから、他国と敵対しても武力で何とかなる。しかし我が国が魔女側についたとなれば、帝国や教国が黙っていないだろう。その時、国内のディース教徒が呼応すれば、大変な事態になるぞ」

「確かに国民の大半はディース教徒ですね。それに最近は、より過激な源流派なる派閥が勢力を増していると聞きます」

 

 チュイと王女様が状況を理解すると、王様もうなずいた。


「分かってもらえてうれしいぞ。さて、そろそろ魔女とアラゴン公爵達がいる部屋に行ってみるか」

「「え?」」

「せっかくだから私たちの元気な姿を、アラゴンに見せつけてやろう」


 王様はそう言って子供2人に笑いかけた。


 +++++


「実に興味深い話ではないか。アラゴンよ」


 声がしたサロンの入り口を見ると、そこには王様が立っていた。


 その姿を認めた貴族達は、目玉が零れ落ちるのではないかというほど目を見開いていた。


「へ、陛下?」

「幽霊ではないのか?」

「いや、魔女の傀儡ではないのか?」


 貴族たちの間に動揺が広がっていくと、それを面白そうに眺めていた王様がしっかりした足取りでサロンの中に入ってきた。


 王様の傍には護衛としてテラダス副団長が付き従っていた。


「どうしたアラゴン。私の顔を見忘れたのか?」


 王様に話しかけられてようやく再起動したアラゴン公爵は、何とか声を出そうと奮闘していた。


「へ、陛下、いえ、そんな事はございませんが、数日前にお見舞いした時とあまりにも・・・」

「なんだ? 死にそうだったのに、なんで元気になっているんだと思っておるのか?」

「い、いえ、滅相もございません」


 アラゴン公爵は懐からハンカチを取り出すと、顔を拭った。


「それで先ほどリリアーヌが何だと言っていたのだ?」

「・・・陛下、私は子爵からリリアーヌ殿下がみまかられたと聞いただけでございます」


 だが、なおも王様の追求は続いた。


「ほう、そうか。それで王位を簒奪しようとしたのだな?」

「め、滅相もございません」


 そういって顔を拭ったハンカチは、既にぐしょぐしょになっていた。


「おお、そうだった。アラゴンよ、私は王太子を決めたぞ」

「え? それはどういう・・・」


 戸惑っているアラゴンを放置して、王様は入り口に声をかけた。


「2人とも入って来るのだ」

「はい、陛下」

「分かりましたわ。陛下」


 そしてチュイとリリアーヌ殿下が入って来ると、また貴族達が驚きの声を漏らしていた。


「いったい何がどうなっているのだ?」

「これは白昼夢なのか?」

「どうしたら死人が生き返るのだ?」


 チュイと王女様が王様の両隣に並ぶと、王様が何も言わない貴族達を一喝した。


「なんだ。王太子を祝ってはくれぬのか? それとも何か含むものがあるのか?」


 王様の叱責に慌てて貴族達が賛意を表した。


「カリスト殿下、王太子拝命おめでとうございます。リリアーヌ殿下、ご無事で何よりでございます」

「心からお喜び申し上げます」

「これで王国も安泰でございます」


 貴族達の反応に満足した王様は、俺の方を見るとずらっぽい笑みを浮かべた。


 アラゴン公爵派が反対出来ないタイミングを狙っていたのか。


 成程、俺の事も利用するとは、一国を統べる人間は一味違うな。


「ガーネット卿、リリアーヌを襲った犯人は分かったのかな?」

「ええ、後はオルネラス子爵から直接話を聞けば、いろいろ分かると思います。陛下なら子爵を連れてきて下さると期待しておりますわ」


 俺がそう言うと、王様は頷いた。


「うむ、分かった。子爵領に人を遣わそう」

「陛下、よろしければそのお役目、私にお与え下さい」


 アラゴン公爵がそういうと、王女様がそっと王様に耳打ちしていた。


「陛下、オルネラス子爵はアラゴン公爵の娘婿に当たります」


 王女様がそう指摘すると、王様はアラゴン公爵を見た。


「うむ、良かろう」


 そしてこれで良いかと俺の方を見てきたので、頷いておいた。


 それに満足した王様は、場の皆に聞こえるように宣言した。


「せっかくだから王国の全貴族を集めて、私が元気になった姿を見せてやろう」


 王様がそういったところで、俺は良い事を思いついた。


 そちらも俺を利用したんだから、今度はこちらが利用させてもらうぜ。


「陛下、せっかく王都に貴族を集めるのでしたら、陛下の快気祝いをしましょう」

「快気祝いか、それは良い考えだな。だが、他にも何かあるのだろう?」


 うん、王様にはばれていたか。


「ええ、実は陛下にお願いがあります」


 俺が悪い笑顔を向けると、王様の顔が引きつっていた。


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