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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―8 包囲された館

 

 ベッドから起き上がると、インジウムが恭しく折りたたまれた服を差し出してきた。


「お姉さまぁ、お召し物でございますぅ」

「ありがとう」


 俺はインジウムが差し出した着替えを受け取ると、暗闇の中着替え始めた。


 ここで明かりをつけて館を包囲している連中に、こちらが気付いた事や居場所を態々教えてやる必要は無いからな。


 王都内でこのような暴挙に及ぶとなると、町に入ってからずっと監視している連中が仕掛けてきたか、王女が最初から俺の事を始末するつもりだったかのどちらかだろう。


 こうなってくると、先にベルグランドの裏切りを確かめる必要があるな。


 俺が着替えている間、インジウムは包囲している連中をじっと監視してくれていた。


 そんな時、遠くから何かが破壊される音と微かな振動を感じた。


「インジィ、外の様子はどう?」

「攻撃が始まったようですぅ」


 それじゃあ、こちらも急いだ方がよさそうだな。


 ジゼルにはグラファイトが護衛についているので、寝込みを襲われる心配はないだろう。


 すると、最初に確かめるのはガスバルとオーバンの安否か。


「インジィ、部屋の外で何か気配はあった?」

「お姉さまがお休みになってから、何もありませんでしたぁ」


 ふむ、仮にベルグランドが裏切っていたとして、廊下に罠は無いと言う事か。


 インジウムを後ろに従えて扉を開けて廊下に出ると、同じタイミングで隣の部屋の扉が開いた。


 そこからジゼルが同じように顔を覗かせた。


「ユニス、無事だったのね」

「ええ、ジゼルも無事で何よりね。グラファイトもジゼルの護衛ご苦労さま」

「はい、ありがとうございます」


 ジゼルの無事が確認できたので、後の2人を確かめることにした。


 ベルグランドが裏切っていたとしたら、あの2人の寝込みを襲い部屋の中に罠を仕掛けている可能性も十分考えられるのだ。


 耳を澄ませてみたが、2人の寝室から物音はしなかった。


 こうなるとミニバーでベルグランドが振舞ってくれた高級酒も、俺達を酔わせて夜襲を成功させる前準備だと思えてくるな。


 そうしている間にも、館からはくぐもった破壊音や微かな振動が伝わっていた。


「グラファイト、インジウム、扉が細工されている可能性もあるから、慎重にそして急いで開けてくれる」

「畏まりました」

「はあぃ」


 2人がそれぞれガスバルとオーバンの個室の扉を開けたが、罠が発動するような事はなかった。


 だが、油断は禁物だ。


 第2次大戦でも死体の下に手榴弾を仕掛けるトラップもあったことだし、あの2人にも何か仕掛けている可能性は十分ありうるのだ。


「グラファイト、インジウム、罠に気を付けながら2人が無事か確かめてくれる」

「畏まりました」

「はあぃ」


 そう返事を返した2人だったが、ガスバルとオーバンの寝室に入ると、そのまま布団を剥ぎ取りベッドに横になっている2人を廊下に放り投げた。


 おい、そんな無造作に動かして大丈夫か?


 だが心配は杞憂だったようで、罠が発動する気配はなかった。


「ガスバル、オーバン、貴方達大丈夫?」


 俺は床に転がった2人に声を掛けると、寝ぼけた声で返事が返ってきた。


「これはガーネット卿、変わった夜這いですな?」

「これはユニス様、夜中の点呼ですか?」


 どうやら生きているようだが、ベルグランドに何かされている可能性も捨てきれないよな。


 さて、どうやって調べるか?


「ユニス、2人は大丈夫よ」


 俺が洗脳の可能性を考えていると、ジゼルがそう指摘してきた。


 どうやら魔眼で見てくれたようだ。


「館が包囲されているのよ。2人とも戦闘準備を整えてね」

「「え?」」

「急いで」


 俺がそう言うと2人は完全に覚醒したようで、慌てて自分の部屋に戻って行った。


 それじゃあ、本命を確かめてみますか。


 ベルグランドの部屋も物音ひとつしないので逃げ出した後かと思ったが、魔力感知に反応が現れた。


 息をひそめて俺達が扉を開けるのを、今か今かと待っているのだろう。


 パルラの倉庫での事を考えると、扉を開けた途端、ありとあらゆる罠が発動する未来が見えるようだ。


 周囲からは包囲している連中の攻撃による、炸裂音や振動が続いていた。


 これは躊躇している時間はなさそうだな。


 俺はグラファイトとインジウムを見ると、注意を与えた。


「あまり時間がないようね。ベルグランドが部屋に居るか急いで確かめる必要があるけど、奴は罠の名人だから、注意しながら扉を開けて中を確かめてね」

「畏まりました」

「はあぃ」


 するとグラファイトが扉を蹴破ぶり、インジウムが部屋の中に突撃していった。


 おい、俺の話をちゃんと聞けよ。


 いや、俺が慎重にとか急げとか矛盾する命令を出したのが悪いんだが。


 予想どおり部屋の中から、すごい物音が聞こえてくるぞ。


 やがて静かになると、インジウムがベルグランドを小脇に抱えて現れた。


 ベルグランドはインジウムの腕から逃れようと必死な形相で藻掻いていたが、がっちりホールドされているので無駄な努力だった。


 そして視線が動き俺の存在に気付くと、何故かほっとした表情になっていた。


「お、女ボス、寝込みを襲わなくても呼んで下されば、いつでも夜伽のお相手をいたしましたのに」


 こいつは態ととぼけているのか?


