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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―22 王家の呪い2

 

 俺の目の前には獣人化した王様の顔があり、それを見つめる3人は目を見開いた状態で完全に固まっていた。


 うおぉぉぉ、なんじゃあ、こりゃぁぁぁ。


 拙い、拙い、拙い。


 今、俺の目の前にはとんでもない事をやってしまった証拠物件Aが鎮座していて、それを3人の目撃者にばっちり、しっかり見られているのだ。


 予想していなかった出来事に真っ白になった俺は、何とか無かった事に出来ないかとポケットを探って見つけたものを掴んだ。


 そして臭いものには蓋とばかりに掴んだものを証拠物件Aに被せようと顔の前まで持っていったところで、それが白いハンカチだった事に気が付いた。


 それを横たわる人物の顔に被せる行為は、日本では死んだ人扱いだ。


 この世界でも同じ事をするのか分からないが、もしそうだったとしたら大変な無礼を働くことになる。


 俺は王様の顔の目の前まで持って行った自分の右拳をそのまま手元に戻すと、これも想定の一部ですよといった余裕の表情で頷いてみせた。


 内心はどれだけ焦っていようと、この高性能な保護外装は汗をかかないので本当に助かるのだ。


 そうでなければ今頃冷や汗で服が汚れていただろう。


 そして冷静になった。


 すると、流し込みすぎた魔力を元に戻せばいいんじゃね? と思い付くことができた。


 俺は余裕のある表情を崩さないようにしながら、ゆっくりと流し込みすぎた魔力を回収していった。


 魔力を吸われた王様の顔が、またポンと音が聞こえてきそうな程突然人間の顔に戻っていた。


 その間も驚愕の表情で固まった3人は、それを見た途端同時に声を発した。


「「「あ」」」


 そして重大な危機から脱出してほっとしていた俺に、チュイが話し掛けてきた。


「ユニス殿、一体何をしたのですか?」


 その目には、驚きの他に期待も込められていた。


 この魔女の呪いというのは、体内の魔力量がある一定以上になると発動するらしい。


 これは検証が必要だな。


 幸いにもここにはもう1人、検証が出来る実験体がいるのだ。


「チュイ、こっちに来て手を出して」


 俺が手招きすると、チュイは躊躇することもなく右手を差し出してきた。


 その顔からは俺に対する信頼が見て取れた。


「驚かないでね」


 そこで一旦チュイにかけていた擬態魔法を解除して獣人の姿に戻すと、メイド長が目を見開いたが何も言わなかった。


 俺はチュイの右手をダイビンググローブで掴むと、チュイの魔力を吸収していった。


 するとチュイの獣人の顔が突然人間に変わったのだ。


 それを見た王女様が驚きの声を上げた。


「カリスト兄さま、お顔が元に戻っておりますわ」

「本当かい?」

「ええ、懐かしいお顔です」


 そう言うと、嬉し涙を流しながらチュイに抱き着いていた。


 目の前でチュイと王女様が抱きしめ合っていると、それを見ていたメイド長も長年の苦労が報われたのかのように、ハンカチで目頭を押さえていた。


「カリスト殿下、リリアーヌ殿下、おめでとうございます。今日は人生最後の日かと思っておりましたが、最良の日だったようです」


 よーし、なんとか上手く収まったぞ。


 俺が内心ほっとしていると、抱き合って喜んでいたチュイと王女様が俺に向き直った。


「ユニス殿、何がどうなったのか教えてもらえますか?」

「そうですわ。ご教授頂けますか」


 2人の嬉しそうな顔を見て、俺も種明かしをした。


「体内に取り込んだ魔素が、ある一定量を超えると発動するみたいよ」


 その説明に王女様が何か気が付いたのか、王様とチュイを見てから口を開いた。


「そうですわ。私と父上は食が細いのですが、3人の兄達はよく食べていましたね」


 するとそれに同意するようにチュイが頷いた。


「確かに、俺達3兄弟の座右の銘は、よく食べ、良く動くだ」

「と言う事は、兄さまの食事量を制限すれば、獣人化の呪いは発動しないと言う事でしょうか?」

「え?」


 王女様のその指摘に、チュイが慌てた顔をしていた。


 この世界の人間は、食べ物から魔素を補給しそれを魔力に変えるので、その質問には肯定の意味を込めて頷いた。


 すると王女様の目が光ったようだ。


「それでは、今日から兄さまの食事はきっちり管理いたしますわね」


 チュイはとても嫌そうな顔をしているが、王女様は本気のようだ。


 そんな時、初めて聞く声がした。


「其方は何者だ?」


 振り返るとそこには、メイド長に支えられてベッドから上体を起こした王様が俺を見ていた。


 そこでチュイを見ると頷いてきた。


 そう言えば王女様と初めて会った時も、正体がバレているのだから変装しない方が良いと忠告してきたし、きっと王様も同じなのだろう。


「陛下、お初にお目にかかります。陛下にはこの姿の方が、理解が早いですわね」


 そして擬態魔法を解除して保護外装の外見に戻した。


「あ・・・」


 王様は一瞬目を見開いたがその目に理解の色があったので、俺が何者なのか直ぐに分かったようだ。


 王様は大声を出すことも取り乱す事もなくこちらを見ていたが、王様を支えていたメイド長は気を失ってベッド傍に倒れていた。


「流石は王様ですね。一国を統べるだけあって、この姿を見ても取り乱したりしないのですね」


 俺が関心したようにそう言うと、王様から以外な返事が返ってきた。


「いや、あまりの恐ろしさに腰が抜けておる」


 その言葉を聞いた王女様とチュイが慌てて王様の傍に駆け寄ると、王様がとんでもない事を口走る前に両側から状況説明を始めていた。


