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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第1章 百万ルシアの賞金首
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1-25 ジゼル


 ジゼルはパルラの娼館で働く18歳の狐獣人だが、その外見は幼い少女のままだった。


 狐獣人は種族特性として大人にならないと体が成長しないのだが、その大人になる為には相手の裏の顔を見る事が出来るという魔眼を発現させなければならなかった。


 何故そうなっているかというと精神が未熟な子供の内に魔眼が発現すると、それが制御できず発狂する危険があるので、それを防止するためにこのような安全装置が備わっているのだ。


 その魔眼を覚醒させるには大量の魔素を浴びる必要があり、そのためには魔素量が多いヴァルツホルム大森林地帯に入り魔素浴をする必要があった。


 だがジゼルにそのような機会は訪れず、18年経った今も幼い姿のままだった。


 魔眼が発現した獣人奴隷は高価だ。


 そこで客の中には発現する前の安いうちに購入し、魔眼が発現するのを待つ者もいた。


 ジゼルも8歳の時に、そんな博打好きの貴族に買われたのだ。


 狐獣人はおおよそ15歳で覚醒し、大人になる。


 ジゼルを買った貴族はこの魔素浴の事を知らなかったため、屋敷の中で飼い殺しにしていて覚醒しなかったのだ。


 そしてジゼルを不良品だと誤解した貴族に売られて、この町にやってきていた。


 ここでの仕事は、掃除に洗濯、食事の準備それに使い走りだ。


 時折、幼い少女趣味の客も居たが、娼館の女主人であるバンビーナ・ブルコがなんだかんだと理由を付けてはうやむやにしていた。


 それというのもこの町がヴァルツホルム大森林地帯に隣接していて魔素量が他の町に比べて高い事から、近いうちに覚醒して大金を稼ぐのではという思惑があり、その前に乱暴な客に壊されたくなかったというのが本音だった。


 そんなジゼルの最近の悩みは一日中水仕事をしていることによる肌荒れで、手はガサガサでひび割れからは血がにじんでいた。


 今日も山のような洗濯物を洗い終わると、汚れた水を捨てるため勢いよく勝手口の扉を開けると、そのタイミングでゴンという凄い音がした。


 慌てて扉の外を覗くと、そこには両手を上げて伸びている人がいた。


 ジゼルは慌てて倒れた人を娼館の中に引き入れると、布団の上に横たえて深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。お怪我はありませんか?」


 だがフードの人は返事をしなかったので、小声で「失礼します」といってフードを脱がすと、そこには美しい女性の顔があった。


 そして人間種ではありえないほど長い耳が突き出していた。


 良かった。


 どうやら人間ではないらしい。


 獣人が人間に危害を加えてしまうと、躾だといってひどい折檻をされるのだ。


 人間じゃないと分かると、今度はその艶のある金色の髪の毛ときめ細かな肌がとても気になってきた。


 自分の酷い癖毛と荒れた肌と比較して、とても羨ましかったのだ。


 だが、その可愛い額に赤く痣になった打撲痕を見つけると、自分がしたことを思い出して嫉妬の炎は急激に冷め、代わりに後悔の念が募ってきた。


 ジゼルは娼館に常備している薬箱から打撲に効く傷薬を取り出すと、赤くなった額の痣に薬を塗り込んだ。


 それから他に傷が無いか調べるためローブを脱がしていくと、そこには露出の大きな服が現れた。


 ジゼルも娼館に来てからはこのように露出の高い服を見た事はあるが、それは娼館の中で着る部屋着だった。


 この店で見かけない顔だったので、他の店から逃げてきたのだろうと直ぐに分かった。


 ここは娼館の女主人であるバンビーナ・ブルコに報告して当局に突き出さなければならないのだが、自分と同じ境遇の女性が必死に逃げていたのを邪魔した挙句、突き出すというのは流石に良心が傷んだ。


 どうしたら良いか分からなくなって逡巡していると、その女性の首に隷属の首輪が無いことに気が付いた。


 ジゼルは物心ついた頃から隷属の首輪を付けられていてそれが当たり前だと思っていたし、娼館のお姉さま方も隷属の首輪は外せないと言っていたので、どうしてこの亜人の女性は付けていないのか不思議だった。


 そこでようやく、この町の亜人奴隷ではないのかもしれないと思い至ったのだ。


 やがて娼館の裏側でも追っ手と思われる足音や話し声が聞えて来ると、勝手口の扉を閉めて女性が見えないように隠すことにした。


 幸いな事に捜索隊が来るよりも先に女性が目を覚ましたらしく、顔を覗き込むと赤い瞳と目があった。


 +++++


 俺は気が付くと、こちらを覗き込む茶髪に獣耳をした女の子と目が合った。


 獣人に会うのはこれで3度目だ。1度目は生贄の少女で、2度目は先程魔物に襲われていた人々だ。


 3度目はどうなるのかと黙って成り行きを見守っていると、その獣人が俺に頭を下げてきた。


「ごめんなさい。私が不用意に扉を開けてしまったから」


 一瞬何の事か分からなかった。


 頭の中の靄が晴れてきて思考が戻ってくると、この獣人が言った意味が俺が扉に激突した事だと理解できた。


「貴女が介抱してくれたのですか?」

「私のせいですから当然です」

「私も前をよく見ていなかったのです。助けてくれてありがとう」


 俺が礼を言ったところで、扉の向こう側で走って行く足音が聞えてきた。


 俺がそれに警戒を示したので、目の前の獣人にもそれが分かったようだ。


「やっぱり追われているのですね」


 この獣人は俺が追われている事を承知していて、それでも助けてくれたようだ。


「もうすぐ、夜の営業時間が始まります。そうしたら警備の人達も仕事がありますから、その隙に逃げた方がいいと思います」


 どうやらこの娘は俺を逃がしてくれるようだ。


 そこで初めて、この娘が俺の怪我の手当をしてくれていたことに気が付いた。


「貴女が手当てしてくれたの?」

「打撲の治療は慣れていますから」

「どうもありがとう」


 俺はこちらに来て初めて他人の好意を受けてなんだか嬉しくなっていたので、何故打撲の治療が慣れているのか聞きそびれていた。


「私はユニス・アイ・ガーネットと言います。ユニスと呼んでくださいね」

「あ、私はジゼルです。ユニスさんには貴族様なのですか?」


 俺は意外な事を聞かれて一瞬理解が遅れた。


 そして何故貴族だと思うのか興味が湧いてきた。


「いいえ、貴族ではありません。でもジゼルさんがどうしてそう思ったのか興味を持ちます。それから私の事は呼び捨てで構いませんよ」

「ああ、ごめんなさい。えっと、ガーネットというのはユニスの家名なのでしょう?」


 ああ、そう言う事か。俺は勝手に保護外装の名前を名乗っているだけなんだよな。


 これからは名前を名乗る時は注意した方がよさそうだ。


 でも既に名乗ってしまっているしどうしようか・・・・そう言えばガーネットっていろんな石があったな。


「これは家名ではなくて、住んでいる場所を現しているのです」

「へえ、そうなのですか」


 俺はジゼルに何かお礼は出来なかと考えていると、ふっとジゼルの肌荒れが目に留まった。


 そこでテクニカルショーツのポケットを探ったが、霊木の根は全て没収されているのを思い出した。


 ああ、くそ、あの野郎のせいでお礼ができないじゃないか。


 するとジゼルが不思議そうな顔で、俺の首元を見ているのに気が付いた。


 そして俺も反射的にジゼルの首元を見ると、そこには隷属の首輪があった。


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