 それとも本当に知らないのか?


「ベルグランド、この館は包囲攻撃されているわ。手引きしたのは貴方ね?」

「え、何の事です?」

「あくまでとぼけると?」

「ねえユニス、本当に知らないみたいよ」


 振り返るとジゼルの魔眼が光っていた。


 と言う事は、館を包囲している連中は街中で俺達を監視していた奴らなのか?


 館からはパチパチと燃える音と、微かに煙の臭いもしていた。


 急いだほうがよさそうだ。


 そこに装備を整えたガスバルとオーバンが部屋から出てきた。


「ガスバル、オーバン、2人は館の使用人を起こしてきて」

「「分かりました」」


 ガスバルとオーバンが使用人を助けに行くと、脱出ルートを確保するためグラファイトとインジウムに外の状況を見てくるように頼んだ。


 皆が目的を果たすため出て行くと、つかの間の待機時間になった。


 自然と会話が途切れると、建物が燃える音や魔法弾が命中したくぐもった炸裂音が聞こえてきた。


 ジゼルもさも不安になっているだろうと顔を見たが、そこには恐れや心配といった感じは無く、こんな状況だというのに落ち着いているようだった。


「ジゼル、怖くないの?」


 思わずそう聞いてしまうと、ジゼルは不思議そうな顔で俺を見返してきた。


「怖くないわ」


 俺がその言葉に小首をかしげると、ジゼルはにっこり微笑んでその理由を教えてくれた。


「だってユニスが何とかしてくれるでしょう。仮に駄目だったとしても、ユニスと一緒ならそれで本望よ」


 ジゼルはその言葉が偽りでない事を示すように、じっと俺の事を見つめていた。


 そういえばパルラの攻防戦でも俺の隣に居てくれていたから、あの時の事を思い返しているのかもしれないな。


 これだけ信頼されているんだから、傷一つなく助け出さないとね。


 改めて気合を入れ直したところで、グラファイトとインジウムが戻ってきた。


「外の様子はどう?」

「大姐様、敵は完全にこの館を包囲しています」

「姉さまぁ、火矢と火炎弾の雨あられですぅ」


 俺達を館ごと火葬にするつもりか。


「外の連中の特徴は?」

「正規の軍隊のようです」

「えっとぉ、蝶を象った旗がありましたぁ」


 蝶の旗。


 危ない、危ない。


 包囲している連中の旗印が桔梗紋だったら、きっと「是非もなし」って言っちゃっただろうな。


 それにしても蝶といえば、ロヴァル公国の国旗は赤色の蝶だったな。


 ルフラントも同じなのか?


「ベルグランド、蝶の旗を使っている軍隊に見覚えは?」

「・・・ルフラント王国の国章は紫色の蝶です。それを使えるのは国王直属の騎士団だけです」


 ベルグランドは打ちのめされた哀れな姿だったが、更に追い込まなければならなかった。


「国王は病気療養中よね。今騎士団を動かせる人物は誰?」


 ベルグランドの顔色は紙のように白かった。


 言わないようだったら、自白魔法を掛けて強引に聞き出すか。


 すると肩を震わせながらベルグランドが声を絞り出した。


「・・・王女殿下だけです」


 可哀そうに、こいつ見捨てられたのか。


 俺は両手を床に付けうなだれているベルグランドの肩をぽんと叩いた。


「ベルグランド、強く生きるのよ」

「ちょ、女ボス、慰さめないでくださいよ」


 俺が何も言わずにまた肩をぽんと叩いたところで、ジゼルが口を挟んできた。


「でも変じゃない。病床の王様に薬を届けに来たのでしょう? 本当なら歓迎されるはずよね?」


 その疑問は尤もだが、現に今まさに火葬されている最中なんだよなあ。


「ベルグランド、王女殿下に渡した手紙に何を書いたのか言うのよ」

「え、あ、えっと、陛下に献上する特別な木の実を確保しましたので、お受け取り願います。なお、木の実の提供者も同行しておりますので、謁見の許可をお願いします。です」


 う~ん、別に怪しい内容じゃないよな。


 どうしてこれで火葬にされるんだ?


 原因をあれこれ考えていると、ガスバルとオーバンが戻ってきた。


「はぁ、はぁ、大変です。この館には我々以外誰も居ませんぞ」

「ガスバル殿の言う通りです。手分けして調べましたが、誰も居ません」


 使用人を事前に避難さえたうえで館を包囲していると言う事は、明らかに計画的だよな。


 こんなに手早く段取りが出来ているとなると、手紙の受取人以外考えられない。


「王女にはめられたな」


 俺のその一言にベルグランドががっくりとうなだれた。


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