「父上、我が王家はこちらのユニス殿に多大な恩を受けました。私の姿も元に戻してもらいました。決して敵対してはなりません」

「そうです、父上。こちらのガーネット卿には、父上の病を治してもらい、私も暴漢に襲われた時に助けてもらいました。このお方とは友好的なお付き合いが重要です」


 王様はそんな子供達を交互に見てから、手を上げて降参のポーズを取った。


「分かった。分かったから、そう両側から同時に話しかけるな」


 そしてチュイと王女様が黙ると、王様は俺の方に顔を向けた。


「信じられん事だが、助けられたらしいな。儂は、恩人を何と呼べば良いのだろうか?」

「これは失礼しました。私はユニス・アイ・ガーネットと言いますわ。陛下」


 俺はそう言ってにっこり微笑んで、敵意が無い事を伝えた。


「うむ、ではガーネット卿と呼んでよろしいか?」

「はい、それでよろしくお願いします」


 王様は自分の傍に居るチュイの顔をじっと見てから、再び口を開いた。


「ところでガーネット卿、我がルフラント一族の呪いを解いてくれたのだろうか?」


 そう言った王様の声にも期待が込められていた。


 だが俺が掛けた呪いじゃないじゃから、解呪の方法が分からないのだ。


「いえ、呪いの発動条件が分かっただけです。ですが、これは王族にとっては朗報だと思いますよ」


 俺がそう言うと、チュイが王様に補足説明をしていた。


「父上、ユニス殿は、7百年前の魔女とは別人だそうです」

「そうなのか?」


 チュイのその指摘にもいまいち納得していない王様は、再び俺に質問してきた。


「其方は復活した魔女ではないのか?」

「ええ、違います」


 そして俺達はしばらく見つめ合っていたが、先に王様が視線を外した。


「分かった。それでガーネット卿、褒美は何を望むのだ?」


 そう尋ねてきた男は、すっかり国王の威厳を纏っていた。


「そうね。欲しいのは怪盗三色の身柄とブマク団の免責かしらね」


 すると王様は王女様の方を見た。


「怪盗三色とは何者なのだ?」


 まあ、ずっと病の床についていたのだから、知らないのも当然だよな。


「父上、怪盗三色とは盗賊です。王家がアルベルダ侯爵家に預けたあのマジック・アイテムも、盗まれました」

「なんだと? コンラドの奴、何をしていたのだ」

「いえ、失敗したのはコンラド・デシ・アルベルダ卿ではなく、次代のブラシド・ルイ・アルベルタ様のようです」


 それを聞いた王様は頭を抱えていた。


「アルベルダ侯爵家の未来は暗いな」


 そして王様がこちらに向けた顔付きは、厳しいものに変わっていた。


「ガーネット卿、その者らは、我が王家がアルベルダ侯爵に預けた王家の宝を盗んだ犯人のようだ。王家の宝を取り戻したい。用事が済んだら引き渡してはくれないか?」


 俺は特に盗賊達に何の思い入れも無いので、ここは頷いておいた。


「ええ、用事が済んだ後なら構いませんよ」

「助かる。それとブマク団とは何だ?」

「父上、それは私が説明します」


 そう言ったのはチュイだった。


 まあ古巣なのだから、うまいように説明してくれるだろう。


「すると、王国内で働いた盗賊行為に、目をつぶれという事か?」


 チュイの説明を聞いた王様が渋い顔をして、そう言った。


 まあ、不法行為に目を瞑れといっても、王都北門で馬車を壊された貴族が複数いるのでもみ消しは難しいのか。


「陛下、王都を包囲した時ブマク団は私が雇っていたのですから、彼らに責任を問うのは無理がありますよね?」

「ああ、その件は不問にしても問題無いのだが、普段から街道で盗賊行為をしているとなると話は違ってくる」


 ああ、確かに。


 だが、ガーチップに約束しているのだ。


 こちらも簡単に折れる訳にはいかないのだ。


「それは王国が、獣人から生活圏を奪ったからでしょう? 勝者の論理を振りかざすなら」

「待たれよ。王国はガーネット卿と事を構えるつもりは無い」


 王様は右手を挙げて、待てのジェスチャーをした。


「その件については、こちらでガーネット卿が満足するような案を検討しよう。少し時間を頂きたい」

「ええ、期待しておりますわ」

「ところでガーネット卿、少しの間だけ子供達と話をしたいのだが、席を外してもらえないだろうか?」


 王様は、ベッドの傍に居る2人を見ながらそう言ってきた。


「ええ、構いませんよ。その間、私はアラゴン公爵達から話を聞くことにします」

「アラゴンだと?」

「父上、アラゴン公爵派には、ガーネット卿の暗殺を企てた疑惑があるのです」

「なんだと」


 病み上がりの王様には、これ以上の刺激はきついかもしれんな。


「陛下、あくまでも疑念なので、それをアラゴン公爵派の皆様に聞いてみるだけです」

「その聞くというのは、拷問という意味ではないのか?」


 王家の血を引く公爵家に対してそのような行為をすれば、後々面倒になると示唆しているのだろうな。


「そんな事をしなくても、快く話していただけると思いますよ」


 そう言ってにっこり微笑むと王様は一つため息をついた。


「その件は了承しよう」


 そして王女様を見ると頷いて見せた。


 王女様もその意味を理解したようでメイド長を助け起こすと、メイド長に命令を伝えた。


「ミジャン、ベレン・アンブリスに、こちらのガーネット卿をアラゴン公爵達が滞在している部屋に案内するよう伝えて」


 メイド長は一瞬目を見開いたが、直ぐに命令に従うため立ち上がった。


「畏まりました」


 そして俺の目の前で一礼すると、ドアの方を指し示した。


「ガーネット様、それではご案内させていただきます。どうぞこちらに」

「ええ、お願いしますね」


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