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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―19 お貴族様捕獲作戦1

 

 オルネラスが騎士団との会合を終えアラゴン公爵達が待っている部屋に戻ってくると、早速公爵から声を掛けられた。


「それで、どうなった?」


 オルネラスは他の貴族にも聞こえるように言った。


「騎士団は、協力を拒否しました」

「なんだと?」

「我々を見殺しにするつもりか?」


 場が騒然となってきたところで、アラゴン公爵が手を挙げた。


「まだ陛下がご存命なのだ、騎士団としては陛下の御身が大事なのだろう。そこは理解してやろうではないか」


 公爵のその一言で貴族達が騎士団を非難する声が止んだが、今度はどうやって脱出するかで相談を始めていた。


 そんな時公爵が手招きしているのに気が付いて傍によると、そっと公爵が耳打ちしてきた。


「東門が手薄に見えるが、其方の見立てはどうか?」


 公爵には、魔女から一番遠くて、そして手薄な東門が最も安全に見えるのだろう。


「はい、いかに魔女の手下が凄腕でも一斉に脱出したら手数が足りないので、すり抜ける事は可能と判断します。配分はお任せ下さい」

「分かった。任せよう」


 オルネラスは公爵に一礼すると立ち上がり、集まった貴族達に向き直った。


 そして一同がこちらに注目しているのを確かめてから、声を上げた。


「皆様、これから王都脱出の手筈をお知らせします。まず、東門には公爵様を含む高級貴族、南門は中級貴族そして北門を下級貴族の皆様に分かれて脱出しましょう」

「オルネラス卿、其方はどうなされるのだ?」


 一番厳しい場所を指定された下級貴族の1人が、不満そうな顔でそう言ってきた。


 可能性が最も低いと思われている下級貴族達は皆青い顔をしているが、お前達が一番逃げられるチャンスがあるからなと心の中で言ってやった。


「私は、皆様の脱出成功の確率が上がるように、西門から出て魔女を牽制します」


 オルネラスのその言葉に、誰もが驚いたようだった。


「おお、オルネラス卿、我らの為に・・・この恩は忘れませぬぞ」


「それで皆様に1つお願いがあるのですが、私が魔女相手に少しでも時間稼ぎが出来るように予備の馬車を提供して欲しいのです」

「おお、そんな事か。分かった。手配しよう」

「我が家も予備を出そう」

「皆様、ご協力ありがとうございます」


 貴族達は俺に感謝の言葉を口にしているが、本当は俺の為に自分達が囮になったと分かった時どんな顔をするか見物だな。


「皆さん、それでは一斉に脱出する合図は、こちらで打ち上げる魔法弾としましょう。魔法弾を見たら門を開けて最初に平民を追い出し、それから脱出してください」

「良し、分かった」


 貴族達が脱出の準備をするため急いで自分の館に戻って行くのを見てから、オルネラスも自分の館に戻って行った。



 オルネラスが脱出の準備をしていると、他の貴族から予備の馬車が送られてきたので、早速それらの馬車にオルネラス家の紋章を付け替えて行った。


 くくく、これなら魔女も全ての馬車を止めなくてはならないから、かなりの時間稼ぎが出来そうですね。


 全ての準備を終えて王都西門前までやって来ると、そこには沢山の平民が集まっていた。


 オルネラスは集まった平民に声を掛けた。


「お前達、門から出たら真っすぐ魔女に向かって走れ」

「え、そ、それじゃ私らは」

「逃げようとしても無駄だ。お前達が逃げたら後ろから馬車でひき殺すからな」


 そう言って威圧するように各馬車の御者達が手綱を引くと、馬がいなないた。


 オルネラスは馬車隊がその後ろに待機すると、合図の魔法弾を打ち上げた。


 +++++


 王都西門から脱出してきた人々は、何故か真っすぐこちらに向かって走っていた。


 その顔は、まるで悪魔にでも追いかけられているかのような必死の形相をしていた。


 それは後から出てきた馬車が、こちらに走って来る民達の左右に壁のように道を塞いでいるからかもしれなかった。


 残りの馬車は門から出るとこちらには向かわず、左右に分かれて俺達から離れて行った。


 その馬車の側面には、まるでどれが本物か当ててみろとでも言うように同じ紋章が付いていた。


 へえ、なかなかやるじゃないか。


 それならと魔力感知を発動して空の馬車を探してみたが、どの馬車にも人が乗っている反応が現れた。


 ハズレには、偽物が乗っているという事か。


 だが全部止めてしまえばいいのだから、そんな小細工は通用しないぜ。


 するとジゼルが、俺の服の裾を引っ張っていた。


「ね、ねえ、このままだとあの人達と戦うことになるんじゃないの?」


 ジゼルは焦ったような表情をしているが、確かにこのままだと住民達と接触して不測の事態が起きそうだ。


 全く、民を捨て駒にして逃げるなんて、愚劣な連中が考えそうな事だ。


 さて、どうしたものかと周りを見回して、ふっと後ろで跪いている運搬用ゴーレムの姿が目に入った。


 ああ、あれを使うか。


 俺は手早くジゼル達に重力制御魔法を掛けて僅かに浮かせると、運搬用ゴーレムの後ろに隠れている王女様の馬車に向かった。


 王女様はベルグランドから逐次状況を報告されているようで、俺の姿を見ると不安そうな表情をしていた。


 王都の民に被害が出るのではと、不安なのだろう。


 ここはちょっと安心させておこう。


「リリアーヌ殿下、決して悪いようにはしませんから、私に任せて下さい」

「ええ、信用しておりますわ」

