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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―20 お貴族様捕獲作戦2

 

 館で脱出準備を整え東門に向かっていたアラゴン公爵は、急に馬車の速度が遅くなったのに気が付いた。


「何をしている?」


 公爵が御者台に声を上げると、直ぐに返事が返ってきた。


「通りに平民が溢れていて、道を塞いでおります」


 その返事が気に入らない公爵は、直ぐに大声を上げた。


「馬鹿者、そんな者達は蹴散らせばいいだろう。急げ」

「はっ、畏まりました」


 馬車は10騎の護衛騎士に道を作らせながら進むと、ようやく東門前に到着した。


 隣にはレデスマ侯爵の馬車があった。


 アラゴン公爵は、レデスマ侯爵の馬車の装飾を眺めながら、自分の馬車の方がより美しい装飾が施されている事に満足した。


 公爵が馬車を眺めている事に気付いたレデスマ侯爵が、車窓超しに挨拶してきたので礼を返した。



 東門前でオルネラス子爵からの合図を待っていると、西の空にポッと合図の火が灯った。


「合図だ。進め」

「はっ」


 東門が開き護衛騎士達が平民を追い立てると、今度はこちらの番だ。


 隣のレデスマ侯爵に声を掛けた。


「レデスマ卿、私は右に行く」

「それでは我々は左に参ります。ご武運を」

「うむ、レデスマ卿もな」


 走り出した4頭馬車は、王都東門をくぐると右にそれそのまま速度を増していった。


 アラゴン公爵は、自分の馬車にどかりと座ると御者台に座る護衛から逐一外の様子を報告させていた。


「公爵様、左前方に魔女の手下が見えます。動いておりません」

「うむ」


 車窓から遠見のマジック・アイテムで外を見ると、そこにはメイド服を着た黄色い髪の女が少し足を開き腕組みをして薄笑いを浮かべていた。


 ここに公爵軍は居ないとはいえ一騎当千の護衛騎士が10騎いるし、他の貴族達にも護衛騎士が付いていた。


 数的にはこちらが圧倒的に有利だというのに、魔女の手下は余裕の表情を崩さない。


 アラゴン公爵は取るに足らない使用人に見下されているようで、次第に腹が立ってきた。


 すると遠見のマジック・アイテム越しに見ていた女と、目があったような気がした。


 なんと女は私と目が合ったと分かったうえで、あざ笑ったのだ。


 かっと頭に血が上ったアラゴン公爵は、御者台に向かって命令を怒鳴っていた。


「おい、護衛騎士にあの小生意気なメイド女を襲わせろ」

「え、ですが公爵様、あれは魔女の手下ですが?」

「だから何だ?」

「いえ、何でもございません」


 御者から公爵の命令が護衛に伝達されると、外から護衛の歓声と騎馬のいななきが聞こえてきた。


 10騎の騎士が魔女の手下に向けて駆けていくと、それを見た他の貴族の護衛達も同じ行動をとっていた。


 土煙を上げて魔女の手下に向かって突撃する騎馬隊を見ると、今までの鬱憤が晴れていくようだった。


 そうだ、それでいい。儂は公爵なのだ。


 公爵が進む道に立ちふさがる愚か者は、蹴散らせば良いのだ。


 あの黄色い小生意気なメイド女が騎士の馬上槍に串刺しにされる姿を想像していると、凄まじい轟音と共に騎馬が吹き飛んでいく姿が目に飛び込んできた。


「なんだ・・・あれは?」


 公爵に見えるのは吹き飛ばされる騎士と騎馬だけで、魔女の手下は黄色い残像でしか見えなかった。


 想像と違う光景に慌てた公爵は、一気に冷静になった。


 そして改めてあの黄色い女があの最悪の魔女の手下であることを思い出し、御者に速度を上げて逃げだすように命じた。


 公爵の命令で馬車がガクンと振動して加速すると、やがて公爵の目の隅に黄色い残像が見えたような気がした。


 加速していた馬車が突然急停止すると、公爵の体が座っていた椅子からふわりと浮き上がり、御者台とを仕切る板張りに思いっきり顔をぶつけ、そのまま気を失った。


