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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
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8―33 牧場からの脱出

 

 俺が罠の可能性について考えていると、床に転がっているムルシアが笑い出した。


「わははは、俺の部屋に毒を仕掛けておいたんだ。考えなしに突っ込むとはやはり獣人とは馬鹿な連中のようだ」


 それを聞いていたグラファイトが、そっと俺に提案してきた。


「ここの後始末は私がしておきますので、大姐様は連中を診てもらえませんでしょうか?」


 グラファイトがそう提案してくると、すかさずムルシアが口を挟んできた。


「おい、俺を殺したら解毒方法が分からなくなるぜ。それでもいいのか?」


 毒の種類が分からない以上、ムルシアを生かしておくしか方法が無いな。


「そいつの始末は後にしましょう」


 それを聞いたムルシアの口角が上がったようだ。


「おい、早いとこ助けに行ったらどうだ? 俺の部下達に息の根を止められているかもしれないぜ」


 確かに動けないのだからムルシアの手下が残っていたら、簡単にやられてしまうだろう。


「だが、お前は逃げられないようにしておくわね」

「な、待て」


 ムルシアは焦っているようだが、逃げられたら困るのでこれは必要な措置だ。


 電撃で意識を刈り取ると、衣服を整えてから管理棟に向かう事にした。


「此処は任せたわよ」

「はい、お任せください」


 獣人宿舎を出ると、直ぐ人質になっていた少女が泣きながら抱き着いてきた。


「お姉さん、私捕まってしまって。ひっく、ごめんなさい」


 どうやら自分が捕まったせいで、俺がひどい目に遭ったと思っているようだ。


 少女の頭を優しく撫でながら、他の子達の事を聞いてみることにした。


「悪い男は捕まえたからもう心配ないわよ。それよりも他の子達はどうしたの?」

「あっち」


 そういって後ろを指さすと、影の中から他の少女達が姿を現した。


 出てきた少女達は皆怖がっているので、このまま放置する訳にはいかなかった。


 グラファイトに任せようかと思ったが、あの男も居るので余計怖がらせそうだ。


 仕方がない、連れて行くか。


 不意打ちを警戒して魔力感知で周囲を調べてみたが、敵の反応は無かった。


「皆、私の後を付いてきてね」


 少女達は置いていかれる事の方が嫌だったようで、皆頷いた。


 そして周囲を警戒をしながら、カルガモ親子よろしく後ろに少女達を引き連れて管理棟に向かった。


 出来るだけ戦いの痕跡が無いルートを選んで管理棟まで来たが、流石に戦闘があった建物の中まではごまかせないのでどうしようか考えていると、先程の少女が話しかけてきた。


「お姉さん、私達平気だよ」

「平気って?」

「酷いの、いっぱい見たから。だから、大丈夫」


 どうやらこの年で、色々しなくていい経験をしたようだ。


 もう一度少女の頭を優しく撫でて安心させた。


 管理棟の中に敵が居ないことを確かめると、出来るだけ綺麗な場所に少女達を集めて空間障壁の魔法を発動させた。


「この中に入っていれば安全だからね。呼びに来るまで出ちゃ駄目よ」

「うん、分かった」


 これでよし。


 それじゃ、魔力感知に反応がある上階に行ってみますか。



 階段の上には、獣人達が並んで寝かされていた。


 オーバンの状態を調べてみると、顔色も悪くなく皮膚に発疹や痣も無かった。


 そして呼吸も正常のようだったので、どうやら眠らされているだけのようだった。


「オーバン、起きて」


 何度も軽く揺すってみたが、起きそうになかった。


 だんだん面倒になったので一発殴ってみることにした。


「おい、起きろ」


 オーバンの腹にパンチをお見舞いすると、「ぐほっ」と声を漏らすとオーバンが目を覚ました。


「こ、これはユニス様、あれ、私は一体何を?」

「敵に眠らされたようね」

「え? も、申し訳ございません。失態をさらしたうえユニス様に助けてもらうとは、まったくもって恥ずかしい限りです」


 そういうとオーバンは、パルラの獣人達の共通認識になった土下座をしていた。


「そんなに畏まらなくていいわ。周りを見て分かるように、皆仲良くやられたようだしね」


 オーバンの肩をたたいて慰めると、他の獣人達を手分けして起こしていった。


 オーバンがガスバルとベルグランドを起こしてくると、ベルグランドが不平を言う声が聞こえてきた。


「どうして先輩は女ボスに優しく起こしてもらったのに、自分は先輩なんですかぁ。自分も女ボスに目覚めの口づけとかが良かったですよぉ」

「黙れ、俺だってそんなに優しくされていないぞ」


 するとガスバルがベルグランドを慰めていた。


「まあ、まあ、パルラに戻れば、もしかしたらいい事があるかもしれないぞ」

「ガスバル殿、ご相伴にあずかれるよう口添えをお願いします」

「おお、今回ともに戦った戦友だからな。出来るだけの事はしてやろう」


 あの2人は本当に仲良しだな。


 するとガーチップとチュイが、俺の元にやってきた。


「魔女殿、奴隷商人はどうなったのです?」

「ああ、それなら捕まえてあるわ」