「それじゃ、ちょっと馬車を浮かせますが、危険は無いので安心してくださいね」


 王女殿下達が乗る馬車を僅かに浮かせると、ついでに俺達が乗って来た馬車も浮かせてから、運搬用ゴーレムを立ち上がらせた。


 そしてジゼルの元まで戻ってくると、次の行動に移った。


 運搬用ゴーレムは俺の合図に従い、後ろ足で立ち上がった。


 その姿はこちらに向かってくる人々には、威圧的な大きさに見えるだろう。


 そして前足を地面に叩きつけると、「ズズン」という音とともに地震のような振動波が周囲に伝わっていった。


 地面の揺れは、こちらに走って来る人々をよろけさせその場に転倒させた。


 人々が逃げないように牽制していた馬車も、馬がゴーレムを恐れて暴れるので制御できていないようだった。


 人々を牽制していた邪魔な馬車が逃げ出すと、人々は立ち上がって慌てて俺達から離れて行った。


 こちらに来る人達が居なくなると、後は逃げた馬車を捕まえる簡単な仕事だけが残った。


 馬車はこちらに側面を向けているので、車輪を狙い撃ちにするには好都合なのだ。


「ちょっとは頭が働くようだが、詰めが甘いんだよ」


 俺は飛行魔法で少し上空に浮くと、標的の数と同数の魔法陣を発現させた。


 放たれた魔法弾は次々と馬車に吸い込まれて、車輪を破壊していった。


 車輪を破壊された馬車は、バランスを崩しひっくり返ると動かなくなった。


 さて、どれが本物か調べてみますか。


 後ろを振り返ると、ジゼル達を見た。


「皆、壊した馬車に乗っている人物を拘束してね。怪我をしているようなら私が治すからね」

「「「はい」」」


 横倒しになった馬車に近づくと御者はおらず繋がれていた馬もいないことから、逃がしたのかそのまま乗って逃げたようだ。


「おい、おい、雇い主を見捨てて逃げる御者なんているんだな」


 独り言をつぶやきながら馬車の扉を開けて中を覗くと、そこには平民の服を着た初老の男が気を失っていた。


 どうやらこの馬車はハズレのようだ。


 そして次の馬車にも、御者も馬もいなかったので嫌な予感がしてきた。


 案の定馬車の扉を開けると、そこにも平民の服を着た男が転がっていた。



 他の馬車を確かめていたオーバン達も結果は同じだったようだ。


「ユニス様、こちらは駄目でした」

「ガーネット卿、こちらも平民が乗っていましたぞ」

「女ボス、こちらも全部ハズレでした。流石に最も恐ろしい魔女が居座る出口から脱出しようとする蛮勇の輩は、いなかったという事ですね」


 おい、人をラスボスみたいに言うんじゃない。


 そうすると西門は囮と言う事か。


 そこでジゼルが意識のある男を捕まえてきた。


「ユニス、男は貴族家の使用人らしいわよ」


 ほう、それは貴重な情報源だな。


「お前の主人は何処に居るのだ?」

「・・・平民に紛れて脱出なされました」


 え、貴族のプライドを捨てて、そんな事が出来る奴もいるのか。


 隣では同じ貴族であるガスバルが、信じられないという風に憤慨していた。


「何たることか。貴族たるもの、家名を汚すくらいなら潔く散るものだろうに」


 だがトレジャー・ハンターである俺は、そんな生き汚い生き方を見事と言ってやりたい気分だった。


 まんまとしてやられた事に、思わず笑ってしまった。


 周りではジゼル達がそんな俺の姿を見て心配そうな目で見つめていたが、全く気付いていなかった。


 +++++


 北門から脱出したガジョ男爵は、馬車の中で自分が逃げられる可能性がどれくらいあるのか考えていた。


 オルネラス子爵からの指示で王女派を王都から追い払うための工作を行ったのだが、その時ついた嘘がまさか現実になって自分の身に跳ね返ってくるとは思いもしなかったのだ。


 逃げられる可能性の高い東門と南門は高位貴族達に割り振られたので、自分のような低位貴族は北門から逃げるしかなかった。


 目の前には恐ろしい獣人達の集団が待ち構えていると思うと、生きた心地がしなかった。


 王国は獣人に厳しい政策を取っているので、もし捕まりでもしたらどんな目に遭わされるか分からないのだ。


 一思いに殺されるのならまだましだが、きっと手足をもがれ体を切り刻まれ、何日も苦しみにもがきながら最後を迎えるのだろう。


 そんな想像すると、恐ろしくなってガタガタと体が震えていた。


「出来るだけ獣人が居ない方向に逃げるのだ」


 御者台に向かってそう叫ぶと、御者が了解の返事をしてきた。


 馬車が方向を変えたのが体に伝わると、そっと窓から外を覗いた。


 獣人の陣形が変わり数か所隙間が出来ると、何人かの獣人が平民達にここから通れと合図を送っているようだった。


 どうやら獣人達の狙いは貴族のようで、邪魔になる平民はその場から逃がしているようだった。


 その隙間に飛び込もうとした馬車は獣人達によって破壊され、横倒しになった馬車には沢山の獣人が群がっていた。


 あの貴族は獣人によって八つ裂きにされるのだろうと、そっと手を胸に当てて冥福を祈っていた。


 祈りを終えて窓から外を見ると、こちらに真っすぐ走ってくる獣人の姿があった。


「ひえっ」


 ガジョ男爵は馬車の中で後ずさると、御者に向けて大声を張り上げた。


「もっと速く走れ」

「男爵様、これで精一杯です」


 すると背後で「ガシャ」という音が聞こえてきた。


 何だろうと恐る恐る窓から外を見ると、馬車に取り付いた獣人と目があった。


 その獲物を見るような目に睨まれると、恐怖のあまり逃げよとして馬車の壁に思いっきり頭をぶつけて気絶していた。


いいね、ありがとうございます。

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