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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第9章 亡国の遺産
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9―1 パルラでの軋轢

 

 俺が乗るゴーレムの同乗者は、ジゼルと救出隊のメンバーだ。


 オーバンは俺に何か飲ませようとしたと聞いて、先程からずっとベルグランドを睨み付けていた。


 だがベルグランドはそんなオーバンの視線をスルーして、パルラの町を知らないガスバルに町の事をいろいろ教えていた。


 こいつ倉庫に隠れていただけじゃなくて、パルラの町を満喫していたのか。


 パルラに向けて飛行するゴーレムの下では、大森林の木々がものすごいスピードで流れていた。


 やがて、視線の先にパルラの城壁が見えてきた。


「ねえジゼル、パルラに帰るのもなんだか久しぶりね」

「そうね。ユニスと一緒となると、随分久しぶりな気がするわね」


 えっと、ジゼルさん? 


 もしやアイテールに行く時に置いていった事を、根に持ってはいませんよね?



 パルラ上空に到着すると、そのまま中央広場にゆっくりと降下していった。


 ベルグランドがあっという間に到着した事で、ぽつりと独り言を言うのが聞こえてきた。


「全く、こんなに早く着いちゃうなんて、女ボスはほんと凄いですねぇ。フェラトーネからここまでやって来るのに、一体どれだけの日数がかかったことか」

「がはは、そりゃ当然だろう。なんたって本物の赤い瞳を持つ魔法使いなんだからな」


 ベルグランドは後半他人に聞こえないように小声で愚痴っていたが、ちゃんと聞こえているからな。


 広場にゴーレム達が無事着地すると、他のゴーレムから女性と子供達を下ろしていった。


 子供達は、初めて見る町にキョロキョロしていた。


 その姿を見て初めての家にやって来た猫の行動に似ているなと思ったのは、子供たちが獣人だからなのだろうか?


「ねえ、ここ本当の街中なの?」

「植え込みしか見えないわね」

「でも、城壁の中にちゃんと入ったわよね?」


 まあ人口密度が低いし、建物も2階までしかないからな。


 此処が街中だと分かってもらうためにも、ちょっと町の案内でもするか。


「皆、ちょっと集まってくれる」


 すると真っ先に、あの人質になっていた女の子がやってきた。


 そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。


「えっと、私はユニスよ。貴女名前は?」

「434番」

「え?」


 俺が戸惑っていると、後ろからやってきた女性がその理由を教えてくれた。


「彼女達の名前は、買主が付けるのよ。それまでは番号でしか呼ばれないわ。せっかくだから領主様が付けてあげてください」


 俺が付けるの?