「それなら、後は我々に任せてもらえないか?」


 ガーチップが強い眼差しでそう言ってきたので、どうやら深い恨みがあるようだ。


 俺はそれに了承すると、オーバンに言い含めてからグラファイトへの使いを頼んだ。


 オーバンが獣人宿舎に向かうと、チュイが話しかけてきた。


「ところで、此処にいる獣人達はかなりの人数になると思いますが、脱出手段はユニス殿にお任せしても?」

「ええ、大丈夫よ。貴方達は、宿舎に行って獣人達を集めて来てね」

「分かりました」


 皆が獣人を探しに行くと、俺もジゼル達の居る生産施設に向かった。


 生産施設の扉を開けると、そこには正座をして三つ指付いたインジウムが待っていた。


「お帰りなさいませ、お姉さまぁ。お酒にします? それとも、わ、た、し?」


 おい、その仕草もやっぱりあおいちゃんの入れ知恵だな。


「インジィ、それはパルラでやってね。それよりも皆を集めて此処を出るわよ。準備を始めてね」

「あ、はあぃ」


 インジウムが奥に走っていくと、その後を追ってジゼルを探すことにした。


 ジゼルは、他の獣人達の服装のチェックをしているところだった。


 まあ、服と言ってもシーツを巻いただけだから、解けないように注意しないとね。


「ジゼル、仕事が終わったから、此処を出るわよ」

「分かった。こちらも問題ないわよ」


 そういってこちらに来たジゼルの体を触診していった。


「ちょっとユニス、何をしているの?」

「もう、何処も悪いところは無いようね」

「ええ、何処も問題ないわ。でも、どう見ても触りたいだけよね?」

「うぉっ」


 拙い、何か良い言い訳は無いかと考えた途端、ジゼルの魔眼が鋭く光った。


 あ、これは駄目だ。


「すみません。つい、出来心でした」


 ジゼルの魔眼の前ではどんな嘘も通じないので、素直に謝った。


 俺達のそんなやり取りを見ていた猫獣人が声を掛けてきた。


「えっと、領主様? これからお世話になります」

「ええ、戻ったら貴女達の家を建てましょうね」

「え、建てる。これから? そうすると出来るまでは野宿と言う事ですか?」


 野営と聞いて身重の獣人達の間で動揺が広がっていた。


「あ、建てると言っても、直ぐに出来るから野宿は無いわよ」


 だが、獣人達にはその意味が全く通じていない事が、彼女達のひそひそ声で分かった。


「エルフって木の中に住んでいるのよね? 樹洞でも探すのかしら?」

「樹洞? 私、そんなところに入るのは無理よ」

「エルフって魔法が得意なんでしょう? 木の上に小屋を建てるんじゃないの?」

「え、私、木によじ登るのはちょっと」


 まあ、これについても実際に見て貰えば誤解は解けるので、今は放置しておくことにした。



 生産施設の獣人達を連れて集合場所に来ると、既にガーチップ達が牧場の獣人達を集めていた。


 それじゃ、早速移動用のゴーレムを作りますか。


 今回は身重な方や小さい子供ばかりなので、乗り込むのに負担がかからなくてはしゃいだ子供が上空から落ちないようにするため、運搬用ゴーレムの背中に荷台を付けその周りを鉄格子で覆っていった。


 それを見たガーチップ達から、不満の声が聞こえてきた。


「これは、我らが魔女の奴隷だと宣伝するためか?」

「見世物にして、楽しむつもりか?」

「生まれ変わっても魔女は、魔女だな」


 そんな声にオーバンが反発していた。


「おい、ユニス様は慈悲深い方だ。お前達を檻に入れるのは、そうするだけの理由があるからだ」


 おおオーバン、なかなか分かっているじゃないか。


 せっかくだからガーチップ達には、ご要望通り格子が無いゴーレムを用意してやろう。


 だが、牧場の獣人達は違う反応だった。


「わぁ、何これ、かっこいい」

「これに乗って行くの? 楽しそう」

「へえ、森の中を歩かないのは助かるわね」


 子供達は見たこともないゴーレムに興味津々といった目でみつめているし、身重の獣人達は、楽に運んでもらえる事に感謝しているようだった。

 

 脱出準備が整うと、チュイがガーチップを伴って俺の所にやってきた。


「魔女殿、奴隷商人を始末しましたが、目撃者が居なくなってしまうと我々の仕業だと疑われませんか?」

「ああ、それなら獣人宿舎に1人、目撃者を残してあるわ」

「目撃者?」

「人間の教官よ。私の姿しか見ていないから、犯人はエルフだと証言してくれるわよ」

「ああ、それで先程、大人の獣人が居るが放置しておくようにと言われたのですね」


 オーバンはそういうと納得顔で頷いていた。


 全員を乗車させると、早速ゴーレム達を連結してから重力制御魔法を掛けた。


「それじゃ、出発するわね」


 するとガーチップ達からまた不満が出ていた。


「うわ、これ、落ちそうで怖いぞ」

「そうだよな。これ、ちょっと造り変えてくれないか?」


 檻に入れるなと言ったのはお前達だろう。


 せっかく要望に応えてやったというのに文句を言うとは、口は災いの元だと身を持って経験してもらった方がいいだろうな。


「本部に着くまで踏ん張ってなさい」



 そして地上が小さくなっていくと、予想通り子供達が周囲の景色を見てはしゃぎだした。


 幸い格子があるので落下することが無いので、安心して見ていられるのだ。


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