 +++++


 西門前で破壊した馬車から確保した使用人達は怪我の治療をしてから解放すると、貴族達を回収するため時計回りに回ることにした。


 最初に向かった北門では数台の馬車が横倒しになっていて、ガーチップ達の足元に数名の貴族が転がっていた。


「ガーチップ、ご苦労様」

「これは魔女殿、ご指示どおり数名の貴族を確保しておいたぞ」


 転がっている人間の衣装から、馬車の中にはちゃんと貴族が乗っていたようだ。


 ガーチップ達の力も借りて、確保した貴族達を運搬用ゴーレムの檻の中に放り込んでいった。


「この後はどうする?」

「仕事は此処までね。貴方達の処遇が良くなるように王様に口添えしておくわ」

「それはありがたい。では達者でな、魔女殿」


 森に向けて帰って行くガーチップ達に手を振ってから、インジウムが居る東門に向かった。


 そこでは相当数の豪華な馬車が破壊され、全身鎧の騎士達もあちこちに転がっていた。


 そしてインジウムの足元には、立派な服を着た人間達が重なり合って小さな山になっていた。


 どう見ても、逃げ出した貴族を全員捕まえたような感じだった。


「えっと、インジィ、これは?」

「はい、頑張りましたぁ」


 ああ、そうですか。


 インジウムを見ると、かなり魔力を使っているようだった。


 まだ残りは十分あるようだが、これから王都に入るのに魔力切れを起こされても困るので、魔宝石を交換しておくことにした。


「インジィ、魔宝石を交換するから舌を出して」

「はあぃ」


 そして手早く魔宝石の交換を行うと、インジウムが抱き着いてきた。


「お姉さまぁ、ありがとうございますぅ」

「はいはい、分かったから。それじゃあ、早速捕まえた貴族を検分してみましょうか」


 転がっている貴族は皆高価そうな服を着ているので、どうやら高位貴族達のようだ。


 その中でひときわ目立つ男が居た。


 その男を見た王女様が、ため息をついた。


「リリアーヌ殿下、この男をご存じなのですね?」

「ええ、この方はアラゴン公爵です」


 おや、敵の首魁を捕らえていたようだ。


「インジィ凄いわ。大金星よ」

「お姉さま、もっと褒めてぇ」

「はい、はい、偉いわよ」


 そう言って頭を撫でてやると、猫みたいに喉をゴロゴロ鳴らしていた。


 伸びている貴族達は運搬用ゴーレムに積み込むと、最後の南門に向かった。



 グラファイトの所に来ると、此処でも相当数の馬車が破壊されていて、グラファイトの足元には伸びた貴族達が転がっていた。


「グラファイト、ひょっとしてだけど、全員捕まえたの?」

「勿論です」


 そう言うと、インジウムとの間でなにやらアイコンタクトを取っていた。


 こいつら俺の知らない所で何か張り合っているな。


 余計な所で魔力を浪費するのは勘弁して欲しいんだがなあ。


 そして何も言わず、グラファイトの魔宝石も新品に交換しておいた。



 保護外装の高性能の耳に届いてくる王城内の物音から、比較的平静を保っているように思われた。


 きっと、次に何が起こるのか息を殺して見定めようとしているのだろう。


 俺達は態と相手からこちらが見えるように、馬車には乗らず歩いて南門に向かうことにした。


 俺達が王都に近づいているのが見えたのだろう、南門から完全武装した騎士の一団が出てくると一列横隊で整列していた。


 戦闘隊形かと思っていたが、騎士達は武器を構えておらず戦いをする気はなさそうだった。


 だが、それにしては皆青い顔をしていた。


 それはまるで、死の審判を待っているかのようだ。


 今の俺の顔はあの恐ろしい化粧を落としているので、普通の顔に見えるはずなのだがな。


「ねえジゼル、あの騎士達はなんであんなに青い顔をしていると思う?」


 俺の質問に答えたのは、ジゼルではなくベルグランドだった。


「最悪の魔女という、恐ろしい化け物がやって来るからじゃないですか?」