 俺は別に買主でもなんでもないので首を横に振ろうとしたが、そこで少女の期待を込めた瞳を見てしまった。


「えっと、その、う~ん、あ、じゃあ、キッシュでいい?」


 なんだか食べ物の名前みたいだけど、あれこれ考え始めると決まらないからな。


「それじゃあ皆さん、簡単に町の中を案内しますね」



 グラファイトとインジウムが持ってきてくれた馬車に全員を乗せると、使っている区画に向かった。


「皆さん、ここがカフェ「プレミアム」です。おいしいお菓子とお茶が楽しめるわよ。店長は人間の女性ですが、店員は獣人女性ですから遠慮せず利用してくださいね」


 俺がカフェ「プレミアム」のテラス前に馬車を止めると、店長のベルタさんが手を振ってくれた。


 そして次に向かったのは魔素水浴場だ。


 バンビーナ・ブルコは、馬車で乗り付けた我々を見て、新しい金蔓が来たとでも思っているのか、もみ手でもしそうな笑顔で出迎えてくれた。


 浴場の担当者が施設の利用方法等を新しくやってきた獣人達に教えている時に、ブルコに黒蝶の事を聞いてみることにした。


「ブルコさん、黒蝶という組織を知っていますか?」

「黒蝶?」

「ええっと、麻薬の密売とか人身売買とかをしている非合法な組織、みたいな感じなんだけど」


 ブルコは目を瞑って考えているのだろうが、何だか立ったまま眠っているようにも見えた。


 そろそろ本当に寝てないか確かめてみようとしたところで、ブルコがカッと目を見開いた。


「そういえば、前の雇い主が奴隷商人と会談している時に、その単語を聞いたような気がするさね」


 前の雇い主と奴隷商人って、ドーマー辺境伯とムルシアだよな。


 ああ、こんな事なら、生きているうちに自白の魔法を掛けておけばよかったなあ。



 町の案内が終わると、早速獣人達の住宅造りを始めた。


 牧場からやってきたのは女性や子供ばかりなので、ここは寮タイプにして生産施設に居た女性達に子供の面倒を見てもらうことにしたのだ。


 1階は共通部分と身重な女性達の部屋を、上階に子供達の部屋を配置した。


 そして錬成陣で部屋をブロック毎に造り、それをゴーレムが運んで組み立てるという作業を目の当たりにした獣人達は、目が点になっていた。


「ね、ねえ、建物ってこんな風に作るものなの?」

「私に聞かないでよ。エルフには、古からの建て方ってのが、きっとあるのよ」

「そんなのどうでもいいじゃない。重要なのは、雨風がしのげる場所で寝られると言う事よ」

「誰、樹洞って言ったの? どう見ても、立派なのを建ててくれているわよ」


 その言葉に集まっていた獣人達は、皆頷いていた。


 そして子供達は、見る見るうちに出来上がる建物に大はしゃぎだ。


「わ~い、お家だぁ」

「ゴーレムがいっぱぁい」

「おっきいゴーレムが、お家建ててるぅ」


 おお、子供達には大人気だ。


 嬉しいから、サービスで中庭にブランコや滑り台も追加しておくか。


 寮が完成すると部屋割りは女性達に任せて、領主館に戻ってきた。


 館では困り顔のビルギットさんと、俺の影武者として置いていったアルマンダインが出迎えてくれた。


 ビルギットさんの自慢の兎耳がしおれていることから、何か問題があったようだ。


 これは簡単な方を、先に済ませておいた方がよさそうだ。


「アルマンダイン、舌を出して」

「はい、ご主人様」


 アルマンダインの魔宝石を交換しながら、セレンとテルルもそろそろ魔力が切れる頃合いなのを思い出した。


 ビルギットさんは、テーブルの上に手紙の束をどさっと置いた。


「ビルギットさん、それは?」


 俺の質問にビルギットさんは、1枚ずつ手に持っては説明してくれた。


「これは大公陛下からで、お見舞状だそうです。そしてオルランディ公爵家を筆頭にあちこちの貴族様からのお手紙です」


 そういって差し出してきた手紙の束を受け取ると、差出人を確かめていった。


 オルランディ公爵からの手紙は、見なくても内容は分かるな。


 他の貴族は、おそらく社交のお誘いだろう。


 ん、これは、スクウィッツアート女男爵からか。


 そういえば、夜会に招待されてそのままだったな。


 社会人として直接誘われていながら、それを反故にするのは非常に拙いな。


 それとこちらはシュレンドルフ侯爵家の、あれ、当主じゃなくその息子から?


 なにかあったか?


「そしてこれが」


 ビルギットさんの話は、まだ終わっていなかったようだ。


 そういって差し出してきたのは、貢物のようだった。


「これは?」

「バンテ流通会社の社長さんからです。狼獣人と兎獣人の2人が持ってきました」

「バンテ・・・」

「なんでもユニス様を怒らせて出禁になったとかで、謝罪に来たいそうです」


 狼獣人と兎獣人といえば、おそらくハッカルとツィツィの2人だろう。


 それにバンテ流通会社といえば、街中の風紀が乱れるから出禁にしたな。


 他にもパルラの町への出店や、移住したいという申請もあったようだ。


「それからパルラの活気が落ちていて、消費が伸び悩んでいます」

「え、何かあったの?」

「アマディさんが言うには、皆仕事ぶりをアピールしたい人が居ないので、やる気を無くしているとか」

「アピールしたい人?」


 するとビルギットさんが、じっと俺の顔を見つめてきた。


 え、俺?


 驚いた俺は自分を指さすと、ビルギットさんは大きく頷いた。


 そういえば暇な時は、街中を歩いては住民達に声掛けをしていたけど、あれの事か?


 すると廊下をどたどたと歩く足音がこちらに近づいてくると、「バン」と勢いよく扉が開け放たれた。


 そして入ってきたのは、怖い顔をしたビアッジョ・アマディだった。


「ユニス様、また獣人を拾ってきたと聞きましたが?」


 そんな犬猫を拾ってきたみたいに言わなくても。


「ええ、ジゼルを助け出した時に、酷い目に遭っていた人達を助け出して来ました」


 するとビアッジョ・アマディは「はあ」とため息をついていた。


「ユニス様、パルラの町の人間と獣人の比率を知っておられますか?」

「えっと、ちょっと獣人が多いくらい?」

「獣人が約3百、人間は移住者があって多少増えましたが、それでも2百弱です」


 ふむ、大体あっていたな。


 ちゃんと分かっているだろうとビアッジョ・アマディを見ると、そこには不機嫌な顔があった。


「いいですか。パルラの人間達はいつぞやの獣人達の暴走があって以来、獣人達を怖がっています。そこにユニス様がまた多数の獣人を連れてきたものだから、皆怯えているのです。これをどうするおつもりですか?」


 え、そうだったの?


 皆、笑顔で手を振ってくれていたから、全く気が付かなかったぞ。


 怯えているというのは、あの獣人達が暴走する現象の事か。


 今の所、獣避薬しか対応方法が無いんだよなぁ。


 あとは区画を分けるくらいだが、そんな事をしたら町が分裂してしまう危険がなぁ。


「それで、どうするのです?」

「分かりました。エリア分けも含めて検討しておきます」

「エリア分け、本当ですね? それで何時から始めるのです?」


 ビアッジョ・アマディの怖い顔が眼前に迫ってきた。


 おい、そんな今すぐやれみたいな顔で迫って来るんじゃない。


 簡単にエリア分けと言っても1から区画整備をするのと大して変わらないから、結構大変なんだぞ。


 ビアッジョの無言の圧力を押しのけたところで、開いた扉からジゼルか顔をのぞかせた。


「ねえ、ユニス」


 俺はチャンスとばかりにその場から立ち上がると、ジゼルの腰を抱きしめた。


「え、ちょっと?」


 不思議そうな顔をしているジゼルにウィンクすると、ぽかんとした顔をしている2人に手を振った。


「私達はこれからエリアルに行って、ジゼルの救出に協力してくれた方達にお礼を言ってきますね」


 そして窓を開けると、ジゼルを抱きかかえたまま上空に舞い上がった。


 出てきた窓からビアッジョ・アマディが顔を出して何か叫んでいるが、残念ながらこの距離では聞こえないのだ。


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