「な・・・」

「だ、大丈夫よ。ユニスは良い人よ。それは私が保証するわ」

「ありがとう」


 ベルグランドのとんでも発言を、ジゼルがなんとかフォローしようとしていた。


 俺はベルグランドをひと睨みしてから、注意を前方の騎士団に移した。


 そして騎士団を改めて見てみると、あの鎧は焼き討ちされた時に館を包囲していた連中と同じ物だった。


 これは警戒しておいた方がよさそうだな。


 俺達が近づいていくと、一列横隊の中から2名の騎士が前に出てきた。


 後ろを振り返りジゼルに合図を送ると、ジゼルが魔眼で見てくれて首を横に振っていた。


 どうやら警戒をする必要は無いようだ。


 すると前列の2人のうち黒髪の男が、声を上げた。


「最悪の魔女様、王国騎士団長エリザルデと申します。この度、貴女様に無礼を働いたのは私達です。どのような処罰も受ける所存ですが、今回の件に関与していない陛下や王都の民には手を出さないで頂きたい。もし、それが受け入れてもらえないとなると、私達は最後の1人になるまで戦う決意です」


 そう言うと頭を下げた。


 すると今度は、もう1人の体格の良い短髪の男が口を開いた。


「最悪の魔女様、副団長のテラダスです。騎士団長の首だけでは不満でしたら私の首も差し出します」


 そう言って頭を下げた。


 おい、俺が首狩り族か何かだと勘違いしていないか?


 目の前の2人が相当な決意を秘めているようだが、俺にそのつもりは無いのだ。


「その提案受け入れましょう。それと貴方達の処遇については、私の友人に任せる事にします」


 やっぱりあれだな。面倒くさい事は王女様に押し付けてしまおう。


 そして俺はリリアーヌ殿下を呼ぶため、後ろを振り向いた。


 丁度そこにはジゼルが居て、何故か慌てた顔で叫びながら、右手を突き出して駆け寄ろうとしていた。


 ジゼルの後ろにはオーバンも居て、危険を知らせるように叫び声を上げていた。


 そして背後では何かを制止しているような野太い声も聞こえてきた。


 何かあったのかと振り返ると、目の前には銀色に光る何かが迫って来ていた。


 俺は危険なものから避けるという本能に近い動きで後ろに飛んだが、銀色に光るそれが伸びたように見えると、次の瞬間胸のあたりに衝撃が走った。


 後ろからはジゼルの悲鳴が聞こえてきた。


 +++++


 平民の恰好をして西門から脱出したオルネラスは、命からがら王都から脱出し、南門が見える小高い丘の上まで落ち延びていた。


 大の字で寝転がって息が整うのを待ってから、持ってきた水筒から水を飲むとようやく人心地ついていた。


 オルネラスが居る小高い丘からは王都南門を見渡すことが出来るので、手に持った遠見のマジック・アイテムを向けてみると、そこには破壊された馬車が点々と転がっていた。


 数を数えると、南門から脱出した貴族の人数と同じ数あったので、全滅したのは直ぐに分かった。


 次に王都南門を見ると、そこには門の前に並ぶエリザルデ達騎士団とそれに近づく魔女の一行が見えた。


 魔女の一行を見たオルネラスは、その光景が信じられず目を擦ってからもう一度見直していた。


 そこに映っていたのは巨大なゴーレムの後ろを走る2台の馬車と1台の荷馬車だった。


 そしてそのうちの1台の馬車が、リリアーヌ殿下が王都を出てルジャの館に向かった時に乗って行った馬車だったのだ。


 まさか、王女は生きているのか?


 オルネラスの背中に冷たい汗が流れると、魔女の一行が南門に到着していた。


 そこでエリザルデがやってくれた。


 そうあの魔女に向かって切り付けたのだ。


 魔女の体は後ろ向きに傾くと、そのまま地面にうつ伏せに倒れていた。


「良くやった、エリザルデ」


 オルネラスは嬉しさのあまりその場でガッツポーズをしていた。


いいね、ありがとうございます。

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